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4.本当の罪

変な感覚だ。目の前に広がってるのはただの暗闇。

これが死?

意外だな。感覚もあるし思考もできる。

死ねばただの無だと思っていた。死後の世界なんて信じてなかった。でもこの状況なら疑う余地はないだろう。ここが死後の世界なんだ。思ったよりも質素だが間違いない。俺は地獄に落ちたのだろうか。人を追いつめ殺したんだそれでも文句は言えないだろう。


「…ーい」


ん?なんだ?なにか声が聞こえた気がするが…。

気のせいだろうか


「おーい」


いや、間違いなく聞こえる。誰かが俺に呼びかけているのか?


「おーい起きろ人間」


ゆっくりと目の前に光が差し込んでくる。

どうやら俺は目を開けていなかったみたいだ。ぼんやりと人影のようなものが視界に映る。


「おはよう。ようやくお目覚めか」


「誰だ…?お前」


「おお?意識はしっかりあるな。こりゃ当たりかな」


「当たり…?何言ってやがる…」


「初めまして、吾輩はプリンツィ。以後よろしく」


プリンツィ…?なんだそれ。

あだ名…いや、外国人か?まだ視界がハッキリしないせいで見た目からの判断が出来ない


「あら。まだ良く見えてないみたいだね。まぁいいやゆっくりでいいよ。時間はあるし。君の話でもしようか渡辺 樹くん」


俺の名前を知ってる?何者なんだこいつは。


「君は今死んで天に召されるギリギリのところって状況だ。本来の人間は死ねば即魂が回収され新しい魂へと情報が塗り替えられるんだけど君は例外。魂が回収されずにここに留まってる」


魂、回収…?


「魂…なんて実在するのか」


「するよ。魂は人間の感情と記憶の入れ物だからね。生者も亡者も魂さえあれば存在を確立することが出来るのさ。だから君は死してなお意識も感覚も残ってる」


「なんで…俺の魂は…回収されてない」


「飲み込みが早いんだね。疑わないのかい?この状況を」


「疑う余地なんかないだろ…俺はあの女に刺された。倒れて死を実感した。それなのに今は痛みも苦しみもない。そんなことありえないだろ」


「ふーん。妙に冷静だなぁ。そんだけ冷静に物事を考えられるのになんであんなことしちゃったんだろうね」


「あ?」


「いや。なんでもない。なぜ君の魂は回収されなかったのかって質問だったね。至極簡単だよ。回収される前に吾輩が盗んだのさ」


「盗んだ…?」


「そう。吾輩は生と死の狭間であらゆる魂の管理をしてるんだ。分かりやすく言えば死神といった所かな?使えそうな魂があればそれを盗み活用し放題な訳だよ」


「使えそう…だと?何にだ」


「吾輩のある悲願に協力して欲しいんだよね。勿論タダでとは言わないよ?その魂のまま新しい人生を歩ませてあげる」


こいつがさっきから言ってることは明らかに胡散臭いことばかりだ。魂だの悲願だの新しい人生だの死神だの。創作の話としか思えない。とはいえこいつが言いたいことはある程度理解しているつもりだしこの状況が作られた嘘だとも思えない。しかしこいつを信用も納得もしてはいない。


「断る。信用出来ない。お前が俺に何をやらせたいか知らんが新しい人生なんて望んでいない。もう生きるなんてごめんだ」


そう。これでいい。

生まれた事を後悔しない日は無かった。俺が生まれなければ母さんは生きていたかもしれない。父さんは無駄に苦しまなかったかもしれない。何よりあんな苦痛をまた味わいながらいつか来る死をただ待ち続けるだけの生活なんて…嫌だ。


「早く在るべきところに連れてけ」


「ふーん。そっか。でもいいのかな。本当に後悔ない?」


「ない」


「いいや。あるね」


「は?」


「君はとてつもない後悔を抱えてる。自分で気づいていないだけ」


「ねぇよ。ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ」


「向井玲奈。この名前に心当たりは?」


向井玲奈…?れな…れな…。

よくよく思い出してみようとしたが知らない名前だ。


「誰だそいつ」


「本当に分からないかい?」


玲奈…。やはり無い。引きこもりの俺に女の友達なんて居やしない。


いや。待てよ。…………向井?


「まさか…向井幸一郎の娘か…?」


「ポンピーンポンピーン!せーかーい!素晴らしい推理でぇす」


「それがどうした」


「その子は君を殺した張本人。名前覚えてあげてね」


向井の娘があの少女?

待てよ。そういえば死に際にあの少女がそんな事を言っていたような…。


「君が殺された理由。なぜだか分かるかい?」


「そんなの簡単だ。父親の復讐だろ」


「はっはっはっはっ。安直だなー!ふせーかいでーす」


「はぁ?それ以外に何がある!」


「まぁ知らなくて当然だけどね。ちゃーんと本当の自分の罪と向き合わなきゃ。教えてあげるよ。君が真に殺される事になった理由を」


本当の自分の罪…。

俺は正義の名のもとに向井幸一郎の悪行を突きつけ自殺に追いやった。正義でもあり罪でもある。ヒーローは業を背負ってでも正義の為に戦うものだ。だから俺はやつを陥れた。

でもその罪は本当の罪ではない。ということか?

俺の本当の罪は…一体。なんなのだろう。


5話に続く

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