18 乱入、そして離脱。
クッソ…もうすぐ10分くらい経つか?
この麒麟全然へばらねぇどころか…硬すぎる!
何度殴りつけても何度オーラをぶつけてもビクともしやがらねぇ!俺は紫髪との戦いを思い出し、オーラの球を作った。
「竜丸!」
思い切りオーラを振りかぶり投げつけた。
「うらぁっ!」
凄い勢いで球状のオーラが飛んでいく。その球は麒麟に直撃するがビクともしない。
ホァァァァァァァ!
麒麟が鳴き声をあげると共に空に暗雲が立ち込める。
次第に暗雲からバチバチという音が聞こえたと思うと大きな雷撃がレグルスに向かって落ちていく。
「うぉっ!あぶね!」
紙一重でかわすが何度も何度も雷の追撃は飛んでくる。
「うぉぉぉ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
「レグルス!」
あれは…ルーギア…?
「何してんだ!」
「俺の後ろに隠れろ!」
「なっ!そんな事したらお前が!」
「いいから回れ!」
「ちっ…わかった!」
立ち塞がるルーギアの背後に回り込み盾のようにする。ルーギアが自分で言った事とはいえとても罪悪感がある。そんなレグルスに向かって雷撃はやはり先程の頻度のまま突っ込んでくる。その雷撃に向かって手を伸ばすルーギア。
「パニッシュ!」
その瞬間、雷撃が消滅する。
これが…異怖嫌厭の力っ!
「すげぇ〜」
「モタモタすんな!攻撃をぶち込め!」
「おう!」
また両手に竜丸を作り出す。今度は竜丸事投げる訳では無く竜丸同士を合体させる。
「竜玉っ…!」
ほとばしるオーラが風圧を生んでいる。気を抜けば飛ばされそうなくらいだ。近くの木々はザワザワと揺らめいている。
ホァァァァァァァ!
麒麟はそれに呼応するようにエネルギーを貯め始める。
「はっ!まーた撃ち合いか?バーカ!乗ってやんねぇよ!」
そういうとレグルスは麒麟のエネルギーが溜まりきる前に竜玉を放つ。
「うらぁぁぁっ!」
放たれた竜玉は周りの全てを巻き込み破壊せんとする勢いで麒麟へと突っ込んでいく。エネルギーを貯め始めたばかりの麒麟は避ける事も出来ず諸に直撃した。
ドカァァァァン!
かなり大爆発が起こり森全体が揺らぐ。
「やったか…?」
「だー!おい!ルーギア!何してんだ!それは言っちゃいけねぇ単語だ!」
立ち込める大きな煙が徐々に晴れていく。その煙の中から赤色の光がギラリと煌めく。麒麟の目だ。
「やっぱり生きてる…!クソみてぇなフラグ立てやがってぇ…」
「ふらぐ?とはなんだ?」
「うるせぇ!こっちの話だ!」
どうする。全力の一撃も全く聞いてない。あの紫髪を沈めた一撃だぞ。一体この麒麟はなんなんだ…。
ドクン…!
「くっ!」
「おい、大丈夫か!」
くそ…!そろそろ限界か…!この感覚は暴走の…。
「時間切れか。よく頑張ったな。パニッシュ」
ルーギアの手が俺に触れた途端。俺の暴走せんとするオーラがスパンと消えた。
「はぁはぁ…ありがとう」
「礼なんか要らねぇよ。むしろこっちがありがとうだ」
「…ふっ」
やっぱこいつ…良い奴だな
「ニヤついてる場合か。こいつからどう逃げるか考えなきゃ行けねぇんだぞ」
「ニヤついてねぇよ!」
どうするか…。この麒麟モドキの攻撃は基本遠距離攻撃。咆哮と共に放たれる光線と落雷攻撃。どっちも当たればシャレにならないダメージを負う。倒すのは論外としても逃げるのもなかなか絶望的だな…。
ホァァァァァァッ!
また咆哮光線か!くそ!どうする…!あれはルーギアでも消せないし、オーラがない俺は無力だ…。隠れる場所も盾にできるようなものもない…。あれ?これって
ホァァァァァァ!
詰んでね?
「危なーい!」
ドカァァァン!
爆音が鳴り響く。しかし俺とルーギアは無傷だった。
横を見ると知った顔がいた。
「ハヤテ!」
「ふぅー間に合ったか!」
「よくやったぞ。ハヤテ君!ここからレグルスと俺を連れ出してくれ」
「あーそうしたいのは山々なんすけど…ここに来るのにだいぶ魔力使っちまったのと…この状況が更に悪くなるニュースがありまして…」
「なに?」
この状況が更に悪くなるニュース?
この現状がもっと悪くってそんなことあるわけ…
ドカァァァン!
ホァァァァァァっ…!
突如、麒麟の顔面が大爆発を起こした。
「っ!?」
「やべぇ、来ちまった!」
来た?来たってなんだ?
爆発した麒麟は悶えている。その麒麟の背中を誰かが走っているように見える。あれは…誰だ?
「はぁぁぁぁぁっ!」
そいつは柄から刀身までが漆黒の剣を抜き麒麟に突き刺した。
ザシュッ!
ホァァァァァァ!
麒麟の悶絶する声が森中に響く。俺の攻撃を喰らってもケロッとしていた麒麟がこんなにも悶えるなんて…ありゃあどんだけすげぇ剣なんだ
剣技に見惚れているとドドドドドという大量の何かが近づいてくる音が聞こえる。これは…馬の足音か?
「レグルス!」
ルーギアの声に振り返るとルーギアはものすごい剣幕で俺の腕を引っ張った。
「これから何があっても、余計なことは言うな!いいな!」
何がって何があるんだよ
「一体何が起きてんだ?」
「今にわかる…!」
「すみません、もっと早く探知できてれば…」
「気にすんなハヤテ。お前のせいじゃないさ。とりあえずお前はもうひとっ走りできるように魔力回復に務めてくれ」
「はい…」
ドドドドドという足音は次第に大きくなっていく。
こっちに向かってきてるのか?
ホァァァァァァ!
この鳴き声は…あの咆哮光線だ!
また飛んでくるのか!
麒麟の大きく開けた口の前にさっきの剣を持った謎の人物が立ち塞がる。無茶だ!どう受けるつもりだよ!
ホァァァァァァ!
麒麟が剣のやつに光線を放つ。剣のやつは体をグイッと捻ると剣を構えた。
「まさか…斬るつもりなのか…?」
「はぁぁぁぁっ!」
スパンッ!
やつが剣を振るった瞬間光線は真っ二つに裂け、散った。そして剣のやつはぐんぐんと麒麟に距離を詰めていく。大きく跳躍するとまたしても剣を構える。
「紫電」
剣のやつが剣をほぼ見えないくらいの速度で振るう。その瞬間麒麟が無数の剣撃に襲われまたしても悶絶の咆哮を撒き散らす。
そのタイミングに合わせるようにドドドドドという足音が背後からものすごく大きく聞こえたかと思うと数十匹の馬に乗った数十人の兵士が現れた。
「なんだ…?こいつら」
「今だ!」
剣のやつがそう叫んだ途端、乗馬兵達は背中に背負った弓を構える。そして口を揃え
「光を遮る闇の隙間を縫う遮光のような我が意思は、矢として顕現し放たれん」
と詠唱のような言葉を口ずさんだ。すると持っていなかったはずの矢が兵士たちの手元に現れる。しかし実体の矢という訳ではなさそうだ。言うなれば魔力とやらで作られた矢だ。兵士達は麒麟に狙いを定め一斉に矢を放つ。数十本の矢は綺麗な放物線を描き麒麟に次々と突き刺さり、爆発を起こす。
ホァァァァァァ!
麒麟の声はやはり苦しんでいるように聞こえる。
俺が暴走しかけながらなんとかした攻撃じゃ全然効かなかったってのに。すごいな…
キィィィィィィ!
聞いた事のない悲鳴のような声を上げたかと思うと麒麟は強い光を放ちながら姿を消した。
「倒したのか?」
「いや、逃げたんだ。厄災があの程度で死ぬわけない」
「厄災…」
「さて、どうしたものか」
ルーギアがそう呟くと目の前にいる数十人の兵士達が俺たち3人を取り囲んだ。
「なっ!?」
「お久しゅうございます。ルーギア殿」
どこからか声が聞こえる。兵士たちの間を通って全身真っ黒の騎士のような格好をしたやつが現れた。あれ?こいつはさっき麒麟と戦ってたやつじゃ…?
「ヴィオレ。息災か」
「えぇ。お陰様で」
ヴィオレ…。それがこいつの名前か。どうやらルーギアとヴィオレと呼ばれたやつは面識があるようだ。
「しかし…。かなり探しましたよ」
ヴィオレが兜を外す。兜からは長髪のサラサラとした綺麗な黒髪が姿を見せる。兜が完全に外れると淡麗な顔立ちに宝石のような深紅の瞳の美人が姿を現した。
「お、女ぁぁぁぁ!?」
「貴様、私を女扱いか。失礼なやつだな」
「あ、す、すみません!つい…!」
だってびっくりするだろ!こういうのって大概キリッとした無口なイケメンか強いイケオジが出てくるもんだろうが!こーんなキャリアウーマンみたいな美人が出てきたら予想外すぎて失礼にもなるわ!
「さて。お引き取り願おうか」
ルーギアが構えた。やっぱりこいつは敵…なのだろうか。
「はるばる貴方方を探してきたのに随分ご挨拶ですね」
「当たり前だ。お前たちの狙いは十中八九レグルスだろう?」
え、おれ?
「ほう?その根拠は?」
「バリアルがこいつを天使共に差し出そうとしてる事はもう知ってんだよ」
「ふむ。さすがです。魔導組の情報網は伊達じゃないですな」
「茶化すなよ。んで戦るのか?」
「血の気の多い事で」
さっきから何の話してんだ?バリアル…?待てよ。天使に差し出す…?そうか…!こいつらは魔兵隊とかいう悪魔の軍隊の奴らか!俺を捕まえにやってきたんだ。
「我々はできることなら魔導組と事を構えたくないのです」
「はっ。よく言うぜ。なら魔兵隊が引け」
「残念だがそれはできません」
「なら、話すことはねぇな」
「よく考えて欲しい。その者が黒か白かはあの街の魔力残滓と照合すればわかることです。照合する他には天使の引率のもと現地に赴くしかない」
「その照合をする前に天兵団のやつらはこいつを殺すだろう」
「さぁ、それは分かりません。だがほぼ確実にその者が犯人。天兵団のやつらも逸る気持ちを抑えられないかもしれません」
「白々しい。話になんねぇよ」
チラッとハヤテに目線をやるルーギア。ハヤテはその目を見てコクっと頷く。
「ならば仕方ない。その者を素直を渡してくれれば貴方達たちに危害を加えるつもりはなかったがそうもいかないらしい」
ヴィオレが手を伸ばすと真っ黒な剣が現れる。
「俺に勝つつもりか?」
「えぇ。勿論です。いくら師と言えど手負いの相手を仕留められないほど弱くないですから」
師…?!こいつはルーギアの弟子なのか?
「はっ。まだまだだな。どんな相手だろうが侮るなかれと何度教えた」
「さぁ。覚えていません」
ヴィオレが構えた途端、ヴィオレの足元に何かが転がった。
「?」
「いったろ?侮るなって」
「しまっ…!」
ボンッ!
ヴィオレが何かを察するのと同時にヴィオレの足元に転がった発煙弾が爆発し辺りは煙に包まれた。
「行くぞ!」
おわっ!?
急に腕が引っ張られる。ハヤテか!
そうか。この発煙弾はハヤテが投げたのか。目眩しをして高速で逃げる。その作戦の合図をあのアイコンタクトで?すごい信頼感だな。
「まて!ルーギアっ!」
「じゃあな。未熟者」
「まて!待てェェェっ!」
ものすごいスピードで森の中を駆け抜けていく。ヴィオレの声はぐんぐんと遠のいていった。
「いいんすか、ルーギアさん。ヴィオレ、ブチ切れてましたよ」
「いいんだよ。お前はそんな事気にしてねぇでさっさと走れ」
「は、はーい」
そういうルーギアの表情はどこか暗くなっているように感じる。ヴィオレというあの美女とはただ師弟の関係ってだけでは無さそうだな。もしや、そのしがらみに俺が疑われている件が関係しているのだろうか。少なくともヴィオレは対立したくないとは言っていたが…。聞ける雰囲気でもないな。でもやはり俺の件が無関係だとは思えない。そもそもルーギアに限らず追われる身の俺を庇おうとするハヤテにも迷惑がかかってる。やっぱり一刻も早く、事件の真相を突き詰めなきゃならない。俺は改めてそう心に誓った。
先程の森の中。立ち尽くしているヴィオレ。
そこに兵士がやってくる
「ヴィオレ隊長。奴らの痕跡を見つけました。あちらの方角です」
「そうか。わかった。すぐに追う準備をしろ」
「はっ!」
ポケットから古びた折りたたみの手鏡を取り出すヴィオレ。
「久々に…会えたというのに」
手鏡を握る手は力が入りフルフルと小刻みに震えていた。ヴィオレの頬を煌めく何かが伝い地面へと落ちる。
「隊長。準備完了しました」
兵士の声を聞き、煌めきが伝った後の足跡を拭う。
「よし。行くぞ」
「はっ!」
森の奥へと兵士の集団が轟音を立てながら消えていった。戦いが終わり役者たちが去った森は、まるでレグルスの身にこれから起こる大きな事象の嵐の前の静けさを表しているかのように不気味に静かだった。
19話に続く。




