大蛇に囲まれたので神社に避難したら、姉さんに一服もられた
「おーおー、
災いが群れておるの〜、群れておるの〜」
老人は手の平を額に当てて、楽しそうに神社の周りを徘徊している巨大な蛇をキョロキョロと見ている。
姉さんは色々片付けるからと言って、神社の中に入るや否や、奥へと駆け出していった。
「えっと。
さっきは助けてもらってありがとうございます」
ニコニコ笑いながら蛇の群れを眺めているお爺さん。
エビスという名前らしいので、ひょっとしたらあの名高い福の神様ではないだろうか。
失礼があってはいけないので、深く頭を下げてお礼を言う。
「よいよい」
エビス様は私の頭を撫でる。
しばらくするとサイレンの音が聞こえてきた。
パトカーが1台橋の上に止まり、お巡りさんが出てきて辺りを見回している。
そして橋の上に落とした防犯ブザーを持って、何やら電話で話をしている。
しばらく眺めていると続々とパトカーが現れ、それにつられて人が集まってきた。
周囲を警戒しているお巡りさんには、辺りを徘徊している巨大な蛇が全く見えていないみたいで、蛇の方も警察を無視している。
どうやら、お巡りさんや集まってきた人には蛇の姿が見えていないようだ。
『ブーブーブー』
そして、スマホにパパからの着信があった。
「舞!
今どこにいるんだ!」
むぅ。
いきなり怒鳴り声。
耳が痛くなりそうなので、少し離す。
「えっと、ここどこだろ」
とはいえ、ここは何という名前の神社だろうか?
「そうか!
今、場所を調べてるから。
澪はいっしょか? 大丈夫なのか!」
「えっと。
どうかしたの?」
家から出てまだ1時間も経っていないし、何を心配しているのかな?
「防犯ブザーを押しただろ。
何があったんだ。大丈夫か!?」
そういえば、防犯ブザーを止めてないから鳴りっぱなしだった。
たしかブザーを止めないと親のスマホに通知がいく設定だったはずだ。
「そうか!
すぐに迎えに行くから、そこにじっとしてなさい!」
「ここから出たら間違いなく襲われるのぉ」
横からエビス様が呟く。
確かに⋯⋯。
ちらっと鳥居の外の様子を見ると、うじゃうじゃと大蛇が徘徊している。
あの中に飛び込むのは自殺行為そのものだ。
「おい!
そこに誰かいるのか!
襲われるってどういう事だ!」
「あー、えっと、うん。ごめんなさい。
今、外に出たら殺されるかも」
「な、なんだと!
まさか誘拐!?
金か?
俺がそいつと交渉するから代わってくれ」
言い方がよくなかった。
よりによってエビス様を誘拐犯呼ばわりするのはよくないと思う。
ちらっと見ると、エビス様はにこにこと笑っているが、怒らせたくはない。
「えと、誘拐じゃない。
助けて貰ったの」
「そうか、すぐに代わってくれ。
話をする」
エビス様を見ると、首を横に振った。
「あ、えっと。
お話はしないみたい。
ここにいれば大丈夫らしいから」
「ひょっとして脅されてるのか!
おい!
誘拐犯!
金なら欲しいだけくれてやる。
舞に何かしたら、ただじゃ済まさないからな!」
「だから誘拐じゃないから」
エビス様に失礼なので、はっきり否定する。
そういえば、スマホで場所の特定出来るんだっけ。パパには申し訳ないけど、見つかってここから引っ張り出されると、蛇に襲われる未来しか見えない。
「貴様!
俺の娘たちに傷一つでもつけたら、ただじゃおかないからな!」
「えっと、ごめんなさい。
パパ。
心配しなくても大丈夫だから」
スマホの電源を落とす。
本当に申し訳ない。
「おっと、わすれておったわい。
すまーとほんという物の電源をきったら、この袋に入れるようにと言付かっておってな」
銀色の袋を渡された。
これって電波を通さなくするやつだよね。
私はすぐに袋に入れた。
心配をかけるのは心苦しいけれど、後でめちゃくちゃ怒られそうな気がする……。
「さて、少しだけ奥に行こうかの」
エビス様が歩き始めたので、後をついていく。
木々が生い茂る森の中、綺麗に掃除された道を進み、いかにも本殿だと思われる建物の脇を抜けて更に奥へと向かう。
「あ、あの。
あの蛇はいつまでいるのですか?」
「まぁ、そうじゃのう。
お主を喰らうまでかの」
うう、嫌だなぁ。
「あ、あの。
助けていただけませんか」
「うーむ。
ワシは戦いは得意ではないからのぅ。
毘沙門か大黒……
あやつらなら、争い事であれば助けてくれるかもしれぬな」
おおお!
毘沙門天様って、有名な戦いに強い神様だよね。
でも大黒天様って意外だ。
「ぜ、ぜひ!」
「だめよ!」
目の前に、夢に出てきたサグメさんが現れた。
あれ?
姉さんは!?
「力を完全に取り戻すため、元の姿に戻ったの」
「ほぅ。
あっさり子供姿を捨ておったか」
エビス様がスッとサグメさんから目をそらす。
え、え、え!?
「姉さんなの?」
「そうよ」
すっかり大人の女性の姿になっている。
以前夢で見た、私が前世でおじさんの姿だった時にいたサグメさんと全く同じ姿だった。
「どう?」
「え?」
どうと言われても、姉さんが成長した姿ではない気がする。
美女ではあるけど、顔の骨格からして明らかに別人。
「ほら、もっと異性的な目で見れないかな」
異性?
まさかの姉さんではなくオネエ的な男性なの!
ちょっと股間を……。
「女神様になんてこと考えてるかな。
前世以前からずーっと伴侶である私に対して、何か顔とか胸が熱くなるとか、ドキドキするとか、普通あるでしょ!?」
全くないんだけど。
そんなことよりあの蛇をなんとかしないと。
「ちぇ・・・。
そうね、パパたちには申し訳ないけど、ちょっと失踪しようか。
今のままだと呪いにやられてしまうかな」
あっさり失踪って言ったよ!
パパやママが物凄く心配すると思うけど。
それに学校とかどうなるの?
「ま、今後のことは中でゆっくり相談しよっか」
わかった・・・。
「わしはそろそろお暇するかの。
毘沙門に声はかけておくから、そう心配するでない」
「はい・・・」
エビス様はカッカッカッと笑いながら本殿のほうに向かって歩いて行った。
姉さんに連れられて神社の敷地内を進むと、小さな社があった。
その中に入ると、内部はかなり広いリビングになっていた。
古い大きな液晶テレビにテーブルに椅子。
本棚には古い本がびっしりと詰まっている。
サグメさんは水瓶から杓子で水をすくい、やかんに入れてテーブルに置く。すると、お湯は直ぐに沸騰し始めた。
その後、棚の引き出しから小さい箱を取り出し、茶葉のような物をパラパラといれると、甘いよい香りが部屋に漂う。
湯呑に入れた後、私の前に置いた。
ちょっとのどが渇いていたからたすかる。
一口飲むと、やや苦くて甘い紅茶のようなものだった。
「それにしても危なかった。
脱出が少し遅れたら、ここに来る前にやられていたかな」
「そうなの?
神通力の練習するんじゃなかったの?」
「いや、まぁそれもあるけど、あのまま別荘にいたら舞は死んでたので、ここに避難するつもりだったの」
そうなんだ。
ちゃんと避難するって言ってくれてたら、いろいろ準備できたのに。
失踪するといっても、流石にいつまでも家に戻らないというわけにはいかないし。
急いで神通力が使えるように特訓しないと。
「じゃあ今日はもう遅いから寝よっか」
え、いや特訓しないと。
座禅を組んで精神を鍛える?
いや、それとも筋トレ?
「プッ。
イチから神通力の訓練なんてやってたら、最低1000年は必要かな」
む、なんか馬鹿にされた?
「神代の記憶を思いだすの。
闘神だった頃の記憶を思い出せばいいって言ったでしょ。
夢で思い出すのが最善の近道よ」
そ、そうなんだ。
あれ?
なんかすごく眠くなってきた。
「そろそろ効いてきたみたいね」
おいいい!
一服盛ったのか!
そういうとこ!
そういうとこが、姉さん、いやサグメさんが嫌われる理由なんだよ!




