偉い神様との作戦会議がはじまるらしい
目が覚めてしまった。
目の前には、少し懐かしい感じがする、古民家のような太く黒い木が組まれた天井があった。
結局、見覚えはあるが読み方がわからない文字で書かれたおじさまの名前。
しかし、鏡のような剣に映し出されたおじさまにドキドキして目が覚めてしまうとは。
我ながら恥ずかしい。
「う〜ん……」
夢に出ていたあの気の強いサグメさんが、半裸でだらしなく眠っている。
オジサマは無意識系のスケコマシと呼べばよいのだろうか。
自然に「美しい」とか言っているし、サグメさんのあの表情と反応は間違いなく恋に落ちたと思っていいはずだ。
はぁ……。
ところでこのモヤモヤした気持ち。やっぱり、私はちょっと嫉妬してる。
前世の私だとわかっていても、他の女性をほめたたえるのは、かなりいやだな。
階段から落ちて記憶をなくし、前世でお魚の通販をしていたおじさんの記憶だけが戻った時は、子供の身体に乗り移ったように感じた。
急に時間が経つにつれ、あの記憶は私の中で異物のようになり、今は知識としてあるだけだ。
今の姿と、記憶に残っているおじさんとでは、性別も年齢も姿も全く違うからだと思う。
オジサマの記憶が完全に戻ったとしても、同じように異物のようになり、やがてただの知識となるのだろうか。
さて、お魚といえば、私の大切な大切なとても大切なニシキヤッコさん達の自動餌やり機はちゃんと動いているだろうか。
それにピッピとサクにも餌をあげないといけないけど、流石に今は無理。
ママか咲夜がやってくれているとは思うけど、やっぱり心配だ。
仕方がない。
心配だから、ちょこっとだけ接続して確認しようかな。
周りを見回したが、私のスマホを入れた袋が見当たらない。
さて、どうしたものか。
『ピンポーン。ピンポーン』
「来たわね」
呼び鈴が鳴るとサグメさんが飛び起きた。
そして入口に向かって行き、袋からスマホとタブレットを取り出しながら戻ってきた。
「サグメさん、それは?」
「姉さんよ。他人みたいな呼び方してほしくないかな」
「わかった」
「家の魚のことが心配なのでしょ? これは足がつかない安全な端末だから」
何だろ。
足はつかないって嫌な言い方だな。
なにも悪いことしてないのに。
タブレットを受け取り、電源を入れた。
いつものカクレクマノミさん(AI)が立ち上がらないのは少し寂しい。
まずは水槽管理ホームページに移動し、ユーザーIDとパスワードを入力して、メッセージ認証が必要なことに気がついた。
「確認メッセージきたからオッケーしたよ」
「はい!?」
どうして私宛のメッセージを姉さんが受け取れるの!?
「舞のスマホ見せてもらってるでしょ。転送の設定しておいたんだよ」
「勝手に転送設定しないで欲しい」
「ん!? メッセージはお互い見せ合いしてるし。それに私に隠し事は無理だし」
むぅ。
隠し事ができないのは、さっきの前世の夢ではっきり思い出した。
とはいえ、無断で設定されるのは別の問題ではないか?
「ま、今は見なくても分かるからいいか。後で転送設定変えるし、見せ合いもやめていいかな?」
「うん。わか……」
いや、ちょっと待って。私のプライバシーは一方的に知られるけど、姉さんのプライバシーは秘密ってこと?
なんか損している気分。
「い、いまのままでいい」
「ふふ、わかった。そういえば、夢で名前を見たけど文字が読めなかったのね。まぁ、慌てなくていいよ。ここにいれば大丈夫だから」
「分かった」
まぁ、それよりも認証が通ったのでニシキヤッコさん達の様子を見る。
変わらず元気そう。
そんなに時間は経ってないけど。
履歴をみると、給餌はきっちりされているようで一安心。
さて……後はピッピとサクだ。
チラッと姉さんを見ると、少し考えたあと、ニッコリ笑いながら「ママか咲夜がちゃんと餌あげるよ」とのこと。
周りにはヒナの時から餌をあげてくれているママもいるし、大丈夫か。
「うん。ちょっとだけ力が戻ってるね」
「はい!?」
「いや、ほら神通力だよ。やっぱり夢のおかげで少しは力が戻ったと思うよ」
「そうなの!?」
全く実感がわかないのだけど。これであの蛇達を追い払えるのかな。
「先読み、千里眼、そしてチートの定番、鑑定眼! 3つの目が旦那の強さの基盤だからね」
姉さんは棚の上の手鏡を私に差し出す。
旦那様じゃないし。でも姉さんから見たら、生まれ変わりであっても、いつまでも旦那であることには変わりないのか。
手鏡に映る見た目は全く違う。それでも女の子に旦那はないと思う。
ところでこの手鏡は何?
「額のところ、みて」
ふむ……。
え゛! 額に3本の傷がある!
うそ! いつ付いたの、こんなの!
「まぁまぁ、これ飲んで落ち着いて」
姉さんはインスタントコーヒーをコップにサッサと入れて、ポットからお湯を注ぎ、私に差し出す。
これってまさか、変な薬入っていないだろうか?
姉さんも自分の分を入れているし大丈夫か。一口飲むと、ちょっとインスタントとは思えない位美味しいコーヒーだった。
「このコーヒー美味しい。どこのなの?」
「ん? 旦那が好きだったやつかな。海外らしいよ。あ、一応、時間止める系保管庫に入れてあるから消費期限は大丈夫だからね。チートよチート」
なるほど、前世の私が好きだったコーヒーか。
ふぅ、でもこんな傷、いつついたんだろ。
「額の傷は旦那の魔眼ってやつよ。五つ目だって夢にあったんでしょ」
そうなんだ。
私が見た夢まで正確に把握してるんだ。
「頼もう! 入るぞぉ!」
筋肉隆々でタンクトップ姿の、厳つい髭のおっさんが入ってきた。
姉さんはしかめっ面で睨んでいる。
「久しいな、天邪鬼」
「そ、そうね。私は探女サグメよ、邪鬼じゃないから」
姉さんは気圧されているようで、私の後ろに回った。
「ふはははははははは! そうかそうか、改心したのだな」
「私、改心しないといけないことなんてやってないからね」
「ほぉ〜、嘘をつくとまた踏み潰すぞ? 本気かどうか、我の心を読んでみるがいい」
姉さんが舌打ちをした。
どうやら、本気らしい。
「あの、この方は?」
「私の敵よ」
「ふはははははは」
「旦那を助けにきたから、なにもしないでおくわ」
「ふむ、久しいな。しかし貴様が、このような、か弱い可憐な少女になるとは、世の中何があるかわからぬのぅ」
つまり、はるか昔の前世でオジサマの知り合いということか。
「すみません。覚えてなくて。それで、あの、助けてもらえるのですか?」
「恵比寿にもいわれたからの」
「こいつは毘沙門天よ」
え!毘沙門天!!
本物!?
というか、 恵比寿様が頼んでくれたんだ。
「ふはははははは」
「こんにちは〜」
続いて……サファリパークの中で腹痛でしゃがんでいた女性が現れた。
「鳴女。アンタまで来たの? っていうか分かった。準備進めて頂戴」
「はーい!」
鳴女さんは台車を押しながら部屋に入り、床に敷いた寝床を移動させた後に、色々見たことのない機材をせっせと並べ始めた。
「あの、運ぶの手伝いましょうか」
「はーい。でも大丈夫なのでお構いなく〜」
てきぱきと、機材のセッティングを始めた鳴女さん。
電源をぱちぱち入れると、3Dのホログラムで立体的な文字が表れてくるくると回っている。
「あの、毘沙門天様。外にいるあの蛇達を退治してもらえるのでしょうか」
手伝いがいらないなら、毘沙門天様に蛇の退治をお願いしよう。
「うむ、神社の周りにいるあの蛇共は退治しておいたぞ」
おおおおお!
すごい! 家に帰れる!
「あ、ありがとうございます」
頭を深く下げてお礼を言ったが、毘沙門天様はなにか歯切れが悪そうな表情だ。
「でもぉ、あの蛇は直ぐに復活すると思いまーす」
え゛。
復活しちゃうの!?
「そうだ。呪いの元を絶たねば意味がないぞ」
「呪いの元ですか?」
毘沙門天様はおおきくうなずいた。
「そうよ。まぁ、会議をやるみたいだから、そこで分かるかな」
「ふはは、先が見通せるのは便利ではあるの」
「っていうか、あんたは私の側に来ていいわけ?
ふふふ、いろいろと覗いちゃうわよ?」
毘沙門天様に向かって姉さんは『にちゃあ』と嫌な顔で笑う。
そういう表情はせっかくの美人が台無しになるのでやめたほうがいいと思う。
「思考を読むのは側にいるだけで出来るけどぉ、記憶を読むのは側にいて目をじっと見る必要がある。
相手の未来を見るには側にいるだけで出来るけどぉ、遠い先の未来を見るにはこれもじっと目を見る必要があるぅ……ですよねぇ」
「そうよ。あと、そいつが持っているものがあれば、どこにいるのか分かるし、その時の感情と強い想いは分かる。長い間側にいれば、少しずつそいつの過去の記憶も未来も見えてくる。他にも色々あるよ。ちゃんとまとめて提出したんだから、もういいんじゃないかな」
「サグメは嘘多いからぁ、もし神通力の内容が嘘だったら、もう誰も助けないらしいよぉ」
「我は心を覗かれても構わぬぞ! 仏法の守護神でもある我にやましいところなど全くないのだ
はははははは」
「準備できましたぁ。闘神ちゃん救出作戦会議を始めますぅ……」
作戦会議?
そして、鳴女さんがジーと私を見る。
「あの、何か?」
「偉い偉い、とっても位の高い方との会議ですぅ。身を清めてないとだめですよぉ」
えっと、私、そんなに汚いかな?
「だめ! このままでいいかな」
姉さんはなぜか身を清めることに反対する。
お風呂は好きだから、むしろ入りたいのだけど?
「なんでですかぁ!? 私の心読んで、よっく考えて答えてください」
なんだろう、姉さんが苦虫を噛み潰したような顔で私を見る。
「舞は自分が考えているよりも、ずーっと可愛い女の子だから、あまり着飾りすぎると男が群れてくるからね」
むぅ。
私の見た目がいいことはわかってるけど、姉さんも同じだ。
むしろ私より、今の姿の姉さんの方が男性にモテると思う。
「はぁ……わからないのは無理ないかな」
いや、分かるし。
でもここで清めるの?
「湯殿に案内するわ」
「それじゃあ、最高の美姫に仕上げますねぇ」
「ははははは! ならば我は少し蛇共を減らしてこよう」
毘沙門天さまは部屋からでていき、私はお風呂に連れて行かれ、身体を洗われた。
身体を洗ったお湯や、お風呂のお湯が信じられない位に黒く汚れていったのには、正直驚いた。
おかしいな? お風呂には毎日ちゃんと入っているのだけど、思っていた以上に汚れていたようだ。




