2.だーくひーろー
警察署に着いた俺は案内され父さんと思われる遺体を確認することになった。
警察官が布をめくるととても形容のしようがない状態の顔がそこにはあった。はっきりと父だと確信できる要素は見当たらないほどに変形している。
「いかがですか」
警官にそう聞かれたが判断のしようがない。
しかしある事に気づいてしまった。
「これ…」
そう。指だ。
遺体の左薬指に嵌められた指輪は家の仏壇に備えられた物と酷似している。そう…母の形見の……結婚指輪に。今日は…そうか。父さんと母さんの結婚記念日。
だからいつもは外している指輪をしていたのか…..
「う…う…うぁぁぁぁぁぁ!」
理解してしまった。
この遺体が…父さんだということを。
これまでの人生でこれ程の絶望を味わった日は無いだろう。母が死んだ時もかなり取り乱した記憶があるがその時は父さんが宥め抱きしめてくれた。
でも…もう。誰も俺を抱きしめても救ってもくれない。
父の死。
その出来事をただ心に深く深く刻むしか今の俺にできることはない。
「父さぁぁぁん!」
数日後。
警察から連絡があり容疑者が捕まったらしい。
戸塚 正治という無職の男だ。しかも無免許で飲酒運転で父を轢き怖くなってその場から逃げた。という可能性が高いらしい。
そうあくまで可能性。
というのも戸塚は容疑を否認しているそうだ。
証拠は上がっているため送検される事がほぼ確実。だから警察は連絡してきたのだろう。
テレビのニュースでも同じような事をアナウンサーが言っていたから間違いない。
俺は怒りに震えた。
なんの罪もない父さんを轢き殺し、逃げ、更には容疑否定。とんでもないゴミ野郎だ。許す事なんて絶対にできない。
しかし、正直俺に出来ることはない。
警察は証拠を揃え、刑務所にぶち込まれるのはほぼ確実。いっそ殺してやろかとも思ったが身柄が警察にある以上現実的ではないし俺にそんな度胸はない。
でもこのモヤモヤを溜め込んだままではいられない。
何せ父さんは…これだけじゃ報われない。
そんな苦痛を抱えたまま日数が経って行った。
一ヶ月後。
とんでもないニュースが俺の目に止まった。父さんを殺した容疑者の戸塚が裁判を前に拘置所内で自殺したというものだった。
思わず膝を着いてしまった。激しい虚無感と絶望に包まれ立ち上がることなんて出来なかった。
終わってしまった。父さんの命を易々と奪った男が反省どころか謝罪もせず死に逃げてしまった。
酷い…こんな事…絶対に許せない。
その時ふとある事が気になった。
戸塚が否認をしていたということだ。状況証拠は腐るほど出ていたはずだ。なのに完全に容疑を否定。往生際が悪いったってどう考えても無理がある。
もしかしたらこの事件の裏には何かあるんじゃないのか…?そう思った俺はパソコンの電源を入れあるサイトを開いた。
サイト名は【だーくひーろー】
ここでは悪人を晒しその悪人にいかに【おしおき】ができるかをユーザーみんなで案だしができる。
まぁ簡単に言えば闇掲示板サイトだ。
ここには廃人が多数いる。裏のルートの情報に詳しいやつがいるって噂もある程だ。もしかしたら何かを知っているやつが居るかもしれない。
【ユーザーネーム 木陰】
『情報求む。先月起きた無免許飲酒轢き逃げ事件の事だ。容疑者の名前は戸塚 正治。男性が一人犠牲になった。今日この男が拘置所で自殺した。しかし無罪を執拗に訴えていたらしい。証拠も揃っているのに変だと思わないか?誰か情報を持っていたら教えて欲しい』
これでいい。ここは俺みたいな社会のサイクルから外れたやつらの掃き溜め。すぐにリプがくるだろう。
ピコン____
なんて事を言ってたら本当に爆速リプが来た。さすが掃き溜めサイト。レスポンスがコールセンターより早い気がするぜ。どれどれ?
【ユーザーネーム 焼豚】
『は?w普通に耐えられなくて死んだだけだろ?w』
【ユーザーネーム 色眼鏡】
『いや、それな?笑もう犯人死亡でカタついたんだからいいじゃん笑』
【ユーザーネーム 田中(仮称)】
『勝手に妄想してんなよ〜中学生はこのサイト入んない方がいいぞw』
ふざけんな!他人事だからって言っていいことと悪いことがあるだろうが
【ユーザーネーム 木陰】
『は?ふざけんな。真実がもし違うならこのまま終わらせる訳には行かない。じゃなきゃ父さんが報われない!』
こいつらは…何も分かってない。
父さんは殺された。そしてそれを償うべきの人間が死んだかもしれない。でもそれが真実かどうかは分からない。それでいいなんてありえない。
【ユーザーネーム 焼豚】
『お?父さん?あれ?身バレじゃねこれwww』
【ユーザーネーム 色眼鏡】
『まじじゃん笑笑これってニュースでやってた事件よな?被害者の名前って確か渡辺 和貴じゃなかったけ』
【ユーザーネーム 焼豚】
『キタキタキタキタ!特定班に特定されるぞ!www』
ようやく理解した。こいつらはゴミだ。
誰が不幸になろうと関係ない。不幸になったやつを見れれば満足。そういった奴らの集まりだ。
こんなのに頼ろうとした自分がアホらしくなりブラウザを閉じようとしたその時
ピコン__
DMの通知が鳴った。
送り主のユーザーネームは……
【コスモスレッド】…?
どうせこいつらと一緒で誹謗中傷か煽りのどちらかだろう。そう思ったが何故かやけに気になりDMを開いた。
【ユーザーネーム コスモスレッド】
『初めましテ〜。投稿見たヨ。あの事件は僕も気になってたから調べてたんダ。色々詳しいけど知りたイ?』
なんだ?こいつ。色々詳しい?
はっ。ニュースでも散々やってるし調べればある程度の情報は誰でも見れる。どうせその辺の情報をまとめただけで知ったフリしてるだけだろ。
まぁ。でも万が一があるか。聞くだけ聞いてみよう
『あぁ。頼む』
『お。いいネェ。なんで知りたいノ?可哀想アピ?それとも復讐?』
復讐か。
この感情は復讐…なのだろうか。俺は父さんの仇を取りたいわけじゃない。限りの無い悪が許せない。それだけだ。そう、これは復讐ではない言わば正義の執行だ
『違う。正義を全うしたいだけだ』
『お、いいネwそーいうの好きヨwじゃあ教えてあげるよヒーロー。お前の父親をぶっ殺したのは…戸塚じゃなイ』
戸塚じゃない?やはり真実は違うのか…?
じゃあ一体誰が父さんを?
いや、こいつの悪ふざけの可能性もある。
信じるには何か核心をつく情報が必要。こいつを真っ向から信じる事は出来ない。
しかし、そんな疑いの目のまま液晶を見つめていた俺の目にとてつもない真実を突きつけたのはそのすぐあとのメッセージだった。
3話に続く




