7.思ってたのと違う
お待たせしました
地虫…?俺の事なのか?
というよりこの状況はなんだ…。何が起きてる。
俺はプリンツィに転生させられたはず。ここがその転生先なのか…?
おかしい。思っていたのと違う。
俺がよく知ってる小説やアニメでの転生と言えば赤子からやり直しのはずだ。しかしこの感覚。転生前とあまり変わらない年齢だ。明らかに赤子ではない。言うなれば転移だ。
「なんだ?その顔は。貴様…気絶して全て忘れたなど言うまいな」
気絶した…?なんの事だ。
現状の把握が出来ない。聞くしか…ないか。
「ここは………どこ…だ……。っ!」
思わず驚いた。
声が違う。俺の声はこんな声じゃない。
間違いない。俺がしたのは転移ではなく転生。これは渡辺樹の体ではない。
「なんだと…?ここがどこか分からない…と?」
まずは状況把握が先決だな。
こいつから話を聞くのが早いか。
「なんで俺は縛られてる…今はどういう状況なんだ」
「っ!!!」
「俺は…」
「貴様っっ!」
ゴッッッ!
鈍い音と共に視界が揺れ目の前に赤色の液体が舞った。そして左頬に強烈な痛みが襲う。
「ぐっ!」
「この状況でよくもそんなふざけた発言ができたものだな!領土神権があるということを忘れるな!」
金髪の男はそう叫び振り下ろした直後の拳を握ったまま震わせている。一体何が起きてる。俺は何をされてる。なんだよ、どうなってんだよ。ふざけんな
俺は男を睨みつけた。
「なんだその目は。地虫程度が私を見上げるなど不敬極まりない!」
ボコッ!
また殴られた。同じ手でだ。決めた…。こいつは絶対許さねぇ。ぶん殴り返してやる。
「うぁぁぁっ!」
拳を振り下ろそうとしたが途中でビタッと止まった。手首に謎の抵抗力を感じる。意識がハッキリしたばっかりだったからかようやく気づいた。俺は両手を鎖で壁に貼り付け状態にされていた。理不尽に殴られ理解に苦しんだがさっきの男の態度やこの状況は間違いなく拷問だろう。
「ようやく本性を現したな。だが無駄だ。貴様は何も出来ない。吐くまで殴り続けてやるぞ。さぁ答えろ!誰の指示だ!」
ボカッ!
今度は顔ではなく腹に拳を突き刺してくる。
思わず嘔吐しそうになったが何とか堪えた。
「ちっ!まだ吐かないか。いい加減にしろ」
どっちの意味だよ。
「いい加減にすんのは…てめぇだろ…が。こっちはなんのこっちゃかわかんねぇんだよ…状況説明を………しやがれ…!」
「あくまでシラを切るという訳か。どうやら本気で死にたいらしいな」
「だからシラを切るどころか本当に…何も知らねぇんだっての…!いい加減に…聞く耳もて…よ!」
「もう聞き飽きた。決めたぞ。貴様は殺す。絶対にだ」
男は腰に携えた剣に手をかけた。まさか本当に俺を殺す気か!?
「ま、まて…!本当に何が起きてるか…知らないんだ!」
「魂神界で神に同じ事を言うんだな。だから地虫は…嫌いなんだ」
男が剣を抜き振り上げる。その目は確実に振り下ろす意志を宿している。
「やめろ!本当だ!本当なんだって!」
「死ね」
「やめろおぉぉっ!」
男が剣を振り下ろす。これで終わり…?
転生したばかりですぐに殺されるなんてあっていいのか?今度こそ英雄になるんだって本気で思っていたのに。彼女に謝りたかったのに。何一つ成すことも無く終わり…か。アニメに小説、ゲームといった物には脚本がある。ストーリーの流れがある。だがこれは現実。脚本もストーリーの流れもクソもない。そういう訳かよ…。
「お待ちください!」
突如大きな声がして男が振り下ろした剣は俺の首スレスレに停止する。助かった…のか?
ゆっくりと目を開けると兜を被った兵士のような男が二人並んで立っている。いや、その二人の間にも1人立っている。背はあまり高くは無く丸い眼鏡をかけた白と金のツートンカラーの髪の毛の男。まさか止めたのはこいつなのか?
「何用ですかな。バンテイン殿。今は大事な審問中です」
バンテイン。それがツートン眼鏡の名前なのか
「ええ。わかっておりますよ、ドルジ殿。それを制止しております」
この憎むべき金髪はドルジか。覚えたからなこん畜生が。
「なぜです。こいつは大罪人。情報を吐かないというならば処刑しても構わないはずですが」
「はい。そうですね。しかしそれは彼が本当に罪人ならばの話です」
「なんですと?」
「彼は未だ容疑の段階。お忘れですかな」
「容疑…ですと?何をおっしゃるのです!こいつ以外に有り得ません!状況証拠だけで充分でしょう!」
「いいえ。充分ではない」
「何を根拠に!」
「それが空皇様の決定です」
「なっ!それは…本当ですか!?」
「私がこの場に赴いた。これが疑いようのない証拠でしょう」
「くっ…!」
空皇…様?
なんだそりゃ。でもとんでもない権力者ではありそうだな。あのMr.高慢、耳穴大詰まりバカ金髪ことドルジがこんなに慌てふためいてるのがいい証拠だ。
「それでドルジ殿。審問を変わって頂きたく存じますがよろしいですか」
「…ええ。分かりました」
ドルジは渋々剣を納め、かなり不服そうな顔で後ろに下がっていく。それとすれ違うようにバンテインと呼ばれた男が前に出てくる。そして俺に目線を合わせるように屈んだ。
「初めまして。私は審議の天使バンテイン・ニスムル・アーツと申します」
審議の…天使!?
やっぱりここは転生先であってるみたいだな。しっかし本当に天使と悪魔の世界とは……
「数件、聞きたいことがあるんです。ぜひ答えてください。沈黙は肯定と捉えさせていただきます。後私の前では嘘はつけません。そういう”天賦”でして」
天賦…?
「嘘をついたと私が判断した際は、問答無用でこの場で斬り捨てます。よろしいですか」
あまりに冷たい目に思わず息が詰まった。バンテインの言う事は真実なのだと本能が悟った。嘘をつけば俺は殺される。
「…わかった」
「ご理解感謝申し上げます。では第一の問です。貴方は今回の件の首謀者ですか」
今回の件。俺がここに捕まってる理由か?
「知らない。今回の件とはなんだ」
「ふむ…。なるほど。では貴方の名前は」
「名前…渡辺…樹」
「審議様。やはりこいつは大ホラ吹きです。ご覧下さい」
横に立っていた兵士の一人がバンテインに紙を手渡した。
「ホラなんて吹いてねぇ!本当だ!」
バンテインはまじまじと紙を見つめまたこちらを見返した。
「そうですか。ではミスム、と聞いて心当たりは?」
「み、みすむ?なんだそりゃ知らねぇよ!」
「!」
この空間にいる俺以外の全員が同じ顔をした。目を見開口を開けている。驚いているようだ。
少し長めの沈黙が流れたあとドルジが口を開いた。
「貴様…そうまでしてとぼけるつもりか!」
「お待ちください。ドルジ殿。この者は何ひとつとして嘘をついていない。本当に知らないのです」
「し、しかし!」
「どうやら貴方は記憶喪失に近い状態のようですね。正確には違うようですが」
「記憶喪失…?俺が?」
「ええ。貴方の発言に私の天賦は反応しなかった。つまり嘘をついていない。貴方は今回の件も覚えておらずそれどころかミスムも知らない。それに名前に至っては錯乱状態にあるようです」
そうか…俺は転生したばかり。なにかの誤解で俺が何かをやらかしたと勘違いされてここに繋がれてる。だから何を聞かれても本当に俺は知らない。そりゃ記憶喪失のように思われる訳だ。いや、でも待てよ。名前については…って言ったか?
「おい、名前に至ってはって…。お前は俺の名前を知ってるのか」
「ええもちろん。ここに書いてます」
やっぱりだ。この世界用の名前が俺にはあるんだ。
バンテインが見せた紙には見たことの無い文字が書かれている。
「読めねーよ!」
「文字すらも読めないですか…。なるほど。いいでしょう。貴方のお名前をお教えします」
「あぁ。頼む」
「貴方の名前は、レグルス・ドラコ・ヴァンテールです」
「レグルス…なんだって?」
「レグルス・ドラコ・ヴァンテール」
「どらこゔぁんてーる…。名前長っ」
「ふっふっふっ面白い反応しますね」
「うるせぇ。それよりなんでお前は俺の名前を知ってる…!その紙はなんだ」
「貴様!囚われの地虫の分際で…!発言には気をつけろ!」
「まぁまぁ。これは調書です。貴方の発言をまとめた物ですからお名前や出身等が書かれているという訳ですよ」
「は?」
調書…?俺が発言をして書かれた事という訳か。
いや、待てよ。そんな記憶はない。それにさっき転生したばかりでこの世界での自分の名前や出身地が分かるわけないだろ
「それは本当に俺の調書なのか?」
「ええ、間違いありませんよ」
「証拠はあるのか」
「あるさ。この調書はこの私、ドルジ・アルファインが昨日お前に直接取った調書なのだからな」
………は?
どういう事だ。俺が昨日こいつと話した?
意味がわからない。俺は今さっきこいつにあったばかりだ。昨日なんて…有り得る訳が…。
「どうやらかなり深刻な記憶障害のようです。一度、統一区の病院に搬送した方がいいかもしれませんね」
「そ、それは構いませんが神法裁判が控えております。そちらはどうするおつもりですか?」
「そこは問題ありません。神法会には私から連絡します。事情が分かれば承諾してくださると思いますよ」
「承知しました」
俺は病院に移される…のか。だが好都合だ。現状の把握は俺もしたいしこの世界を知るためにはできるだけ人がいる場所に行きたい。
「では、眠ってもらおう」
「なっ!」
ボコッ!
突如、重たい衝撃が伝わった。
視界は真っ暗になり意識は無くなった。
『あ、あのぉ』
なんだか声が聞こえる気がする。果てしない闇が目の前に広がっているがどこから聞こえるのだろうか。
『声が聞こえますですか』
あぁ。聞こえてる。
どこからかは分からないが結構近いな。
『聞こえているなら返事をしてほしいです…』
「え、あぁ。悪い聞こえてる」
喋れたんかい。すまん。
『良かったです。声が届いていないのかと』
「お前は誰だ。ここはなんだ。今はどういう状況でなんの目的の為に話しかけてきた」
『いっぺんに言わないで下さいです。何から言っていいか分かんないですよー!』
「ご、ごめん。説明出来るやつからしてくれ」
『分かりました。で、では名前から。コホン、改めまして。僕の名前はリュー。以後お見知り置きを。ここは貴方の精神世界。言わば心の中です。僕は貴方の中に住まう精神精霊です』
「精神精霊?」
『ええ。心に宿る精霊です。心の中の友達だと思ってくださいです』
「なんで俺の心に?」
『それは僕にも分かりませんです。でも樹くんの知りたい事はある程度知ってるですよ』
「な、俺の名前!」
『これは失礼したです!レグルス君の方がいいですか?』
「そ、そういう訳じゃねぇんだ。なんで知ってんのかなって」
『そりゃ心の中にいたからですよ。樹くんが言ってたことは全て聞いてたです』
「なるほど?心の中から盗み聞きか」
『人聞きが悪いですね。まぁ誰にも聞こえないですけど』
「それで?他の質問には?」
『あぁ。えっとどういう状況か。でしたですね。いま樹くんは気絶中です』
「は?」
『ドルジって名乗ったやつにぶん殴られて気絶してる最中です』
「気絶って意識はあるじゃねぇか」
『これはあくまで心の中の出来後です。夢に近いと思って貰いたいです』
「なるほどな。それで?お前の目的はなんだ」
『目的ですか?そーですね。特には無いのです』
「は??目的もないのに俺に憑いてるのか」
『言い方が酷いです!それにさっきも言いましたですけど僕はなぜ樹くんの精神に入り込んだのか自分でも分からないんです!てかゴーストみたいな言い方やめてくださいです!』
「そ、そうか…そりゃ悪い」
『でもそうですね。強いて言うなら樹くんを守ること。ですかね』
「俺を守る?」
『はいです。僕は精神精霊。ご主人様の精神を守るのが種族としての役目ですから』
「…なるほどな。んじゃよろしく頼むぜ。相棒」
『任せてくださいです!樹くん!』
何が何だかよくわかんねぇがとりあえずこのリューとかいう精霊が俺を守ってくれるらしい。こりゃ好都合だ。何にも分からない世界でいきなり大ピンチの俺にとって自分の安全を保証してくれるかもしれない存在は貴重だからな。転生早々波乱万丈な第二の人生の香りがプンプンするが何としてでも自分のすべきことをを見つけてそれを全うする。
俺は今度こそ、この世界でヒーローになるんだ。
『ヒーロー!かっこいいですね!』
「思考も読めんのかよ!!!」
『そりゃ心の中の住人ですよ?当たり前じゃないですかー!』
「ん?じゃ初っ端で別に口で返事させる意味無かったんじゃねぇのか?」
『そ、それはえへへへへへ』
はぁ…わかっちゃいたがこれから色々と大変そうだな、こりゃ。
8話へ続く。




