11.最低
俺に何が起こってる…。
このほとばしるような力は…光はなんだ?
いや、光というよりこれは正にオーラだ。漫画やアニメでよくあるオーラ。それが俺を包んでいる。この真っ赤なオーラは何か不思議な温かさがあり力が…湧いてくる。やつは…ルルクスと名乗った男は確実に俺達を殺すつもりであのレーザーを打ってきた。でも俺たちは生きてる。このオーラのおかげなのだろうか。
「レグルス…!記憶が戻ったのか」
記憶が戻った…。
そう勘違いするという事はこれは俺の本来の力だということか
「いや。違う。記憶は戻ってない。立ち向かわなきゃって思ったら…この力が俺を助けてくれたんだ」
「そうか…。でも安心したぜ!天賦は失ってなかったんだってな。あ、全て忘れてるんだっけか。天賦って言われてもわかんねぇよな」
天賦か…。そういえばちょこちょこワードを聞いていたがナチュラルにスルーしていたな。この世界では魔法をそう呼称しているのか?
「貴様っ…!貴様!貴様!良くも!私の高貴なる慈悲の一撃を!」
やべ…!こいつ忘れるとこだった!
「許せん!許せん!許せん!全力を持って滅してやる!」
ルルクスは俺に剣を向けた。その剣先から激しい光が溢れ出す。それに共鳴するかのように空に輝く星々の幾つもの光がこれまた激しく光っている。
「〖星河射天〗よ!我が望みを聞き入れ我が命に従え!溢れる泉が如き我が神力をその糧とし全霊を賭け目前の脅威を打ち払わん!天賦・解放!」
ルルクスが詠唱らしきものを終えると突如全ての光が輝きを増した。とてつもない威圧感だ。その威圧感と同じレベルの風圧で体が今にも飛びそうになっている。星の光は剣先の光へと徐々に集まっていきとても大きな光になる。
「まずいぞレグルス!あれを食らったらさすがのお前でも…!」
それは俺でもわかる。あれが放たれたら俺は…いや、俺たちは死ぬ。
このオーラでも受け止められない。どうする。一体どうすればいい。
『オーラをイメージするのです』
リュー!
オーラをイメージ?どういう事だ。この力の使い方知ってるのか
『はい。わかるです。全身に今立ち上っているオーラを操るイメージをするんです!』
オーラを操るイメージか。なるほど。
俺は目を瞑り俺の体を包み込む赤いオーラを想像した。次第に体を包む温かな気配が揺れ動いているのをしっかりと感じられるようになった。
これが…オーラなのか。
『そのまま!両手にオーラで球体を作るようにイメージするんです!』
オーラで球体を…?それで何になるって……いや。ここはリューを信じろ。
球体を作るんだ。イメージしろ。全力で!
両手に全身にあるオーラを束ねるような感覚。徐々に、ゆっくりとオーラを集める。それは次第に丸みを帯びバスケットボール位のサイズになる。出来た!両手に一個ずつ球を作れたぞ!
「ふっ。何をするつもりか知らぬが無意味なことだ。我が全力の一撃から逃げれると思うなよ!」
そういったルルクスの剣は先程よりも輝きを増していた。もう時間はないのだろう。攻撃が…来る!
「天撃奥義!フェルデルベンリヒト!」
「レグルス!まずいぞ!どうするつもりだ!」
緑頭。いやハヤテの声が聞こえた途端、ルルクスの剣先に込められた光は一気に束となりレーザーとして打ち出される。超速で放たれたレーザーは通ったその道を全て破壊し尽くす勢いで迫ってくる。
『今です!両手の球を合わせて!』
「わかった!」
両手の球を言われた通りに合わせた。球はより大きな一つの球となり激しくオーラが揺らめいている。
「うぉぉぉぉっ!!!」
雄叫びを上げながらそのオーラの球をレーザーに向けて投げつけた。
レーザーと球がぶつかると強い衝撃波が発生し吹っ飛ばされそうになる。
「くっ!!馬鹿なっ!相殺しただと!?私の全力を!?」
「レグルス!あとは任せろ!」
ハヤテはそう言うと衝撃波に逆らいながら走り出した。
徐々に加速し目で追うのがやっとのレベルの速度で走っていく。
ルルクスの目の前まで一瞬で詰め寄ったハヤテは綺麗な回し蹴りを喰らわせた。
「月兎廻蹴!」
「ぐぁっ!」
「どんなもんだ!」
ルルクスは吹っ飛び転がり血を吐いた。
「ガハッ…!おのれ…!クソ…悪魔め…!私の……天撃奥義を…!あんな物で!」
「てめぇの負けだぜ。星の天使。レグルスを舐めてかかっただいしょーだな。よし。レグルスとっとと逃げるぞ」
レグルスの肩に手を置くハヤテ。その瞬間ハヤテの表情は安堵から…困惑に変わる。
自分が今話しかけているのはレグルス、親友だと思っている相手だ。そんな不変の自身の認識を疑い否定したくなるような感情がハヤテを襲ったのである。それは_________
「レグルス…?」
恐怖だった。
先程の比にならないオーラがレグルスの体から溢れ出す。空へと立ち上るそのオーラは明確に今地に伏した敵に向けるには大きく強すぎるものなのは言うまでもない。ハヤテは本能で後ろに飛び退いた。
「なんだ…?英雄の悪魔…。私を…殺す気か…?」
睨むルルクスの目にはゆっくりと近づいてくるレグルスの姿が映っている。
「記憶がないなんて…嘘っぱちだったわけか…。どうやってかは知らんがバンテインの天賦を誤魔化した…。そうだろう?じゃなきゃその力を操れる訳がないんだ!なぁ!そうだろ!」
ルルクスの言葉など意に介さず、レグルスはその歩みを進める。
「な、なんとか言ったらどうだ!図星か!?この…!薄汚い悪魔め!」
ピタッと歩みを止めるレグルス。
「っ…!?貴様…っ!」
それを見て驚愕するルルクス。視線はレグルスの顔に向けていた。
視界に映ったレグルスの表情。数多の戦いを乗り越え死線を超えてきたはずのルルクスはそのいずれにも該当しないレグルスの様子を見て戦慄した。
レグルスはニヤリと笑っていた。
さっきまでの深紅の目は赤紫がかった色に変わり様子がおかしく見える。
「くっ…ふっふっふっふっふっ!はっはっはっは!」
レグルスは大きく笑いながらルルクスを蹴り上げた。
「ごふっ!」
血を吐きながら空中に打ち上げられるルルクス。
「なっ!何してんだよ!レグルス!」
レグルスはしゃがむとキッと上を向きまたニヤリと笑う。
まるで…獲物を補足したかのように。
次の瞬間地面を蹴り一瞬でルルクスよりもはるか上空に舞い上がる。
「ばか…なっ…!私が…!私が…!」
「ひっ…ひっひっひっ…ヒャハハハハ!」
ドゴッ_____!
今度は逆にルルクスを地面へと殴りつけた。
急降下していくルルクス。
「クソがぁっっ!」
羽を羽ばたかせどうにか飛ぼうとする。しかしまたも一瞬で距離を詰めたレグルスに馬乗りされる。
ガンッ!ボコッ!
拳が顔面に強く打ち付けられる音が上空から下りながら鳴り響いく。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も。
そしてそのまま地面に強く衝突する。
「レグルスっ!」
激しい土煙に思わず目を覆うハヤテ。次第に晴れていく土煙が隠していたのは血塗れで倒れている死にかけのルルクスとこれまた血塗れの拳を握りしめ笑っているレグルスだった。
「お前は…お前は…誰だ…」
そのおぞましい光景に思わず尻もちを着く。
「ころ……し…て…や………る…!」
虫の息のルルクスは震える手で足を掴む。そんな事を気にせず拳を振り上げるレグルス。
とてつもない量のオーラがその振り上げられた拳に集まっていく。ぐんぐん、ぐんぐんとオーラは収束し先程の球なんぞ比にならない程に凝縮されている。
「ダメだ…やめろ…」
震える手を伸ばす。だが声は届かない。
レグルスが振り上げた拳が今にも振り下ろされそうな状況でハヤテは完全に恐怖に負けていた。
「やめろレグルス…ダメだ…殺しちゃ…ダメだ」
やがてオーラが全て収束し終えた。不気味な静寂が辺りを包み込んだ。
突如オーラが再度爆発のように発生し拳から溢れ出る。
「ひっひっひっひっ!ヒャハハハハ!」
「殺して…や…る!殺し……て…やる…!悪…魔…め!」
「ダメだ、レグルス!やめろぉぉぉぉ!」
誰かの声が聞こえる。
俺の頭の中で誰かの声が響く。殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ…殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。
殺せ_______。
わかった。殺すよ。こいつは俺を殺そうとした。死んで当然だ。
生きる価値も…生かす理由も無い。理由もなく人を襲うこいつは紛れもない悪だ。対して俺は悪を裁くヒーローだ。
そう裁きだ。これは紛れもない裁きなんだ。だから…俺はこいつを。
殺す。
グシャッ!!
思い切り振り下ろされた拳はルルクスの頭蓋を粉砕した。
ルルクスの頭があった場所にめり込んだ拳はオーラを放つのをやめているのにも関わらず真っ赤に染まっている。
いや、拳のみならず顔や服、死骸の横たわる道のあちこちの全てに返り血が飛び散り凄惨な状態になっている。
『レグルス…?君は何をしてるんです…?』
何をって。俺は…………………。
待て…俺は何をしてる…?たしかレーザーにオーラの球をぶつけて止めて…それで…。
「っ!」
俺の拳についているこれは…血…なのか?誰の血だ…?痛みは感じない。俺の血ではない。
ふとを目線をそらすとそこには潰れかけたルルクスの眼球が転がっていた。
「っ!うっ、うぉぇぇぇ…っ!」
気持ち悪い…気持ち悪い気持ち悪い…なんだ…何が起きた…。
誰が…誰がこんなことを…!ハヤテ…?
「レグ…ルス…」
俺を見るハヤテは完全に恐怖している。小刻みに震えた手を俺に伸ばしたまま固まっている。
まさか…俺…なのか。こいつを殺したのは…俺なのか…?
嘘だ。俺が殺すわけない。あれだけ人を殺すという事の愚行さを罪深さを知っているのに死ぬほど後悔してそれを晴らすために転生までしたのに。そんな俺が…人を殺した…?
「はあっ…!はぁっ!はぁはぁはぁはぁはぁっ!」
『自分を責めてはいけないです!ゆっくり…息をしてください!』
俺が殺した…こいつを俺が…。嘘だ、そんなの…でも俺の拳がこいつの頭を…。
嘘だ…何かの間違いだよな…そうだこれは悪い夢だ…そうだよ。醒めろよ、早く。早くしろよ!早く醒めろ!醒めろ!醒めろおぉぉ!
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「レグルス…」
「何事ですか!」
聞き覚えのある…透明感のある声だ。
病院の入口から飛び出してきたその姿は紛れもなく…天使。
「ネオ…」
「きゃあっ!?街道が!!なんでこんな事に!…ってレグルス…?」
助けてくれ…ネオ。俺を救ってくれ…。頼む天使様なんだろ。頼むよ
「そんなところで何して………っ!ルルクス団長…?嘘…そんなっ…。レグルス…?あなたがやったの…?」
「ち、違う…俺じゃない…!」
「嘘つかないで!!」
「っ…!」
君も…そんな顔するのか…。
強い驚きと畏怖の表情。ハヤテもネオも化け物を見るような目で見つめないでくれ…。
違うんだ。こんなこと…したくないんだ。俺は…ヒーローに…
「ネオ…俺はっ…」
「結局…貴方もそうなのね」
っ!
「なんで…いたずらに人の命を奪えるの…。なんで分かり合えないの!」
ネオ…違うんだ!そんなつもりじゃ!
「あなたは違うと思ったのに!私に優しく接してくれる…!いい悪魔だと思ったのに!貴方なら手を取り合い共存する事ができると思ったのに!なんで裏切るのよ!私の…希望を返してよ!!」
やめろ…やめてくれ…違う…違うんだよ
「酷い!酷いわよ!ねぇ!レグルス!なんでよ!」
「違うんだっ…!俺は……っ!」
俺を見るネオの目に強い既視感を覚えた。
目の前にいる存在を許せないという強い意志が伝わってくる憎しみに近い視線だ。
そう…あの時の彼女と一緒だ。俺を殺しに来た向井玲奈と同じ目だった。
言葉が出なかった。拳に残る人を殺した感触がより強くなっていく。
そんな気がした。
ネオはゆっくりと歩いて俺の目の前まで来てしゃがみルルクスの遺体に手を当てた。
「どうか…どうか安らかに…。穢れなきその魂に神の導きがあらんことを。どうか向こうで永劫の安寧が訪れますように…」
「ネオ…」
「消えて」
「え…?」
「私の前から…消えて」
「……わかった」
『このまま去るんですか』
そうするしかないだろ。
『後悔…しますですよ』
後悔…?そんなものもうしてるさ
『レグルス…』
俺はルルクスの遺体の近くで座り込むネオの横を歩き通り過ぎた。
「…最低」
ボソッとつぶやくように漏れ出たネオの一言がまるで池に投げ込まれた石のように酷く深く心に沈んだ。
彼女言う通りだ。俺は最低だ。
この状況を受け入れてしまったが故なのか俺のどうしようもない性なのか。
俺は今から逃げる為にただ街の外を目指して歩き始めた。
12話に続く




