「まぁ、確かに昔から見た目よりも強かだとは言われてますわね……」―新米皇妃、頑張ります⑧―
パーティーが終わってから、ランジネットは椅子に腰かけてゆっくりとしている。パーティーには参加出来るだけ参加をしている。皇妃として周りから認められたいという気持ちが強いからである。
皇帝であるヴィダディは、相思相愛の両親のことを幼いころから見てきたので自分の望んだ皇妃に対して多くのことは求めない。
無理してパーティーに参加したりする必要もなく、出来る限りのことをやればいいとは言われている。
(でもそれは嫌なのよね。ヴィダディは私がただ何も成果をあげずに過ごしていたとしても、おそらく許してくれる。なんというか、ヴィダディやロルナール達もそうだけど、あの一家は身内にはとことん甘いわよね……)
甘やかされている身のランジネットはそのことを実感してならない。幾ら冷たいと噂されていようとも、大切な相手にはとことん優しいということを知っている。
(……お義母様も同じようなことでお悩みになっていたのかしら。お義母様は皇妃として立派に過ごしておられ、成果もあげている。散々ゆっくりしていて構わないと言われていても、必死に行動なさっていたんだろうなぁ。私も同じように頑張りたいものだわ)
ランジネットは直接前皇帝夫妻とは対面したことはないが、どのように過ごしていたのか想像することは出来る。特に、マドロールに関しては自分と同じく皇妃という立場で過ごしていた人なので想像もしやすかった。
(謝罪をしなかった方々への対応を上手く出来なかったら、同じように私を甘く見る人もきっと出てくるわよね。そうなると、どこまでやるかよね。やりすぎてしまったら要らぬ遺恨を残してしまう)
ランジネットは難しいなと思って仕方がない。
結局のところ、他人の心というのは完全に理解することは難しい。ランジネットにとっては些細なことだったとしても、向こうにとっては許せないことにだってなり得る。
上に立つ者として生きて行くのであれば、そのあたりのことも考えて行かなければならない。
(すべての人々に納得してもらう決断をするのはまず無理だから、誰かから憎まれたりすることもきっとあるのよね……。それは正直心苦しいけれども、私はヴィダディの奥さんとして生きていくことを決めたから……受け入れていくしかない)
――皇妃という立場につくということは、そういうものなのである。ただの小国の公爵令嬢だった頃でさえも、そういうことはあった。
自身の行動次第で、人の命が失われたり、誰かの人生を左右するものだった。
その範囲が皇妃になることで、更に拡大していく。ということを、ランジネットは日に日に理解していた。
例えば、皇妃であるランジネットが一言気に食わないとか、そういうことを言っただけでその人は職を失ったりしてしまうものである。だからこそ、言い回しとかに関してもより一層気を付ける必要があった。
(ただあまりにもそんなことばかりを気にしていたら、大事に繋がったりするかもしれない。それは嫌かもしれない。ある程度、上手く出来ないと流石に周りが煩くなってしまうもの)
ランジネットはそうも考える。心配しすぎることは決して悪いわけではない。とはいえ、そのことばかりを気に留めていたら、悪い方向に進むこともありえる。
だらだらと考えてしまっているランジネット。そうしていると、寝室の扉が開いた。やってきたのは、ヴィダディである。
彼らは夫婦なので、同じ寝室で過ごしている。ただし別の部屋もあるので、そちらで休むことも可能だが。
前皇帝夫妻は政略結婚だったのもあり、最初は寝室が別だった。しかしヴィダディとランジネットに関しては、そうではない。なので結婚式の後から寝室は一緒だった。
「ランジネット、まだ起きていたのか」
「ええ。今日のパーティーでのことを考えてしまっていて……」
「そういえば、絡まれていたな……」
ヴィダディはそう言って、ランジネットの向かいに腰かける。そして目を細めてランジネットを見た。
「あの女性たちをどうするか悩んでいる?」
「まぁ、そうね……。どこまで対応するかを悩んでいるの。もちろん、ただで済ませる気はないし、私の不興を買ったというのはどういうことなのか分からせないと」
ランジネットがそう口にすると、ヴィダディはくすくすと笑った。楽しそうに笑う様子を見て、ランジネットはドキリッとする。
「ランジネットはか弱く見えるけれど、それだけじゃないのが魅力だな」
「まぁ、確かに昔から見た目よりも強かだとは言われてますわね……」
ランジネットはそう口にする。
ランジネットは背も低く、どちらかというと小動物系の見た目である。特にお菓子を食べている姿は栗鼠か何かのようだ。
ただし、その内面はそれだけではないのである。
外見だけを見て話しかけてきた人物か、思ったのと違ったと離れていくこともあった。
(ヴィダディは、私の思ったのと違う一面を見ても魅力だと言ってくれるのよね。それを嫌だと拒否をしたりしない。こういうところも、嬉しい)
ランジネットはそんなことを思って、嬉しくて仕方なかった。
結婚して距離が近づいたからこそ、思ってもない一面が見えてくるものだからこそランジネットは余計にそう思った。




