法律の専門家(親友)を怒らせてはいけません
法律の専門家(親友)を怒らせてはいけません
「公爵様、彼らの制圧はお任せします。ですが、トドメは刺さないでくださいね? 彼らには『重要な証拠』を吐いてもらうための、特別なお仕事がありますから」
サクヤが冷たく微笑みながら要請すると、私の前に立つクラウス様は「やれやれ」と小さく肩をすくめた。
「手加減のほうが難しい注文だが……妻の頼みだ、安い御用だ」
クラウス様が白銀の剣をスッと横に薙いだ。
ただそれだけの動作。剣身が敵に届いているわけでもない。
しかし、その一振りから放たれた『絶対零度の斬撃』は、森の空気を切り裂き、武装した数十人の男たちの足元を一瞬にして凍りつかせた。
「なっ!? 足が、動かねぇ……!」
「クソッ、ふざけんな! 魔法使い、火球を放て!」
傭兵のリーダー格が叫び、後方の魔導師たちが一斉に火炎魔法の詠唱を始める。
だが、クラウス様は退屈そうに目を細めただけだった。
「私の前で、火遊びなど無用だ」
クラウス様が左手で指を鳴らした瞬間、彼らの手から放たれようとしていた火炎は、マッチの火を吹き消すようにフッと消滅した。
温度という概念そのものを奪い去る、規格外の魔力干渉。
魔導師たちは「魔力が……凍りついて……っ!?」と絶望の声を上げ、そのまま膝から崩れ落ちて気絶した。
「ひぃぃっ……!」
「化け物……これが氷の公爵……!」
わずか数十秒。
足元を分厚い氷で大地に縫い留められ、武器を構えたまま震えることしかできないならず者たち。
先ほどまで殺意を放っていた数十人の傭兵団は、誰一人として命を奪われることなく、完璧に『無力化』されていた。
「さて、サクヤ。オーダー通り、生け捕りにしておいたぞ」
「お見事です、公爵様。さすがの制圧力ですね」
サクヤは優雅に会釈をすると、氷漬けにされて身動きが取れない傭兵のリーダーの元へ、コツコツとヒールを鳴らして歩み寄った。
そして、彼を見下ろし、極上の営業スマイルを浮かべた。
「さて。あなたたちを雇ったのは、王都のグランツ商会……ルーファス・グランツですね?」
「がっ……知らねぇよ! 俺たちはただ、金をもらって――」
「嘘をつく必要はありませんよ。その下品な武器の装飾、グランツ商会が裏ルートで卸している三級品でしょう? バレバレです」
痛いところを突かれたのか、リーダーは顔を歪めた。
「……っ、分かってるなら聞くんじゃねぇ! だが、俺たちの口から雇い主の名前を吐かせることはできねぇぞ! 俺たちは『契約』で縛られてるんだ!」
リーダーがそう叫んだ瞬間、彼の首筋に刻まれていた黒い紋様が不気味な光を放った。
「ぐっ、がはっ……!!」
リーダーは喉を掻きむしり、白目を剥いて泡を吹き始めた。
それは、魔法による『絶対服従の呪い』だ。雇い主に不利益な情報を漏らそうとした瞬間、契約違反として対象者の命を刈り取る悪魔の呪具。
「サクヤ、これ以上は危険よ! 死んでしまうわ!」
私が慌てて止めに入ろうとしたが、サクヤは冷酷な笑みを深めただけだった。
「ご心配なく、社長。……実に悪質な労働契約ですね。雇用主の都合で労働者の命を奪うなど、労働基準法違反どころか、消費者契約法と基本的人権をガン無視した最悪のブラック契約です」
サクヤは眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、静かに宣言した。
「私の前で『不当な契約』がまかり通ると思わないことね。――『絶対契約』、起動」
サクヤが手をかざすと、傭兵の首筋にある黒い紋様から、血のような赤い光の文字列が空中に浮かび上がった。
それは、彼らを縛る呪いの条文そのものだ。
『第4条・雇用主の情報を漏洩、または契約を破棄しようとした場合、対象者の心臓を停止させ、命を奪うものとする』
「はい、これ無効」
サクヤは空中に浮かぶ条文を指先でなぞった。
まるで教師が赤ペンで答案を採点するかのように、その条文に『×(バツ)』が書き込まれる。
パァンッ!!
弾けるような音と共に、空中の文字列が粉々に砕け散り、傭兵の首筋に刻まれていた黒い紋様が跡形もなく消え去った。
「はっ……!? が、がはっ……息が……できる……?」
死にかけていたリーダーが、激しく咳き込みながら信じられないという顔で自分の首に触れる。
「相手の合意なき生命の剥奪、および公序良俗に反する不当条項につき、当該契約を『無効』と認定しました。……さて、命を縛る呪いは解いてあげましたよ?」
サクヤはしゃがみ込み、リーダーの耳元で悪魔のように優しく囁いた。
「今度は、私と『契約』しましょうか。私からの質問に全て正直に答えれば、命だけは助けてあげます。ですが……一つでも嘘をついたり、黙秘したりすれば、ペナルティは『全財産の没収』と『ポポロ村の鉱山での終身強制労働』です。同意しますか?」
「ひぃっ……! わ、分かった! 何でも喋る! だから許してくれぇっ!」
呪いを一瞬で解除したサクヤの規格外の能力と、その底知れぬ冷酷さに、傭兵は完全に心を折られた。
そこからは、まさに言葉の濁流だった。
「雇ったのはルーファスだ! あの女を殺して、図面を全部奪い返してこいって言われたんだ!」
「それだけじゃないわね? なぜ、彼のような若造が、王都のギルドを動かして私たちへの素材流通を止められたの? 背後に誰がいるの?」
「さ、宰相だ! ルーファスは宰相に賄賂を贈って、王都の利権を強引に自分たちに集めてるんだ! その賄賂の記録や、不正な金のやり取りを記した『裏帳簿』があるんだよ!」
ビンゴだ。私とサクヤは視線を交わした。
「その『裏帳簿』はどこにあるの?」
「グ、グランツ商会の本館地下にある、隠し金庫だ! 暗証番号は『0401』! 宰相への月々の送金記録も、全部そこに残ってる!」
あっさりと最重要機密を吐き出した傭兵に、私は思わず苦笑した。ルーファスめ、口封じの傭兵にそこまでペラペラ喋っているなんて、本当に底が浅い。
「……完璧ね。ご苦労様、契約は満了よ」
サクヤが満足げに頷き、立ち上がった。
この一部始終を少し離れた場所から見ていたクラウス様は、ドン引きするどころか、実に愉快そうに肩を揺らして笑っていた。
「……クックッ、ハハハッ! なんというえげつなさだ。我が妻と、その親友は、血も涙もない悪魔のような交渉人だな。敵に回したくないものだ」
「あら、お褒めの言葉と受け取っておきますわ、旦那様。これで、ルーファスと宰相を社会的に抹殺するための『決定的な証拠』のありかが判明しました」
私はドレスの汚れを払いながら、クラウス様の隣に並び立った。
これで、反撃のピースは全て揃った。
ルーファスの不正を暴く『裏帳簿(証拠)』。
王都の製品を遥かに凌駕する『高効率魔導循環ストーブ(新製品)』。
そして、どんな権力や暴力も跳ね返す、クラウス様という『最強の盾』。
「さて。証拠のありかが分かったなら、次はどう動く? 王都の騎士団にタレ込むか?」
クラウス様が問うと、サクヤが眼鏡を光らせながら首を横に振った。
「いいえ。騎士団や司法の場には、すでに宰相の手が回っている可能性があります。コソコソと告発しても、もみ消されるのがオチですわ」
「その通りよ」
私はサクヤの言葉を引き継ぎ、不敵に笑って見せた。
「敵を潰すなら、言い逃れができない『公の場』。それも、王侯貴族や各国の要人が集まる、最大の舞台でなければなりません」
私の言葉の意図を察したクラウス様が、氷青の瞳を細めてニヤリと笑う。
「なるほど。……ちょうどいい舞台があるぞ。一週間後、王家主催の『建国記念大夜会』が開催される。私にも当然、招待状が届いている」
「素晴らしいタイミングですわね」
私は『完全記録の魔石』をギュッと握りしめた。
「その夜会に、私たち『アエギス商会』も乗り込みます。そこで新商品を大々的にプレゼンし、敵が食いついてきたところで、すべての証拠を叩きつける。……公衆の面前で、完膚なきまでに叩き潰してやりますわ」
「ククッ……実に悪趣味で、最高の余興だ。いいだろう、妻の頼みだ。王都の狸親父もろとも、私が引導を渡してやろう」
クラウス様が私の肩を抱き寄せ、王都の方角を見据えた。
その横顔には、冷徹な公爵としての威厳と、共犯者としての深い愛情が入り混じっていた。
待っていなさい、ルーファス。そして悪徳宰相。
私から居場所を奪い、不当に搾取した代償がどれほど高くつくか。
法と経済、そして最強の武力による『完全論破の公開処刑』を、あなたたちにプレゼントしてあげるわ。
私たちは傭兵たちを公爵領の騎士団に引き渡し、王都への凱旋に向けた最終準備に取り掛かるのだった。
第7話をお読みいただき、誠にありがとうございます!
クラウス様の圧倒的な武力と、サクヤの『絶対契約』による合法的な(?)悪魔の尋問が炸裂しました。
ブラック契約を「労働基準法違反」と切り捨てて無効化するサクヤのリーガル無双、いかがでしたでしょうか。
そして、ついに裏帳簿のありかを突き止め、王都の大夜会という「最高の公開処刑の舞台」が整いました!
「サクヤの取り調べえげつない!笑」「公爵様が楽しそうで何より」「次はいよいよ王都へ乗り込むぞ!」と楽しんでいただけましたら、
ぜひ画面下部の【☆☆☆☆☆】の評価ポイントから、星をタップして応援していただけますと、作者のテンションが上がり、更新速度が加速します!
(※皆様の星での応援が、この作品の最強の「盾」になります!)
**【ブックマークに追加】**も、どうかよろしくお願いいたします。
次回、美しく着飾ったアカネに、公爵様の「独占欲」がダダ漏れになります!
甘い展開も交えつつ、いよいよ王都への凱旋です。お楽しみに!




