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22.一か八か

今回少し長いです

ッス〜


という気まづい時に決まって出る息を吐いてしまった。だって実質的に絶対に抜けないと言われたような剣をかなりあっさりと抜いてしまったからだ。


「はっはっはっ!すげぇすげぇ!」


「わぁぁぁぁい!」


「ウソだろ…有り得ねぇ…ウソだ…うそ…」


手を叩いて爆笑しているハヤテと目をキラキラと輝かせるニシマ、口を開けたままガタガタと震わせ譫言を言い続けてるリリア…と場は混迷を極めている。


「あの…これどうしよう?」


「持ってけばいいんじゃねぇか?抜けたって事はグリーディアがレグルスを選んだってことだろ!」


「いや、ナチュラルに受け入れるのかてめぇは!?この状況を!意味がわかんねぇだろ!」


「リリア、こういうのは流れだ。なるようになるさ」


「納得できるかぁぁっ!」


「これで…これで…スルヘリアに水が戻るんだね…!」


「ニシマ…そうだな」


「やったぁ!」


でも妙だな。剣は抜けたけど水が再度湧いてくるような感じは無い。勝手に一気にドバッと湧いてくるんじゃないかと思ってたがそんな事は無いようだ。


「水、戻るんだよな?」


「そのはずだよ?その剣が悪さをしていたのは確実だから」


「だよな?」


沈黙が俺達を包んだ。全く水源が復活する様子はない。あれ?これってまずいのでは?


「なんで!なんで戻んないだよ!」


「落ち着けニシマ君、もう少し待ってみよう」


「でもっ、でもっ!」


「んだよ。そーゆーことか」


「ん?リリアなにか気付いたのか」


「あぁ。仮説だけどな。この仮説が正しいなら全て納得できる。その剣が偽物だったんだよ」


「なっ!」


「そ、そんな訳ない!本当に黒ローブがこの剣を刺した瞬間に水が一気に無くなったんだ!俺は母ちゃんに行くなって言われてたのを破って祭壇に忍び込んでたんだ!そん時に実際に見たんだよ!」


「いいかバカガキ、誰もテメェの話まで嘘だなんて言ってねぇよ。水が無くなったのはその黒ローブの天賦だ。あたかもその剣が本物のグリーディアだと思わせる為に刺した。だからそのクソ野郎が剣を抜くこともできたって訳だ。これなら黒ローブがこんな事をした理由とクソ野郎が剣を抜けた理由にも合点が行くだろうが」


「そんな…」


「そうか?」


「あ?あーしの考えに文句があんのかハヤテ!」


「文句っつーかよ。別にその剣が偽物のグリーディアだとしてなんで黒ローブは本物に見せたかったんだよ」


「なっ、それは…」


「黒ローブは…この剣に付加価値を付けたかった…のか?」


「付加価値?」


「どーゆーことだクソ野郎」


「リリアの言う通り、この剣が偽物で黒ローブが天賦で水を吸収しつくして砂漠化させたのだとしたら目的は剣が本物であると誤解させる事。これはあってると思う。不明な理由が付加価値を付けることなのだとしたら。水の街が砂漠化したなんてとんでもないビッグニュースだ。きっと色々な人たちの目に止まったはず。それが一振の剣が及ぼした事だと知れたらきっとこの剣の力をあらゆる人が求める。そうなった後にこの剣を回収して売り飛ばす算段だったとしたら」


「そうか!ただ偽物を売ろうとしても買い手はその剣が本物か偽物か判断できず結局大した値はつかない…。そこでこの剣が本物であるという箔をつける為にこの街を狙いわざわざ水を吸い尽くすなんて派手なことをしたのか!」


「それなら納得いくな。案外頭回るじゃねぇかクソが」


「いや、リリアが剣が偽物の可能性に気づいてくれたからだよ。ありがとう」


「ま、まぁ。あーしは天才だからな」


「ウソだろ…」


後ろからドサッと膝を着く音が聞こえた。


「ニシマ…すまん。お前の役に立てなかった」


「ううん…いい…ぐすっ…」


ハヤテがニシマの背中に手を当てた。

かなり色々と溜め込んでいたのだろう。希望を見つけ裏切られたことも響いたのか今まで平静を装ってたニシマはようやく子供らしく涙を流した。


「うわぁぁぁぁん!」


「ニシマ君…辛いな」


「剣が抜ければ母ちゃんが戻ってくるって!街から離れた皆が帰ってくるって思ってたんだ!なのに…なのに…!こんなのって…酷いよ!酷いよ!うわぁぁぁぁぁん!」


ニシマがこんなになるのも無理はない。まだこんな子供なのに生まれた街を友人を母親を…全て奪われて、その元凶だと思っていた剣はただの偽物だった。母親に会える希望が崩れた。取り乱して当然だ。母親にもう会えないと知った時の俺も同じような感じだった。この世界の何もかもを憎み何かもかも失ったような感覚に襲わ来る日も来る日も泣き続けた。今のニシマの気持ちは痛いほどわかる。だからこそ…黒ローブのした事は絶対に許さない。どこのどいつか今は分からないが必ず見つけ出して報いを受けさせてやる…!剣を売る為だけにこの子の人生を狂わしたなんて絶対に許せない!


「ニシマ、俺はお前に前を向けなんて言わない。でも俺もお前の境遇に共感できるからこそ言わせてもらう。信じることはやめるな」


「えっ…?」


「いつか必ず母ちゃんに会える。そう思って生きていこう。そしたらきっと神様はそれを見ててくれてお前を助けてくれるさ」


「レグルスさん…。ありがとう」


「おう!」


ニシマには幸せになって欲しい。俺のようにはならないでくれ。どんなに辛くても道を踏み外すことなく己を信じてこの先の人生を歩んで行って欲しい。俺にはできなかったことだからこそ…ニシマにはそうあって欲しい。


「んで?こっからどうすんだよ」


「確かにな。剣を抜いても街を戻すことはできなかったからな…どうやって街を元に戻したらいいことやら」


「は?何言ってんだよ。街を元に戻すつもりなのか?」


「当たり前だろ。ここまで来たら乗りかかった船だ。最後まで付き合うべきだろ。それにやっぱりニシマを一人にする訳には行かない」


「ほんっとにバカかお前はっ!いいか!お前が今置かれてる状況を考えろ!一刻も早くヴィンセンゴに着いて本隊と合流しなきゃテメェの命もあーし達の命も危ねぇんだぞ!」


「そんな事はわかってる!でもここで上手くいかなかったわ。悪いね。で終われるかよ!」


「終われるだろ!つーか終われ!」


「終われねぇよ!この人でなしが!」


「ふざけんな!」


「おいおい!二人とも落ち着け!」


「これが落ち着いてられるか!このクソ野郎は楽観主義すぎんだよ!昔からそういう所が気に食わねぇんだ!だから天使どもを大勢ぶっ殺したのに何食わぬ顔で生きてられるんだろ!あぁ!?」


「だからあの事件は俺じゃねぇ!」


「そりゃあ犯人はそう言うだろうな!」


「もうやめて!」


ニシマの必死の叫びに俺とリリアは思わず口を噤んだ。


「もういいよ!俺はこれ以上お兄ちゃん達に迷惑かけられない…。お兄ちゃん達もやるべき事があるんでしょ…?そっちを優先してよ」


「で、でもニシマ」


「もういいって。レグルスさん、ありがとう。レグルスさんが言ってくれたみたいに俺はこれからはこの街も必ず戻るって、母ちゃんにも必ず会えるって信じて生きていくよ」


「ふん、バカガキだと思ってたがクソ野郎よりは頭が回るみてぇだな」


クソッ!やっぱり俺は無力だ!

こんな子供一人救えない…!子供にお願い助けての一言も言わせてやれない!何が英雄だよ!お前に…お前に何ができるんだよ!レグルス!

引くな…。絶対に引くんじゃねぇ。この街は絶対に見捨てない。ここで引けば俺は一生前を向けない。英雄になんてなれない。考えろ…考えろ!俺に今あるのは…売られる為に作られた剣だけ。どうする…どうする…!

待て、売られる?そうか。この剣が本物だと思わせることに成功した後、黒ローブはこの剣を売ろうとしていた訳だ。つまり、黒ローブはこの剣を取りに来る…!有名になるまでここに刺しておき、ある程度価値が上がったところで取りに来るつもりだったのなら…!今剣を奪われかねないこの状況ならもしかしたら…!

いや、違う。もっとキツイこと。そう、この剣を壊す。そうすればいつかこの剣を売るつもりでここに黒ローブが戻ってきた時に現状把握をすれば俺を恨み追ってくるはず。そうすればそいつに街の状況や真相を問い詰められるはずだ!

俺は剣を頭上に振り上げた。


「おい…何するつもりだ?」


「本格的に頭が狂ったか」


「レグルス…さん…?」


「ぶっ壊れろぉ!」


俺が剣を思いっきり地面に叩きつけようとしたその時。


パシっ


「そんなんじゃその剣は壊れないですわよ」


何者かが背後から俺の腕を掴み振り下ろす手を止めた。


「てめぇ!誰だっ!」


無理やり振り払い飛び退いた。俺の背後をとったそいつの姿を見上げると黒ローブを纏った女らしき姿がそこに立っていた。


「お前…!まさか…!」


「あいつだっ!その剣を刺してスルヘリアを殺したのは!あいつだよ!」


やっぱり…!あいつが…!


「初めましてだわよ」


「野郎…何もんだ」


「ハヤテ、ガキ連れて入口に戻れ」


「は?なんで俺が」


「お前ならすぐに逃がせるだろ。あいつとはあーしが闘る」


「まて、まず敵かどうかわかんねぇぞ」


「よく見ろよ」


「よく見ろ?いきなり出てきたのはわかるがなにかしてくる様子は…」


「ちげーよ。あのクソ野郎だ」


「レグルス?」


「あぁ。クソ野郎が戦闘態勢に入ってる。きっとあのガキが言ってた黒ローブってのはあいつだ」


「なるほどな…。てかリリア。あんだけ憎まれ口叩いといて実はちゃんとレグルスのこと見てるし信じてんだな」


「な、バカか!そんなんじゃねぇよ!くだらねぇこと言ってねぇでさっさと動け!」


「へいへい〜」


「ニヤッニヤッすんじゃねぇ!」


天賦を発動しニシマの元へ駆け寄るハヤテ。


「は、ハヤテさん?」


「あいつだろ。例の黒ローブ」


「うんっ」


「よし。あとはレグルスとリリアに任せよう。俺らは後ろに下がるぞ」


「で、でも!」


「大丈夫だ。あいつらは強えから」


「…うんっ。わかった」


「レグルス!」


「ん?どした!」


「お前が暴走しても大丈夫なようにルーギアさんを連れてくる!暴走しないで戦える時間を教えてくれ」


「どんなに長くても15分だ!」


「おーけー。絶対無理すんなよ」


「あぁ、ありがとう」


「行くぞニシマ君!」


「うんっ!」


ハヤテはニシマを抱え、突風の如く駆け出した。階段をあっという間に吹き抜けていく。

それを背にレグルスの前にリリアがグイッと立った。


「どけ!クソ野郎!あいつはあーしがやる」


「ちょ、おい!何者かわかんねぇんだぞ。一緒にやろう」


「うるせぇ。邪魔だからすっこんどけ」


「いや、だから!」


「うるせぇって言ってんだろ!お前からぶっ殺すぞ!」


「は…はい…」


もぉぉ…こいつ怖い。もういいや…。


「あらあら、仲間割れですわよ?」


「黙れ。お前はあーしに聞かれたことだけ答えろ」


「全く。血の気の多い子ですわね。いいですわよ」


「どうやってここまで入ってきた。入口には腕"だけは"立つ男がいたはずだ」


「あぁーあの男ですわよ…。彼は恐らくこの状況を理解してないですわよ。私がここに入り込んだことにも気づいてないですわよ」


「なっ!」


「あのジジイが気づかないわけねぇだろ」


「いいや。気づいていないわよ。だって私はここに入ったんじゃなく現れたのだからわよ」


「んだと?」


現れた?!つまり瞬間移動…ワープって事か?!それがこいつの天賦か。いや、待てよ。それがこいつの天賦なら水を吸い上げたりするのとなんの関連性もないぞ。一体どういう事だ。っていうかこいつペラペラとよく喋ってくれるな…ってん?

リリアの方をさりげなく見るとリリアの手から何か黄色い霧のような物が出ているのに気づいた。これは…リリアの天賦か?


『リアリティ・ミスト』


リリアの使う五種類の霧のうちの一つ。リアリティ・ミストは吸い込んだ者の思考能力を低下させ、素直にさせる。現代のSF風に言うと自白剤のようなものである。自身で対象を選択できリリアの天賦の概要を知らないものにはこの霧は目視できない。


リリアが何かしている…って事なんだろうな。

なら俺はリリアを信じる。ここは落ち着いて思考に労力を割け…!


「どうやって現れた」


「誰かがその剣を抜いたらここに転移するようにしていたんだわよ」


剣を抜いたら…転移する?


「なんだそりゃ!どんな天賦だよ!」


「天賦?あーこれは失礼しただわよ。私は天賦を授かってないだわよ」


「天賦を…」


「授かってない…?」


どういうことだ。天使だろうが悪魔だろうが誰でも授かるもんなんだよな…。使えるか使えないかは才能だとは聞いていたけど持っていない奴がいるなんて…。それに対話ができるってことは、ステインでもない。なら本当に授からなかったなんて事が………………


いや、待てよ…もしかしてこいつが天使でも、悪魔でも無いのだとしたら…?

俺には心当たりがあった。数日前。火の海になった街の中。暴走しかけながら戦った男がいた。ハヤテはあいつのことを天使でも悪魔でも無いと言っていた。あいつらは…


「堕天使…!」


「おお〜正解だわよ〜。そう、私は堕天使。この前は仲間のデルメルとニャルニャがお世話になっただわよ」


やっぱりか!一体なんなんだこいつらは!

また俺の身柄を狙って来たのか?!


「おい、クソ野郎。堕天使ってなんだ」


「え?知らないのか?」


「うるせぇ!マウントかっ!」


「ちげーよ!」


リリアは堕天使を知らない?

ルーギアとハヤテは知っていたがもしかしたら堕天使という存在は大衆が認知しているものじゃないってことか。


「俺も堕天使ってのがどんなやつらなのかは約束の神子と呼ばれる人達を集めようとしているということしかよく知らないんだ。その神子ってのも何を指すのかはよくわからん。だが、どうやら俺も神子の一人らしい。ルーギアとハヤテは何か知ってそうではあったけどな」


「ふーん…神子…か。その話何聞いてもマジでわかんねぇな。まぁでも、その話を聞いてわかった事もある。あいつの目的は十中八九お前だ」


「あぁ…だろうな」


「そんなそんな。言いがかりですわよ。私はその剣の適合者を探していただけ。貴方がたまたま抜いただけでハナから貴方を狙ってここに来た訳ではないですわよ」


「適合者?」


「そう。その剣の本来の力を解放するにはその剣が認める相手が必要。その為に剣をここに刺し抜けるものを探したのですわよ。ですがまさかあの神子に選ばれた英雄の悪魔が適合者だとは思わなかったですわよ」


俺が剣の適合者?!ってことは


「この剣は…本物なのか!」


「はい。その通りでございますわよ」


「マジか!」


「では、そろそろいいですわね」


黒いローブの堕天使はローブを脱ぎ捨てた。

ローブの中からは赤い眼の白い綺麗なショートカットの髪の女の姿が現れる。


「神子と剣を、貰い受けますですわよ」


堕天使の女は背後に手を回し何かを取り出す。

その瞬間、一気に俺たちの方へと間合いを詰め走り出してくる。


ドンッ


リリアが俺を突き飛ばした。


「なっ!おい!」


「うるせぇ!クソ野郎下がってろ!」


リリアが指を鳴らすとリリアの辺りに赤い霧が現れる。


「バースト・ミスト!」


堕天使の女が霧に触れたその時、霧は発火し堕天使の女の体を炎が包み込んだ。


「悪ぃな女ァ!死ね!」


すげぇ…あの堕天使を一瞬で…!


「女呼ばわりですか。酷いですわね」


「なっ!」


「私にはちゃんと、ワウスという名前があるのですわよ?」


燃えながらワウスと名乗る堕天使はリリアの首を掴んだ。


「ぐぁっ!」


それと同時に辺りを包んでいた霧とワウスの体を焼いていた炎が消えた。


「あらあら、可哀想。苦しいですわよね」


「くっ…そ…!早く死ねや…!」


「残念ながらこの程度で私は死なないですわよ」


「リリアを、離せぇ!」


ガキンッ!


思い切り踏み込みワウスに剣を振るったが片手で簡単に受け止められてしまった。


「ちっ!」


「バカ…野郎っ…!離れ…ろ」


「あらあら全然剣を上手く使えてないですわね」


ワウスが思い切り剣を受けている腕を振るうと俺は強く弾かれかなりの距離を取らされた。

この距離を詰めていけば確実に警戒され攻撃は通らない。神が作った剣とかいうめちゃめちゃ強そうな武器持ってるけど何分剣術も戦い方も知らない俺じゃ宝の持ち腐れどころかお荷物だ。…やっぱし天賦使うしかない。暴走する危険はあれどハヤテがルーギアを連れてくるって言ってたから大丈夫だとおもう。そこハヤテとルーギアを信じる!


「我竜天睛っ!」


レグルスの体から赤いオーラが解き放たれる。


「これは…すごいですわよ!」


リリアをまるで小石を放るように投げるワウム。投げられたリリアはゴロゴロと転がり壁にぶつかり止まった。痛みを感じながらレグルスを見つめる。


「あれが…クソ野郎……?」


今まであまり気にしていなかったがこのオーラが出ている間は筋力とかに補正がかかるのかな。さっきまで振るので精一杯だったグリーディアがおもちゃのように軽くなった。ってゲームみてぇな言い回ししちまったよ。ここは現実、ゲームじゃない。集中しろ。堕天使は強い。本気で倒す!


「さてさて。五柱目の神子の力を見れる絶好の機会を逃すのは忍びないですわね。私もいきなりですが少し本気を出しますわよ」


そういうとワウムは胸の前で手を三角のスペースが開くように合わせた。そして


「開門」


そう呟くとワウムの体からとてつもない量のオーラが放出される。


「なっ、なんだありゃ…!」


「そんな…どういう…事だ」


リリアが困惑と驚愕の入り交じったような表情で固まっている。あの技に見覚えがあるのだろうか。


「まずは小手調べですわよ」


ワウムが俺に指を指した。溢れ出ていたオーラが指先に集まっていく。


「レグルスッ!避けろっ!」


リリアの声が響いた瞬間、俺の体はぶっ飛ばされていた。


「はっ…?」


轟速で壁に激突した。


「ぐはっ!」


何が起きた…!あいつが指を指してオーラみたいなのがそこに…いや、一瞬見えた。あのオーラの塊みたいなのを飛ばしたんだ。じわじわと痛みが強くなって来る…何発も貰ったら死ぬな


「くっそが」


「あらあら。凄く頑丈ですわよ。シュートが諸に当たったというのに。素晴らしいですわよ」


シュート。それがあの技か。シュートとやらは見えない…いや、正確には見えないほどに飛んでくるのが早い。予想して避けるしか無さそうだけど…俺に避けられるのか?


「さぁ、何発耐えられるですわよ」


いや、死ぬ気で避けろ。なんとしてでも。


ビュンッ!ドカーン!


くっそ!痛え!ダメだ!全然見えねぇ!


「早すぎだろ…!」


「まだまだ行くですわよ」


ビュン!


まだ…!


ビュン!


まだまだ…!


ビュン


「まだまだぁぁぁ!」


ビュン!ドカーン!


「レグルスー!」


ダメだ…全然見えねぇ…痛い…辛い…しんどい。

体中が割れそうだ…内部からズキズキと痛みが響いてくる。次、喰らえば…終わりだ…。


「もういい…!立つなレグルス!あーしがやる!」


リリア…


「うーん。貴方にはあまり興味はないですわよ。それにさっきので分かりましたですわよ。あなたは戦闘が苦手」


「…ちっ」


リリアが戦闘が苦手?

嘘だろそんなの。こんな血気盛んな奴が戦闘が苦手なわけあるか!てか腕は立つってルーギア達は言ってた。


「さぁ、お退きなさい。貴女は死んでも死ななくてもどうでもいいですわよ」


「…うるせぇ」


「いいぞリリア…退いてくれ」


「あぁ!?」


「お前は…死ぬ必要なんてない。あの事件を解決するんだろ?」


「…」


「俺の為なんかに死のうとなんてしなくていい」


「誰がてめぇのために死のうとしてんだよ」


そう。それでいい。俺の為じゃないってキレてくれれば「もういい!」ってどっか行くだろ。

俺はそれでいい。この状況、オーラを使ってても喰らい続ければ死ぬ威力のあの弾丸をリリアは受けれると思えない。死にたくなんてない。でも、リリアに死なれるよりは…全然マシだ。


「俺の助けようとして死ぬな。俺の力になろうとして死ぬな。お前は…俺を見捨てていい」


「あー!もういい!」


よし。それでいい………ん?

スタスタと歩いて退くと思ってたリリアはバッと手を前に突き出し立ち止まっている。手のひらはワウスに向けられている。


「おい、リリア…何してる」


「てめぇごときがあーしに命令すんじゃねぇ!」


「なっ!」


「あーしが何をするかはあーしが決める!あーしがどうするかもあーしが決める!あーしはあーしの心に従って戦う!誰がてめぇを守りたくて戦うかバーカ!」


マジかよ…!傍若無人がそう出るパターンもあんのかよ!どうする!どうする!どうする!


「いい度胸ですわよ。神子を守る為に命を張る。貴女が天使なら堕神して守護者になる提案をしたのに…残念ですわよ」


「言ってることがなんのこっちゃわかんねぇよ!あーもう!めんどくせぇ!早く撃ってこいや!」


「振られてしまったですわよ…残念。じゃあもう本当に用はないですわよ。さようなら」


ワウムがあの構えを取った。緊張感が辺りを包む。まずい…どう助ける…動け俺の体!立て!

リリアを死なせるつもりかよ!立て!立て!


「死ね」


ビュン!


「リリアァー!!!」


ワウムの手からエネルギーの弾丸が放たれたのと同時にリリアの手からすごい勢いで青い霧が吹き出した。青い霧は弾丸を包み込みリリアにギリギリ当たらないところで止まっている。


「プロテクト・ミスト…!」


すごい!あの弾丸を受け止めてる…!かなりギリギリのところで止まってはいるが確実に受け止めている。


「あらあらすごい技ですわよ」


「誰が死ぬって?!あぁん!?もういっぺん言ってみろ!」


かっけぇっす…リリアの姉御!

ってそんな事言ってる場合じゃない。リリアが頑張ってくれている間に何か…何かできることを…!霧を出しているリリアの腕からプシュッ!と血が所々から吹き出ている。恐らくあの霧を出すのには体に負担がかかりすぎるのだろう。一刻も早く助けてあげたいが…俺にできることなんて…。


「くっ…!」


鼻血を吹き出すリリア


「そろそろ受けきれないですわよ?せめて…綺麗に散るですわよ!」


「うがぁぁぁぁぁあっ!」


違うだろ…!できることを探すんじゃない!できそうなことを考えろ!なんでもいい!何か…何か…!


そうだ…。この剣は本物って言ってたな。つまり、街中の水を吸い上げたのはこの剣って事になる。なら…!この剣の本当の使い方が分かれば…!俺に使いこなせれば!

俺は剣を頭上に掲げた


「おい!欲望の剣、グリーディア!」


剣に着いた大きな黒い宝石が弱めに光る。


「お前が飲み込んだ水を…!全て吐き出せ!」


剣の石が激しく光り出す。その次の瞬間、剣の刀身から大量の水が溢れ出す。何が起きたのか理解する間もなく俺たち三人は水に流された。


「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」


水流が強すぎる!!どんだけの水を吸い込んでやがったんだよ!って思ったけどそりゃそうか…!ひとつの街が水だけで成り立ってたって時点でこうなるのはわかるべきだった。俺ってなんで思いつきで動いちまうんだろ…。

そんな泣き事言ってる場合か!とりあえずリリアをあの弾丸から守ることは出来た…はずだ。

ってリリア!リリアはどこだ!

激しい水流に流されながらキョロキョロと辺りを見回す。リリアらしき人影は…見当たらない。一体どこにいるんだ…!

咄嗟にたまたま近くにあった柱を掴んだ。幸いオーラを使っているお陰である程度踏ん張りが効く。よし。この隙にもっと集中して観察するんだ。リリアを…死なせない!ん?

ふと気になった場所を見ると見覚えのある服が見える。それは底の方に沈んだ水流で削られた壁の石の一部と同じ物に挟まれているようだ。

間違いない!リリアはそこだ!


オーラを手に纏い、流れに逆らいながらぐんぐんと潜っていく。これでも水泳スクールに通ってたことがあるんだ。泳ぎは得意!…ま、3ヶ月位で辞めちゃったけど…。泳げてるから問題なーし!待ってろ!リリア!

底につき石を持ち上げる。そこには倒れたままピクリとも動かないリリアの姿があった。

石がどいた事で水流に流されかけたが間一髪で掴めた。意識は…無いみたいだ。頼む…死なないでくれ…頼む!


周辺を観察すると水圧に押され壁がもろくなっている場所を見つけた。あそこなら…壊せるはずだ。


竜丸っ!


オーラの球を壁にぶつけると予想通り脆くなっていたみたいだ。壁が勢いよく崩壊し水が外へ外へと流れ出した。行ける…!外に出られる!


ザパーンっ!


激しい水流に流され俺とリリアは外へと飛び出した。軽く周りを見渡すとそこはもう中へ入る前とは比べ物にならないほど様子が変わっている。砂漠なんてなかったんじゃないかと思えるほど周りは水まみれだ。てかこれもうほぼ海じゃん…。所々砂で出来た島のようなものがある。多分高さがある場所がまだ水に埋もれず頭を出してるんだ。俺は着地できそうな近くの島を補足し、そこに着地した。


「リリア!リリアっ!!」


起きろ…!頼む!リリア!


「がはっ…!」


良かったぁ…。無事だ


「大丈夫か?」


「…あぁ」


とりあえずリリアは安心だ。あとは外にいたルーギアとそこへ向かっていたハヤテ達だな。

パッと見周りにはいないようだが…まさか流されたんじゃ…


ドクン…!


ぐっ…!まずい…!ここでかよ…!こんなところで暴走したらリリアが!


「うっ…ぐっ…!」


「おい…クソ野郎…どうした…」


「天賦が…暴走しかけてる…んだ…!このままじゃ…!」


「ったく…だらしねぇな…」


「くっ……すまな…い…!」


「剣だ…剣使え…」


剣…?はっ!そうかグリーディア!

こいつはこの街の水を吸い尽くした。つまり、この剣の力は吸収。俺の暴走しかけている今のオーラを吸収すれば暴走を止められるかもしれない!


「はぁぁぁぁぁっ…!」


俺は剣を地面に突き刺し剣にオーラを流していく。次第にオーラは荒ぶりを収めていきしばらくすると完全に剣はオーラを吸い尽くした。


「はぁ…はぁ…はぁ…何とか暴走が収まった。ありがとうリリア…」


「ふん…てめぇとは頭の出来がちげぇんだよ」


これで俺たちは本当に何とかなったと思っていい。あとは…ルーギア達だ。


ドカーン!


遠くの島から爆音が聞こえてきた。なんの音だ?もしや、ワウムが生きてやがったのか?

その島を目を細め注視する。すると、そこには見覚えのある姿があった。ルーギアとハヤテ、そしてニシマだ。良かった。全員無事だ…!

しかし何をやっているのだろうか。さっきの爆音も気になる。

そんな事を考えながら状況を見ているとルーギアとハヤテはニシマを庇うように立っているようだ。その二人の先には誰かが立っている。一体、何があったのだろうか。


「ハヤテ、まだいけるか?」


「はい、大丈夫です…!ニシマ君、俺から絶対に離れるなよ!」


「は、はい」


「おい、お兄ちゃん。ここは見逃してくれねぇかな。俺には一生攻撃通せねぇぞ」


ルーギアはそう言いながら眼前に立つ一人の男を睨んだ。睨まれた男はやれやれといった仕草で少し目にかかった前髪を直しながら首を上げルーギア達を見下ろす。


「断る」


冷酷な目が悪魔の二人を補足し、手に持った剣を向けた。それはまるで悪事を働いた罪人の断罪をする処刑人の様相だった。大きな翼をはためかせ男は呟いた。


「お前たちは、ここで殺す」



23話へ続く。

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