14.約束の神子
「誰かー!生きてるやつはいるかー!」
「ここ…だ……助けて………くれ」
「っ!おい!大丈夫か!」
よし。いいぞ、順調だ。このまま病院に運び続けろ。せめて一人でも多く助けるんだ。
「レグルスー!」
ハヤテの声が遠くから聞こえる。
「どうした?」
「はぁはぁはぁ!みつけたぜ!怪しい影を!」
「怪しい影?」
「あぁ。俺たちが病院出てから爆発が何回かあったろ?その爆発の現場を見に行ってたらまた近くで爆発が起きたんだ。そこに走ってったら黒いフードを被った野郎が居て、俺の姿を見るなりフッと消えた。恐らくあいつがこの爆発の犯人だ」
「捕えられるのか?」
「おいおい、俺を誰だと思ってんだよ。疾風の悪魔ハヤテ・ダッシュだぜ?よゆーに決まってんだろ」
「よし、じゃあ頼んだぜ疾風さん。これ以上被害を出したくない」
「おう!んじゃひとっ走り行ってくるわ!」
そういうとハヤテは爆速で走り去っていった。
俺は戦えない。戦う訳にはいかない。ハヤテには申し訳ないが、戦闘は任せるしかない。俺はその分人を助ける。それが俺の仕事だ!
「誰かー!他に生きてるやついるかー!」
絶対に助ける…!
「うぉぉぉぉ!」
どこだ!どこにいる!あのフード野郎!みつけたらゼッテェとっ捕まえてやる!
ドカーン!!
近い!ガチで走れば絶対に間に合う!
「捕まえてやるぜ!」
俺は爆速で走り角を曲がった。そこにはさっき見かけたフードを被った奴がいた。
「…っ!」
フードはまた俺を見て逃げようとする素振りを見せる。
「させるかよ!はぁぁぁ!月兎飛蹴!」
驚異的瞬発力が生み出す運動エネルギーを乗せたハヤテのドロップキックがフードの人物を蹴り飛ばす
「っ!?!」
フードの人物はぶっ飛び転がった。
衝撃でフードが外れる
「ようやく面拝めるな。何もんだ。悪魔か天使か?」
フードが外れ現れたのは赤毛の少女だった。
「お、お、女ァ!?」
「い、痛い…貴方……何者…?」
「こっちのセリフだ!てめぇこそ何もんだ!なんでこんなことしやがる!」
「こんなこと…?」
「街爆発させまくってるだろうが!」
「街…爆発…?うち…関係ない」
「嘘言うんじゃねぇ!女だからって容赦しねぇ!もういっぺんぶっ飛ばしてやる!」
ハヤテはしゃがみ天賦の力を足に込める。
「うぉぉぉぉ!月兎飛蹴!」
またしても超速のドロップキックを放つ。
ガキンッ!
しかし、今度は少女を吹っ飛ばすどころかすんでのところで止まってしまう。
「あぁん?」
ハヤテの超速キックを止めたのは大きな銀の盾を持ったオッドアイの男だった。
「野蛮だな。君は」
「誰だテメェ!」
ハヤテが吠えた途端男は盾でハヤテを弾いた。
「ちっ!」
「誰だ…と聞いたね。いいだろう。名乗っておくとしようか。私は、デルメル。以後お見知り置きを。疾風の悪魔、ハヤテ殿」
「にゃろ…なんで俺の名前を知ってやがる…」
「なんで…か。それは簡単だよ。世界がそうさせるからだ」
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!」
「あ…あぁ…や…嫌…」
「あ…?」
少女の様子がおかしい。デルメルと名乗った男を見て腰を抜かし酷く怯えているように見える。
「テメェ。その女の仲間じゃねぇのか」
「仲間?ふっ。それとは妙に違う関係性かな。私はこの子を守る盾であり危険を排除する剣と言ったところだ。言うなれば騎士だね」
「騎士だァ?ふん、そんないいご身分なのか?そいつは」
「当たり前だ。この子は”約束の神子”だからね」
「約束の神子…?んだそりゃ」
「知らなくても結構だ。恐らく理解できないし…何より長くなってしまう」
「嫌…嫌ぁ…!」
「騎士を名乗ってる割には、そいつはお前に随分と怯えてるみてぇだが?」
「守るといってもあらゆる方法がある。この子はまだ割り切れてないのだ。自分の運命を。私の愛を。そう。それ故に恐怖という誤った感情に犯され壊されてしまっているのだよ。可哀想だろう」
「…てめぇ…」
ハヤテの怒りは限界だった。彼女の目が怯えきり震えて涙すらも許さない程に曇っているから。そんな彼女を一度…いや、二度も傷つけようとした自分の浅はかさが悔しかったから。
「レグルスなら…レグルスならこう言うはずだ。その子を…自由にしてやれ…ってな」
「レグルス…?まさか、英雄の悪魔か」
「あぁそうだ。あいつなら絶対にお前を許さねぇ。だから俺もお前を許さねぇ!そいつを縛るんじゃねぇ!」
「もしやこの街にいるというのはレグルス…レグルス・ドラコ・ヴァンテールのことだったのか…!そうか!そうか!これは吉兆だ!素晴らしい!なんと素晴らしい!」
「爆発を起こしてこの街を襲ってる理由はなんだ!」
「襲っている?嫌だな。解放しているんだ。辛く苦しい魂たちを本来いるべき元の世界に返してる」
「元の世界…?」
「神々のいる世界さ」
「!」
「我々は神々によって作り出された。そう、神の所有物なのだ。そう。つまりだよ。我々にとって一番の幸せは神の御本の側に魂を置くこと。あぁ…私はなんて優しいのだ…慈悲深いのだ。私も早く神の元にこの魂を置きたいが他の者共を置いてそんな事は出来まい。私は導く者であり示す者の一人なのだから」
そう言いながらデルメルは涙を流した。
「狂ってやがるな…」
「ふっふっふっふっ。真理を知っている。と、言って欲しいものだね」
「てめぇは天使じゃねぇな。でもこの感じ魔力が流れてるわけでもねぇ…てめぇはなんなんだ」
「私の種族かい?そんな事が気になるのか」
「いいから答えろ。てめぇは何もんだ」
「ふむ。いいだろう。私は慈悲深いからな。教えてやる。私たちは…”堕天使”だ」
「堕天使…!?」
「そう…!堕天っ使っ!It’s so cool!」
「そんな…存在すんのか…!堕天使が…?」
「さて、君はレグルス君と親しいのかな?」
「レグルス…?あぁ。俺たちは親友だ。何があってもな」
「そうか、そうか。素晴らしい友情が君たちの間にはあるようだね。とても…とても…」
デメテルは急にハヤテとの距離を詰める。
ほぼゼロ距離に顔を近づけ吐息混じりに囁く
「丁度いい…」
「なっ!」
ドカッ!
反応する間もなく殴られぶっ飛ばされるハヤテ。
「君が死にかければ…必ず怒ってくれるだろう。彼のためなんだ。辛いとは思うが。ご協力お願いしよう」
「ざけんな…」
立ち上がるハヤテ。
「ほお?私の銀獅子の盾で殴られ立てるのか。素晴らしい根性だ。尊敬に値する。賞賛に値する。祝福の言葉をかけよう。君は素晴らしい!」
「ごちゃごちゃうるせぇーなぁ!いちいちてめぇはよ!」
グッと拳を強く握るハヤテ。頭から垂れる血を拭き取ると深く息を吸って吐き前をキリッと向く。
「おい、女ァ!」
「…な、なに…?」
「こいつ…嫌いか?」
「え…?」
「嫌いかって聞いてんだ!」
「っ…。…い」
「あぁ?」
「…らい…」
「聞こえねぇよ!はっきり言え!」
「っ!…大っ嫌い!」
「はっ!いいねぇ!腹から声出せんじゃねぇか!俺もだ…!こいつが大っ嫌いだ!だから任せろ!こいつは俺がぶっ飛ばす!」
「んー…酷いなぁ。私だって心があるのだよ?そんなに振られては悲しくて悲しくてたまらんね」
「はっ!意外だな!悲しめるとは思わなかったぜ…!」
地面を蹴り走り出すハヤテ。超高速のヒットアンドアウェイを繰り返す。何度も何度も銀獅子の盾に防がれても走っては殴ってを繰り返す。
「うぉぉぉぉ!」
「素晴らしい…!素晴らしい速さだ!なんと…なんと…」
ハヤテの動いた後が緑色の光の道のように、まるでオーロラのように輝く。
「美しい…」
この攻撃で沈める…!ムカつくこいつをぶっ飛ばしてやる!
「はぁぁぁぁぁっ!月兎乱襲!」
ハヤテの執念深い攻撃はそれまでピクリとも動かなかった銀獅子の盾を少しばかり弾いた。
「あぁっ…!素晴らしいっ…!この盾を弾くとはっ!」
「ここだぁぁぁぁっ!」
ハヤテは雄叫びと共に渾身の一撃を繰り出した───
病院のエントランスでは死にかけの悪魔や天使がゴロゴロと転がっている。病院関係者はあっちへこっちへと走り回り混乱状態に近い。ネオは必死に何人もの患者を治療して回っているが明らかに人手が足りていない。まさに絶望の状況だった。
「マーティバルさん!こっちお願いします!」
「分かりました!」
「ネオちゃん!そっち終わったらこっちの患者さんも!だいぶギリギリなの!」
「了解です!なるべく処置をしてあげてください!」
「ネオッ!新しい患者つれてきた!どこに寝かす?」
「ありがとうレグルス!じゃあそこに!」
「おっけー!」
ネオ。かなり疲れてるな。元気に振舞ってはいるが明らかに限界を超えた顔だ。これ以上ネオの力に頼ればネオが倒れかねない…。でもネオの力がなきゃ彼女がいなければ多くの死者が出る。今は耐えてくれ。すまない。
「それじゃあ他の奴らがいないかまた見てくる。無理するなよ」
「うん、わかった。無理はしない。レグルスも気をつけてね」
「おう」
もう無理してるくせに。
ハヤテ…頼む。一刻も早くその原因のフード野郎とやらをぶっ倒してくれ。
それにしても、これは一体どういうことなのだろうか。突如の爆発に街全体に広がるような火事。
十中八九人為的な物だと判断したが目的はなんなんだろうか。ここは統一区と呼ばれているうちの一つの悪魔も天使も滞在できる街だ。一応悪魔の患者が多いとネオが言っていたことも加味すると悪魔の人口の方がやや多いのだろう。
だからといって天使が悪魔を襲撃するのにここを選ぶ理由にはならない。現状天使の人達にも被害が出ているしな。
それに停戦状態になっている悪魔と天使の今の関係性はどちらかがやらかせばどちらかがいちゃもんをつけ正統に攻撃ができてしまう。つまり…どちらの種族にとってもこれは無意味どころか自身の首をも締めかねない襲撃。という事になる。それじゃあ悪魔でも…天使でもない別の何かって事なのか?
ドチャッ…!
ん?ドチャ?
何か落ちた音が背後からした。嫌な予感がする。まるで血の滴る生肉をまな板に叩きつけたような音だったからだ。恐る恐る振り返ってみる。そこには、血まみれで倒れているハヤテの姿があった。
「っ!ハヤテ!」
「これは…これは…これは…!」
「誰だ!」
ハヤテの後ろには盾を持ち、気絶した赤毛の少女を小脇に抱えるデルメルの姿があった。
「お初にお目にかかります。英雄の悪魔、レグルス・ドラコ・ヴァンテール様。私はデルメル。以後お見知り置きを」
「なんで…俺の名前を…!」
「世界が教えてくれたのです。貴方の御名前と果たすべき”使命”を」
「お前がハヤテを…?」
「あー…その件は大変御無礼を。貴方を怒らせるにはこれが一番手っ取り早いと思いましたので。ご安心ください!今は息がありますがあとでしっかりと神の元へと送り届けて差し上げます故」
「俺を…怒らせる…どういうことだ」
「あなたの力が見たいのです!貴方が相応しいのかどうか知りたいのです!」
「相応しい…だと?何にだ」
「それはぁ…お伝えできかねますね。まだ見極められてないので」
なんなんだこいつ…。こいつが…爆発を起こしてた張本人なのか…?
「こい………つ…は…」
「なっ!ハヤテ!!」
「堕天使……だ…」
「なにっ?!」
だ、堕天使…?!待て待て待て!堕天使って言ったら元は天使の悪魔のことだろうが…!
つまり…悪魔側って事なのか?
「堕天使……は…天使でも……悪魔で…もない…
。ただ…ひとつの…存在に…忠誠を誓い…それの為に行動する…やつらだ…」
「忠誠を…誓い…?誰にだ」
「それは…全奪の女がm…」
ドカッ!
「ぐはぁっ!」
ハヤテの腹を思い切り蹴りつけるデルメル。
ぶっ飛ぶハヤテが地面にぶつかりそうな所をギリギリ受け止めるレグルス
「ハヤテっ!てめぇ!なにしやがる!」
「いやはや。失敬。思わず体が勝手に。ですが悪いのはこの人ですよ?我らが”シャーゼン様”を愚弄するような呼び名で呼ぶものですから」
一体なんなんだこいつは…。
堕天使ってなんなんだ。どうなってる。俺はどうしたら…!いや、落ち着け。こいつが爆発を起こした張本人ならこいつの目的を聞き出して阻止するのが先決だ。
「ハヤテ…大丈夫か?」
「あ……あぁ……すま…ない…」
「いい。少し休め」
静かにその場に寝かせる。
「目的はなんだ。なんで爆破を繰り返し、統一区を壊滅させようとする」
「ふっふっふっふっ。随分とストレートに聞くんですね。まぁいいでしょう。ならば私もストレートに回答させてもらいます。探し物。ですよ」
「探し物?」
「そう。この世界に十二柱生まれると言われている純潔の魂を持つ存在。”約束の神子”。それの捜索に来ました」
約束の神子…?なんだそのいかにもみてぇな名前の存在は。人…だよな。
「その約束の神子とはなんだ」
「我々にとってとても大事な存在です。そしてそれぞれの神子を守るのが私たち、堕天使の使命。お分かり頂けました?」
つまり、その約束の神子とやらを探す為にこの街を破壊していると…?一体なんのために…?
探すだけなら襲撃なんて無意味だろうに。
「それで?そのお前が脇に抱えてる少女が神子ってわけか」
「ええ。もちろん。この子も神子です。ですがこの子は私の担当の神子でして。探しに来たわけではないんです。ここにいるのはちょっとしたピクニックのようなものです」
「それじゃあ…別の誰か…いや、別の神子がいるってのか…!」
「ええ…。私はその神子を連れて帰るのが目的なのです。そしてその神子が誰を指すのかは判明しました。それは」
神子…神子って確か神の使い。的な意味合いだったな。純潔な神の使い…神の使い…
まさか…ネオ…?確かに…あの子は神子と呼ばれるのに相応しいと思う。慈悲深く優しい、絵に書いたような天使だ。間違いない…こいつの言う神子は…ネオだ…!
「貴方です。レグルス・ドラコ・ヴァンテール様。五柱目の約束の神子よ」
……は?
15話に続く。




