表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『証拠保全は完璧です。追放令嬢は有能な親友と氷の公爵と組み法廷ざまぁを始めます〜慰謝料請求?倍返しで合法的に買収しますが〜』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/20

概念設計(ブループリント)と、最強の盾の契約

概念設計ブループリントと、最強の盾の契約

北の辺境を治めるアルヴィン公爵家の本邸は、その主の性質を表すかのように、華美な装飾を排した質実剛健な造りだった。

通された重厚な執務室には、巨大な一枚板のマホガニーデスクが置かれ、その向こうでクラウス・アルヴィン公爵が深い椅子に腰を下ろしている。

窓の外には真夏だというのに涼やかな風が吹き込み、領地の豊かで広大な景色が広がっていた。

「さて。王都から逃げてきた訳ありの令嬢殿」

クラウスは、デスクの上で長い指を組み、氷青の瞳で私を真っ直ぐに射抜いた。

その視線には、一切の容赦がない。先ほどの森で見せた、圧倒的な武力を持つ者のプレッシャーが執務室の空気をピンと張り詰める。

「私が投資する価値があるか、証明してみせろ。お前のその『大風呂敷』の中身がただのハッタリなら、即座に領外へ追放する」

「ご安心を。ハッタリで公爵様の貴重なお時間を奪うような真似はいたしませんわ」

私は前世で何百回と繰り返してきたプレゼンの記憶を呼び起こし、背筋を伸ばしてクラウスの前に立った。

隣では、サクヤが静かにペンと羊皮紙の束を用意している。

「単刀直入に申し上げます。この北の公爵領における最大の懸念事項は、『冬季の暖房コスト』ならびに『魔石の燃費問題』ですね?」

「……ほう」

クラウスの片眉が微かに上がった。

アナステシア世界において、生活を支える魔導具の動力源は全て『魔石』だ。特に極寒となるこの辺境では、暖房用の魔石の消費量が王都の比ではない。

高品質な魔石は王都の商業ギルド――つまり、元婚約者のルーファスの実家であるグランツ商会が流通を独占しており、公爵領は毎年莫大な予算を燃料費として吸い上げられているのだ。

「既存の暖房用魔導具は、魔石の魔力を『直接火に変える』だけの極めて非効率な構造をしています。そのため、高純度で高価な火炎魔石を使わなければ、すぐに魔力切れを起こす。……違いますか?」

「その通りだ。だが、それが今の魔導具技術の限界だ。王都のギルドでさえ、それ以上のものは作れていない」

「いいえ。彼らに発想力がないだけですわ」

私はふふっ、と笑みを深め、サクヤから真っ白な羊皮紙とペンを受け取った。

「私が今から、その常識を覆します。使うのは高価な魔石ではなく、鉱山で大量に廃棄されている『低純度のクズ魔石』。これを動力源にしつつ、既存の十倍の熱効率と持続時間を持つ魔導ストーブの設計図をお見せしましょう」

私はペンを握り、目を閉じた。

――ユニークスキル、『概念設計ブループリント』発動。

脳内に、前世の地球に存在した「反射式ストーブ」や「熱交換システム」の構造が鮮明に浮かび上がる。

私はその現代の物理法則と構造を、アナステシア世界の「魔導回路」に翻訳・代替していく。火力を上げるのではなく、発生した微弱な熱を特殊な形状の反射板で増幅させ、効率的に空間へ循環させる機構。さらに、クズ魔石の不安定な魔力波長を均一化するための変換回路。

目を開けた私は、猛烈な勢いで羊皮紙にペンを走らせた。

緻密な歯車の噛み合わせ、魔導線の配置、反射板の曲面率。前世の知識とこの世界の素材が、私のスキルによって完璧な最適解として出力されていく。

「……できました。これが『高効率魔導循環ストーブ』の設計図と、必要な素材のレシピです」

数分の沈黙の後、私は完成した羊皮紙をクラウスのデスクに滑らせた。

クラウスは疑念を含んだ目のまま、その図面に視線を落とす。

「こんな複雑な回路、見たこともないな。ただの素人の落書きか……?」

呟きながら図面を追っていたクラウスの目が、数秒後、スッと細められた。

さらに十秒後、彼の表情から余裕が消え去り、氷青の瞳が驚愕に見開かれた。

クラウスは立ち上がり、図面に顔を近づけるようにして食い入るように見つめた。

魔法剣士として極致にある彼は、同時に高度な魔法理論の理解者でもあるのだろう。私の描いた図面が「でたらめ」ではなく、完璧な理論に裏打ちされた「現実的な兵器」であることを、瞬時に理解したのだ。

「……熱の指向性をコントロールし、循環させるだと? いや、待て、この回路……クズ魔石の魔力を一度蓄積し、定圧で放出する機構になっているのか? こんな設計、王都の宮廷魔導師ですら思いつきもしないぞ」

クラウスは信じられないものを見るような目で、私と図面を交互に見た。

「……貴様、自分がどれほど恐ろしい物を生み出したか分かっているのか?」

低い声には、先ほどまでの退屈さは微塵もない。

「これが実用化されれば、高純度魔石の価格は暴落し、王都の魔石市場は完全に崩壊する。そして我が領地に眠る無価値なクズ魔石が、莫大な富を生み出す金脈に化ける。……国家の経済バランスを根底からひっくり返す『劇薬』だぞ」

「ええ。だからこそ、公爵様という最強の『盾』が必要なんです」

私は怯むことなく、彼の目を見つめ返した。

「王都のギルドは、この技術を喉から手が出るほど欲しがるでしょう。従わなければ、先ほどのように暗殺者を差し向けて私を消そうとするはずです。……私たちのような後ろ盾のない女二人が、こんな技術を持っていては生き残れません」

私は一歩前へ出て、クラウスに語りかけた。

「私たちに、あなたの武力と権力を貸してください。初期投資と工房の手配、そして流通の保護をお願いしたいのです。その代わり、この製品が生み出す利益は、公爵家と折半ということでいかがでしょうか?」

クラウスは図面から目を離し、じっと私を見下ろした。

その瞳の奥で、恐るべき速度で思考が巡っているのがわかる。

「利益の折半、か」

クラウスは短く呟き、ふっと口角を上げた。

「……王都から逃げてきた傷心の令嬢が、私に取り入って庇護を求めるのかと思えば。まさか、国家経済を人質にとって対等の商談を持ちかけてくるとはな。お前たち、本当に良い度胸をしている」

「お褒めに預かり光栄ですわ。それで、お返事は?」

クラウスは窓辺に歩み寄り、腕を組んで空を仰いだ。

「確かに、この技術を他国や王都の腐敗貴族に攫われるのは、我が国にとって致命的な損失となる。我が領地の利益としても、喉から手が出るほど欲しい技術だ」

くるり、と踵を返し、クラウスは真っ直ぐに私の元へと歩み寄ってきた。

長身の彼に見下ろされる形になり、私は思わず息を呑む。

「だが、ただの『スポンサー契約』では防衛手段として弱い。お前たちがいかに優秀な頭脳と法務能力を持っていようと、王家や大貴族が『大義名分』をでっち上げてお前たちを強制連行すれば、私が介入する理由がなくなる」

「そ、それは……」

確かに、王家からの勅命などが出れば、いくら公爵といえど単なる「出資先の一介の令嬢」を保護しきれない可能性がある。

前世の記憶に頼りきりだった私の脇の甘さを突かれ、言葉に詰まった私に対し――。

クラウスは、不敵で、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべて爆弾を落とした。

「手っ取り早く、かつ絶対に誰も手出しできない防衛手段が一つだけある。……アカネ・ヴィクトリア。私と『契約結婚』しろ」

「…………はい?」

予想外すぎる言葉に、私は間抜けな声を漏らしてしまった。

隣にいたサクヤすら、ペンの手を止めて目を丸くしている。

「き、貴族の結婚なんて、そんな簡単に決められるものでは……!」

「私は当主だ。私自身の決定に口出しできる者など、この領地にはいない。アルヴィン公爵の『正妻』となれば、王家といえど理由なく手出しはできん。お前が望む『盾』として、これ以上のものはないだろう?」

「それは、理論上はそうですけど……!」

「愛も義務も求めない、完全なビジネスとしての結婚だ。お前は私の妻という身分を使い、存分にその頭脳を振るって王都の連中へ復讐し、我が領地に利益をもたらせばいい。……悪い取引ではないはずだ」

クラウスはそう言って、スッと私に手を差し出した。

冷徹な合理主義者らしい、感情を排した完璧な提案。

だが、その氷青の瞳の奥には、「お前のその強欲な頭脳ごと、完全に独占してやる」というような、隠しきれない熱が微かに揺らめいていた。

「……サクヤ」

「法的な観点から言えば、公爵夫人という肩書きは、今後の法廷闘争においてこれ以上ない最強のカードになるわ。私としては、ノータイムで受諾すべき案件ね」

サクヤはすっかり平常心を取り戻し、眼鏡をクイッと押し上げながら完璧な助言を口にした。

私は一度大きく深呼吸をし、差し出されたクラウスの大きく分厚い手を見つめた。

恋人すらまともに作ったことのなかった私が、いきなり公爵様の妻?

しかも、相手はこんな規格外の美丈夫で、最強の魔法剣士。

(……ええい、社畜根性を見せてやるわ!)

私は覚悟を決め、その冷たくも頼もしい手を、しっかりと握り返した。

「……その提案、お受けいたします。公爵様……いえ、旦那様。私の『概念設計』で、あなたに莫大な利益と、極上のざまぁのエンターテインメントをお見せしますわ」

「頼もしい妻を持てて光栄だ。期待しているぞ、アカネ」

二人の手が交わされた瞬間、ここ北の辺境に、法と経済と武力を兼ね備えた最強にして最凶の『夫婦』が誕生したのである。

第3話をお読みいただき、誠にありがとうございます!

ついにアカネのチート能力『概念設計』が火を噴き、クラウスの有能さがそれを一瞬で見抜きました。

そして飛び出した、クラウスからの「契約結婚」の提案!

最強の盾を得たアカネたちは、ここからいよいよ反撃の準備(と、公爵様との甘い?新婚生活)をスタートさせます!

「公爵様の決断力かっこいい!」「ここからどうやってざまぁしていくのか楽しみ!」「早く二人のラブが見たい!」と思っていただけましたら、

この作品を【ブックマーク】にご登録いただき、

画面下部(または上部)の【☆☆☆☆☆】の評価ポイントから、星をタップして応援していただけますと、作者が泣いて喜びます!

(※皆様の応援ポイントが、ランキングを駆け上がる最強の原動力になります!)

次回は、徹夜作業でボロボロのアカネに、クラウスの不器用な甘やかしが炸裂します。

引き続き、アエギス商会(仮)の活躍をよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ