戦いの行方
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周囲は木々に囲まれている。
森の中にある少し拓けた場所。
その中心で、私とバンは戦闘を繰り広げていた。
バンは一本のナイフで鉄球をかれこれ十五分は捌いている。
黒塗りの刀身は折れる気配がない。
素材は不明だが、鉄球を弾く度に聞こえてくるのは金属音。
近づくことができないバンは、埒があかないと隙をついて二本目のナイフを取り出した。
ふくらはぎ側面に縛り付けておいた隠しナイフだ。
鏡面になっているのか、そのナイフはキラキラ光ってと見えた。
バンは突如、そのナイフを使い燦々と降り注ぐ日を反射させた。
「━━ッ!」
私は急に光ったナイフに目を瞑る。
戦闘中に目標物から目を離すのは御法度だ。
けど、だから何?
まだ私とバンとの距離は十分にある。
これだけ離れていれば一瞬目を瞑ったくらいではどうともならない。
すぐに目を開くと、二本のナイフを構えたバンが真っ直ぐ向かってくるところだった。
一本は黒いナイフ。
一本は鏡面のナイフ。
だったはずだけど、今は黒のナイフだと思っていたのが銀の普通のナイフになっていた。
一瞬の隙に黒いナイフを銀に変化させた…?
違和感はあったが、関係ない。
捻り潰すのみ。
私は再度、鉄球を繰り出した。
バンは体を捻り正面からきた鉄球を躱す。
勢いを殺さずに片手を地面について逆立ちで回転し、横からきた鉄球も躱す。
さらに足を地面につけるやすぐにバク転をし、脳天を狙った垂直に降ってくる鉄球を回避した。
バンは余裕で躱し続けている。
いや、バンは遊び続けていた。
全身で体を動かしているバンは、タイミングを見ながらの平常運転。
対し、腕を動かし続けている私が肩で息をし始めた。
なぜ、あんなにも体力があるの?
なぜ当たらないの!!
私は左右の手のひらを開き、パンッと合わせた。
魔力を大量に込める。
すると、その音に合わせるようにして、鉄球が無数の小さな玉へと変化した。
数十はあるだろう。
私自身、その数は把握しきれていない。
鉄の小さな玉は、バンを取り囲むようにしてドーム状に浮かんだ。
私は手のひらを合わせた状態から、指先だけをくっつけ、そしてぐにゅっと玉が伸びるイメージをしながら指先を離した。
「鉄針」
玉は一つ一つが長い円錐形の尖った針へと変形した。
先端の全てがバンへと向けられている。
しかしバンは動揺すらしていないようだった。
しかも嗤った……?
バンは躱しきれないと観念した?
バンはナイフを落とし、両手を上げ、観念のポーズだ。
しかし、私は手を止めない。
「針雨」
私の声が響き渡る。
ドドドドドッ━━━━。
その声をかき消す程のけたたましい音がバンへ
と襲いかかった。
大量の砂埃が舞い上がり、バンの姿がかき消えた。
「やった……?」
ゆっくりと舞う砂が落ちていく。
段々と良好になる視界。
私はじっと視線を離さない。
「くそっ」
私の口から出たのは思っていたのとは違うセリフ。
普段なら使わない汚い言葉を吐いた。
地面に突き刺さる無数の鉄針。
しかし、針ネズミと化した地面には血液一滴も見当たらなかった。
「どこいった!?」
「くくっ。 なかなかいい腕じゃないか」
突如、すぐ背後から声が聞こえた。
首筋に当てられたヒヤリとしたもの。
「なっ、どうして……」
「ククク…ビックリしたか? これな、『幻影のナイフ』って言ってな、相手に幻を見せるんだ」
プラプラと私の目の前にナイフをちらつかせた。
銀色のナイフだった。
「使えるのは一日一回。 刀身が黒くなってたらリセットされているのさ。 まぁ色々制限あるし、初見にしか使えないしで使い勝手悪いだけどな。 刃は硬い素材で刃こぼれ一つしないから重宝してるんだがな」
「…………」
「いやー、お前がこれを知らなくてよかったわ」
「…………」
「まあ、バレてるなら他の手もあったけどな」
「……いつ? いつ入れ替わったのよ」
「あー、目を瞑った時? 一瞬目を閉じたろ?」
バンは、ちらつかせていた銀色のナイフを首筋にあて、鏡面のナイフを視界に入るようにしてきた。
自分の姿が写りこんでいるのが見えた。
ついでに、ニヤニヤとするバンの顔も。
目を閉じるのはやはり致命的だった。
それを改めて痛感することになった。
光を当てられたあの一瞬、あの瞬間にどうやってか、実体と幻のバンが入れ替わったみたい。
近くには木々が沢山あった。
やろうと思えば身を隠すのとはできたのか……。
もう少し注意して見ていれば……。
今さらか……もうダメ。
魔力的にも体力的にも……。
「悔しい顔してるな、シャーロット。 だが、おかげで学んだな? あ、でももう必要ないな! ククク。 あーあ、これからが大変だな━━。 わりぃな、俺たちにも生活あるからな。 なら、働けよってか? カッカッカッ」
その顔には悪びれた様子など一切見当たらない。
笑って手元が揺れ、ナイフが少し浮いた。
「…………ッ!」
バンが笑って油断してるならと、振りほどいて逃げようと脚に力を込めるが、ナイフが私の首筋に少し沈みこんだ。
つーっと流れる一筋の赤い液体。
「ダメダメ。 逃げられないよ? ━━じゃあ、さらに絶望を与えようか?」
そう言うと、バンは片手をバッと挙げた。
すると、周囲の森からぞろぞろと姿を現す者達。
素行の悪さが一目で分かる出で立ち。
盗賊団メンバーであった。
逃げ場がないように、三桁はいるその人数で周囲を隙間なく埋め尽くしていた。
「いつの間に……こんなに……」
「ああ。 お前があの球の操作に夢中になってる間にゆっくりとな。 ……それはそうと、さて、シャーロットはまだ幼いが、それが趣味の奴もいるからな? まぁ━、せいぜい頑張れ」
各々が様々な武器をもち、下卑た笑みを浮かべた男達。
酒を煽る者。
クッチャクッチャと、鳥肌が立つような咀嚼音を出している者。
涎をたらし、鼻息を荒くジリジリと近づく者。
悪い未来を容易に想像させられる。
命が助かっても地獄。
むしろ死んだほうが天国……かな。
うう……。
助けて……。
助けてよドンナー……。
私は絶望に膝が震えだした。
既にナイフは突きつけられていなかった。
私は立っていられなくなり、膝を地面に着く。
段々近づいてくる盗賊達の声が聴こえる。
バンも仲間達と一緒になって笑っていた。
「━━━なっ、なんだ?」
「━━━お、おい! お前っ!」
何か笑い声とは違うのも混じっている。
「君、大丈夫かい?」
誰だろ…。
盗賊の男達にしては幼い声がする。
「おーい」
何か聴こえるけど、頭に入ってこない。
「おーい、君は大丈夫なのかい?」
「おいおい、何だお前は!」
幼い声に続いてバンの声も聞こえる。
バンの大声には怒気が含まれているように感じる。
何だろ…でももういいや……。
「おーいって……ちょっと聞いてよ…」
何だか優しい声……。
「てめぇが聞けやゴラァッ!!」
怒った盗賊の一人。
彼を見ると、顔はこっちを向いていた。
しかし、視線は私の上。
上…?
私は盗賊の視線をなぞるように空を見上げた。
するとそこには、ローブをはためかせた緑の髪をした男の子が浮かび、私を見下ろしていた。




