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『証拠保全は完璧です。追放令嬢は有能な親友と氷の公爵と組み法廷ざまぁを始めます〜慰謝料請求?倍返しで合法的に買収しますが〜』  作者: 月神世一


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最後の悪あがきと、氷の制裁

最後の悪あがきと、氷の制裁

王城の大広間は、阿鼻叫喚の地獄と化していた。

「死ねェッ! アカネェェェッ! 俺のすべてを奪った貴様ら、全員燃え尽きろォォォッ!!」

完全に理性を吹き飛ばし、狂乱の叫びを上げるルーファス。

彼が握り潰した禍々しい黒い魔石から、意思を持った生き物のように『黒い炎』が噴き出している。それは、シャンデリアの眩い光すらも飲み込むような、底知れぬ暗黒の熱量だった。

「ひぃぃっ! た、助けてくれぇっ!」

「熱い! 近づくな、焼け焦げてしまう!」

着飾った貴族たちが、蜘蛛の子を散らすように悲鳴を上げて逃げ惑う。

ルーファスの身体はその黒い炎に包まれ、もはや人間の形を保っていなかった。嫉妬と絶望、そして底なしの憎悪だけを原動力にして動く、醜悪な化け物。

このアナステシア世界において、あのような異常な魔力を放つアイテムは存在しない。

後になって判明することだが、あれはゴッドチューブでやらせ配信を行う『炎上神ワイズ』のブローカーが、ルーファスに裏ルートで売りつけた『神の呪具』だったのだ。

他者の人生を強引に炎上させ、理不尽な破滅をもたらす神のまがい物。法や経済といった人間界のルールなど、一切通用しない純粋な『暴力』。

黒い炎の化身となったルーファスが、床を焦がしながら一直線に私をめがけて突進してくる。

「社長、危ない!」

サクヤが鋭い声を上げたが、彼女の『絶対契約』はすでに締結された契約や法的な事象には無敵だが、こうした突発的な物理攻撃を完全に防ぎ切る盾ではない。

肌を焼くような強烈な熱風が迫る。

死の恐怖に体が竦み、思わず目を強く閉じた。

――だが。

その凶悪な熱波が私に届くことは、永遠になかった。

「……私の妻の舞台を、三流の余興で汚すな」

私の前に立つ、広く頼もしい背中。

クラウス様が、白銀の剣を静かに抜き放ったのだ。

その瞬間。

大広間の空気が、世界そのものが反転したかのような錯覚に陥った。

圧倒的な熱量を誇っていたはずの黒い炎の勢いが、ピタリと止まる。いや、違う。クラウス様の身体から放たれた『絶対零度の冷気』が、黒い炎の熱を完全に相殺し、押し返しているのだ。

「オォォォォォッ!!」

ルーファスが獣のような咆哮を上げ、黒い炎を巨大な腕の形に変えて、クラウス様へと叩き下ろす。

大理石の床を溶かしながら迫るその一撃を前にしても、クラウス様は一歩も引かず、冷徹な氷青の瞳でそれを見据えていた。

「法で裁けぬ狂犬ならば、私が斬るだけだ」

クラウス様が、白銀の剣を無造作に振り抜いた。

――ピキィィィィンッ!!

剣閃が空気を裂いた直後。

信じられない光景が目の前に広がった。

ルーファスの放った黒い炎が、クラウス様の剣と交差した瞬間、空中で『凍りついた』のだ。

「な……っ!?」

炎が凍る。

そんな物理法則を無視した現象が、クラウス様の規格外の魔力によって引き起こされていた。

チリチリと燃え盛っていた黒い炎は、まるで黒曜石の彫刻のように空中で静止し、カチン、カチンと音を立てて霜に覆われていく。

「バ、バカな……俺の、炎が……! これは、あのお方が下さった無敵の力のはず……!」

化け物と化したルーファスが、凍りついた自らの炎の腕を見て絶望の声を漏らす。

「無敵、だと?」

クラウス様は氷の彫刻と化した炎をブーツで蹴り砕き、悠然とルーファスに歩み寄った。

「その程度の粗悪な呪具で、この『氷の公爵』に勝てるとでも思ったか。……神のまがい物ごときが、私の最愛の妻に触れられると思うなよ」

ダンッ! と、クラウス様が強く床を踏み鳴らした。

それを合図に、広間の床から無数の巨大な氷の柱が隆起し、ルーファスの四肢を串刺しにするように拘束する。

「ギャァァァァァッ!!」

「終わりだ。ルーファス・グランツ」

クラウス様の白銀の剣が、鋭い軌道を描いてルーファスの胸元――黒い魔石が埋め込まれた呪具の核を一閃した。

パァンッ!!

弾けるような高い音と共に、神の呪具が粉々に砕け散る。

力の源を失った黒い炎は、クラウス様の絶対零度の冷気に飲み込まれ、一瞬にして完全に鎮火した。

後に残されたのは、全身を分厚い氷に覆われ、首から上だけを出してガチガチと歯の根を鳴らす、無様すぎるルーファスの姿だけだった。

「ひぃっ、あ、あ、ああぁ……っ」

先ほどまでの威勢はどこへやら。

完全に戦意を喪失し、恐怖に顔を引き攣らせて気絶寸前になっている元婚約者。

法でも、経済でも、そして頼みの綱だった暴力でも完膚なきまでに敗北した彼は、今度こそ完全に、反撃の意思すら折られていた。

「……ふぅ」

クラウス様は剣を鞘に納め、静かに息を吐いた。

彼から放たれていた絶対零度の殺気がスッと収まり、大広間に本来の静寂が戻ってくる。

「……クラウス、様」

私が震える声でその名を呼ぶと、クラウス様はハッとしたように振り返った。

そして、いつもの余裕のある歩みとは違う、少し焦ったような足取りで私の元へ駆け寄り、その大きな腕で私をきつく抱きしめた。

「アカネ! 怪我はないか!? 炎の破片が飛んだりしなかったか!?」

「あっ……はい、大丈夫です。クラウス様が完璧に守ってくださったので……」

至近距離で私を見下ろすクラウス様の氷青の瞳は、これまでに見たことがないほど切羽詰まっていた。

普段はどんな敵を前にしても冷徹な彼が、私の無事を確認するためだけに、まるで子供のように必死な顔をしている。

その不器用で、まっすぐな温もりに触れた瞬間。

私の胸の奥で、カチリと何かが嵌まる音がした。

(ああ……私、この人のことが)

契約結婚。ビジネスパートナー。最高の盾。

私たちは互いの利益のために結ばれた偽装夫婦のはずだった。

けれど、彼は徹夜で働く私に不器用にコーヒーを淹れてくれ、理不尽な暴力から命懸けで私を守り抜いてくれた。

私の前世のトラウマを、冷たい氷ではなく、誰よりも温かいその手で溶かしてくれたのだ。

ドクン、ドクンと。

敵の炎に向けられていた恐怖はとうに消え去り、今度は自分の心臓の音がうるさいくらいに跳ね回っている。

顔が熱い。彼を見上げる私の瞳が、じんわりと潤んでいくのが分かった。

「……っ、どうした、アカネ。やはりどこか痛むのか? 気分が悪いのか?」

私が涙ぐんでいるのを見て、クラウス様がさらに顔を青ざめさせる。

「違います、違うんです……。ただ、少しホッとしたら、力が抜けちゃって」

私は誤魔化すように微笑み、彼の背中にそっと腕を回した。

「……ありがとうございます、クラウス様。あなたが私の夫で、本当に良かったです」

私が彼の胸板に額を擦り付けると、クラウス様はビクッと体を強張らせた後、ふっと安堵の息を吐き、私をさらに強く抱きしめ返してくれた。

「……俺の方こそ。お前という妻を持てて、俺は世界一の果報者だ」

耳元で囁かれた低く甘い声に、私は完全に恋に落ちたことを自覚した。

もう、ビジネスライクな関係になんて戻れそうにない。

「……あー、お取り込み中のところ大変恐縮ですが。公爵様、社長」

甘い空気に包まれていた私たちの横から、わざとらしくパンパンと手を叩く音がした。

振り返ると、サクヤが割れた魔石の破片をハンカチで拾い上げながら、極上の営業スマイルを浮かべていた。

「事後処理が終わっておりません。イチャイチャするのは、安全な公爵邸の寝室に帰ってからにしていただいてよろしいでしょうか?」

「っ!? サクヤ!」

「……ふっ、相変わらず容赦のない親友殿だな」

私の顔が爆発するほど赤くなるのを見て、クラウス様は愉快そうに喉の奥で笑った。

大広間を見渡せば、氷漬けになったルーファスと、拘束された悪徳宰相が、王都の衛兵たちによって引きずり出されていくところだった。

貴族たちは、クラウス様の圧倒的な武力と、私たちの商会が持つ技術力の前に完全に平伏し、畏怖の眼差しで私たちを見つめている。

私から全てを奪い、どん底に突き落とした者たちは、社会の底辺へと消え去った。

グランツ商会の利権も、設備も、すべて私たちが合法的に手に入れた。

「さて、私たちの『仕事』は完璧に終わったな。帰ろうか、アカネ、サクヤ」

クラウス様が、私とサクヤに向けて優雅に手を差し出す。

「ええ。最高のプレゼンと、極上の法廷闘争でしたわ」

「お疲れ様でした、社長、公爵様。今後のアエギス商会の躍進が楽しみですね」

私たちは三者三様に、悪魔のように不敵な、そして誇り高い笑みを浮かべた。

貴族たちが紅海のように道を空ける中、私はクラウス様にしっかりとエスコートされ、大広間を後にする。

法と経済、そして最強の武力による公開処刑。

これにて、アエギス商会の最初の逆襲は、大成功の内に幕を閉じたのである。

第13話をお読みいただき、誠にありがとうございます!

ルーファスの最後の悪あがき(神の呪具の暴走)に対し、クラウス様が「法で裁けぬなら私が斬る」と絶対零度の剣で完全粉砕しました! 氷で炎を凍らせるという、規格外の武力無双です。

そして、命懸けで守ってくれたクラウス様の不器用な必死さを見て、ついにアカネが「恋心」を完全に自覚しました! ビジネスパートナーからの脱却です。

サクヤの的確なツッコミも健在で、三人の絆が最強になった瞬間でした。

「公爵様かっこよすぎ!」「アカネが恋を自覚してキュンとした!」「ルーファス完全敗北でスカッとした!」と思っていただけましたら、

ぜひ画面下部(または上部)の【☆☆☆☆☆】の評価ポイントから、星をタップして応援していただけますと、作者の徹夜の疲れが吹き飛びます!

(※皆様の星での応援が、この作品を書き続ける最大の力になっています!)

【ブックマークに追加】も、どうかよろしくお願いいたします。

次回、無事に公爵邸に帰還した二人。サクヤが気を利かせて席を外し、二人きりの夜。

契約結婚だった二人が、ついに本当の「夫婦」になる甘い祝勝会(イチャイチャ回)をお届けします! お楽しみに!

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