再会
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日が昇り、人々が活動し始める時間帯。
俺は、ここへ来て数日は懐かしくも感じていた。しかし、早くも見慣れてしまった町並み。
目新しさはないが、たまにポツンと知らない店ができていたりして、それがまた見たことものないような美味しいものを売っていたりするのだ。
魔族の村での生活が長かったせいか、ここで食べる物はどれでもだいたい美味しく感じるんだけどね。
別にあっちのが不味いとかではないのだが、やはり人族に好まれる味で作られているからね。
俺は、そんな掘り出し物を見落とさないように、脇道を横目に歩いていた。
以前と同じように立ち並ぶ露店。
しかし、その種類は圧倒的に増えた。
中でも、特に薬草など、冒険者を対象にしたような商品を売る店が増えたように感じる。
時間が早いせいか、 人々がごった返しているというほどではないが、それでもそこそこの活気はあるようだ。
これだけの人がいる中を歩き続ける俺だが、不思議と知り合いには会わなかった。
実はすれ違っているが、お互いに気づかないだけかもしれないが。
キョロキョロとしながら歩みを進めていると、懐かしのギルド前へと到着した。
遠目でも分かったが、ここは以前よりも人の出入りが盛んだ。
しかも、格好からしてそのほとんどが冒険者で間違いないだろう。
あの事件で冒険者は激減してしまったはずだが、この五年でまた冒険者が増えたのだろうか。
そんなことを考えながら、扉へと手をかけようとしたその時だった。
扉が急に開き、中から勢いよく出て来た人に押し倒される形で俺は倒れてしまう。
「きゃっ」
「うぉっ!!」
悲鳴をあげる女性。
驚いて両手を突き出す形となった俺の上に馬乗りになる彼女。
俺の手のひらには何か柔らかいものが乗っている。
ならばと、とりあえずにぎにぎとしてみた。
すると、彼女はバッと立ち上がり、両手で胸を隠しながら俺を見下ろし、睨みつけた。
そこで俺は気づいた。気づいてしまった。
いや、気づいていたんだが、知らないふりをしていた。
顔を赤らめた彼女は、数日前に悪の手から救いだしたカワイイあの子だった。
可愛かったんでつい、本能のままに揉みしだいてしまった。
これは心からの謝罪をしなくては……。
俺は仰向けで倒れたまま彼女へ一言。
「カワイイお嬢さん」
「な、なによ」
狼狽える彼女。
「すいません、一言申し上げますが、おパンツが見えてますよ」
次の瞬間、彼女の靴の裏が見え、そしてパチパチと俺の視界の中で星が舞う。
そして、「ヘンタイ!」という声と走り去る足音が聞こえ、全ての星を掴みとった頃には既に彼女の姿は見当たらなかった。
うむ。
醜悪な顔をしたゴブリンじゃなくて良かった。
さて。
気を取り直し、俺は店内へと足を踏み入れた。
中は、こんなに入れるのかという程の人で溢れ返っていた。
こんな時間でも酒を飲み、笑い声が絶えない。
俺の脳にこびりついた記憶と基本的には変わらないギルド内だが、酒場も増設されたようだった。
あの壁に貼られた依頼書や壊れかけのテーブル。
ガヤガヤとした雰囲気と酸っぱい香りのする冒険者達。
その懐かしさに涙が出そうだった。
あくまで懐かしにだ。酸っぱいからではない。
まあ出なかったけど。
さらにぐるっと見渡せば、知っている顔が席に着いていた。
ガチムチ系のあのおねぇさんだ!
いくぶんか、切り傷のようなものが増え、それにアーマーの面積が減ったような気がする。
ガチムチ具合から見ても、どうやらまだ冒険者を続けているようだ。
他には……人が多すぎてよく分からないな。
ちなみに受付嬢は三人いるが、誰一人として知らない顔だった。
ギルドマスターはまだいるのだろうか?
受付嬢に確認しようと、俺は受付カンウンターへと近づいていく。
そして、四人がけのテーブルへと差し掛かった所で、背を向けた男性とその向かいに座る男性との会話が耳に入ってきた。
俺はその内容に思わず立ち止まる。
「───面ブラックって誰なんですかね?」
「さぁな。 まぁ誰にせよ、シャーロットを助けてくれたのには感謝だな」
「……そうですね。 それに報酬も受け取っていないし……この街の人じゃないかもしれいですね。 シャーロットの話だと空を飛んで行ったみたいだから魔族なのかなぁ。はぁ──しかし、これでやっとバンディートに脅えることもなくなりましたね」
おやおや、これは私めの噂でございますか。
仮面ブラック……。
何とも恥ずかしいネーミング。
しかし報酬か。
討伐依頼か懸賞金でかかっていたか?
俺と一緒やな。
俺は悪いことしてないけどな。
「だな。 商人も貴族もバンディートがいなくなって歓喜に沸いてるだろうよ。 ここにいる冒険者の中にも被害を受けたやつはいるから、嬉しくてこんな早くから酒飲んでるんだろうな」
辺りを見回すように顔を上げる男。
じっと後ろで聞き耳をたてていた俺はその顔をマジマジと見てしまった。
そして、気づく。
バクバクと鳴る心音。
懐かしく、見覚えのある顔。
忘れもしない探し人。
「ピュールさんっ!」
俺は思わぬ再会に、自分が思った以上に大きな声を出してしまった。
何事かと、近くにいた数名の冒険者から注視を浴びた。
もちろんピュールさんと同席している彼からも。
「ん? 誰だ?」
「ピュールさん…。ピュールさん、俺です!」
俺の顔をジッと見るピュールさん。
そして、ハッとし一瞬固まり、気づいたのだろう。
その驚きからか言葉が出てこないようだ。
「ピュールさん、戻りました」
「───ま、まさか……そんな……」
ワナワナと震えるピュール。
立ち上がり、俺を抱き締めてきた。
腕も背中もくの字に曲がる程の力の籠った締め付けだ。
メキメキと骨が軋む。
そして、周囲を気にせず俺の名前を呼び叫んだ。
「ゲ、ゲルゥーーー!」
誰だよっ!
俺は、そのあまりの力強さに息苦しく、心で突っ込むのが精一杯であった。
┼┼┼
(揉まれた!揉まれた!揉まれたー!!)
ギルドをあとにしたシャーロットは、足早に寮を目指していた。
数年ぶりにピュールと再会し、溜め込んでいたものを全て吐き出してきた。
それはもう気分が良く、それこそ知らない冒険者にニッコリと微笑みを送ってしまうほど上機嫌で帰路についたのだが、その全てを台無しにされてしまった。
「なんなのよ! あの緑髪! 死ね!死ね!緑髪なんてみんな死ね!」
シャーロットは、声量大きめで毒を吐いたところで、仮面をつけた緑髪のヒーローを思いだした。
「いや、みんなじゃないわね。 仮面ブラックは違う。 ……しかし、ブラック、アナタはどこにいるの? アナタが魔族でも構わないから、一目会いたい……。 そしてお礼をさせてほしい…ハァ─……」
溜め息をつき、ふと空を見上げた。
そして、晴れ渡る青空一面に浮かぶ、雲のキャンパス。
ジッと見つめるシャーロット。
そして、ブラックを幻視した
「あれ……」
しかし、見つめ続けていると、シャーロットが幻視したブラックはモヤモヤとした輪郭になり、夢で何度も見た緑の髪をした彼の姿へと形を変えた。
しかし、夢の彼は顔がぼやけていて思い出せない。
だが、どちらの髪色も淡い緑で、何故か姿が重なるのだ。
ただし、夢の彼のほうが少し体つきが幼いか。
「……同一人物……? ……んなわけないか。でも、よく考えたら濃い緑の髪は見たことあるけど、淡い色したのは見たことないな。珍しいからか……あ、そう言えば、あのヘンタイ野郎も同じ色してたっけ…思わず逃げちゃったけど、今度見つけたらケチョンケチョンにしてやるわ!」
拳でもう片方の手のひらをパンッと叩くシャーロット。
淡い緑で連想するように思いだし、折角忘れかけていた感情が沸々と蘇ってきた。
シャーロットは、仮面ブラック、もといヴェルデをボコボコにすることを心に固く誓い、寮へと到着したのだった。




