13.はじめの一歩
街の状況はかなり酷いものだった。ここに住んでいるものなのかそうでは無いのか分からないが何人もの悪魔と思われる人達が血塗れで倒れていた。色々な建物から出ている火は収まる様子はなく街全体を燃やし尽くさんとする勢いだ。病院を目指し走っている最中だがもう既に四回以上も爆発音を聞いている。何があった…何が起きてる…。この街に…!
「レグルス!そろそろだ!」
ハヤテの声で前を向くとそこには数刻前と同じ病院の姿があった。良かった。火は付いていないようだ。
「行くぞハヤテ!」
「おうよ!」
病院の中に飛び込むとそこは地獄のようだった。包帯を巻かれた患者が廊下にもゴロゴロと転がっている。
「なんだよ…これ」
思わず声が出た。
「ひでぇ…誰がこんなこと…!」
「ハヤテ。手分けしてネオを探そう…!頼む」
「わかった」
頼む死んでないでくれよ…。頼む頼む頼む!
「ぐぁぁっ!」
叫び声…?!
なんだ!なにかあったのか?!俺は叫び声がした方向に走り出した。どうやら病室の中かららしい。元と思われる病室を除くと悶絶する悪魔と思われる患者に治療をしているネオの姿があった。
「ぐぁっ!痛ェ!痛てぇよ!」
「大丈夫!大丈夫だから!」
良かった…。ネオは無事だ…!
ネオが治療を続けていると患者は徐々に落ち着きを取り戻したようで叫んだりしなくなった。
「これで一旦よし…まだ痛いところはあr」
「うる…せぇ!クソ天使…!天使に施されて生きる…くらいな…ら…!死んだ…方が…マシ…だ!」
「っ…!」
「俺を見下してるんだ…ろ!慈悲も…哀れみも…!要らねぇ…!お前に助けられるくら…いから死んでた…かった…!」
「てめぇ!いい加減にしやがれ!」
思わず、男の胸ぐらを掴んだ。
「なんだ…!てめぇ…!」
「れ、レグルスっ…?!」
「死んだ方がマシだと?バカ言うんじゃねぇよ!死ぬってのはな!寒くて、苦しくて、辛くて、悲しい…。最悪だ!それだけじゃねぇ!死ぬ側だけじゃなくそれを看取る側にも大きな苦しみを与える…!それが死だ!助かることよりも死を望むのは死者に対する冒涜だ。お前にそんな事する権利は無い!この子を愚弄する権利もな!」
「…ちっ!悪魔のくせに…天使の肩を持つのか…」
「悪魔だ天使だなんて関係あるかよ。俺は正しき人の味方だ」
「レグルス…」
「ネオ…。ごめん。じゃあな」
「待って!」
「っ!」
「ありがとう…。あの人の為に怒ってくれて。私にそんな勇気なかったから」
この子はどこまでも…。
「あいつのためか…。俺はネオの為にも怒ったんだぜ」
「レグルス…」
「ごめん。ネオ…。さっきの事、恨んでるよな。認めるよ。あれは俺がやったことだ。俺は弱い。何かを守るために盾を構えることも何かを貫き通すために剣を抜くことも出来ない臆病者だ。だから…力に縋り…飲まれて命を奪ってしまった。以前俺は人を追い詰め死に追いやってしまったって話したよな」
「うん…」
「それも俺の弱さがした事だ。そう…全て俺の責任だった。なのに逃れて許しを求めて……俺に正義なんてないんだ。こんなんでヒーローになるとか抜かしてさ。呆れるよな」
「ひーろー…?」
「あ、あぁ。わかんないよな。んー。そうだな。分かりやすく言うなら…勇者…いや、英雄かな」
「英雄…」
「そう、誰かの為に戦える誰かを思い誰かの為に全力になれる。それが俺の憧れる英雄だ」
幼い頃から見てきたおとぎ話のヒーローは自分の事なんて考えてなかった。誰か困っている人がいれば手を差し伸べ守る。悪を倒す事だけがヒーローじゃない。俺は悪を倒すことしか考えてなかった。英雄たるもの武功をあげ喝采を浴びねばならん。なんて戦国時代の武将みてぇな考え方だよな。ほんとアホくさいぜ。そう。気付いてた。俺はヒーローになんて…
「なれるわ」
「えっ?」
「だって私を助けに来てくれたじゃない」
助けに…?俺が…?
「自分がしてしまったことを悔いていたんでしょ?私に酷いことを言われて辛かったんでしょ…?でも、あなたは私を嫌いになるどころか私の身を案じて助けに来てくれた。それは立派な英雄さんなんじゃないのかな」
「ネオ…」
確かに俺の心は負けていた。
到底立ち直れるものではないと思っていた。それほどに打ちのめされた。なのに今二本の足で立ち、彼女に直接謝っている。彼女の…ネオの顔を見つめていられる。無事でいてくれてほっとしている。そうか………立ち向かう。これが、立ち向かうということなのか…。
「あんな事になったのもなにか事情があったのよね」
「あぁ…」
俺は転生したことは伏せて一切の事情を話した。
「天賦の暴走…。そんな事が…。それに記憶もないなんて」
「そうだ…でも言い訳にしかならない。俺がしたことに変わりはな…」
言いかけた途端。ネオに抱きしめられた。
「辛かったね…!ひとりぼっちにされて…!なのに頑張ったんだね…!偉い…偉いよレグルス!」
ひとりぼっち…か。
いや、違う。一人ぼっちじゃなかった。俺にはリューが居た。リューがいなければもっと酷いことになっていたし何より…。
ネオとの友好はなかった。
リューには…悪いことをしたのかもしれない。
「ごめん…ごめんね…私あんな酷いこと言って…ごめんなさい…うわぁぁぁん!」
大号泣だな、ネオ。こういうの泣くのはだいたい主人公が相場だろうが。
「いいんだ。ネオの気持ちも間違ってないから。でも約束する。もう二度と誰も殺さない。代わりに多くの人の命を助ける。それが俺の理想の英雄像だ」
そう。そう生きよう。死んで逃げるのも誰かを殺して責任を押し付けるのも英雄のすることじゃない。俺は英雄…英雄の悪魔、レグルス・ドラコ・ヴァンテール。いつかこの世界で全ての天使と悪魔にそう称えられるような生き様にしよう。せっかく転生したんだ。成功パターンくらいあっていい。
「きっとなれるわ。レグルス。貴方は立派な英雄になる。私はそう信じてる」
「ありがとう…ネオ」
もう後戻りはできない。
ネオを二回も裏切るなんて俺には出来ない。俺はこの約束を死んでも…いや、生きて守る!
必ず!必ずだ!
突如窓の外で大きな爆発が起こる。少し離れているが窓がガタガタと揺れるほどの衝撃が来る。
「ネオ。俺行くよ」
「えっ?」
「何が起きてるか分からない。でもここに来る途中何人も倒れている人を見かけた。俺は戦えないけど戦えるやつを連れてきてる。だから俺は人命救助優先に動いてそいつに厄介事を頼む。だからここに連れてくる患者、頼んでいいか」
「うん…!わかった。頼んだぞ、英雄!」
「おう!」
小さい頃から人見知りでなかなか輪に馴染めなかった。体も弱く運動もできない。そのくせ、イヤイヤ期だけは一丁前にあって。それが物心着くまで続いてた。母さんはそんな俺でも…愛してくれた。父さんも守ってくれてた。それなのに俺が二人にできたことは…何も無かった。
二人が死んでいざ一人になった時、道を踏み外した。俺は一人じゃ生きてけない。だから…リューに、ハヤテに、ネオに。助けられて今ここに立っている。でも立っているだけじゃダメなんだよ。
「ハヤテぇ!!!」
病院中に聞こえるように大声でハヤテを呼んだ。遠くからドドドドド!と轟音を鳴らしながらハヤテがすっ飛んで来る。
「どうした!レグルス!なんかあったか!」
「あぁ。あった」
「なっ!何があった!大丈夫か?!」
「立ち直ったぜ。色々と」
「へ?」
「俺は英雄の悪魔。だろ?」
「あぁ。そうだ、そう名乗ってた。誰も殺さない。それがお前の信条だ。たとえ相手がお前を殺そうとしてもだぞ?どんだけお人好しの悪魔なんだっつーの」
なんだよ…
「でも、そんなレグルスが俺は大好きだ!だからついて行く!たとえ記憶がなくなっても!」
レグルスっていう存在の事、うだうだ考えたってのによ…
「俺はお前の親友だぜ!」
やっぱり俺は俺じゃねぇか…。簡単なことだったんだな。リュー。
「ありがとう。親友。記憶はねぇが。これからどんどん新しい記憶作ってこうぜ」
「おうよ!」
やっぱり俺はひとりじゃない。俺はいつも。いつも誰かに支えられているんだ。
「ハヤテ。やることが出来た」
「やること?」
俺はハヤテにさっきネオに話したことを話した。
「はっはっはっはっはっ!人助けか!天兵団の仕事をわざわざやりたがる悪魔ね!はっはっはっ!レグルスらしい!いいぜ!やってやる!」
そんなに笑わなくてもいいだろうが!
でも…なんかいいな。
「っし!行こう!ハヤテ!バンバン人を助けたろーぜ!」
「よっしゃ!任せな!」
俺たちは病院の外へと出た。
一歩一歩を噛み締めるように前を向いて歩き出した。今この街に何が起きているのか。どういう状況なのか。俺は全く知らない。それでも俺は俺のすべきことを全うする!今できることを!全力でだ!それが俺の!英雄、レグルスの…
はじめの一歩だ!
14話に続く。




