大盗賊団バンディート
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街道の両脇には緑の森が広がっている。
よく晴れた清々しい日であった。
「あー、気持ちのいい日だわ。 この少しの揺れが程好くて眠くなっちゃう 」
しっかりと舗装された道でないため、馬車は時折ガタガタと揺れていた。
乗り慣れた座席には柔らかい素材が敷き詰められており、それが衝撃を吸収することで、馬車の揺れを抑えている。
それはもう、眠りを誘う心地よさを感じさせた。
私は車内で昼食を食べ、揺れに揺られて気づけば王都を出発してから既に一時間が経過していた。
「シャーロット様。 宜しければお昼寝してくださいませ」
バンが馭者台から前を向いたまま話しかけてきた。
私の漏れた心の声が聞こえてしまったみたい。
「ええ。 どうもありがとう。まだ大丈夫なのだけど、もしかしたら寝てしまうかも……でも、何かあったらすぐに起こしてね」
「かしこまりました、お嬢様」
「それから、そのお嬢様はやめてね。 シャーロットでいいわ! お嬢様なんて柄ではないし」
私は手の中で三つの小さな鉄球をくるくると遊ばせながら言う。
「そ、それは…」
私は、馭者台に繋がる小窓を開け顔をのぞかせた。
さらさらと、少し長めに切り揃えられたバンの髪が風に揺れている。
そして、彼がはめている丸メガネの銀フレームが日の光に反射していた。
「わかった?」
「は、はい。 シャーロット…様」
「うん、よろしい。 で、バンの予定ではどれくらいで到着なの?」
「そうでございますね…二日…いや、一日あればよろしいかと」
「へぇー。 バンは前の馭者よりも優秀なのね。 あの人は二日から三日はかかっていたわ」
「………。 左様でございますか。 彼は慎重だったのかもしれませんね…」
バンは少し詰まったように声を出した。
周囲からは鳥の囀ずる音が聴こえてくる。
長閑な森が続いていた。
「あら。 アナタは慎重じゃないのかしら?」
「……いえ。 慎重…でございます」
「そう。 その割には大胆な行動に見えますけど」
私は、独り言のように呟いた。
「はっ? ━━あ、いえ、失礼致しました。 よく聞き取れなかったのでもう一度よろしいですか?」
「ううん、何でもないわ。 バン、アナタ達はこの近くを根城にしているのかしら?」
「シャーロット様。達、とおっしゃいますのは?」
見える風景は代わり映えしない森が続いているが、いつの間にか鳥の囀ずりが聴こえなくなっていた。
周辺は閑散とし、車輪が砂を蹴る音だけが聴こえていた。
「だから、アナタ達バンディートのアジトはこの辺にあるのかって聞いてるのよ」
私のその一言に、バンを取り巻く空気が一変したのが伝わってきた。
「………。 シャーロットさ、いや、シャーロット。 いつから気づいていた?」
バンが手綱をひき、馬が足を止める。
流れる沈黙。
私は襲撃に備え警戒するが、何も起こらなかった。
扉開き、ゆっくりと馬車を降りる。
すると、既に地に足をつけたバンが手を後ろ手に組んで、こちらを見据えていた。
「アナタ、そのジャケットどこで手に入れたのよ」
ジャケットに視線を落とすバン。
しかし、私への警戒は怠っていない。
「これか? これはうちの団員にそれっぽいのを用意させたのさ。 どうだ?似合うだろ?」
「……ふん。 どうでもいいわ、そんなの。 あのね、うちで雇っている者にはみんな商会紋が入っているものを着てもらっているのよ」
「………」
「慎重? 笑わせないで」
「くそっ……アイツらぁ。ちゃんと下調べしろって言ったのに…これは罰を与えなくてはなぁ」
バンは忌々しいといった顔をし、片手の拳でもう片方の手のひらを叩いた。
「それにね、彼じゃないのよ」
「あ?」
「うちの馭者は全て女性なのよ」
「…………」
「一日で着かない場所へ男性と二人きりなんてこと、父が許さないわ」
すると、バンは額に手を当て嗤った。
「……くっくっくっ。 アーハッハッハッ! じゃあ何だよ、最初からダメじゃねーか! 何だよ何だよ、それならあっさり殺らずにやることやるんだったなー」
「なっ━━」
「ああ。 男だと思って確認せずに殺っちまったわ。 あーあ」
「アナタ……」
メガネをゆっくりと外すバン。
黒のジャケットを脱ぎ、それでメガネをくるくると包むと、離れた地面へと投げ置く。
そして、ポケットから取り出した茶色の革紐で、髪を一つ髷に結んだ。
そして、目を細めうっすらと笑みを浮かべる。
馭者としての顔は既にそこにはなく、悪行を幾度もこなしてきた表情が貼り付けられていた。
「待たせたな。 俺が大盗賊団バンディート頭領、バン・ディートレンだ。 ━━さて、 お前が思う通り、ここから俺らのアジトは近い」
「…………」
私はじっとバンを見つめる。
「シャーロット。お前に選択肢をやろう。このまま一緒に歩いていくか、ケガして怖い思いをして一緒に歩いていくか、どっちがいい?」
「…………」
私は微動だにもしない。
彼の武器がどこにあるのか、魔法を使うのか、どんな戦いをするのか、仲間はいるのか、とにかく観察をする。
「……おいおい、俺は賢い女は好きだが、無視されるのは嫌いだぜ?」
「…………ふん。 アンタに好かれようが嫌われようがどうでもいいわ! 一応聞いておくけど、目的は?何?」
「ハッハッ! そんなことを盗賊に聞くのかい? 愚問だぜ、シャーロット」
今はまだ仲間の気配はしない。
いける。
「……そうね。 愚の骨頂だったわ…。私の答えは最初から決まってる!」
「おお? どっちだ?」
私は三つの鉄球をジャグリングさせた。
球は空中で円を描く。
「アナタを倒して捕まえるのよっ!」
私は言い切ると共に、右手の人差し指と中指をバンに向け突き立てた。
瞬間。
ジャグリングしていた球は目に止まらぬ速さで、飛び出した。
「ハッハ━━!! 滾るぜ っ!!」
バンは腰の後ろ側に隠してあったナイフを素早く取り出す。
そして狙いをすまし、切っ先をそっと球に当てた。
球の軌道がずれる。
二個目、三個目と同じことを繰り返すバン。
しかし、顔の間近を通過した三個目が頬を掠めた。
切れる頬。
そこから一筋の血液が流れ落ちていく。
「ギリギリだなー! 楽しいぜっ!」
嗤うバン。
そして、腕で頬の血を拭うと、ナイフを逆手に持ち替え疾駆した。
「まだまだよっ!」
私は左右の人差し指と中指だけをピンと伸ばし、クイクイと操作した。
球は空中を自由自在に動き回り、バンを追尾していく。
しかし、ギリギリで当たらない。
当たりそうで当たらない。
体を動かし躱し、ナイフで躱していく。
「ちっ、なかなか邪魔くせーじゃねーか。 ナイフだけじゃ近づけねーな」
三つあった鉄球は二回り大きな二つの球へと変化していた。
しかも、トゲを生やした棘鉄球であった。
鉄球は『ファンタズマゴリア』である。
シャーロットは、常に身に付けていたそのほとんどを実家に置いてきていた。
記憶を失い、戦いから離れ、その必要性を重要視しなくなっていた。
女の子として、スマートに、綺麗に見えるように最低限の量しか装備していなかった。
剣を形成する程の量は現在持ち合わせていない。
故に、魔剣術を使うことはできない。
鉄球三個分。
それが今のシャーロットにできる限界であった。
それでもシャーロットには勝てる自信があった。
作戦があったわけでもないのに。
それが慢心だとは微塵も疑わずに。




