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20.作戦会議

時はほんの少し遡る。

レグルスとリリアが外で話している間、酒場の中ではルーギアとハヤテもある話をしていた。


「あの少女はどうだ?」


「例の神子と呼ばれてた少女ですか?」


「そうだ」


「なんとも…言えませんね。見た目は普通の悪魔なのですが…。とりあえずあの病院で診てもらっています」


「うーん」


「なにか?」


「堕天使の動きが気になってな。神子が連れ去られたのに焦る様子もなかった。それに神子を探すためにやってきて街をむちゃくちゃにした割には案外すんなりと追い返されてくれたなと思ってな」


「確かに…なぜそんな無茶をしたのでしょうか」


「さぁな。少し…様子を見た方がいいのかもしれねぇな。場合によっちゃあの少女もウチで預かることになるかもしれねぇ」


「なら、合流後あの街に誰かを派遣した方がいいかもですね」


「あぁ。そうだな」


ギィィという扉を開く音が二人の会話を遮った。

そこにはリリアが立っている。


「あれ?お戻りか?お嬢さん」


「うるせぇ。さっさと任務終わらせてあのバカの面を見なくていいようにしてぇだけだ。おい、オヤジ!シルバーエール!」


「あいよ」


「まだ飲むのかよ…」


また同じギィィという扉の音がする。今度はレグルスだった。


「何とか殺されずに済みそうだぜ」


「そりゃあ良かった。んじゃ、今後の動きを説明するぞ」


ルーギアはそう言うと地図を広げた。地図は大きな大陸に点線で道が記されそれぞれ黒く丸がされている場所、白く丸がされている場所、赤く丸がされている場所や緑で丸がされている場所の四種類の円をいくつも繋げている。


「おおっ、地図か!」


「そう。黒丸は邪域、白丸は聖域。赤が戦域で緑が統一区だ」


「こう見ると黒と白は同じくらいで緑がなかなか少ないな」


「あぁ。まぁそんなもんだ。統一区をよく思わない奴らも多いしな」


やっぱりそんなものなんだろうな。どんなにお互いが寄り添える環境を作っても実際にその通りに手を取り共生しようとする人は少ないだろう。


「それで?これからどうするんだ?」


「まずはここから北上していき、この大型邪域。交易都市ヴィンセンゴを目指す」


「交易?悪魔の中でか?」


「いや、ヴィンセンゴで行われる交易は天使とも取引している。その関係で認められた天使だけ入域が認められている」


どうやらそのヴィンセンゴという邪域は他の区域とは少し様子が違うらしい。統一区のような邪域、ということだろうか。


「そこに魔導組の本隊が待機してる。それと合流しなきゃ安全を確保出来ないし調査も出来ないからな」


本隊か。確かハヤテが俺の病室に飛び込んできた時もそんなことを言っていたな。


「本当はあの統一区で本隊と合流予定だったんだが…魔兵隊の邪魔が入ったりしたせいで本隊がヴィンセンゴから動けなくてな。先に動いてた俺とルーギアさんでここまでお前を連れてきたってわけ」


「だーから単独調査中だったあーしを護衛に使うってわけね」


「そういうことだ」


「単独調査?」


「リリアは単独であの事件のことについて調べてくれていたんだ。本人も調べたがっていたしこちらも情報が欲しかったからな。でも本隊が動けなくなったことでこっちの戦力が足りなくなっちまった。だから少しでもヴィンセンゴに安全にたどり着ける可能性を広げるために呼んだってわけだ」


「従いたくなかったけどな。あんたがリーダーじゃなかったら絶対に来てない」


リリアは不貞腐れながら酒を呷った。

そういえばリリアが寝ていたカウンターテーブルの上には酒瓶が10本以上置かれてる。相当酒豪だなこいつ。それか…俺と会うのが本気で嫌だったのか…。そっちの説の方が濃厚だな。


「それでだ。俺たちがヴィンセンゴにたどり着くために通らなきゃ行けない道の途中には戦域が二つ、邪域が一つ。そして、廃域が一つだ」


「廃域ってなんだ?」


「あぁ、廃域ってのは誰も住み着かなくなった邪域、又は聖域の事だ。本当はそういう廃域を統一区にしたりするんだが最近、どっちの種族も人口が減る一方で廃域が増えていてな。統一区化が追いついていないんだろう」


「そうか…」


「今回通る廃域はどこなんですか?」


「スルヘリアと呼ばれていた場所だ」


「スルヘリア…か」


「リリア?知ってるのか」


「あぁ。水の街スルヘリア。案外こっちの東方側では有名な街だった。でも何年か前に水が湧かなくなってそれで人が住み着かなくなったって聞いたね」


「水が?なんで?」


「んな事知るか!てかてめぇはあーしに話しかけんじゃねぇよクソ野郎!」


おおっ…怖っ。

それにしても水の街と言われた街の水が急に湧かなくなるってのは変な話だな。これもこの世界のなにか不思議な力が作用して起きたことなのだろうか。


「てかそれより戦域と邪域はどうすんだよ。戦域はまぁステイン共をぶっ飛ばして進みゃいいとして邪域に入るならこのクソ野郎がクソ野郎だって魔兵隊共にバレないようにしなきゃなんねぇだろ」


クソクソ言い過ぎだろ。


「それは問題ない。悪魔なら魔力結界は簡単に通れるし変装用の黒いマントを渡してある。な?レグルス」


「あ、あぁ。持ってるよ」


「………………ふーん。ナラダイジョブカー」


すっげぇ棒読みなんだけど!?!

絶対バレるって思ってるじゃん!!


「そのルートで通る邪域って事は多分アゼルバイスですよね」


「ん?そうだが」


「なら大丈夫だと思います。アゼルバイスに着いたら俺に任せてください」


「お、なら頼むぜ」


ハヤテはずっと心強いな。時々ブレがあるルーギアとは大違いだ。ハヤテの「大丈夫」の信頼感は果てしない。


「あ、てかそれよりもあのヴィオレとかいう奴が追ってきたらどうするんだ?追いつかれでもしたらまた戦いになるんじゃ…」


「あぁ。だがヴィオレ達は俺たちを追跡出来ないはずだ」


「追跡できない?」


「はぁぁぁぁ…なんだよ…それがあーしを呼んだ本当の理由か…。なにが戦力だ。大嘘つきのクソリーダーが!」


「悪い悪い。だが本当に戦力としても心強いですよお姉さん」


ん?どういうことだ?

まぁとりあえずリリアが何とかできるってことか。


「そんじゃ。時間も惜しいしそろそろ行くとしようか」


「ですね。俺の魔力もある程度回復できたしスルヘリアまでは持つと思います」


「っし。ならとっとと行くぞ。めんどくせぇ。オヤジ、シルバーエールもう一本くれ」


「あいよ」


酒を貰うと栓をさっさと抜き一気飲みし机に叩きつけるリリア。


「じゃあ、やっか。ハヤテ、天賦の準備しとけ」


「おう」


もう、行くのか?


「何ボサっとしてんだクソ野郎。とっとと表出ろ」


「あ、は、はい」


「んじゃルーギアリーダー。支払いよろ」


「俺持ちかよっ?!?!?!待って!リリアさん!せめて半分出して!ね?!リリアさん?!リリアさーん!!」


フル無視して外に出ていくリリア。えげつないな。


「頼む…ハヤテ…少しでいいかr」


「じゃあ行こうか。レグルス」


足早にリリアを追いかけるハヤテ。無慈悲だな。


「レグル…」


「あぁ…ゴメン。一銭も持ってない。てかこの世界の通貨のことすら知らない。本当、ごめん」


「あ…そうだよね…」


とぼとぼと支払いを済ませるルーギアの背中は酷く寂しく心做しか少しセピア色に見えた。それとは裏腹にさっきまで無愛想だった店主の表情がパァっと明るくなった。


「毎度ぉっ!」


すごい量飲んでたんだろうな…。俺は今初めてルーギアを本気で可哀想だと思った。死にかけた顔のルーギアの背中を擦りながら店の外に出る。するとリリアとハヤテが立っている。


「ったく。おせーよ。何してんだ」


「てめぇが飲んだ分払ってたんだろうが!このクソアマがぁ!」


ルーギアの怒りは至極真っ当で正しい怒りだ。


「金払うだけだろ。さっさとしろよ」


すごいな。リリアさん。清々しいほどにクソだ。


「#@&♡☆:;*?!っ!」


ルーギアさん。怒りすぎて喋れてないよ。


「そんじゃ、行こうぜ」


手を差し出すハヤテ


「おう」


ハヤテの手に触れるとさっきと同じく、ハヤテの天賦の力が体を包み込んだ。ブチ切れ状態のルーギアも何とかハヤテに手を伸ばしたようだ。あとはリリアだが…何やってるんだ?合掌して直立しているように見えるが。


「シャドウ・ミスト」


リリアがそう呟くと辺りに灰色の霧のようなものが現れる。なんだこれ。不思議な匂いと感触だ。その霧は次第にゆっくりと薄れていき数秒後には完全に消えていた。


「これでよし」


「何したんだ?」


「チッ」


聞いただけじゃん!舌打ちって!


「五利霧中(ミストアーツ)。五種類の霧を自在に操ることができる。それが霧の悪魔、リリア・ツインヴィーテの天賦だ。今のはシャドウ・ミスト。俺たちの残した痕跡や魔力残滓を消してくれる」


「てめぇ!ハヤテ!なに勝手にベラベラ言ってんだ!プライバシーの侵害だ!謝れよ!」


「人に強制的に金を払わせるのはいいのにプライバシーの侵害はダメなんですね…そうなんですね…ご立派な考え方ですね」


「何言ってっかわかんねぇ」


ルーギアが凄くネチッこくなってる…。

まぁ、それは置いといて。リリアがいれば大丈夫ってのはこのことだったんだな。


ドサッ!


「おい、リリア!なんで俺に飛び乗るんだ!」


「だってしょうがねぇだろ。お前に触れてなきゃ足速くなんねぇのに両サイドはクソ野郎とクソリーダーがいるからあーしは走れない。だからおぶってけ」


「ふざけんな!降りろ重ぇ!」


とんでもないお転婆娘だなぁ。てっきり俺が嫌いであんな態度なのだと思ったがそもそもが基本的に誰に対してもこんな感じで無茶苦茶してるんだろうな。この先大丈夫なのだろうか…。


「しゃー!しゅっぱつしんこー!」


よし。もう考えるのはよそう。なんか逆に勢いだけで行ける気がしてきた。この先どんなに道が険しいかは分からないけどこんな無茶苦茶さが切り開く道もあると思う。うん。そういうことにしとこう。


「もー…!ったくしゃあねぇ。時間ないから行くぞ!」


かくして俺たちデコボコパーティの冒険が始まった。

なんて在り来りなフレーズを添えてみたが…そんなまとまりが良いものでもないな。本当にこの先どうなるんだろう。不安だ…。



21話に続く

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