仮面ブラック
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キラキラと地面に散らばる宝石群。
しかし、日の光を乱反射させて輝くその正体は、広範囲に散乱した凍った肉の破片であった。
バンは空中で絶命し、落下の衝撃で氷像と化した肉体を木っ端微塵に散らしたのだった。
「やばい、後処理が……」
氷が溶ければ、肉は日の下に晒され腐るだろう。
処理をしなければ他の魔物を引き寄せるかもしれないし、疫病が蔓延してしまうかもしれない。
それに幽霊化の可能性も…あれだけ原型を留めていなければ…大丈夫か?
そういうのは関係ないのか?
やばい、面倒くさい。
いっそのこと、あの子に任せるか……。
まあそれはそうと、この数の盗賊も問題だ。
この人達を王都まで運ぶのは俺でも難しい。
何度か往復すればいけるかもしれないけど。
それはやはり面倒くさい。
一度、王都に入って役人に報告して、あとは任せたほうが早いか。
それならあの肉片の処理もお願いてできるか。
よし。なら、こいつらが目を覚ます前に善は急げだな。
「──あ、ありがとうっ!」
俺が物思いに耽っていると、後ろから唐突に声をかけられる。
──あっ。
「えっと……大丈夫だった?」
「ええ…。 ほんとにありがとう。 おかげで助かった──助かりました……」
彼女は立ち上がり、腰を九十度に折り曲げた。
ピンと張った背筋に育ちの良さが出ている。
「あ─、それは良かったです。 ……え──っと、じゃあっ」
さっさと立ち去ろうとする俺。
可愛い子だとは思うけど、知らない子だし、何か面倒そうだし、俺、仮面だし。
「──あ、あのっ!」
まだ続くの?
早くしないと、盗賊の皆さんが目を覚ましそうだし。
「何でしょうか?」
「あ、あのお礼をさせてはいただけないでしょうか?」
「あ──、そういうの大丈夫なんで」
「……じゃ、じゃあ、せめてお名前だけでも教えてくださいませんか?」
顔がほんのり赤い?
少しソワソワしているような。
というか、よく見ればどこかで見たことあるような……。
………。
ダメだ、わからん。
誰だ、この人。
……しかし、名前か…どうしよう。
悪い人には見えないけど……。
「え─、か、仮面の…、あっブラクです。ブラク。そ、それじゃ俺はこれで──ゼピュロスフロート×エアーバースト!」
「あっ──」
まだ何かを言いたげな彼女。
手を伸ばし、宙を掴むような仕草をとっていた。
俺はそんな彼女を無視して上空へと舞い上がると、彼女の視界の外へと速攻で飛び出したのだった。
「……仮面ブラック……。風魔法の仮面ブラック……」
そんな呟きを独り漏らすシャーロット。
胸には暖かいものを感じ、その人を忘れないように何度も何度もその名前を心の内で反芻していた。
┼┼┼
ヴェルデが飛び出して暫くの間、シャーロットはその場で呆けていた。
遠くから聴こえる呼び声には何の反応も示さず。
「おいって!」
そう大声を出しながら肩を揺するのは同級生の男。
シャーロットの視界がぶれる。
男はハァハァと息を切らし、両手を膝につけ肩で息をしていた。
「どうしたんだよっ! 大丈夫か?!どっかやられたのか?!」
「──あっ、ああ、ドンナー」
休むこともなく、全速力で走り続けてやって来たドンナーだった。
頭から足まで汗でずぶ濡れである。
ポタポタと垂れる汗が地面に水玉のシミを作っていく。
「ハァ…ハァ…なんだよ、おい。 い、急いで来てみれば、フゥ─さすがシャーロットだな」
ドンナーは深呼吸をした。
そして、息を整えると辺りを見渡した。
「ほんとにこの人数相手に勝っ──」
「───しじゃないわ……」
「えっ?」
ドンナーはシャーロットの言葉がよく聞き取れず、シャーロットの顔を覗き見た。
「だから、アレは私がやったんじゃないの……」
「え?え? じゃ、じゃあ誰が……?」
「ブラックよ。 仮面ブラックが私を助けてくれたわ。 っていうかドンナー……、来るの遅いわよ」
「ごめん……って、これでも急いできたんだよ? それに襲われてるとか普通思わないし、気づかないよ。それに仮面ブラックって誰だよ!!」
「まぁそうね、来てくれてありがとう。確かによく気付いたわね?」
「ああ。 ダンジョンに出発しようと思ってたら、ちょうど遺体が運ばれてね…。そこに見覚えのある紋章が見えたからさ。 で、仮面ブラックって誰だよ!」
「………そう。 やっぱり殺されてるのね……」
シャーロットは暗い顔で俯く。
「そうだ。殺ったのはコイツらなんだろ?」
「…………うん。 大盗賊団バンディートよ」
「まじかよ……。 この人数を見てそうかな?とは思っていたけど……。で、どれが頭なんだ?」
ドンナーはキョロキョロと首を動かした。
しかし、見えるのはどうみても下っ端ばかり。
ドンナーはバン・ディートレンの顔を知らなかったが、それでも分かる程の小物感がする者しかここにはいなかった。
「頭領バン・ディートレンは……そこの氷の粒よ」
シャーロットに言われた方へドンナーは目を向けた。
そこには濁った氷の塊がいくつも転がっている。
白日の光に照らされているにも拘わらず、全く溶ける様子もなかった。
「あ、あれがバン・ディートレン? どうなってんだ…?」
「悪事を働いた末路よ…。 あれもここにいる奴等も全て仮面ブラックがやったの」
「……だから、誰なんだよそれ」
「知らないわ」
「……じゃあ誰だよ」
┼┼┼
同時刻。
王都正門近くにある森の中。
そこへ一人の少年が空より降り立った。
音もなく、気配も殺していたが今は昼間。
空を見上げれば一瞬にして見つかってしまうのだが、幸いにして飛行しているところを目撃されることはなかった。
「ふぅ。 いやー、普通に名乗ればよかったな……。 咄嗟にブラクとか言っちゃったよ……。人から勝手に言われるのはいいけど、自分から言うのは恥ずかしいな」
まぁそれはもうこの際どうでもいいや。
さっきの連中が目を覚ます前に早くしょっぴかないと。
ここの門番に言えば大丈夫か?
俺は少し俯くと、仮面へと手を添えた。
すると、片手でスッと簡単に外れた。
すぐに森の新鮮な気持ちのいい空気が顔へと流れてくるのが分かる。
やっと…やっと…鼻がかけるーー!
いやっほぉー!
俺はポリポリと鼻先をかきながら王都の南側にある正門へと向かった。
歩き始めると、それはすぐに見えてきた。
俺の知っている門番ではなかったのだが、槍を構えた男が二人立っていた。
前は一人だったのだが、増員したようだ。
何かあったのだろうか?
一人は欠伸をし、伸びをし、槍先に映った自分を見て髪型を整えている。
そこには緊張感の欠片も見えなかった。
平和そうで暇に見えるが……。
増員した理由が全くわからない。
もう一人に至っては居眠りをしている始末。
「すいませんっ!」
俺が声をかけると、門番はちょうど鼻毛を抜いたところで、涙目になった顔を向ける。
「は…は、はっくしょいっ!! ズズッ……すまない。 …ええっと、入るには身分証明の出来る物の提示及びお金の支払いになるが?
もしくは冒険者登録カードがあればそのまま入ることはできるが……」
唾きったなっ!
涎!涎!
きったな!
「あ、はい。 そうなんですけど、その前に報告することがありまして」
「どうした?」
「ここから南西にいった所で、盗賊のような風貌の人達が大勢倒れていましたので」
「なに?」
「馬車も見えたので、貴族の方かな? その方が、襲われていたようなので急いだほうがいいと思います」
俺の言葉に目を開く門番。
さっきまでのだらけた顔はそこにはなかった。
「ま、まさか……。バンディートか? 分かった! ご協力感謝する! おいっ!おきろっ!」
鼻風船がパンッと割れる。
居眠りをしていた男はその声にゆっくりと目を開いた。
「ああ? どうしたー? 魔物でも現れたかー?」
のんびりとした雰囲気の男。
もし魔物が現れてたしてもそれ焦らな過ぎだろうと、誰もが思うほどにゆっくりとし隙だらけであった。
「違うが、俺は国へ報告に行かねばならん! だからここは任せたぞ!」
そう言うと、鼻毛の男は門をくぐり走り去って行った。
「お、おう……。 ……で、君は入国希望かい? 手続きでいいのかな?」
門番の男は、走り去るもう一人の門番が見えなくなると、目を擦りながら俺へと喋りかけてきた。
「はい」
俺は返事をすると、冒険者登録カードを探す。が、あれ?……ない。
懐やポケットなども探すが見当たらなかった。
荷物を最小限にと適当に持ってきたのだが、それが仇になったようだ。
何かないかと探す。
すると、一つそれっぽいのがあった。
いけるか?
「……すいません。 これではどうですかね?」
手に出したのは紋章が刻まれた金属だ。
家紋が刻まれたエンブレム。
そう、ドライ先生に卒業の時に貰ったアレだ。
「き──、お前、これをどこで手にいれた?」
ん?
「えっと、ドライという魔法師にいただきましたが?」
「──な ん だ と! それはイースト家、ドライ・イーストか?!」
あれ?
なんかお怒り?
「──え、ええ。 どうかしましたか?」
すると、門番の顔がスッと変わる。
「いや……何でもない。う、うむ。よし、では入国を許可しよう。 両手をだせるか?」
門番の男はそう言うと、さっきまでの怒りの形相とはうって変わってニッコリと微笑んだ。
俺は訝しげに門番を見つつ、言われた通りに両手を差し出した。
すると、門番は両手の手首を合わせるようにして待てと言う。
そう告げた門番は、後ろを向きガチャガチャと金属音を鳴らし何かをし始めた。
しばし待つ俺。
その時。
──ガチャンッと振り向き様に俺の腕へと門番はソレをはめた。
冷たい。
一瞬、理解ができなかった。
意味が分からず腕を二度見をしてしまう。
俺の両腕に着けられたひんやりとしたそれは、紛れもない金属製の拘束具だった。
「捕まえたぞっ! 俺が捕まえてやった!」
………えっ?




