19.信じる勇気
かなりの距離を走ってきた。
それにしてもこのハヤテの天賦も便利だな。
手を繋いでいる間俺たちの足も早くなるなんて。
「はぁはぁはぁはぁ…!」
だけどハヤテもかなり限界が近そうだ。
「そろそろ休もう。ハヤテが持たねぇよ」
「いや…いいんだ。今、歩みを止めるわけにゃいかねぇ。それにもうすぐ目的地だからな」
目的地?
そういえば俺たちはどこに向かっているんだ?とりあえずあのヴィオレと呼ばれた黒い騎士から逃げているのはわかるが…。
「見えて…きた」
ハヤテがそう言い、前をキリッと向いた先にはと道の傍らにボロボロの酒場のようなものがある。あれが目的地なのか?
酒場の前まで着き酒場を見上げる。
「なんつーか…あれだな。味のある酒場ですな」
「ボロいな」
「俺がオブラートに包んだ意味!」
「はいはい。行くぞレグルス。ほらルーギアさんも」
「わーってるよ」
少しバツが悪そうな表情に見える。
ルーギアも後ろめたいような事が多いのかな。
ハヤテに連れられ酒場の中へと入る。扉はギィィと今にも外れそうな音を立ててゆっくりと開いた。ちらほらといる客はその音に気づき入口を見るがすぐに今さっきまでしていた談笑へと興味が戻った。どうやらここは外見の通り廃れた酒場のようだな。ハヤテはグイグイとカウンターの方へ歩いていく。
「いらっしゃい」
無愛想な店主と思われるカウンターの中にいる強面の男が話しかけてくる。
「連れがいるはずなんだが。ガラの悪いチビの女が」
「あ〜…そこで酔いつぶれてるよ」
店主がカウンターの一番端を指さす。
すると赤毛の短髪の女が机に突っ伏している。え?死んでる?いや、流石に寝てるだけか。間違えるほどピクリとも動かない。
「はぁ…全く。合流するまで酒飲んだりすんなよって言っただろうが」
「仕方ない。いつもの事だ」
「ですね。俺が起こします。おい、リリア!起きろ!」
そう言ってハヤテが女の肩に手を置くと途端に女は飛び起きハヤテを組み伏せた。
「ぐぁっ!」
「この…変態め…!あーしの体を狙おうったってそうはいかないよ…!」
「バカっ!俺だ…!ハヤテ・ダッシュ!仲間だ!」
「はやて…だっしゅ…?はや…テ…ハヤテ!なんだお前だったのかー!」
「ってぇ…!早く離せ!」
「全く、そうならそうと早く言ってくれよ〜」
女はそう言うとハヤテを離し、ケラケラと笑った。
やばい人だ。本当にやばい人だ。
「全く…ふざけやがって…!」
「それで?何の用だ?」
「目的忘れてんじゃねぇよこの酔いどれ野郎が」
ほんっとにやばい人だ。
「あー、そうだそうだ。護衛、だよな」
そう言うと女は俺を見つめる。
「ど、どうも。レグルス・ドラコ・ヴァンテーr」
パンッ!
え…?痛っ?え?うん?え?痛い。え?
ビンタされた…のか?俺、今ビンタされた?え?なんで?
「テメェ!よく堂々と面を見せれたもんだな!ざけんな!」
ドゴッ!
「ぐぁっ!」
痛てぇっ!?とてつもない威力の回し蹴りだ。俺の体が吹っ飛び数席席を吹き飛ばす。
「おいおい…」
周りの客もドン引きしている。なんなんだこの女…!
「死に晒せ。クズ。あーしがこの手でぶっ殺してやる」
この目は…ガチだ。俺に対する明確な殺意が目に籠ってる。
「リリア、やめろ」
「あ?」
この酒場に入ってからずっと静かにしていたルーギアが口を開いた。
「今なんつった」
「やめろと言った」
「なんで?」
「そいつは…悪くない」
「そうか、そうか。悪くない…か」
スパンッ!
大きく振りかぶったリリアという女の轟速の拳を片手で受け止めるルーギア。
「んなわけねぇだろうが!」
「レグルスがやったんじゃない!こいつは無罪だ!」
「証明できんのか!そいつじゃねぇって証拠はあんのかよ!」
「それは…だがレグルスがそんなことをするようなやつじゃねぇってお前も知ってるだろうが!」
「…ちっ!」
ルーギアの手を振りほどくリリア。俺をギラッと睨みつける。
「死ね。クソ野郎」
「なっ…!」
あまりにストレートな悪意盛り盛り殺意固めの悪口を突きつけらた。リリアは俺を睨みながら外へと出ていった。
「なんなんだ…」
「仕方ねぇんだよ…あいつの気持ちもよくわかる」
「ハヤテ…?」
「…あいつにはパルシャっていう名前の親友がいたんだ。良いやつだったよ。魔兵隊の所属だったが魔導組にも積極的に協力してくれたりよく一緒に酒盛りしたり。お前とも仲良かったぜ」
「それで?なんであんな態度になるんだよ」
「パルシャは死んだんだ」
「なっ!」
それって…まさか…!
「あの…シャテンバークの事件でだ」
「な、なんでだよ!聖域が襲われたんだろ?悪魔が巻き込まれるはずは…」
「和平大使としてシャテンバークに訪れていたんだ」
「和平大使…?」
「お前には伝え忘れていたな。あの大事件が起きた日、あの日は本来天使と悪魔の冷静を終わらせる為にお互いに和平を結ぼうという日だったんだ」
「じゃ、じゃあそのパルシャって人は」
「そう。天使達と手を取るためにシャテンバークに訪れ、命を落とした。そしてあの事件以降、リリアは姿を消したお前を犯人だと思い込みずっと探し続けていたんだ」
「そう…か」
「腕は立つから安全な場所に行くまでの護衛で…ってルーギアさんと考えたんだけど…やっぱ失敗だったか」
さっきまでの態度はそういう事だったのか。
とんでもない理不尽なやつだと思っていたがそれを聞けば納得ではあるかもしれない。ルーギアが彼女に会うまでバツが悪そうにしていたのは俺を庇う立場である事と俺を守らせようとすることについて罪悪感を感じていたからなんだろうな。でも…俺はやっていない。どんなにあいつが辛い状況だったとしても濡れ衣で責められるのは許せない。
「おい、レグルス。どこ行くつもりだ」
「話、してくる」
「やめとけ、殺されるぞ」
「かもな。でも、話さねぇと伝わんねぇだろ」
「レグルス…」
外に出るとリリアは道端に膝を抱え座り込んでいた。
出てきた俺に気づくと瞬間、ギラッと睨み目を逸らした。そんな彼女から少し離れた所に俺は腰を下ろした。
「何しに来た。死にてぇのか」
「んな訳あるか。話しに来た」
「話?ふざけんな。お前となんか話すことねぇよ」
「酷いな、寂しいこというなよ」
「黙れ、クソ野郎」
沈黙が流れた。風の音だけが俺たちの耳を通り抜ける。
「俺はやってない」
ビュン!
俺は口を開いた瞬間に眼前に何かを突きつけられた。これは…針?
「黙れっつってんのが理解できなかったのか?あぁ?」
「黙ってたら…お前は俺を信じてくれんのかよ」
「信じるわけねぇだろ」
「なら、黙るわけにはいかない。俺は冤罪で恨まれるのも殺されるのも御免なんだよ」
「記憶喪失のクセに…。なんで断言出来る」
「俺が信じる人達が俺を信じてくれるからだ」
「!」
「俺は俺の今の意識よりも前の体が…頭が何をして何を考えてたのか全く知らない。体の状態と周りの俺に対する認識に俺は置いてかれてる。それにプラスして天使を大量に殺した疑いがかかってるって言われて訳もわからず追われて殺されかけて…。もし一人だったら俺は俺の事を信じられなくなっていたと思う。でも…俺が信じる人達が、ルーギアがハヤテが…俺を信じると言ってくれた。なら俺はその人達のことを信じたい。俺を信じるよりもよっぽどマシだからな。お前はどうなんだよ。俺の言うことは信じられないだろうがあの二人の事も信じられないのか」
「…バカじゃねぇの。自分を信じさせる為の説得が他人からの信頼ありきって。自分には疑いを晴らす力がないって言ってるようなものだ」
「情けねぇだろ?でもこんな情けねぇやつにあんなことができると思うかよ」
「無茶苦茶言うんじゃねぇよ。あーしをそんなんで言いくるめられると思うな」
針はジリジリと俺の眼へと近づいていく。しかしすんでのところで止まった。
「チッ」
リリアは舌打ちをすると針を引っ込めそっぽを向いた。
「信じてくれるのか」
「勘違いすんな。信じてなんかいねぇよ。ただ、あーしの思い込みでパルシャの死の真相が有耶無耶になるのは…なんかちげぇと思った。あーしも…あーしの事を信じてくれたパルシャを裏切りたくない」
「ふっ。いい友情だな」
「調子にのんな。お前のことは信じてねぇって言っただろ。あーしは真相が判明するまでお前を疑う事をやめない。お前を信じない。でも、ルーギアやハヤテがお前を信じている間は殺さないでいてやる。誰かを信じる勇気から…逃げるのは嫌だから」
グッと拳を握るリリア。
強いな。自分の親友の死の真相を突き止める為に…いや、自分の親友の為に自身の恨みや感情に囚われず誰かを信じるという道を選べる。俺とは…違うな。
俺は自分の苦しみに負けて向井を追い詰め殺した。俺にはない強さをリリアは持っているんだ。
「死にたくねぇなら…真相を突き止めろ」
「もちろんだ」
リリアは不機嫌そうに酒場の中へと戻って行った。どうやら少しは落ち着いてくれたみたいだ。聖域での大量虐殺…一体誰がどんな目的の為にそんな事をしたんだ。リリアのような思いをしている人達はまだまだいるだろう。それを思うとどんな理由でも絶対に許せない。でもやっぱり、解決する為には…情報も力も足りない。もっとこの世界についての知見を広げなきゃ。
ルーギア達に頼りっぱなしになってしまうのは少し申し訳ないが…この世界で俺が信じられるのは彼らしかいない。いつか必ず借りは返す。
さぁ運命。俺は諦めないぞ。俺を…倒してみやがれ!
20話へ続く




