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樹属性魔法の使い手  作者: 深海 和尚
魔法学校四大競技大会
65/68

イースト家の屋敷

よろしくお願いします。


 遡ること数分前。


 俺はゆっくりと、地下へと繋がる階段へ近づいていった。


 すると、さっきまでよく聞き取れなかった会話が聴こえてきた。

 どうやら下にいるのは三人のようだ。

 

「──あ、兄貴、早くいきましょうよ……。人が来るかもッスよ…」

 

 男の声が聞こえてくる。

 周りがガチャガチャと雑音が酷い。


「そうでやんすよ、兄貴。 もうこんな所、金目の物なんて何もないでやんすよ。 ずっと変な声みたいなのが聞こえるし……怖いでやんす……」


 何だか聞いたことのあるような語尾だ。


「──うるせーな! 探せば何か出てくんだ! 邪魔すんな!」


 どうやら、やっぱりというか、盗みをしようとしているようだ。

 声からして下にいるのは三人だ。


 正直言えばぶっ飛ばしてやりたい気もするが、それをしたところで姑息な手段にしかならないだろう。

 半端なことをしてもまたやって来る可能性が高い。

 こういう輩は後を絶たないのだ。

 もしかしたら、幽霊が出るというのは人が来ないようにするために、誰かがついたいい嘘なのかもしれない。

 

 なら、その幽霊の噂をより本物にしてやろうじゃないか。

 

 

 俺は黒い仮面を取り出し装着すると、杖を手に出した。

  もちろんいつものやつ。

 

 そして、杖を階段へと向け、異世界のモノを造ることにした。

 

暗黒痺茸ファントムマッシュルーム


 すると、階段の数段下がった辺りに一本の黒いキノコがポコンと生まれた。

 薄暗くなっている階段では、少しわかりにくいが。


 キノコはニョキニョキと数センチほど育つと、先端の辺りから胞子を空気中へと散布し始めた。

 色はほぼ無色だが、甘ったるい香りが周辺を包み込んでいく。

 そして、外からの地下へと吹き抜ける風が、胞子を彼らの元へと運んでいった。


 《暗黒痺茸ファントムマッシュルーム

 魔界暗黒の森、深部にある湿地帯に広く自生しているシビレタケ属に属する菌類のキノコである。


 先端より胞子を飛ばし繁殖していくのだが、無色のため視覚で確認することは不可能。

 特徴として、甘い香りを持っているため、森でその匂いが漂い始めたら、すぐに逃げなければならない。

 もし吸ってしまったならば、まず森を脱け出すことは不可能と言われている。

 それは、強い幻覚作用によるもので、濃厚な胞子群にさらされてしまった場合、正気を保つことが困難であるからだ。

 ただし、毒性は幻覚作用以外にはなく、重症や死亡はまずないといえた。


 さてと、そろそろいいだろう。

 俺は風魔法で自らを浮かせると、ゆっくりと音もなく階段を降りていった。


「──兄貴ー、出てくるのはゴーストっすよ…しかも、さっきから何か甘ったるい変な匂いがしてくるし………」

 

 男の声で胞子が届いていることが確認できた。

 報告ありがとうございます。

 と、そこで男と目が合う。

 階段から地下へと入ったすぐの場所にいたようだ。

 若干だが、目の焦点はずれているように見える。

 しっかりと幻覚が作用しているのだろう。


「あっ! あ…あ……」


  あ、語尾からそうかなとは思ってはいたけど、やっぱりあの三人組だ。


「──あ、あ…あに…あに……」

 

 出っ歯におかっぱ頭が気づいたようだ。


 そして、様子のおかしい二人に、ガチャガチャと音を鳴らしていた手を止めるのは、もちろん兄貴。

 

「──おいっ! あっあ、うるっせーなっ! なんだって───あ?……ぼ…亡霊…?」

 

 やっと俺に気がついた兄貴。

 そして、履いているズボンがみるみるうちに色を変えていった。

 

 ……きったな。


 室内に充満するアンモニア臭が甘い香りを即座に塗り替えていく。

 

 ここからさらにどうやって驚かそうかと、俺が思案しつつゆっくりと近づいていくと、兄貴が二人の方へ向き、急に大声を上げた。


「─────にげろッッ!」


 しかし、当の二人はそれどころじゃないようだった。

 

「あ、あ、あに、兄貴……こ、こ、腰が──」

 

 兄貴以外の二人は尻餅をついている。

 

 腰を抜かすほどの幻覚を見ているのだろうか。

 やはりというか、二人とも目の焦点が可笑しなことになっている。


「──バッカヤローが! 立て! ほら、逃げるぞっ!」

 

「…う…う…ッス…」

 

 膝をワナワナさせて立ち上がる姿は、見てて切ないものが込み上げてくる。

 ほら、がんばーれ! それ!がんばーれ!

 

「──けど、逃げるったってどうするでやんすか?! 出口は階段しかないでやんす!」

 

 涎を撒き散らすヤンス君。

 上からも下からもダダモレだ。

 

「くっ! そうだったな…。 よ、よし、俺が流して(・・・)やる!」

 

 流す?

 よく分からないが攻撃なのだろうか。

 それともここらのアンモニアを流してキレイにしてくれるのだろうか。

  青い髪の兄貴は、おそらく水属性なのだろうけど……。

 ここは密室だよ?

 地下だよ?


 俺は一定の距離を置き、フヨフヨと宙に浮きながら様子を見ている。

 

 ……しかし、ものすごく臭い。

 俺にはよくわからないが、アンモニアは空気より軽いのかもしれない。

 すごく濃い気がする。


「あ、兄貴…無謀でやんすよ…。 成功率半分じゃないすか……」

 

「や、やるしかないんだ!! いいなっ? 」

 

「……わかったでやんす!」


「……うッス!!」


「いくぞっ!!」

 

 兄貴は腰に差してあった杖を取り出した。

 子分二人ほどではないが、多少なりともあった震えがピタリと止まり、ピシッとした構えがなかなか様になっているじゃないか。


 

「静かなる清流(せいりゅう) 出流(いずる)水流(すいりゅう)──」

 

 噛みもせず、淡々と呪言を唱えていく。

 

「──我が手より()の者を奔流(ほんりゅう)へと取り込まん──ウォーターカレント(水流砲)!!」

 

 瞬間、杖先からドドドッと川のような水が溢れ出した。

 宙に浮いていてなんてこともない水量だが、思ったよりも強い勢いに驚いた俺は、天井へと張り付いた。


「いまだっ! 乗れ! にげろっ!!!」


 三人は流されていく。

 俺の目の前を。

 俺の真下を。

 流れに乗って…。

 溺れているようの見えるけど……大丈夫か?


  ┼┼┼


 それから数十分。

 俺は水が引くのをそのまま待っていた。


 彼らにいいお灸を据えることができただろうか……。

 これで二度と近づかないてくれればと切に願う。

 願わくば、噂を広めて他の連中も来ないでくれ。


 しかし、時間がかかるな……。

 ゆっくりとゆっくりと水が捌けていく。

 ほとんどの水は階段を登り、ここにはそこまでの量が残っているわけではないのだが。

 それでも歩けば足がびちゃびちゃになるだろう。

 

 手掛かりになるような物がないかゆっくり探したいとこなんだけど……。


 まぁ、ここから見る限り何もなさそうではあるんだけど、何か聴こえるんだよね?

 何だかずっと聴こえてんの。

 これは調べないといけないよね?


 微かだが、声か?

 呻き声? これは噂などではなく、幽霊が本当にいるのか?

 しかしいったい…声はどこから……。

 


 ふと、水の流れを見ていると、部屋の中心にある床の辺りから染み込んでいっているのに気がついた。

 大きめの正方形の形をした石材のようだが、その周りの溝から水が捌けていっている。

 

 よく見ればその床材だけ周りと色が違う。

 

 ならばと、俺は魔法を解除し、勢いよく足からその床を蹴りつけた。

 すると、バカンッと音を立て、その床はバラバラと崩れ落ちてしまった。

 もちろん、俺も勢いのまま空いた穴へと落ちていった。

 

「イテテテッ……こ、ここは…」

 

 薄暗く、落ちてきた穴から僅かに射し込む光だけが部屋を照らしていた。

 その床はもちろん水浸し。

 勢いよく落ちた俺は着地に失敗して、水にお尻をつけている。


 目を凝らしてみれば、部屋の大きさは六畳くらいに見える。

 


 そして、奥にはテーブルとイスがあり、おそらく木製?そこに腰かける人物がいた。

  いや、人物と言っていいのかも分からない。

 何故なら、ソレは透けているからだ。

 そう、まさに噂の幽霊(ゴースト)だ。

 ゴーストいるやん。


 イスに座り、どこを見ているのかも分からないが、ウウ…と呻き声だけを上げている。

 

 俺は気づかれないように、ゆっくりゆっくりと近づいていく。


 と、いうわけにはいかなかった。

 足下には水があって音がするし、何より既に落ちたタイミングでバレている。

 むしろ、音が気づかれることのトリガーなのかも分からない。

 この領域に入った時点アウトなのかもしれない。

 幸いにして、今のところ動きはないようだが。


 ……気づかれているよな?

 

 そんなことを考えながらある一定の距離まで歩いた所で、目が慣れてきたこともあり、俺はその幽霊が見ているものが目に入った。


 テーブルに置かれた便箋だ。

 俺のせいなのか、テーブルごと濡れてしまっているが、それは一通の白い便箋。

 

 さらに近づき、俺はそれに手を伸ばした。

 ちょうどテーブルを挟んでゴーストさんと向かい合う位置からだ。

 彼はまだ、黙々と呪文のような呻き声をあげている。

 彼だと思ったのは身なりが男のようであったからだ。

 筋骨隆々の御者。

 それも見覚えのあるような格好だ。


 そして、便箋に手が触れるか触れないかのとこで、ふと思い出しだ。

 衝撃的にビビッときた。

 ………ああ。

 なんてことだ……。


 透き通っていて分かりにくいが、筋骨隆々の御者は一人しか知らない。


 顔もよく見ればそうだ…。

 彼だ。

 

 悲しい表情をしているように見えるそのゴーストは、ドライ先生の御者である、ゴリさんその人だった。 

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