公開処刑の幕開け。証拠保全は完璧です
公開処刑の幕開け。証拠保全は完璧です
王城の大広間に、バルコニーに立つサクヤの凛とした声が響き渡った。
「な、なんだと……!? 証拠だと!?」
ルーファスが動揺し、叫んだ。「ふ、ふざけるな! そいつらはグルだ! 衛兵、構わん、その女たちを今すぐ捕らえろ!」
衛兵たちが一斉に槍を構え、私とクラウス様に歩み寄ろうとする。
だが、クラウス様はただ冷たく一瞥しただけだった。
「――無礼だぞ。私の妻の舞台に、土足で踏み入るな」
ダンッ、とクラウス様の革靴が床を叩いた瞬間。
私たちの周囲に、絶対零度の『氷の壁』が円陣を描くように隆起した。
「うわぁっ!?」
衛兵たちは突然現れた氷の防壁に阻まれ、後ずさる。槍の穂先が分厚い氷に触れただけで、金属が凍りつき、ピキピキと音を立てて砕け散った。
誰も、私たちに指一本触れることすらできない。
「さて、安全は確保した」
クラウス様は剣を抜くことすらなく、私の耳元で低く囁いた。
「俺は見物させてもらおう。存分にやってみせろ、アカネ。……反証は、愛しき妻に任せよう」
彼が私の腰に添えた手から、確かな温もりと絶対的な信頼が伝わってくる。
「はい。ありがとうございます、旦那様」
私はクラウス様に微笑み返し、一歩前に出た。
「では、サクヤ。お願いね」
「かしこまりました、社長」
二階のバルコニーで、サクヤが赤い光を放つ『完全記録の魔石』に魔力を流し込んだ。
それは、魔法によって音を増幅する拡声の魔導具と接続されている。
「皆様、ご清聴ください。これより再生するのは、数日前、王立ホテルのラウンジにて記録された、グランツ商会御曹司ルーファス様の『ありがたいお言葉』の数々です。いかなる魔法による改ざんも受け付けない、完全なる原本でございます」
サクヤがスイッチを入れた瞬間。
大広間中に、聞き覚えのある傲慢な男の声が響き渡った。
『新商品のアイデアは元々俺のものだ。お前はただのパクリ女だ。慰謝料として全財産を置いていけ!』
『横領の罪で投獄されたくなければ、今すぐ身一つで出て行け! もちろん、お前が書き溜めていた他の設計図も全て置いていくんだな。慰謝料代わりにもらってやる!』
それは間違いなく、婚約破棄の日にルーファスが私に放った暴言そのものだった。
大音量で再生されたその声は、広間の隅々にまで届き、貴族たちの耳に克明に焼き付けられる。
「なっ……!?」
ルーファスは目を見開き、顔面を土気色にして後ずさった。
「あ、あれは……!」
「……なんという横暴だ」
「アイデアを奪い、自分の手柄にしようとしていたのはグランツ商会の方だったのか!」
「横領の罪まで捏造して、公爵夫人を不当に追放しようとしただと?」
周囲の貴族たちが、ルーファスに向けて一斉に非難の視線を浴びせ始める。
つい先ほどまで彼に媚びへつらっていた者たちも、「なんて恐ろしい男だ」「信じられない」と露骨に距離を置き始めた。
当然だ。彼が糾弾しようとした相手は今や、強大な武力と新技術の権利を併せ持つアルヴィン公爵の正妻なのだから。ルーファスと関わり合いになれば、自分たちも同罪として氷漬けにされかねない。
「ま、待て! 違う、それは誤解だ!」
ルーファスは滝のような冷や汗を流し、必死に首を振った。
サクヤは冷ややかに見下ろしながら、音声を止めた。
「誤解、とは? ルーファス様、あなたは先ほど『盗作の証拠が金庫にある』と仰いましたが、この音声記録によれば、アカネの設計図を奪おうと強要したのはあなた自身です。どちらが真実なのでしょうか?」
「そ、それは……っ!」
ルーファスはしどろもどろになり、隣に立つ宰相に助けを求めるような視線を向けた。
だが、悪徳宰相は完全に彼を見限り、「私には関係のないことだ。グランツ商会の内輪揉めだろう」と、そっぽを向いていた。
孤立無援。
先ほどまで勝ち誇っていたルーファスは、一転して大広間の中心で針のむしろに座らされていた。
だが、プライドの高い彼は、ここで引き下がるような器用な真似はできなかった。
追い詰められた鼠のように、ルーファスは顔を真っ赤にして叫んだ。
「で、でっち上げだ! そんな音声、声真似か魔法でいくらでも偽造できるだろうが! そうだ、魔石の記録なんて、証拠にはならない! その女たちが俺を陥れるために作った捏造だ!」
無様すぎる言い訳に、私は思わずため息をついた。
サクヤのユニークスキル『絶対契約』をベースにした魔石の記録は、いかなる魔法の干渉も受け付けない。宮廷魔導師が鑑定すれば一瞬で本物だと証明されるのに、そんなことも理解できないとは。
だが、私たちはそれすらも想定内だった。
「……なるほど。音声だけでは不十分だと、そう仰るのですね」
サクヤは全く動じることなく、極上の営業スマイルを深めた。
「ならば、音声ではなく、あなたが直筆で残した『紙の証拠』をお見せしましょうか。……グランツ商会の金庫にあったものは、どうやら盗作の証拠ではなかったようですが」
サクヤの言葉に、ルーファスがピクリと反応した。
「……は? 金庫? お前、何を言っている……?」
サクヤは手元にあった分厚い羊皮紙の束をバサッと持ち上げ、見せつけるようにバルコニーの手すりから身を乗り出した。
「ここにあるのは、グランツ商会本館の地下金庫――暗証番号『0401』の隠し金庫より回収された、本物の『裏帳簿』と不正な送金記録の原本です」
「なっ……!?」
ルーファスだけでなく、横でそっぽを向いていた宰相までもが、心臓を鷲掴みにされたようにビクッと肩を跳ねさせた。
「な、なぜお前がそれを持っている!? あの金庫は、俺と宰相閣下しか開けられないはず……!」
「あら、ご自身で自白してしまいましたね。そう、これはあなたと宰相閣下が結託して、商業ギルドの利益を不当に独占し、さらには賄賂をやり取りしていた確たる証拠です。横領を行っていたのはアカネではなく、ルーファス様、あなた自身だということが、この帳簿に克明に記されていますわ」
サクヤは皮肉たっぷりに言い放ち、その書類の一部をパラパラと広間へ向けて撒き散らした。
ヒラヒラと舞い落ちる書類を、数人の貴族が拾い上げる。
「これは……商業ギルドの流通操作の記録か!?」
「宰相閣下宛ての、莫大な賄賂の受領書……間違いない、宰相の直筆サインとグランツ商会の印が押されている!」
決定的な『紙の証拠』。
それを見た貴族たちの間に、先ほどとは比べ物にならないほどの爆発的な騒ざわめきが起こった。
横領の濡れ衣や盗作問題にとどまらず、国家を揺るがす汚職の事実が、公の場で完全に暴かれたのだ。
「あ、あ、ああ……っ」
ルーファスは膝から崩れ落ち、震える両手で顔を覆った。
「貴様らぁっ!!」
悪徳宰相が血走った目で私たちを睨みつけるが、時すでに遅し。
彼らの逃げ道は、法と契約の専門家であるサクヤの手によって、完璧に、そして完全に塞がれていた。
私は氷の壁の中から、哀れな元婚約者を見下ろして微笑んだ。
「証拠保全は完璧ですわ、ルーファス様。……さあ、法廷ざまぁ(公開処刑)の後半戦を始めましょうか」
第10話をお読みいただき、誠にありがとうございます!
ついにサクヤのターン! 第1話でしっかり保全していた『完全記録の魔石』の音声が、王族もいる大広間で大音量再生されるという最悪の公開処刑が始まりました。
さらに「音声だけでは」と見苦しく喚くルーファスに対し、容赦なく「裏帳簿」という決定的な物理証拠を叩きつける完璧なコンボ。
クラウス様も「反証は愛しき妻に任せる」と、絶対的な信頼でアカネをサポートしています。
「サクヤの有能っぷりが最高!」「音声再生からの裏帳簿はスカッとする!」「次回、どうやって商会を奪うのか楽しみ!」と思っていただけましたら、
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次回、完全に逃げ道を失ったルーファスたちに対し、クラウス様とアカネがえげつない『商会の乗っ取り(M&A)』を宣告します! 法と経済による容赦ない制裁をお楽しみに!




