幽霊と手紙
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俺は胸が締め付けられるようだった。
ゴリさんが…ゴリさんが…幽霊になっている…。
そこまで特別深い仲というわけでもない。
だが、だがこれは……。
あまりにもきつい。
もしかしたら生霊なのかとも思ったが、それは淡い期待だった。
ゴリさんは左肩から右の脇腹にかけて大きな裂傷が入っていた。
太い切り込みは向こう側が見える程。
それは一目でわかる致命傷だ。
明らかに何かあったのだろうと分かる傷。
事故でつくようなモノではない。
これは……。
死霊化する可能性があるのは魔物も人も同じだが、死ぬと必ずゴーストになるわけではない。
魔物や動物も人も等しく、強く思いが残るとゴーストとして形を変えて現世に留まると言われている。
だから、ゴースト化しやすいのは遺恨が残る者や無念の死を遂げた者がそのほとんどだ。
そして、その思いが一番強い時、生前の最期の状態で現れることが多い。
それに照らすなら、ゴリさんの最後は……。
状態から見ても、斬られて亡くなったのだろう。
誰に?
そして、無念の死だった。きっと。
ゴリさんは……何かを伝えたかったか…それとも、この手紙を見届けるために地縛霊のようにしてこの場にいたのか……。
しかしこの状況は……くそっ。
一族郎党関係者全てだったか?
なんてことだ。
……先生はどうしてこんな。
いや、やったのは先生ではない。
他には……他の人達は大丈夫なのだろうか?
屋敷にどれくらいの関係者が居たのかは知らないが、屋敷の状態からみても、相当なことがあったのは分かる。
一人でも多く生き残り、一人でも多く逃げ出すことができたことを願うばかりだ。
理由も、関係のある生存者がいるのかも分からないこの状況で、俺にできることは何かあるのだろうか。
いや、あるじゃないか。
俺にできること。
それは目の前の手紙を手に取ること、今はそれしかない。
これは読まなければならないのだ。
俺はたまたまここに来ただけだが、この部屋へは導かれたような感じがするのだ。
あれだけ荒された屋敷であるのに、この部屋を誰も見つけることができなかったのは、このゴリさんが何かをしていたかも、いや、かもではない。
直感的にそう感じる。
その証拠に、虚ろな、それでいて悲しげな顔をしていたゴリさんだが、俺がこの手紙を手に取った瞬間に満足そうな表情を浮かべ、霞みのようになって消えてしまった。
「ゴリさん……」
俺は手紙を持っていないほうの手で虚空を掴む。
もちろん何かあるわけではないのだが……。
やるせない気持ちが俺の心をいっぱいにしていく。
…………くそっ。
俺は濡れてしまっている手紙を、破けないように丁寧に開いていく。
既に濡れてしまった部分の水分が、全体へとほとんど染み広がっていた。
開いた手紙は一枚。
たったの一枚。
二つ折りにされた手紙は、インクが滲んでいるのが分かる。
宛名は書かれていなかった。
封筒にはもちろん、冒頭にも書かれてはいない。
「……これは……」
所々、というかほとんどともいえる箇所の文字が水に滲み、原形が分からない。
短い内容の手紙。
『─の手紙を──で──ということは、──も───にい────う。
───のか、──して───のか分からないのが───だ。
俺は──を────つ。討た──れば──ない。
師と──。
そして──計画──ってしまったから。───止めるために───。
それによって──関わる全──の者────をか───もしれ──。
───すまな─。どう───してほしい。いや、─────いい。─────いい。
ただ、俺の──が───と信じて──。
─ェル、───フ。
──────ならば、──の─画を───止──。
勝手─────ない。
ど───弟子である──止めてくれ。いや、殺してくれ。
────俺が失敗しているならば「核」を壊して───。頼む。
二人ともほんとにすまない。 愛す──族よ、許してくれ──』
ここに書かれているのはこれで全てだ。
宛名は書かれていない。
書いた人物も分からない……。
分からない、が、ゴリさんではないだろう。
これは………先生だ。
たぶん。
理由はよく分からないが、この欠けている部分にある討つべき相手、それが今の王様なのか?
というか、やはり何か事情があってのあの行動だったのだ。
まぁそれは当たり前か。
……このェルとは……ヴェル……俺のことか?
そしてもう一人……。
弟子である、とは、そのままの通り弟子で間違いないのだろうか。
先生には、俺を含めて三人の弟子がいたんだったか?
弟子を殺し、核を壊す……。
もう一人の弟子と共に?
えっ、俺が?
…………。
ちょっと何言ってんのかよく分からないな。
しかし、王を狙った理由がそこにあるのか…。
うーむ……。
……俺の胸中はぐちゃぐちゃ。
頭の中もぐちゃぐちゃだ。
屋敷にくれば何か分かるかもしれないと思ったが……。
ちょっと疲れたな……。
ちょっとじゃないな。急に色々入ってきて疲れすぎた。
他にも調べる必要はあるのかもしれないが、整理のつかない俺は手紙を手にし、早々と帰宅することにしたのだった。




