ポポロ村フェス開催! アイドルの集客力(物理)
ポポロ村フェス開催! アイドルの集客力(物理)
翌日。ポポロ村の中心広場には、一夜にして巨大な野外ステージが完成していた。
クラウス様が提供した莫大な資金を元手に、ポポロ村と友好関係にあるドンガン地下帝国のドワーフ大工たちを緊急招集。彼らの常軌を逸した建築技術と徹夜の突貫工事により、魔法のネオン管がギラギラと輝く、王都の劇場顔負けの特設ライブ会場が爆誕したのである。
「さぁ、いよいよ『ポポロ村・大収穫祭フェス』の開幕よ!」
ステージ裏の運営テント。
私は腕を組み、モニター用の魔導鏡に映る広場の熱気を見下ろしていた。
広場はすでに、噂を聞きつけて集まったルナミス帝国の冒険者たちや、国境の緩衝地帯を警備するレオンハート獣人王国の兵士たちで埋め尽くされている。屈強な獣人兵や、顔に傷のあるガラの悪い傭兵たちが、「なんだこのチャラチャラした祭りは」「無料の酒があるって聞いたから来たんだがな」と、まだ半信半疑の様子で腕を組んでいた。
「フフッ……今はそうやって斜に構えていなさい。数分後には、あなたたちの財布の紐は完全に消滅するわ」
「ええ、社長。各物販ブースへの商品の補充、完了しております」
隣でサクヤが、恐るべき速度で計算機(魔導盤)を弾きながら頷く。
「それでは、我がアエギス商会が誇る最強の集金兵器……いえ、専属タレントの出番ね。行きなさい、リーザ!」
「うんっ! 任せて、アカネちゃん! あたし、みんなからいっぱい巻き上げるわ!」
タローマン(ルナミス帝国のホームセンター)で買ってきた安全チョッキと反射材を、私が徹夜で改造・アレンジして作った『キラキラのアイドル衣装』に身を包んだリーザが、元気よくステージへと飛び出していった。
『――みんなぁぁっ! ポポロ村フェスへようこそ! シーラン国から来た、絶対無敵のスパチャアイドル、リーザだよっ!』
拡声の魔導具を通したリーザの透き通るような声が、広場に響き渡る。
ざわついていた荒くれ者たちが、ステージの上に現れた絶世の美少女(人魚姫)の姿に、ピタリと動きを止めた。
『それじゃあ、さっそく歌うね! 聞いちょうだい、「Love & Money」!』
軽快でポップなメロディと共に、リーザがステップを踏み始める。
そして、彼女の歌声が広場に放たれた瞬間――空気が、物理的に震えた。
「愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ! マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ!」
人魚族特有の、精神の奥底を直接揺さぶる魅了の歌声。
それに加えて、リーザのユニークスキル『貧乏神』が発動する。
貧乏神――それは、相手の運気や全財産を没収し、強制的に弱体化させるという恐るべきデバフスキル。
だが、そのスキルには「奪った財産はリーザ自身の懐には入らない(だから彼女自身はずっとホームレス)」という致命的な欠陥があった。
しかし、私はその欠陥の抜け道に気がついていたのだ。
(リーザ自身がお金を受け取れないなら、『アエギス商会の特産品』を間に挟めばいいのよ!)
リーザの歌とスキルによって「全財産を手放したい(推しに貢ぎたい)」という強烈な衝動に駆られた観客たちが、その狂った金銭感覚のまま、ステージの隣にある『アエギス商会の物販ブース』へと雪崩れ込む。
これこそが、合法的かつ強制的な資金回収システムである!
「全部手に入れるわ!(強欲!) 夢も金貨も輝くもの!(どっちも好きー!)」
リーザがステージ上でウィンクを飛ばし、マイクを握りしめて熱唱する。
「株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)
貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける!!」
「うおおおおおっ! リーザちゃああああん!!」
「俺の金貨を持っていってくれぇぇぇっ!!」
先ほどまで「チャラチャラした祭りだ」と鼻で笑っていた犬耳族の獣人兵や、歴戦の冒険者たちが、完全に目を血走らせて熱狂の渦に巻き込まれていた。
彼らは涙を流しながらサイリウム(発光する陽薬草)を振り回し、怒涛の勢いで物販ブースへと殺到する。
「陽薬草ドリンク、箱でくれ! 10箱だ! リーザちゃんと同じ空気を吸うために飲むんだ!」
「ポポロシガー全部寄こせ! 俺の部隊の全財産をここに置いていく!」
「なんだこの『新魔導ストーブ』の予約受付って!? 家なんて持ってねぇけど、とりあえず3台予約するぜ!!」
物販ブースは、まさに戦場と化していた。
「列を乱すなァッ! 割り込んだ奴は顎砕きの刑だよ!」
案内係(警備員)を務めるキャルルが、特注の安全靴で空気を蹴り裂き、暴走するオタクたちを物理的に(ライダーキックで)制圧しながら列を整理している。
「特製マフラータオル、完売です! 即座に追加生産をラインに指示!……ストーブの予約注文書、1000件突破! 受注生産の枠を限界まで引き上げなさい!」
サクヤは両手に持った二本の羽ペンを同時に走らせ、摩擦でペン先から煙を上げながら、押し寄せる金貨の波を恐るべき速度で捌いていた。
まさに、狂乱の集金フェス。
アエギス商会の利益が、数秒単位で天文学的な数字へと跳ね上がっていく。
「…………」
運営テントの奥で、その一部始終を静かに見届けていたクラウス様が、信じられないものを見るような目で広場を見下ろしていた。
「……クラウス様。アイドルの集客力、いかがですか?」
私がドヤ顔で振り返ると、極寒の北の辺境を治め、数々の戦場を潜り抜けてきた最強の魔法剣士の額に、タラリと冷や汗が伝っていた。
「……アカネ。お前、ついに『神の呪い』すらもビジネスに組み込んだのか。対象から財産を奪う貧乏神の呪いを、『自発的な購買意欲』にすり替えて合法的に搾取するとは」
「ええ。人魚の魅了バフと貧乏神のデバフの相乗効果ですわ。暴力や権力なんて使わなくても、人間の『推し活』という欲望を刺激すれば、財布の紐なんて簡単に消し飛ぶんです」
私が極上の悪魔の笑顔を向けると、クラウス様は深く、深々とため息をついた。
「……つくづく、敵に回したくない女だ。悪徳宰相が可愛く思えてくる」
「あら。でも、これでポポロ村の特産品と、我が商会のストーブの初期ロットは完売です。出資者である公爵様には、莫大な利益をお約束しますわ」
私が胸を張って宣言すると、クラウス様は呆れたような表情をふっと和らげた。
「ああ。これほどの圧倒的な勝利を見せつけられては、文句のつけようがない。……お前が俺の『妻』で、本当に良かったと心から思っているぞ」
クラウス様は大きな手で私の頭をポンポンと軽く撫で、経営者としての私の手腕を、真っ直ぐな言葉で讃えてくれた。
変な甘さや過保護さはない。純粋に、対等なビジネスパートナーであり、妻である私への絶対的な信頼。それが逆に私の心臓を跳ねさせ、私は顔を赤くして「と、当然です!」と胸を張るのが精一杯だった。
「リーザの給料、歩合給5%の契約だったわね」
「ええ。これだけの売上があれば、彼女には金貨数千枚規模の報酬が入ることになります。デパ地下の試食品から、一気に超絶セレブの仲間入りですね」
サクヤが眼鏡を光らせながら集計を終える。
広場では、リーザが「みんな、ありがとう! 愛を忘れないでね!」と投げキッスを放ち、フェスの熱狂は最高潮に達していた。
アエギス商会のポポロ村開拓事業は、これ以上ないほどの爆発的な成功(大黒字)を収めたのである。
――しかし。
私たちが莫大な富を生み出し、狂乱の渦を巻き起こしているこの光景を、遥か上空から『監視』している存在がいることに、私たちはまだ気づいていなかった。
天上界。大宇宙管理局、惑星管理部門。
その一角にある、こたつとみかんが置かれた生活感あふれる和室(神室)。
「……ちょっと、これどういうことよ!?」
永遠の17歳(自称)を名乗る世界神・女神ルチアナは、芋ジャージ姿のまま『エンジェルすまーとふぉん』の画面を食い入るように見つめていた。
画面に表示されているのは、神々が運営する配信サイト『ゴッドチューブ』のアナステシア世界・ルナミス帝国エリアのPV(視聴率)グラフと、経済活動の数値だ。
「ポポロ村のPVが、たった数時間で前日比10000%増!? なによこの熱狂! しかも、飛び交ってる金貨の量が国家予算クラスじゃないの!」
ルチアナは手に持っていた缶ビールをドンとこたつに置き、ギラギラと目を輝かせた。
「私がせっせと地球の知識を横流ししたおかげで、あの村がこんなに潤ってるってわけね! だったら、私にも利益を享受する権利があるはずよ!」
彼女はエンジェルすまーとふぉんの『キャッシング枠』がすでに上限に達している(朝倉月人のライブ遠征とガチャの引きすぎでパンク寸前)ことを思い出し、ヨダレを拭った。
「決めたわ。ちょっと下界に『視察』に行ってくる!」
タバコ(ピアニッシモ)をふかしながら、駄女神ルチアナが地上へと降り立つ準備を始める。
アエギス商会と神々による、カオスで仁義なき第2ラウンドの幕開けが、すぐそこまで迫っていた。
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