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結婚相手は運命の人じゃありませんでした ~古代マヤ風ラブコメ異類婚姻譚~  作者: 三羽高明


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20/22

嵐の日の攻防戦(1/2)

 それから瞬く間に時は過ぎ、ついに決戦の時がやって来た。


 昨日の深夜からポツポツと降り出した雨は時間と共に激しくなり、夜が明ける頃には暴風を伴ったどしゃ降りになっている。


 悪天候の中、私はドラドや神殿関係者と共に祭壇ピラミッドへ移動した。もう朝のはずだが、太陽が隠れているので辺りは薄暗い。


 目的地に到着すると、私とドラドは一息つく暇もなく、魔術具に霊力を注ぎ込み始めた。


 祭壇広場では、巫女たちが優美な舞いや音楽を演奏している。それに加えて、球技場では球技の試合も行われていた。


「リュイサ、本当に大丈夫なのだろうな?」

「はい。任せてください」


 不安そうな顔で尋ねてくる神官長様に、私は力強く頷いてみせる。


 舞踏、音楽、球技。これらはすべて神に捧げるためのものだ。供物によって、少しでも荒ぶる心を静めてもらおうという目論見である。


 けれど、いざという時が来たら、頼れるのは私とドラドが張った結界だけだろう。この夕凪の都を守り通せるかは、私たちの肩にかかっているのだ。


 雨の神に立ち向かうという無謀すぎる案を、私たちを信じて受け入れてくれた関係者のためにも、絶対に引くわけにはいかなかった。


「何があっても、夜までには雨の神を追い返すぞ」


 ドラドはいつもどおりに落ち着いている。けれど、時折表情が強ばる瞬間があるのを、私は見逃さなかった。彼も内心では緊張しているのだろう。


「来たわよ!」


 私たちが祭壇ピラミッドに着いてからしばらくして、踊っていた巫女が声を張り上げた。


 ゴロゴロと雷の音が鳴る。稲光によって浮かび上がってきたのは、上空からこちらを睨む、山のように大きな雨の神の姿だった。


 青い肌に長い鼻。祭壇ピラミッドを丸呑みにできるくらいに大きな口からは、巨大な牙が覗いていた。筋骨隆々の半裸の腰には、太い縄のようなものが巻きついている。


「誰だ、ワシの通り道に邪魔な結界を張ったのは」


 雨の神が地の底から聞こえてくるような低い声を出した。それだけで、尋常ではない霊力が国中を覆い尽くすのを感じる。下級神官はバタバタと気絶し、巫女たちがさっと青ざめた。


 私も倒れそうになったけれど、足に力を入れてなんとか踏みとどまり、雨の神に向かって懇願する。


「雨の神チャク様。我々はか弱い人間です。どうか慈悲をかけ、この国を避けて通ってください」


「ハハハ! このワシに指図するのか」


 チャク様の豪快な笑いに、空気が震えた。霊力の強い波がまたしても襲ってきて、上級神官たちがその場に膝をつく。


「人間の分際で面白い。どれ、少し遊んでやるとするか」


 チャク様が背負っていた弓を手に取る。弦(つる)を目一杯に絞って、こちらに向けて水でできた何本もの矢を一斉に飛ばした。


 飛んでいる最中に、一本の矢が十本になり、二十本になり……と瞬く間に分裂を繰り返す。まるで空から滝が降ってきたような光景に、私は唖然となった。


 結界に矢の雨が叩きつけられる。緑色の薄い膜のあちこちに亀裂が走り、私は焦った。


「もっと霊力を注いで!」

「もうやっている!」


 ドラドが魔術具の上で手を一振りすると、膜に広がっていた亀裂が瞬時に塞がる。


 けれど、それも一時しのぎに過ぎない。


 矢の雨はあとからあとから降り注ぎ、絶え間なく結界を攻撃してくるのだ。少しでも気を抜いたら押し負けてしまいそうで、一瞬たりとも気を抜くことができなかった。


「何やらおかしな気配がすると思ったら、そちらにも神がいるようだな」


 ふと、チャク様が面白がるような反応を見せた。


「面妖(めんよう)なことよ。この微弱な霊力……貴様、十三階層の者か? なぜ地上界にいるのだ」


「知るか。神聖結婚の儀で呼び出されたんだ」


 ドラドがつっけんどんと言い放つ。私には彼らが何のことを話しているのかよく分からなかったけれど、一際強い矢の雨が降ってきたので、口を挟むどころではなかった。


「ハハハハ! 十三階層の者が花婿になるとは! ますます面白いぞ。貴様らがどこまでやれるのか、このワシに力を示してみせよ」


 チャク様がカッと目を見開く。その途端、今までで一番強い霊力が辺りに伝播(でんぱ)した。私は思わず悲鳴を上げて魔術具に寄りかかる。わけもなく涙があふれて、視界がにじんだ。


「小娘!」


 ドラドの声に、私はガクガクと震えながら顔を上げた。辺りを見回すと、もう立っているのは私とドラドだけだった。神官長様も巫女たちも、皆失神して床の上で伸びている。


 あまりのことに、私の心に絶望の影がよぎった。


 私が霊力を送り込むのをやめたせいで、結界には大きな穴が空いている。そこから大量の水が夕凪の都に流れ込んでいた。


 大通りが水没し、家々に水が流れ込んでくる。住民の大半はすでに避難済みとはいえ、病気で満足に動けなかったり、高齢のために長距離移動が難しかったりと、まだ国に残っている民もいるのだ。


 私は自分の頬に両手を打ちつけた。しっかりしなさい、リュイサ。あなたは巫女頭でしょう。まだ戦えるのに弱腰になるなんて許されないわ! 何が何でもこの国を守りきるのよ!


 私が霊力を注ぎ込む作業を再開すると、結界の穴はすぐに塞がって、水の流入も止まった。チャク様が、「ほう、まだやるというのか」とニタリと笑う。

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