お前のことを忘れない(1/1)
一晩中、私とドラドは結界の強化に努めた。一段落つく頃にはふたりともヘトヘトになって、力なく床に座り込んでしまう。
でも、この程度ではまだダメだ。さらに結界を強力なものにするため、今日からは毎日この祭壇ピラミッドに通う必要があるだろう。
それに、雨の神に対抗できるかもしれないと国のお偉方にも話しておかなければならない。反対はされるだろうが、何とか説得してみせるつもりだった。
とにかく、やることは山積みである。けれど、今は身を休めることが先決だ。私もドラドも疲れ切って、歩いて神殿に戻る気力すらなくしかけているもの。
ふたりで床に座りながら、ぼんやりと海を眺める。
太陽が顔を見せるにはまだ少しだけ早く、海面もしんと静まり返っている。遠くまで広がる海を見ているうちに、心が慰められるのを感じた。早起きの海鳥の鳴き声が、私たちを労ってくれているようだ。
「空の星も、私たちにお疲れって言っているのかもしれないわね」
まだうっすらと夜の気配を残す天上で輝く星を見て、私は微笑んだ。
「星って、いつからそこにあるのかしら」
巫女頭として、私は天文学の勉強もしている。だから、どんなに昔の記録を覗いても、そこに出てくる星の名前は変わらないと知っていた。
それはつまり、星は人間とは比べものにならないくらい長生きする存在だということなのだろう。
「ずっと昔に生を受けて、これから先も生き続ける。きっと、永遠に。なんだか星って神様みたいね。天上界に属するんだから当然かしら? ……あなたもそうなのよね? ずっとずっと生きるんだわ」
「……永遠の生、か」
ドラドが皮肉げな笑みを漏らした。私はきょとんとして、「どうしたの?」と尋ねる。けれどドラドは「何でもない」と首を振った。
「たとえ永遠に生きても、今日のことは一生忘れないだろうな。それに……お前のこともずっと覚えていると思う」
「え……」
「まさか、この私が人間と共同戦線を張る日が来るなんてな。それに、お前みたいな強引で態度が大きくて、神を神とも思っていない奴のことなんて、忘れるほうが難しいはずだ」
「失礼ね!」
私は思わず甲高い声を出した。別に、一瞬だけときめいてしまったのが恥ずかしかったわけじゃない。……というより、ときめいてなんかいないわ! 意外なことを言われて、驚いただけよ!
「そんなことを言うなら、私だって一生あなたを忘れてあげないわよ! その傲慢さ、命が続く限り心に留めておくわ」
「とんだ嫌がらせだな。……ふふっ」
ドラドが珍しく屈託のない笑みを見せる。
その笑顔を見ているうちになんだかおかしくなってきて、気づけば私も笑い出していた。
すっかり体が休まった私たちは、ふたりそろって神殿へ帰る。ゆっくりと登り始めた太陽が、並んで歩く私たちの姿を明るく照らしていた。




