賞金首
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「捕まえたぞっ! 俺が捕まえてやった!」
………えっ?
なに?なに??
意味がわからない。
俺、捕まってんの?
はっ?
「ちょ、ちょ、何ですか!?これ」
「何ですか? っじゃねっーよ!はっ、馬鹿がっ! この、悪名高きイースト家の残党がっ! のこのこと紋章なんて持ってやって来やがってよ! って、あれ?紋章……? お前、まさか……イースト家の当主、ドライの弟子のか?!そうなのか?」
「………。そうですが…」
「まじかよっ! ハッハッハッハー! 最高だよ、お前! おい、お前は神か?幸福の神なのか? おかげで門番なんて安月給の仕事を辞めれるぜっ!」
門番の男は、愉悦を覚え満面の笑顔を見せた。
そして、指を一本ずつ折り曲げ、金勘定を始めた。
「あのー、門番さん?」
「──千、万……。 あ? 何だ?」
「もう僕は捕まっている身ですので、理由を教えてはいただけないでしょうか?」
すると、チッと舌打ちをする門番さん。
そしてめちゃくちゃ睨み付けてくる。
睨み付けたいのは俺の方だけどね。
門番は、嫌な顔をしつつもペラペラと語り出した。
「仕方ねぇなー。冥土の土産に教えてやるよっ! ドライ・イーストは逆賊なんだよ。
だから、イースト家の者、縁の者、それに弟子たちもみんな打ち首の命が出てる。
で、逃げた奴には懸賞金が懸かってんのさ。
しかもな、エンブレムを持ってる三人の弟子で、そいつらに懸かってる懸賞金がな、めちゃめちゃ高額なんだぜ? だからな、お前は俺にとって神様だ。一生、恩にきるぜ? 恩返しはしねーけどなっ! へっへ」
「………。えーっと………どういうこと? 逆賊って? 教えて!教えてクソ門番さん」
「あ? 今、クソって言ったか?」
「言ってません」
俺は即答する。
「んだよ。 じゃあ、これが恩返しな?
ドライは今の宰相を殺そうとしたのさ。 王にも刃を向けたとかなんとか。 もういいだろっ!ほら、いくぞ! こいっ」
門番は、ジャラッと拘束具につけられた鎖を引っ張った。
「ちょ、ちょっと待って! 何でドライ先生はそんなことをしたんですか?! 先生はどうなったんですか? 俺、弟子なんで教えて下さいよ!門バカさん」
「今、バカっつったよな? 絶対言ったよな?!」
「言わねーよ、バカ。 あ、すいません。 今の取り消しで。ささ、改めてどうぞ」
「知らねーよ!! とち狂ったんだとしても正気じゃねーよ! ドライがどうなったかは知らんし、噂では本人が見つからないから理由は詳しく分からないみたいだしな! もういだろっ!早くこいっ!!」
ぐいぐい引っ張る門番さん。
しかし、俺はテコでも動かない。
あの先生が?
逆賊?
お偉いさんの殺害容疑?
意味もなくそんなことをするのだろうか。
正気を無くした?
いや、それは…ない…と思いたい。
でも先生…ゴリラだったもんな。
脳ミソまで野獣っぽかったし。
理由はどうあれ、やってしまった。
事実は分からないが、世間的にはそうなっている。
そして、そのことによるその弊害がひどい…。
一族郎党全員打ち首……。
………。
先生……。
「じゃあ、先生は見つからないんですね? 死んだわけではなく、見つかっていないんですね?!」
「そうだよっ! ったく、いい加減にしろっ!」
なかなか歩き出さない俺にしびれを切らし、大声で怒鳴り付けてきた。
そして、左手で鎖を引き、俺の体を狙った蹴りを放つ。
しかし、俺は即座に身を屈めて躱した。
ヤツの鈍い蹴りなど掠りもしない。
そして体勢を崩し、がら空きとなった門番の脇腹へと手を向けた。
「エアーボム」
メキッという音がし、吹き飛ぶ門番。
「がっはぁ!!」
そのまま壁に激突し、白目を剥いて気絶してしまった。
肋骨の何本かは折れてしまっただろう。
とりあえずさっきの門番が戻る前に処理をしてしまわないと。
まずは拘束具。
これを外さなければ。
「エアカッター」
──キィン。
耳につく金属音がする。
しかし、数センチもある分厚い拘束具には少しの傷を付けただけで、切断することはできなかった。
「硬いな……魔力込めすぎると腕切っちゃいそうだしな」
俺は手を自分に引き寄せるにして、拘束具の裏を確認してみる。
すると、案の定というべきか、鍵穴があるのが見えた。
しかし、鍵があったとしても一人で開けることができない位置にある。
「鍵穴があるなら、門番さんが持ってるんだろうな。よし」
それならばと、俺は足を投げ出して壁にもたれかかっている門番の所へと急いで向かった。
泡を吹いて気絶している門番。
俺は杖を出し、地面へと向けた。
「薔虹薇──赤、白、黒」
すぐに地面から続けざまに三輪の花が咲いた。
どれも数枚の花弁が、中心に向かい渦を巻くように円く型どった花である。
色は赤、白、黒の三色。
まずは赤。
その効果は『刺激』だ。
俺はすぐに赤を摘み取り、門番の鼻へと近づけた。
「──うっ……」
鼻孔から吸い込まれた香りが脳を刺激。
門番は、すぐに意識を取り戻し目を覚ました。
急かさず、俺は白の花を嗅がせた。
時間にして二十秒程だろうか。
『忘却』──。
白のパフュームには、吸い込む時間一秒あたりにして、大体一分前までの記憶を忘れさせる効果があるのだ。
ゆっくりと開いた門番の目は焦点が合っていない。
涎を垂らし、心神を喪失したように呆けている。
俺は、門番が上手く匂いを嗅いだことを確認すると、さらに黒薔虹薇を嗅がせた。
黒の効果は『暗示』。
暗示の効果ははっきり言って強力だ。
嗅がされた直後に受けた命令はほぼ不可避である。
なら、『忘却』をする必要はないと思えるのだが、暗示は脆いのだ。
何かの拍子に解けてしまうことがある。
だから『忘却』と『暗示』のセットで彼へと施す。
解けても俺とのやりとりを思い出さないように。
これで一先ず俺が捕まることはないだろう。
ちなみに黒と白は希少であり、図鑑でしか見たことがなかった。
というか、存在してるかも怪しい。
まぁそれは今はどうでもいいけど。
「門番さん、門番さん。 俺の腕にはめたこの拘束具を鍵で外してください。そして、俺は冒険者なので通行許可を出してください。 俺が通過したら通常通りの業務をしてください。 いいですか? 俺は冒険者であなたは通行させた。 それ以外は特に何もなかった。何も覚えていない。 ──では、どうぞ」
俺が言い終えると、虚ろな表情の門番は懐から鍵を取り出し、カチカチと拘束具を外してくれた。
そして、鍵と拘束具を片付けると、扉を開け敬礼のまま直立不動で俺を見ている。
まだ焦点はズレ、涎を垂らし続けている。
こわっ…というか、気持ち悪い。
敬礼しながらあの顔は無しだわ。
ふぅ。
と、こんなとこで時間かけてる場合じゃないな。
誰かに見られないうちにさっさと入ろう。
俺はそんな門番を横目にさっさと門を通過し、無事に王都への入国を果たした。
そして俺とすれ違うようにして、何人もの衛兵が走り去って行ったのだった。




