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21.スルヘリア

ハヤテの力で爆速で街道をひた走り20分くらいたったところでようやく、廃域と呼ばれる誰も住んでない領域が見えてきた。確か水の都と呼ばれたスルヘリアって街だったな。でも…これは…


「ひでぇーな…」


あのリリアが唖然としている。それも無理はない。

水の都と呼ばれていたのが嘘なんじゃないかと思わせる光景が広がっているからだ。俺達の目に映っているのはその真逆。広大な砂漠だった。


ヒュオオオ


という風の音が聞こえてくる。


「おい…ここがスルヘリアか?」


「地図上はここっすね」


「はっ。ちょうどいいじゃねぇか。こんな状態じゃ誰が通ろうと誰も気付けねぇよ。隠れながら移動するのにこんなに適してる場所はねぇ」


「それもそうか」


リリアの言う通りだな。こんなにも何も無い場所なら留まっている人も居ないだろう。さっさと通り抜けられる。隠れるような事もする必要は無い。時短になったと思っていい。


「それじゃあ行こうか」


ルーギアがそう言うとハヤテが再度天賦を発動する。

砂漠に一歩踏み入れると砂が柔らかく足を取られ思ったよりも走れなかった。


「うおっ。危ねっ」


「ここからは俺の天賦は使わない方がいいかもな」


「はぁ?なんでだよ。早く動いた方がいいだろが」


「今のレグルス見ただろ。ここの砂は柔らか過ぎる。速く走ろうとして足を取られたら危ない」


「ちっ…足引っ張りクソ野郎が」


俺は一生クソ野郎呼ばわりなんだろうな。

四人でザクザクと砂を踏みしめ砂漠を歩いていく。

体感30分ほど歩いたところでなにかが見えた。


「なんだ?あれ」


「ん?何かあったのか?」


「だから。あれだよ。砂に埋もれてる…灰色の何か」


「はぁ?どこだよ。なんも見えねぇぞ。目までクソなのかてめぇ」


言い過ぎだろ。


「あー!もういいよ!」


「まてレグルス!」


俺はその埋まっている謎の灰色の物体へと走り出した。現場に着くと謎の灰色の物体はどうやら布のようだ。これは…マントか?ん?待てよ…これは?

周りの砂を少し払う。するとそこにあったのは腕だ。


「うぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「大丈夫かレグルス!」


ルーギアとハヤテが駆けつけてくれた。


「うっ…」


うっ?まて。もしかしてこの腕…生きてる人間の腕か…!?


「二人とも!砂を払うの手伝ってくれ!」


「わ、わかった!」


「おう」


砂から男を掘り起こすと男は瀕死の状態だった。水分が不足しているのか顔色がとても悪い。


「おい!おい!大丈夫か?!」


ってこいつ…体がちっちぇ!大人の男かと思ったらめちゃめちゃ子供じゃねぇか。こんな砂漠のど真ん中に子供がひとりで何してたんだ?

てかそんなことよりどうしよう。


「こりゃまずいな。ハヤテ。水をやってくれ」


「は、はい」


ハヤテが水筒を取り出し子供に飲ませた。


「ガハッ!」


子供が吸い込んでいた砂を吐き出した。どうやら大丈夫なようだ。


「おい、大丈夫か?」


「あんたら…誰だ?」


「通りすがりの者だ」


「あんたら…悪魔だろ…なんで天使の俺を助けた」


「俺らはそんなもんに縛られねぇよ。ほら、もっと水飲め」


「ありがとう…」


こんな子供でも自分は天使だから悪魔は助けてくれないなんて固定観念を持っているんだな。

ほんとこの世界は…


「おい。何してんだ」


余計な固定観念を植え付けそうなやつが来た…


「リリア。レグルスがこの子を見つけたんだ。砂に埋もれて死にかけてた。今ハヤテが水飲ませてるとこだ」


「おお、マジか。危ねぇな」


あれ。案外寄り添ってる感じ?


「んで?大丈夫なのか」


「あぁ。水飲んだら少し顔色が良くなったよ。もう少し休めば体調も落ち着くだろう」


「なら問題ねぇな。先を急ごう」


前言撤回。バカ薄情ネキが堂々と登場してる。


「おい、待てよ。ここに置いてくつもりか?また死にかけるかもしれないしこんな場所に置いてけぼりにしたら可哀想だろ」


「はぁ?何言ってんだ。あーしらの目的は見ず知らずのガキを助けることじゃねぇ。一刻も早くヴィンセンゴにいる本隊と合流することだろうが。まだスルヘリア。こんな所で足踏みしてたらそれこそ魔兵隊や天兵団に追いつかれんぞ」


「それはそうかもしれないけど。それでも俺はこの子を置いていけない。せめて安全な所までは連れていきたいんだ」


「ちっ、ざけんな。付き合いきれるか。ハヤテ、ルーギア行くぞ」


ズカズカと歩いていくリリア。別にいいさ。

俺一人でもこの子を安全な場所に送り届ける。現代でいえば小学生くらいの男の子を砂漠に放置なんて俺には出来ない。英雄なら…困っている人には手を差し伸べるべきだ。たとえこいつらが全員反対でも俺はこの子を助ける。


「まてリリア」


「あぁん?」


「レグルスと一緒にこの坊主を安全なとこまで連れてくぞ」


「はぁ???何考えてんだよ!追っ手が来たらどうすんだ!」


「それはお前のシャドウ・ミストの出番だ。足跡だって消せるんだろ?追跡なんて出来ないさ。ね?ルーギアさん」


「英雄さんが助けたいって言ってんだ助けない手はねぇだろ」


「ちっ…!ったく…!」


ルーギア、ハヤテ…!本当にこいつらには頭が上がらない…。


「ありがとう!」


「あーもう!勝手にしろ!後で後悔しても知らねぇからな!」


「よし。じゃあ次の街までこの子を連れてゆっくり行くとしようか」


「ま、待って。俺は…ここを…この砂漠を離れる訳には行かないんだ」


「どういう事だ?」


「この近くに安全な建物がある。そこまで連れてってくれ」


「近くの建物ぉ?!ふざけんな!それじゃあ前に進めねぇだろうが!」


「ひっ!」


「リリア!」


「ちっ…」


「ごめんな。このお姉ちゃんずっとキレてるんだ。心が狭いちっちゃいやつなんだよ。気にしないでくれ」


ルーギアはすごいストレートディスるな。


「建物ってのはどこにあるんだ?」


「ここから西に15分くらい歩けばある」


「西ってほんとに逆じゃねぇか…もぉぉ」


「よし。わかった。んじゃそこに行こうか」


「ほんと?ありがとう!悪魔のお兄ちゃん!」


砂漠に埋もれてたのを助けてからずっと暗い顔をしていた少年の顔に初めてパァっと明るい表情が灯った。俺は少年をおぶって歩き始めた。

ハヤテとルーギアは前後を挟み何があってもいいように守ってくれている。一番後ろはずっと眉毛をピクピクとさせながら薄情ネキがトボトボと着いて来ている。


「そういえば名前聞いてなかったな。少年。名前は?」


「ニシマ。ニシマ・イミュレットだ」


「ニシマか。いい名前だな。俺はレグルス。よろしくな」


「レグルス…」


「俺はルーギア。あっちの間抜けそうなのがハヤテでその後ろの癇癪女がリリアだ」


「ちょ、酷いっすよルーギアさん!」


「誰が癇癪女だぁ!ぶち殺すぞクソジジイ!」


「ほら。癇癪起こした。な、変な事言うとブチギレられるから気をつけろ」


「う、うん」


あ、引いたな今。こんなクセが強いパーティに拾われて最早災難かもしれないな


「あと、さっさと店でないとツケを払わせられるぞ」


まだ根に持ってる!?


「ん?あれが例の建物じゃないっすか?」


後ろからハヤテの声がした。ハヤテが指差す方向を凝視すると遠くに石造りの建物らしきものが建っているのが見えた。


「うん。あそこだ」


そう言うニシマの手は俺の肩を強く握った。何か…あるのだろうか。徐々に建物に近づいてくと思ったよりも建物はしっかりとした見た目だ。窓ガラス等が割れている所は所々あるが建物自体に損傷はあまりない。なのに…いや、だからこそと言うべきか。その雰囲気はかなり異様で不気味だった。


「ここってまさか」


「リリア?知ってるのか」


「いや。知ってるわけじゃねぇが。もしかしたらって思ってよ」


「もしかしたら?」


「あぁ。スルヘリアの中央に存在したって言われる天神堂の跡地なんじゃねぇかな」


「天神堂…か。ルーギアさん知ってますか?」


「いいや?聞いた事ねぇな」


天神堂?つまり、神を祀る場所みたいなものか。現代でいう教会とかお寺、神社的なノリなのだろうか。


「うん。ここは天神堂だ」


「それで?ここからどうする」


「お兄ちゃん達…強い?」


「え?」


「強い?」


「あったりめぇだ!おっちゃん達はつよつよだぜ。どんな用でも安心して任せてくれ」


「ルーギアさんの言うとーり」


「見て分かれよ」


「俺は…自信ない…」


「ありがとう。ならここの地下に向かって欲しいんだ」


「地下?」


「お願い!」


「分かった!」


「はやぁっ!?」


「はーっはっはっはっ!流石はレグルスだ!」


「はぁ…もうどうでもいいわ」


「残念だったな!リリア!諦めろ!はーっはっはっはっ!」


こんな子供が真剣に俺達にお願いしてくるのにはなにか理由があるのだろう。断る理由もないしここまで付き合ったんだとことん行くしかない。


「地下に続く階段は中の祭壇裏にあるんだ」


「行こう」


「あー待て待て。俺はここに残るぜ」


「え?なんで?」


「万が一追っ手が来てもいいように見張りが一人いた方がいいだろ?それに、ハヤテとリリアとレグルスだけで大抵事足りるはずだ」


「まぁそれもそうか」


「待て!じゃああーしが残る!中に興味なんかねぇし」


「ダメだ、お前の天賦は色々器用に出来る。何があってもいいようにお前はいた方がいい」


「嫌だね!」


「よし!じゃあ行ってこい英雄の悪魔!」


「おう!」


「ルーギアさんも何かあっても無理はしないでくださいね」


「あぁ。ありがとよハヤテ」


「勝手に話進めんなぁ!」


「うるせぇほら行くぞ」


「ちょ!おいっ!!離せハヤテ!クソがぁっー!」


ハヤテがリリアの首根っこを掴みしょっ引いて行った。いいぞハヤテ。リリアに対して強引は1番いいカードだ。


「行くぞ、ニシマ」


「うんっ」


俺たちは天神堂の中に入った。中は砂やホコリで空気は悪いが内装自体はやはり損傷は少なく掃除すればまだ使えるほどにしっかりしていた。例の祭壇は正面にどっしりと構えており、覗き込むと確かに地下へと続く階段があった。


「注意していこう」


「あぁ」


「ちっ…さっさと終わらせるぞ」


階段をゆっくりと降りていくと薄暗い通路のような所に出る。両方の壁にはロウソクがかけられ遠くの方までその微妙な明かりは続いている。俺たちは細心の注意を払いその通路を進んで行った。やがて薄暗い明かりの先になにかの空間があることに気づく。


「なんだ?地下室か?」


「そうなんだけど今はちょっと違うんだ」


「今は違う?」


「見たらわかると思う…」


どういう事だ?ニシマは一体俺達に何をさせたいんだ?


俺は近くの壁にかけられているロウソクを手に取り中に入る。その空間は思ったよりも狭い正方形の部屋だった。


ドクン…!


突如動悸のような胸騒ぎに襲われる。これは…なんだ?!ふと部屋の中央が気になりロウソクを向ける。するとそこには紅いブレードに禍々しい装飾の柄の剣が地面に刺さっていた。


「これは…」


「あの剣は…スルヘリアを殺した剣なんだ」


「スルヘリアを殺した剣…?!」


「あれって!まさか!」


「あぁ、リリアも気づいたか…」


「当たりめぇだろ…伝承を知ってるやつなら誰でも知ってる…。欲望の剣、グリーディア」


「グリーディアってなんだよ…欲望の剣って?」


「神はこの世界を作った時に自分達の存在を証明する為にそれぞれの神にあてがった特殊な力を持った五神剣と呼ばれる五本の剣を作ったんだ。構築の剣 クリエリィ、命力の剣 ライフィル、崩壊の剣 ブレイグン、養力の剣 ガロウン、そして欲望の剣 グリーディア」


「そんな剣が…?!それぞれの神が1本ずつ剣を…?」


「せーかくには神共は自分の力の一部を剣にしたんだ」


「自分の力を…か…」


自分達の存在の証明…。妙な話だな。天賦がある以上わざわざ証明なんて不要だろ。そもそも存在の証明なんてなんの為にするんだ?

謎が多すぎる物品だ。


「てか、それは分かったけどその欲望の剣とやらがスルヘリアを殺したってどういうことだよ」


「俺はスルヘリアの生まれなんだ。水の都と呼ばれたこの街は水路やダムみたいに水をあらゆる用途で使って生活してた。だから俺たちは水に感謝し水という天の恵に常に感謝していた。そんなある日普段じゃ見かけない黒いローブみたいなのを被った男がやってきたんだ。男はこの天神堂へと入りこの部屋にやってくるとあの剣をおもむろに取り出し地面に突き立てた。剣はあっという間に街中の水を全て吸い上げて…街は枯渇しやがて砂漠化していったんだ…」


「ガキ、砂漠化するってのはどういう原理だよ」


「そんなこと俺に言われても分からないよ」


「ふん、雑魚が」


「雑魚じゃない!」


「雑魚だろ!ざーこ!」


子供と張り合うなよ…。


「要はこの剣がこの街が水の街から一転砂漠と化した元凶って事か。いや、正確には剣を刺した黒ローブの男が元凶と言うべきだな」


「五神剣を持ってるなんて一体何者なんだ」


「目的も不明だな」


確かにこの街の水を吸い尽くして何になるんだろうか。五神剣と呼ばれるすごい剣を実質失ってまでなんでスルヘリアを狙ったんだ?

色々不思議なことが多すぎる。もう何が何だか分からない。


「おいガキ。この街に住んでたヤツらは今何してんだ。街を捨てて逃げたのか?」


「……逃げた人も黒ローブを倒そうとして殺された人もいる。俺の母ちゃんは…行方不明だ。あの事件が起きてすぐ家に帰ったら母ちゃんはいなくなってた」


「…そうかよ。辛いこと聞いて悪かったな」


「ううん。平気。……でも…あの剣が無ければ…今もこの街は水と活気に溢れていたのに…」


ニシマ…。

ん…?待てよ?この剣が街の水を吸い尽くして砂漠化しちまったんだよな。この剣抜いたら干ばつが終わるってことは無いか?


「レグルスさん?どうしたの?」


「あぁ…いや。少し試してみようと思ってな」


「試す?」


俺は剣に向かって歩き出した。近づくにつれて強いプレッシャーが俺の体にヒシヒシと伝わってくる。


「おい、レグルス。何する気だ」


「はっ。バカが。まさか剣を抜くつもりか?」


「そのまさかだよ」


「なっ!?」


「はっはっはっはっ!こりゃ筋金入りのクソバカ野郎だ!五神剣は持ち主以外に従わない!その剣がお前に抜けるわけねぇだろ」


「やってみなきゃわかんねぇ…だろ!」


剣の柄を掴んだ。すると


ドクン…!


この剣に初めて近づいた時の動悸と同じ胸騒ぎに襲われた。剣からの強い威圧を感じる…。いや、威圧ではない。これは、なんだ?声…?


『竜の柱…』


竜の柱?なんの事だ。なにかの装飾の事なのか、それかこの天神堂にそれに適した柱があるという事なのか。そもそもこの声の正体はなんなんだ。この剣なのか?

そんな事を考えるていると自分の体に徐々に変化が起きていることに気づいた。動悸が収まり、威圧されている感覚も無い。この剣に対する畏怖や警戒が薄れていくような…不思議な感覚だ。


「おい、レグルス…?大丈夫か…?」


「…」


「あの剣は何人も抜こうとしたのに抜けなかったんだ…。お兄さん達ならもしかしたらと思ったけど…巻き込んじゃった…ごめん…」


「そんな事ない、レグルスを信じろ」


「うん…」


「はっ。何が信じろだ。あいつは剣に飲まれたんだ。残念だなぁ〜惜しい奴を亡くしたわ〜」


「リリア!不謹慎な事言うんじゃねぇよ!」


「お姉ちゃん、やっぱサイテー!」


「うるせぇ!バァーカ!」


剣を持つ手にじわじわと何かが伝わってくる。

何か暖かい…温もりのような感覚だ。俺はこの剣を知ってるのか…。


『竜の柱…。続く輪廻の呪いの中で…再度我と引き合うのだな』


剣の声と思われる声が大きくなっていく。俺に話しかけているみたいだ。


『我はお前の輪廻の一部。お前は我の記憶の一部。お前は我に力を求め、我はお前の運命を欲する。大いなる欲望こそ我。お前はそれを受け入れれば良い。さぁ…我の身をお前に委ねさせろ』


スゥ…


剣の声を聞き終えた俺は無意識に剣を引き抜いた。ん?引き抜いた?俺は今…なんて言った?

自分の右手を見る。そこにはさっき主にしか従わないと呼ばれた五神剣の内の一振が握られている。


「なっ!」


「や、やったぁ!」


「ぷっ!アハハハハハッ!さっすがレグルス!規格外にも程があんだろうが!ハハハハハッ!」


俺氏、剣抜いちゃった。


22話に続く

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