護衛依頼
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「──そっちはそっちで大変だったね。 しかしさ、そんな友好的な魔族がいるなんてビックリだね」
そう言いながら、ピュールさんは椅子に腰を深く座り直した。
ギィと音が鳴る。
それを見て、ピュールさんの向かいのベッドに座っている俺も居住まいを正した。
この部屋にはベッドと簡易テーブルに椅子が一脚あるのみ。
荷物もほとんどなく、殺風景で簡素な造りのここは俺が借りている宿の一室だ。
あのままギルド内で感動の再会を続けるには、周囲がうるさすぎた。
冒険者の目も気になって仕方ないしね。
というわけ、会って早々に場所をここへと移したのだ。
俺の部屋をチョイスしたのは、単にピュールの宿よりも近くにあったからってだけ。
それと、俺の部屋に来づらいのか、空気を読んだのかは知らないけど、ピュールさんと一緒にいたドンナーとかいう若者は来ていない。
「そうなんです。 気の良い奴らばっかりで…まぁ魔族全員ってわけじゃないですけどね」
「ああ…。三王だっけ? よくもまぁ……ヴェルはほんとに人間なのかい?」
俺は転移してからのことを洗いざらいピュールさんへ話した。
三王の配下と戦い勝ったこと、五年後には再戦が待っていることを。
「もちろん人間ですよ? …まぁ運がよかったんです」
「いやいや、 初めて会ったときから人間離れしてたからね。実は自分で分かってないだけで、人間やめてんのかもね!」
ハハハ!と笑うピュールさん。
笑いのツボがよく分からない。
笑えはしないけど、確かにこの世界基準で言えば、人間の領域を越えてるのかな。
空飛べるし!
俺は空の王!
ピュールさんには愛想笑いを返しておく。
「で、ピュールさんのほうもローブの奴のことは何一つ分からないんですよね? 」
「うん…、五年もあったのにすまない……」
「いえ。 いいんです、いいんです。 そっちはギルドや国も動いてくれているので、見つかるのも時間の問題でしょう」
と、俺は自分で言いながらも、そうは思っていなかった。
五年経っても手掛かりさえ見つかっていないとピュールさんは言っていた。
年月が経てば経つほどに、より見つけることは困難を極めるだろう。
しかし、直接的な被害を受けたギルドは動いているが、国は動いているのだろうか?
ここ数日調べ回ったが、そんな事実はどこにもなかった。
素振りも見つけることはできなかった。
ましてや、王殺しの件も既にドライ先生へと責任を転嫁し、真犯人探しなどしていないようだ。
ドライ先生……ローブの奴……王族殺し……国……。
分かんないな。
「どうだろうな…。 とりあえず、引き続きローブの奴と王族殺害事件について調べるよ。 それと、君の師匠のことも探ってみる 」
「はい、宜しくお願いします」
「うん。 ……あのさ、唐突なんだけど、君はもう学校はいいの?」
そう言うと、ピュールさんは真剣な顔になった。
「というのは?」
「ごめん、言い方が悪かったね。君は、また学校に通いたくないかい?」
「ああ、ええまぁ。 できることなら行きたいとは思いますけど……」
「よしっ、なら俺が手配してやる!」
「えっ? できるんですか?」
「ああ、再入学させてあげる。 ちょっと伝があってね。 だけど、入学にあたり一つ条件というかお願いがあるんだけど、聞いてもらえるかい?」
ピュールさんは、人差し指をピンと立てながら俺の目から視線を外さない。
そして俺が「はい」と答えると、真顔になり声のトーンを落とした。
「──よかった。 あのね、君に学校内でのある人の警護を頼みたいんだ」
「警護?ですか?」
「そうなんだ。 今は、ドンナー…えっと、さっきギルドで一緒にいた奴なんだけど、アイツが一人で護ってくれているだ…といっても、この五年で命に関わるようなことが起こったことはなく、目を光らせているだけ、といったとこなんだけどね」
「……では、なぜ俺が? そもそも護衛対象は誰なんです?」
ピュールさんはそこで一度、口をキュッと結んだ。
そして神妙な面持ちで再び話を始めた。
「王族殺害事件は全員死亡で目撃者無しなのはしってる?」
「ええ」
「実はあれには……目撃者がいる」
「──え?」
「生き残りがいるんだよ」
「……それが護衛対象ですか」
「そう。 君の、ヴェルのお友達のマホンだ」
俺はこの時初めてマホンが無事にいることを知った。
ここに来て数日色々調べてはいたが、それは世間に大々的に広まっている話だけだった。
何故か賞金首にされてしまった俺は、自分の正体を誰に打ち明けていいのかも分からなかった為に、家族のことやピュールさん、マホンのことを詮索することができなかったのだ。
学校もギルドも信用に足るのか今の俺には調べようがなかったからね。
「マホン…ですか? 自分の身を自分で守れないんですか? アイツ、そこそこやるはずですけど?」
そんな俺の質問に、ピュールさんはゆっくりと事の顛末を語ってくれた。
そして、それを聞き終えた俺。
驚愕の事実に顎が外れそうだった。
少し外れてたか。
だってさ、あのマホンが女だってよ?
誰もそんなん思わないよな。
イカくせーし。
それでね、記憶喪失だとさ。
しかも、俺のことは覚えていないらしい。
笑っちゃうよな。
あんなに一緒に死線を乗り越えたのに。
笑って顎外れそうだよ。
ああ、悲しき事実。
そして、そのマホンちゃん?が、事件の生き残りだという情報が一部漏れたっぽいとかなんとか。
恐らく、記憶喪失の治療に当たっていた医師、もしくはその関係者辺りからだという。
それもあくまで推測の域ではあるのだけど。
犯人が記憶が戻る前に口封じをする可能性があるわけだ。
なぜ、情報が漏れたっぽいなのか?
なぜ、恐らくなのか?
それは、主治医も関係者も急に連絡がとれなくなったと思ったら、暫くして遺体で発見されたからだ。
そして、その死因が殺人だったこと、拷問の痕跡が見られたこと、殺されたのがマホンの治療に関わりのあった者だけということが決定打になった。
それが事件の犯人による犯行なのかは実際のところ不明だが、恐らく黒。
それにより、一刻も早くマホンの警備を強化したいというのが父親の意向であった。
一応、ドンナーが警護をひっそりと行っているわけだが、常に目を光らせていられるわけでもなく、しかも、盗賊の一件で父親は早急の強化を願い出たらしい。
マホンの友人であるピュールさんにね。
ピュールさんは、バンディートのような大盗賊なみに力のある者に襲われても、それを退ける力が自分にないことは分かっているし、ドンナーだけでももちろん力不足であると思っている。
そこへ仮面ブラックの噂とタイミングよく現れた俺。
そして三王の話を聞き、何かを悟ったピュールさんだった。
「──というわけで、お願いできるか?」
「……はい。分かりました」
「おお、良かった! では、頼んだよ? それと、本人に警護してることがバレないようにね。 嫌がるからさ。
……あ、あと入学の際は『ヴェルデ』ではなく、別人で手続きを済ませておくね。 学校側は、君の師匠が君を入学させたのを知っているから、君が弟子の三人のうちの一人って知ってるだろうからね。学校を全面的に信頼はできないし。けど、事件が解決できれば、後からでも辻褄は合わせられるから──まぁそこは今はいいか」
「分かりました。 ご配慮ありがとうございます。 じゃあ、あの、手続きのときの名前なんですけど──」
それを聞いたピュールさんはニヤリとする。
「分かった。 では、それで今から手続きしてくるよ。──じゃあ、早急で悪いんだけど明日から頼んだよ? あ、それと編入ってことにするから、試験みたいのあるかもしれないけど……まあ君なら大丈夫か」
ピュールさんはそう言うと、席を立ち、俺の肩をパンパンと二回叩き部屋をあとにしたのだった。




