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樹属性魔法の使い手  作者: 深海 和尚
王都魔法学校再入学編
61/68

編入試験?

ブックマークありがとうございます。

 次の日。


 俺は、借りていた宿をさっさと引き払い、すぐに学校へと向かった。

 そして、ピュールさんのおかげですんなりと受付を済まし終え、指定された寮室へと荷物を置いた。


 場所は二階。

 六畳ぐらいの部屋に二段ベッドが一つ。

 椅子二つにテーブルが一つ。


 今回は庶民部屋だ。

 二段ベッドがあるからもちろん二人部屋。

 けれど、見た限り相方はまだ決まっていないようだ。

 俺がこの部屋の主だ。


 しかし……貴重品の類いを隠す場所がない。

 金庫も無ければ、鍵付きの引き出しも何もない。

 庶民は金がないから盗まれる心配はないだろということだろうか。

 たとえ小銭だろうと盗まれたら痛いし、盗むやつは盗む。

 入口のドアも簡易な鍵で、セキュリティはがばがばだ。

 泥棒見習いの拙いピッキング技術でも数秒で開けられるだろう。

 この部屋に貴重品を置いて出掛けることは、自由に持って行って下さいと言ってるようなもんだ。

 街の宿も似たようなもんだったが、ここは酷い。


 よし、とりあえず下のベッドを占領しておこう。


 無造作に荷物を置き貴重品だけを持つと、次に指示されている場所、実技訓練所を目指し俺は部屋をあとにした。


 記憶を頼りに歩き続けること数分。

 見覚えのある白いドームが見えてきた。


 俺は少し遅れ気味であったことから、早足で駆けていった。

 

「おいっ、お前! 授業のあるこんな時間に何している?」

 と、数歩進んだところで背後から声をかけられた。


 振り返るとそこには一人の男とその両脇に女性。

 見た目からして、俺と同世代だろう。

 赤髪のロン毛。

 腰には剣を差している。

 そして、見た目からして鼻につく感じ。

 どうやら先生ではないようだ。

 なら、そんなあんたはこんな時間に何してるんや?


「すいません、今日から編入で来ました」

「ほぅ。──何年だ?」


 魔術師には見えない。

 剣士か?

 騎士希望のナンパ野郎か?

 

 そして腹ただしいほどにイケメンだ。

 だからこそ女性を侍らせられるのだろう。


 彫りが深く、鼻が高い。

 ハッキリした顔立ちで、さぞモテモテなんでしょうな? 

 ていうか、あいつ。ネグロに似てる気がする。

 人族版ネグロだ。


 両脇の女子がもたれかかっている。

 まじで何なのコイツら。


「六年です」

「……同学年か。 どこのクラスだ?」

「あの、それをこれから決めるんですが……」

「チッ。 まぁどこのクラスでも構わないが、派閥だけは間違うなよ」


 男はそう言うと、女を連れてさっさとどこかへ行ってしまった。


 ……派閥?

 そんなん知らねーけど、あの感じはアイツか?

 あのヤローなのか?

 女を侍らせているエロメンフォーの奴なんだろうな。



 さてと。

 余計な時間をくっちまったい。


 俺は気を取り直し、ドーム内へと足を踏み入れた。


 場内は静かだった。

 まぁこれだけの広さの中に俺を含め、三人しかいなければ当たり前か。


「ようこそ、いや、おかえりと言うべきなのか」


 その声は静まり返った場に隅々まで浸透した。


 ただのあいさつ。

 それだけなのに、俺を包み込むのは安心感だ。

 柔らかくも威厳のある声、というだけではない。

 聞いていて心地がいいと感じさせるのだ。

 入学式の時は演出に意識を奪われ気づけなかった。

 カリスマ性とでも言うのだろうか。

 身に纏うオーラはそんじょそこらの魔術師なんて話にもならない。

 それが彼、魔法学校校長グリムランドだ。


「こんにちは、ヴェルデ君。 私も校長もピュール君から話は聞いています。それと、ここでの会話に関しては他言しません。それにここは防音だから安心してください」

 

 マーリン先生だ。

 にっこりと微笑みながら話を続ける。


「この五年で大きくなりましたね。少ししか会っていませんが、見違えるようです。 生きていてくれて本当に良かったです」

「マーリン先生…ありがとうございます。 校長先生も…あれ?校長先生は俺のこと知ってます?」

「うむ。模擬戦には立ち会っていたのでもちろん。 と言いたいところだが、その時しか見ていないからの─、事前に説明がなければ分からなかったわ。ホッホッホッホ」


 校長先生は立派な髭を撫でながら笑う。


「……まぁそうですよね。 で、ここでは何を?試験は魔法を見せればよろしいですか?」

「それなんですが、特に何もないです」

「──え?」

「ヴェルデ君のことは分かっているので、今さら特にやることはないんです。 君と話をするために場所をここにしたということ、それに通常は試験があるので、普段と同じようにして怪しまれないようにしただけです」

 

 マーリン先生と校長が俺のために配慮してくれたのだ。


「そして、私がここにいるということはクラスは以前と同じになります。 仕事がある君にとってもその方が好都合でしょう」

 

 そう言うと、マーリン先生はどこから出したのか淡い緑のローブを投げ渡してくる。

 見覚えのあるそれは新品だった。


「ヴェルデ君、いや、ブラク君。 これも持っていなさい」


  続けてマーリン先生が差し出した右手には、御守りのような物が乗っていた。


「これは……?」

 

 古びたそれを受け取った瞬間に呪われんじゃないかと頭を一瞬過った。

 躊躇する。

 でも、マーリン先生がこのタイミングでそんなことをするわけないし。

 ということで、俺は恐る恐るそれを受け取った。

 

 それを手に持ち、俺は視線を御守りからマーリン先生へと移した。


「先せ──」


 その瞬間だった。


 マーリン先生が誰なのか分かった。

 いや、誰なのかではなく、誰と似ているのかが分かった。

 彼を纏っていた殻のようなものが割れたような、ぼやけていたものがクリアになったように彼を認識することができた。

 

 似ている。

 本で見たことのある、生きているはずのない()の大魔導師と瓜二つ。

 というか、その人そのものだ。


 しかし、校長のようなカリスマ性も圧倒的なオーラを感じない。

 それどころか、逆に波紋一つない水面のように静かだった。


「ふふ。その御守りは認識阻害の効果を持っています。 知っているけど、思い出せない。分かりそうでわからない。似ているけど、結びつかない。そして、存在感も目立たなくなります。


 五年経った君は、周囲からすぐに正体を知られることはないでしょう。 けれど、そのままならそれも時間の問題かもしれません。 ですので、必要なくなるまでそれは貸してあげます。 ちなみに二つあるので私のことは気にしなくて大丈夫です」

 

 隣にいる校長もウンウンと首を小さく振っている。

 御守りは気にしないけど、先生のことが気になるわ。

 先祖返り?

 本人?


「マーリン先生──」

「すいませんっ!あ、校長先生!」


 俺が質問しようとしたその時、後ろの扉から一人のおっさんが険しい表情をして入ってきた。


「そんなに急いでどうした?」

「……校長、勝手にいなくなられては困りますよ…。 午後の予定も詰まってるんですからね?ほら、早く行きますよ!」

 

 イライラとした様子で校長の手を引くおっさん。


「ホッホッホッ。 ブラク君、これで試験は終わりになるから教室へ行きなさい。 では、またの」


 一度も振り返りもせず、校長は引きずられるようにしてそのまま室内をあとにした。

 マーリン先生はというと、どうやってか、おっさんの入ってきたタイミングで姿を消していた。


 …………。


 俺はひとまず編入試験?を無事終わらせたので、すぐに自分の教室へと向かうことにした。



 ┼┼┼



 途中、少し迷いかけたが難なく教室前についた。


 ドアを静かに少し開け、そっと教室内を覗き見る。

 しかし、この角度から見えるのは教卓だけだ。

 

 見えるのは消えたマーリン先生。

 教壇に立っているのが見える。


 後で時間がある時にさっきの質問しよう。


 さっきの?

 ……何の?

 あれ?

 さっきまで聞こうとしていたことが何故か、頭からスッポリと抜け落ちているではないか。

 なんだっけ……。


「──えー、では、今日から来た編入生を紹介したいと思います。 では、ブラク君、入りなさい」


 えっ。

 気づいてんだ。

 唐突に呼ばれ、若干だが緊張する。

 心臓が早鐘を打つ。

 若干じゃねーぞこれ。



「失礼します!」


 肝心なのは最初の印象だ。

 万人受けするのは、しっかりと挨拶する奴だ。

 第一印象から明る過ぎな奴は虐めの候補に入る。

 根暗な奴は論外さ。

 俺はそんな失敗はやらかさない。


 壇上に上がるなり、俺はキレイに腰を折り、丁寧な挨拶をぶちかます。


「初めまして、わたくしブラクと申します。 みなさん、宜しくお願い致します」


 シンとする教室内。

 そんな中、数秒をおいて一人が反応する。


「あ、あなたっ!」


 なんかしくった??

 認識阻害の御守りも身に付けている。

 バレちゃいないはず。


「あ、あの時の!!」


 響き渡る女性の声。

 俺は頭を上げ、その子を見る。


 ───あ。

 

「くそヘンタイヤロー!」

 

 俺を指差して暴言を吐くのは、発展途上のあの子だった。

 

「あ、その節はお世話になりました。以後、気をつけますので宜しくお願い致します」

 

 ニッコリと微笑む俺。

 ついでにウィンクもおまけにつけちゃう。


 彼女はこれで全てを水に流してくれると、そう踏んだ矢先、空を切る音と共に彼女の投げた消しゴムが俺の額へピンポイントで命中したのだった。

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