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山城の戦い

 帝国軍とウィルヘルミナ軍の戦闘が行われてから二日後、帝国軍は軍の大半を北へ向けた。まずは北の山地に潜むウィルヘルミナ軍を討伐するためだ。ついでに更に北にあるアルフェンテから食糧を調達するつもりであった。山岳地帯の戦いでは騎馬を上手く活かせない。であれば戦いで負けることはない。相変わらず偵察部隊はほとんど帰ってこない。

 入り組んで複雑な地形となっている山を進む。楽な行軍ではなかったが兵士たちの士気は高かった。山での戦いなら負けるつもりはなかった。軍歌を口ずさみながら山に踏み入り、進むこと二日、彼らは恐るべきものを目にした。

 そこにあったのは山一つを縄張りとした巨大な城だった。柵は低く、粗末なものだったが歩兵の進行を止めるには十分だった。

「ウィルヘルミナ軍か? いや、ネテアだな。あれを築いたのは」

 ロックウッダーは顎に手をやった。このような城は帝国軍は把握していなかった。帝国やそれ以前の支配者が建築したものではない。柵は貧弱だが曲輪自体は堅牢だ。築城の名手がいたに違いない。それを秘密裏に、しかも迅速に築き上げた手腕は見事というしかない。

「将軍、どうなさいますか?」

 部下が尋ねる。

「決まっている。全軍で包囲だ。諸将に通達。城を囲め。城外の伏兵に注意せよ」

「はっ」

 城内から軍勢の気配がする。大軍ではないが決して侮れない数だ。周囲は峻嶮な地形の上に森が生い茂り、そこに伏兵が潜んでいるかわかったものではない。

 諸将の動きは速かった。城の規模を把握し、周辺に敵兵の不存在を確認して城を囲むとすぐに攻撃準備を整えた。逃げ出す隙の無い包囲だった。

「それでは攻撃を開始せよ。決して油断はするなよ」

 帝国軍将兵は城への攻撃を開始した。攻城兵器を保有していないため、険しい山を駆け上がることになる。運の良いことに斜面に進軍の妨げとなるような大木や岩場はない。身を隠せないというデメリットを負うことになるが全方面から同時に攻撃を加えられる。だが彼らに恐れはない。彼らはこれまで多くの城を攻め落としてきた。難攻不落と呼ばれた数多の名城のその勇名を過去のものにしてきた。高い城壁も、険しい山脈も彼らの敵ではなかった。

 攻撃を受けるネテア王国兵もまた必勝の念を抱いていた。急な斜面を駆け上がってくる帝国兵を見下ろして戦意を高める。

「まだだ。まだ引き付けろ」

 城の指揮官たちは逸る兵士たちを宥める。帝国兵が近づいてくる。充分に引き付けたと判断した各指揮官は号令を下す。

「今だ! やれ!」

 外側の柵を守る兵士たちは柵の外に括り付けられていた長く太い丸太を縛るロープを切った。瞬間、丸太は重力に従って急斜面を転がり始めた。それを見た帝国軍の兵士たちは凍り付いた。

 避ける余地はなかった。兵士たちは転がり落ちる丸太にぶつかって倒れていった。斜面にいた兵士たちは逃げ惑い、丸太や矢の餌食になった。

 帝国軍は第二波の攻撃を放つ。だが彼らも丸太や矢、投石によって撃退された。第三波、第四波も同じく攻撃は失敗した。そしては日が暮れ、帝国軍は攻撃を中止した。帝国軍は千名近くの死者とその三倍の負傷者を出した。

 その夜、城内のネテア軍と城外のウィルヘルミナ軍が城の北側の帝国軍に攻撃を仕掛けた。

「やはり城外にいたか、ウィルヘルミナ軍!」

 ロックウッダーは次々駆け込んでくる伝令兵から情報を得た。

「ネテア兵はどうやら我が軍の鎧を装備して攻撃している模様です。そのため混乱が発生しています」

「ネテアめ、頭を使ったな。俺が出る。出陣だ!」

 奇襲を受けた帝国軍は苦戦を強いられていた。夜襲は当然想定していた。だが帝国軍の鎧を着たネテア兵による攻撃は軍内に混乱を呼んだ。帝国兵は戦闘に消極的になり、陣形は大きく乱れた。それだけでなくウィルヘルミナ軍の騎兵も厄介だった。

 ウィルヘルミナ王国の南部には山岳地帯が広がっている。そこを支配地としていた民族は山岳地帯での騎兵戦闘に長けていた。彼らが駆る馬は平地の馬よりも小柄だが脚は太く、険しい地形を簡単に踏破する。人の方も地形を利用した戦闘に熟達しており、帝国兵を翻弄した。

 彼らは帝国軍本隊が救援に駆け付ける前に夜の闇に消え去った。ネテア軍も城の中に帰還した。

「相変わらず逃げ足が速い!」

 帝国軍救援部隊の兵士たちは地団駄を踏んで悔しがった。良いように弄ばれているようにしか見えなかった。それに自分たちが侵略を仕掛ける側だったはずなのに逆に攻め込まれている。それが兵士たちに不安と焦りをもたらす。

 それから二日間、帝国軍は城を攻めたが簡単に陥落させることができなかった。兵士たちの間に相互不信感が生じているのだ。夜襲を受けた際にネテア兵が紛れ込んでいるのではないかと兵士たちは疑っていた。ネテア兵は帝国兵の装備を纏って夜襲を仕掛けたのだ。混乱に乗じて巨大な帝国軍に潜入することは不可能ではない。将校らもその可能性を否定しきることができず、大規模な捜査を実行したが、それが却って兵士たちに不安と不信を与えることになった。

 そういった苦難がありながらも帝国軍は奮戦し、五日間をかけて城を形成する四重の柵のうち三つの柵まで攻略することができた。だが、毎夜行われるウィルヘルミナ軍の夜襲によって兵士たちは憔悴し、最後の決め手を欠いていた。また城に立て籠もるネテア軍を率いるフレムの指揮もあって陥落はまだ遠いとロックウッダーは予想した。

 その夜だった。ネテア軍が城を捨てて全軍で北に突撃を行ったのである。示し合わせたかのように出現したウィルヘルミナ軍の援助もあって彼らはほとんど損害を出すことなく包囲から脱することに成功した。ロックウッダーは山岳戦を得意とするブライヘルに追撃を任せ、城を占拠して兵を休ませた。やはり食糧や武器の類は残されていなかった。

 城から脱出したネテア軍はシェルイ率いるウィルヘルミナ軍山岳騎兵隊と合流した。

 シェルイとフレムは握手を交わす。

「フレム、よくやってくれた。流石だ」

「恐れ入ります。あと一週間は守る予定でしたが申し訳ございません」

 フレムは頭を下げた。

「いや、俺たちじゃ三日ももたなかった。敵が優秀なんだ」

 フレムは当初、一万五千の兵を率いて城に立て籠もっていた。六日間の激戦の結果、三千の兵が戦死したものの、主力部隊は温存している。この城で二週間足止めをして飢えさせようという作戦は瓦解したものの、他にもやりようはある。


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