「確かに子供達が遠くに行ってしまうのは寂しいけれど、本人たちの幸せが第一だもの」―皇妃、記憶喪失編⑮―
「こ、こんなにたくさんのヴィー様の絵があるなんてっ!! 私も一緒に描かれているものも多いのね」
「父上は母上と一緒だったり、母上に頼まれないと絵を描いてもらおうとなんてしませんからね」
早速マドロールはヴィツィオの絵が沢山並べられている場所へと赴き、それはもう幸せそうな表情を浮かべていた。
どこに視線を向けても、視界に映るのは愛しいヴィツィオの絵だけである。こんな幸せな空間があっていいのだろうかと、マドロールはそんな気持ちにさえなっている。
「ふふっ、ヴィー様は本当に私を思ってくださっているのね。それにしても此処にある絵は素晴らしいものばかりだわ。流石に私にはこんな素敵なものは描けないと思うのだけど……」
ただマドロールの視界に入るものは、プロが描いたものばかりだった。なので不思議そうな様子だ。
「母上が描いたものは父上が全部独占しているので、また別の場所で厳重保管されてます」
「え、そうなの?」
「はい。父上は母上の描いた絵は全部自分のものにしたいみたいです」
当たり前のようにそう言われてマドロールは驚いた。
「凄い独占欲ね」
「はい。父上は母上のことが大好きですから。……母上、にやけるの我慢しているのがバレバレですよ」
「んふっ、だって……ヴィー様はあんなに人に感心がなさそうな様子なのに、私の描いた絵を大事に取っているかと思うと……嬉しくて」
マドロールは変な声を出しながらも、どうにか我慢して、言葉を選んでそう告げた。
(私の絵を大事に取っていて、誰にも渡したくないと思ってくださっているなんて可愛い!! 可愛すぎるわ。なんというか、ギャップが凄いわ。ヴィー様ってあんなにかっこよくて、言動にドキドキしてしまう。でもかっこいいだけじゃなくて、こんなにも可愛い……!! 漫画で読んでいた時はヴィー様に可愛らしい一面があるなんて描かれていなかった。此処が現実だからこそ、ヴィー様の素晴らしさがより一層増している気がするわ)
皇妃が感じているのは、「私の夫、可愛い!!」というそれだけである。自分の夫が可愛くて仕方がなく、どうかしてしまいそうだった。
「そういうところ、父上は人間味がありますよね。私も母上が傍に居ない時の父上を見ることが時折ありますけれど、別人のようですし」
「そんなに?」
「はい。母上や私達の前だと表情も柔らかいですけれど、それ以外には全く優しくないですし」
「そうなのね。ヴィー様は……分かりやすいところも可愛らしいわ。なんというか、人によってはヴィー様のことを無機質で、何を考えているか分からないように見えるかもしれないけれど……! でも記憶を失っている私だって、ヴィー様のことがよく分かるわ」
「……母上の前では父上って、特に分かりやすいですもんね」
記憶を失う前のマドロールはもう少し子供達の前で取り繕ったりしていたものだが、今のマドロールは「ヴィツィオ推し」の一面をあんまり隠せていない。それだけ記憶喪失で余裕がないと言える。
「ヴィダディの目から見たらヴィー様はどう? 良い父親が出来ている? 私もそうだけど、もし今まで言いにくくて直してほしい点などがあったら教えてね?」
「父上のことは尊敬していますし、母上のことは大好きです」
「くっ……」
「母上?」
「ヴィダディ、凄く可愛いわね。記憶喪失なことがもったいなく思えるわ」
マドロールは息子の可愛さに悶えていた。夫も子供も可愛くて、マドロールはニヤニヤしてしまう。
「母上の方が可愛いです」
「ふふっ、ありがとう。それにしてもヴィー様がこうして父親として慕われているのも素敵だわ。ヴィー様って、行動が一貫しているのよね。私の描いた絵だから取っておきたいだなんて、本当に可愛いわ。もしかして子供達のものも保管しているのかしら?」
にこにこしながら、マドロールはそんなことを問いかける。
「そうですね。私達のことも父上は大切にしてくれているので、渡した贈り物などは保存しているかと。特に妹たちのことが可愛くて仕方ないみたいですが」
「あらあら、娘たちは誰かに嫁ぐ時大変そうね?」
「父上も母上も私達が遠くに行くのは望んでませんからね。私は皇帝の地位を継ぐ予定なので、このまま国に残りますけれど……弟や妹たちがどうか分かりません。父上も何だかんだ本人が他国に行きたいと言ったら受け入れると思います」
マドロールはそう言われて、確かにと思っていた。
「そうね。確かに子供達が遠くに行ってしまうのは寂しいけれど、本人たちの幸せが第一だもの」
今のマドロールには、今世の記憶はない。それでも自分を慕ってくれる子供達には幸せになってほしいとそう思っているのだ。
マドロールの言葉を聞いて、ヴィダディは笑っていた。
「母上、父上の宝物部屋行きましょう。母上と私達のものが沢山あるんですよ」
ヴィダディがそういうと、マドロールは頷いた。




