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樹属性魔法の使い手  作者: 深海 和尚
王都魔法学校再入学編
55/68

オーガ?

ブックマーク&評価ありがとうございます。

「おいおい、オッチャン! それはダメだよー」

 

 俺の声に歩みを止めるおっさん。

 正面に見える一つ髷が揺れ、ゆっくりとこちらへ振り返った。


「ちっ…役に立たん奴等だ。 しかし、お前…誰だ? 魔族かと思ったけど、その髪に肌の色は人間か?」

「……どうなんでしょうかね?」

 

 俺は仮面を外さない。

 仮面の男。

 あ……。

 か、痒い。

 鼻先が猛烈に痒い!

 くっそー!痒いと思ったら余計に痒い!

 それでも俺は仮面を外さない。

 仮面の男だから。


「まぁいいだろう…。 ああ──、くそっ! お前のせいでめちゃくちゃだ」

 

 イライラした様子のおっさん。

 体を完全に俺へと向け、額に手を当て天を仰いでいる。

 

「……おっちゃんは盗賊で、そこの子は仲間ではないってことで間違いないですか?」

「ああ? 俺は大盗賊団バンディートが頭領、バン・ディートレンだ。 そいつを拐って金をガッポリ稼ぐはずだったんだがなっ。 ああ、そうだ! お前、うちに入らねぇーか?」

 

 握手を求めるように手を伸ばすバン。

 距離は離れていて手が届くことはないが。

 自分が出した提案に溜飲がいくらか下がったのか、イライラが少し落ち着いたようにも見える。

 しかし、そんな提案を俺が飲むわけもなく。

 

「盗賊か。 お金ねぇ──……盗賊するより盗賊を役人に突き出したほうが、誰も困らずに金になるな。 うん、全員しょっぴく」

 

 閃いたようにポンッと拳で手のひらを叩く。

 そんな俺を見て、顔を歪ませていくバン。

 

「そうだな…まぁ無理か。こっちもこれだけヤられたんだっ! ぶっ殺してやるよっ!! お前もシャーロットもぶっ殺して仕切り直しだ!」

 

 そう言うと、バンは後ろのポケットに手を突っ込んだ。

 取り出したのは一粒の赤い玉。

 親指と人差し指に挟まれたその玉を、バンは口に放り込んだ。

 嗤うバン。

 そしてごくっと喉を鳴らす。

 

「もう知らねーからな。 どうなるのかは俺にも分からん。 もうお前…ら…ら…あ…あ あぁぁガガガァァァア!!」


 赤い粒を飲み込んですぐに白目を剥き、肌を青黒く変色させていくバン。

 全身の筋肉が隆起し、シャツのボタンが弾け飛んでいく。

 苦しいのか胸をかきむしり、その勢いでシャツを破き捨てた。

 

 俺はその様子を何もせずに眺めていた。

 何が起きるのか興味があったからだ。

 恐怖も脅威も感じられなかったからだ。


 じっと見ていると、奥にいる彼女の息を呑む姿が目に入った。


「……オーガ…」


 オーガ?

 彼女の呟きが聞こえた。

 バンは今も変態中だ。

 上半身裸でアーアー言っている姿は正に変態だ。

 変態野郎だった。


 オーガとはオークよりも遥かに強い魔物である。

 獰猛で残忍。理性や知性は乏しく、凶暴で肉食。

 それが俺の知るオーガであるが…。

 人間がオーガになるというのは聞いたことかない。

 俺が知らないだけか?

 オーガは人間からというよりも、むしろ鬼族が魔物化したらオーガのような…。

 その辺のことはよくわからないな。

 と、考えてる時間もあまりなさそうだ。

 

 バンは既に呻き声のようなものをピタリと止め、こちらを睥睨している。


「エアーアーマー」


 俺は風魔法を使う。

 体全体を風の膜がうっすらと覆う。


 

 俺が淡い緑の光に包まれた次の瞬間、バンの筋肉で膨れ上がった体躯がブレた。

 バンは一瞬にしてして俺との間合いを詰める。

 そして繰り出すは腹を狙った左のアッパーカット。

 その動きは俺には見えていた。

 のだが、衝撃を逃がすようにして敢えて正面から受けることにした。

 しかし、いなし切れなかった俺は、その反動に負け宙に浮く。

 

「うおっ」


 そこへ激しい風切り音のする右ストレートが飛んできた。

 脳内に響く鈍い音。

 歯を食いしばり、肘を曲げ防御する。

 そして、そのまま彼女とは反対の方向へ吹っ飛ばされていった。

 空中で受けたが故に踏ん張りが効かなかったのだが、それを利用して彼女が巻き込まれないように距離をとる。

 肉体へのダメージは一切なかった。


「うん、なかなかいけるね」


 《エアーアーマー》は空気を収束させ膜を作り、それを何層も身に纏うとことで物理的ダメージ透過させず、その威力を軽減する風属性魔法た。

 俺のオリジナル魔法である。


 

 倒れている盗賊の集団の場所まで飛んだところで、体を回転させて着地した。

 ぐにゅっと肉を踏む嫌な感触が伝わる。


「うぁっ、と行き過ぎた」

 

 前を見れば、脚にぐっと力を入れるバンが見えた。

 瞬間、姿が消える。

 

 その姿を見た俺は、すぐに後ろへ跳び下がった。


 刹那。

 

 俺がいた場所へと爆弾でも落ちたような轟音と衝撃が走った。


「うわぁ……」


 そこに立った俺が悪いのか?


 バンは倒れていた盗賊の数名を肉片に変え、地面を抉っていた。

 片膝をついているバンはゆっくりと立ち上がる。

 その顔にはいつの間にか牙のようなものまで生えている。


「もう、人間じゃないな……ほんとにオーガみたいだわ…見たことないけど」

 

「ガアァァァァ!!!!」

 

 突如、咆哮を上げるバン。

 遠くで大量の鳥が羽ばたき、空を飛んでいくのが見える。

 仕留めきれないのが腹ただしいのだろうか。

 

 とりあえず、声でかい。

 

「エアーアーマー×エアーボム×エアーボム」


 次は俺の番。

 エアーアーマーをかけ直す。

 そして、両手に圧縮された空気の球を発現させた。


 《エアーボム》周囲の空気と水分を圧縮させ、空気爆発を起こす球だ。

 圧縮の度合いにより、高温を伴った爆発にもなり殺傷能力が高い。

 俺のオリジナル魔法の一つである。


「はっ!?」


 ダメージはないが、殴られたであろう打撃音と共に突如吹き飛ばされた。


 一瞬、何が起こったかも分からなかった。

 ハッとした瞬間、身体が宙を舞っていた。


 上空に巻き上げられ、下に拳を振り抜いたバンの姿が目に入ったことで、何が起きたのかを理解した。

 バンはギアを上げたのだろう。

 さっきとは桁違いの速さだった。

 ダメージは残らなかったが、生身ならさっきの盗賊と同じことになっていただろう。


 脚を折り曲げるバン。

 そして、飛び上がった。


「がぁっ!!」


 俺は地面に叩きつけられバウンドした。

 肺から息を吐き出す。


 バンは両手を合わせたハンマーで俺の背中を振り抜いたのだった。

 

 頂点まで達し、重力に引っ張られ落ちてくるバン。

 俺は追撃を警戒する。

 が、しかし、空中での移動手段をもっていないのだろう。

 ただただ無防備な的となって落ちてくるだけだった。


 今ので決めたかったのかもしれない。

 すぐに立ち上がる俺に、気のせいかもしれないが、動揺したような表情が窺えた。


 少し頭が回る。

 軽く脳震盪を起こしたのだろう。

 まぁその程度しかダメージはないが。

 

 さてと。

 盗賊とは言え、これ以上の被害が出るのも良くはない。

 風魔法の実戦練習をもう少ししたい気もするけど、これで決めさせてもらう。

 

黒王樹(ブラックキングウッド)


 俺は左右の手に二本(・・)の杖を構える。

 すぐに唱えるはオリジナル合成魔法。


黒王樹(ブラックキングウッド)『モード(アロー)』×神乃愛(アガペー) 千之雪×エアーバースト」

 

 空中に出現した矢形を模した黒王樹(ブラックキングウッド)

 一瞬にして黒から白へとその様相を変えた。

 そして、キュンッという音を残しバンへと向け射出した。


「ガアァァァァ────」


 撃ち出された白い矢は、落下中のバンの胸をいとも簡単に貫いた。

 悲鳴のような声を上げたバン。

 しかし、悲鳴はすぐに小さくなっていく。

 

 貫かれた胸を中心に、全身を隈無くすぐに凍らせていったのだ。


 

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