オーガ?
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「おいおい、オッチャン! それはダメだよー」
俺の声に歩みを止めるおっさん。
正面に見える一つ髷が揺れ、ゆっくりとこちらへ振り返った。
「ちっ…役に立たん奴等だ。 しかし、お前…誰だ? 魔族かと思ったけど、その髪に肌の色は人間か?」
「……どうなんでしょうかね?」
俺は仮面を外さない。
仮面の男。
あ……。
か、痒い。
鼻先が猛烈に痒い!
くっそー!痒いと思ったら余計に痒い!
それでも俺は仮面を外さない。
仮面の男だから。
「まぁいいだろう…。 ああ──、くそっ! お前のせいでめちゃくちゃだ」
イライラした様子のおっさん。
体を完全に俺へと向け、額に手を当て天を仰いでいる。
「……おっちゃんは盗賊で、そこの子は仲間ではないってことで間違いないですか?」
「ああ? 俺は大盗賊団バンディートが頭領、バン・ディートレンだ。 そいつを拐って金をガッポリ稼ぐはずだったんだがなっ。 ああ、そうだ! お前、うちに入らねぇーか?」
握手を求めるように手を伸ばすバン。
距離は離れていて手が届くことはないが。
自分が出した提案に溜飲がいくらか下がったのか、イライラが少し落ち着いたようにも見える。
しかし、そんな提案を俺が飲むわけもなく。
「盗賊か。 お金ねぇ──……盗賊するより盗賊を役人に突き出したほうが、誰も困らずに金になるな。 うん、全員しょっぴく」
閃いたようにポンッと拳で手のひらを叩く。
そんな俺を見て、顔を歪ませていくバン。
「そうだな…まぁ無理か。こっちもこれだけヤられたんだっ! ぶっ殺してやるよっ!! お前もシャーロットもぶっ殺して仕切り直しだ!」
そう言うと、バンは後ろのポケットに手を突っ込んだ。
取り出したのは一粒の赤い玉。
親指と人差し指に挟まれたその玉を、バンは口に放り込んだ。
嗤うバン。
そしてごくっと喉を鳴らす。
「もう知らねーからな。 どうなるのかは俺にも分からん。 もうお前…ら…ら…あ…あ あぁぁガガガァァァア!!」
赤い粒を飲み込んですぐに白目を剥き、肌を青黒く変色させていくバン。
全身の筋肉が隆起し、シャツのボタンが弾け飛んでいく。
苦しいのか胸をかきむしり、その勢いでシャツを破き捨てた。
俺はその様子を何もせずに眺めていた。
何が起きるのか興味があったからだ。
恐怖も脅威も感じられなかったからだ。
じっと見ていると、奥にいる彼女の息を呑む姿が目に入った。
「……オーガ…」
オーガ?
彼女の呟きが聞こえた。
バンは今も変態中だ。
上半身裸でアーアー言っている姿は正に変態だ。
変態野郎だった。
オーガとはオークよりも遥かに強い魔物である。
獰猛で残忍。理性や知性は乏しく、凶暴で肉食。
それが俺の知るオーガであるが…。
人間がオーガになるというのは聞いたことかない。
俺が知らないだけか?
オーガは人間からというよりも、むしろ鬼族が魔物化したらオーガのような…。
その辺のことはよくわからないな。
と、考えてる時間もあまりなさそうだ。
バンは既に呻き声のようなものをピタリと止め、こちらを睥睨している。
「エアーアーマー」
俺は風魔法を使う。
体全体を風の膜がうっすらと覆う。
俺が淡い緑の光に包まれた次の瞬間、バンの筋肉で膨れ上がった体躯がブレた。
バンは一瞬にしてして俺との間合いを詰める。
そして繰り出すは腹を狙った左のアッパーカット。
その動きは俺には見えていた。
のだが、衝撃を逃がすようにして敢えて正面から受けることにした。
しかし、いなし切れなかった俺は、その反動に負け宙に浮く。
「うおっ」
そこへ激しい風切り音のする右ストレートが飛んできた。
脳内に響く鈍い音。
歯を食いしばり、肘を曲げ防御する。
そして、そのまま彼女とは反対の方向へ吹っ飛ばされていった。
空中で受けたが故に踏ん張りが効かなかったのだが、それを利用して彼女が巻き込まれないように距離をとる。
肉体へのダメージは一切なかった。
「うん、なかなかいけるね」
《エアーアーマー》は空気を収束させ膜を作り、それを何層も身に纏うとことで物理的ダメージ透過させず、その威力を軽減する風属性魔法た。
俺のオリジナル魔法である。
倒れている盗賊の集団の場所まで飛んだところで、体を回転させて着地した。
ぐにゅっと肉を踏む嫌な感触が伝わる。
「うぁっ、と行き過ぎた」
前を見れば、脚にぐっと力を入れるバンが見えた。
瞬間、姿が消える。
その姿を見た俺は、すぐに後ろへ跳び下がった。
刹那。
俺がいた場所へと爆弾でも落ちたような轟音と衝撃が走った。
「うわぁ……」
そこに立った俺が悪いのか?
バンは倒れていた盗賊の数名を肉片に変え、地面を抉っていた。
片膝をついているバンはゆっくりと立ち上がる。
その顔にはいつの間にか牙のようなものまで生えている。
「もう、人間じゃないな……ほんとにオーガみたいだわ…見たことないけど」
「ガアァァァァ!!!!」
突如、咆哮を上げるバン。
遠くで大量の鳥が羽ばたき、空を飛んでいくのが見える。
仕留めきれないのが腹ただしいのだろうか。
とりあえず、声でかい。
「エアーアーマー×エアーボム×エアーボム」
次は俺の番。
エアーアーマーをかけ直す。
そして、両手に圧縮された空気の球を発現させた。
《エアーボム》周囲の空気と水分を圧縮させ、空気爆発を起こす球だ。
圧縮の度合いにより、高温を伴った爆発にもなり殺傷能力が高い。
俺のオリジナル魔法の一つである。
「はっ!?」
ダメージはないが、殴られたであろう打撃音と共に突如吹き飛ばされた。
一瞬、何が起こったかも分からなかった。
ハッとした瞬間、身体が宙を舞っていた。
上空に巻き上げられ、下に拳を振り抜いたバンの姿が目に入ったことで、何が起きたのかを理解した。
バンはギアを上げたのだろう。
さっきとは桁違いの速さだった。
ダメージは残らなかったが、生身ならさっきの盗賊と同じことになっていただろう。
脚を折り曲げるバン。
そして、飛び上がった。
「がぁっ!!」
俺は地面に叩きつけられバウンドした。
肺から息を吐き出す。
バンは両手を合わせたハンマーで俺の背中を振り抜いたのだった。
頂点まで達し、重力に引っ張られ落ちてくるバン。
俺は追撃を警戒する。
が、しかし、空中での移動手段をもっていないのだろう。
ただただ無防備な的となって落ちてくるだけだった。
今ので決めたかったのかもしれない。
すぐに立ち上がる俺に、気のせいかもしれないが、動揺したような表情が窺えた。
少し頭が回る。
軽く脳震盪を起こしたのだろう。
まぁその程度しかダメージはないが。
さてと。
盗賊とは言え、これ以上の被害が出るのも良くはない。
風魔法の実戦練習をもう少ししたい気もするけど、これで決めさせてもらう。
「黒王樹」
俺は左右の手に二本の杖を構える。
すぐに唱えるはオリジナル合成魔法。
「黒王樹『モード矢』×神乃愛 千之雪×エアーバースト」
空中に出現した矢形を模した黒王樹。
一瞬にして黒から白へとその様相を変えた。
そして、キュンッという音を残しバンへと向け射出した。
「ガアァァァァ────」
撃ち出された白い矢は、落下中のバンの胸をいとも簡単に貫いた。
悲鳴のような声を上げたバン。
しかし、悲鳴はすぐに小さくなっていく。
貫かれた胸を中心に、全身を隈無くすぐに凍らせていったのだ。




