「あら、そうなの? なんだか、恥ずかしいわね」―皇妃、記憶喪失編⑭―
「母上、ご体調はいかがですか」
「とても元気よ」
「それならよかったです」
ヴィダディは会う度にマドロールの体調を確認していた。ヴィダディは母親のことをとても大切におもっている。父親である皇帝がそういった教育をしているからである。マドロールのことを何よりも大切にするように、彼女を傷つける存在を許さないように――。
記憶を失い、何処か不安定な様子の母親のことをヴィダディは心配していた。
「母上、もし怪しい存在が近づいてきたら、すぐに言ってください。私達で対応しますから」
「もう……あなたも凄く心配症ね? 私は確かに記憶は失っているけれどもちゃんとしているつもりだわ。それにヴィー様達が私のことを守ってくださっているから、危険な目には遭わないわ」
「母上は本当に……父上のことを心の底から信頼していますよね」
「だってヴィー様だもの」
マドロールがそう口にすると、ヴィダディは呆れながらも優しい表情を浮かべている。
(ヴィダディってヴィー様に似ているわよね。親子だから当然のことなのだろうけれども、幼い頃のヴィー様もこんな感じだったのかしら。想像するだけでも可愛らしいわ。でもヴィー様はきっと子供の頃だとこんなに表情豊かではなかったでしょうね。だってヴィー様は家族に愛されずに過ごしていたはず……。もう少し無表情で愛を知らない系の幼いヴィー様……それはそれで素敵だわ)
マドロールは息子の前にもかかわらず、妄想で顔がにやけそうになっていた。
「……母上、父上のことを考えているのは分かりますけれど顔に出過ぎると変な人達が寄ってきますよ?」
「はっ、ごめんなさい。つい、ヴィー様にもヴィダディのような子供時代があったのかと考えると楽しくなってしまって……!」
「謝らなくて大丈夫ですよ。今は私達しかいませんから。記憶を失ってから、母上は隙が多いので私は心配になります」
「ふふっ、心配してくれてありがとう。ヴィダディは良い子ね。頭を撫でてもいいかしら?」
「どうぞ」
ヴィダディはマドロールの言葉を聞いて素直に頭を差し出してくる。
素直で可愛くて、自分のことを慕ってくれているヴィダディを前にマドロールは満面の笑みである。
(私の息子、可愛い!! 記憶がないから産んだ実感がなかなかわかないけれども、私とヴィー様の子供なのよね。こんなに素敵で愛らしい子供が私を慕ってくれるなんて最高だわ。ヴィー様にそっくりだし!!)
ヴィダディは特にヴィツィオにそっくりなので、マドロールはより一層見つめるだけで幸せで仕方がない気持ちになっていた。
「ねぇ、ヴィダディ。私が記憶喪失なのは魔法のせいなのよね。魔法って凄いわよね。私、魔道具などを見ても凄すぎてびっくりしたもの」
「母上の……昔生きていた世界では魔法がなかったと父上から聞いてます」
「ええ。そうよ。魔法なんてものはなかったわ。何か思いだすきっかけになるかもしれないからと、魔道具も見させてもらったけれど面白かったわ」
マドロールは記憶を思い出すきっかけになるかもしれないと、魔道具なども見せてもらっていた。
毒を感知するものなどを見て、権力者というのは大変だなと改めて思ったものである。
前世のマドロールは一般市民として生きてきたので、命の危険が常にある状況に驚きしかない。
「それにしても……お忍びのお出かけにまで魔道具を使っていると聞いて、それにはびっくりしたわ。そんなものにも高価な魔道具を使うのね」
「当たり前ですよ。父上と母上が魔道具を使わずに出かけたらすぐにばれてしまいます。そうなればお忍びでお出かけなんて出来ませんから。母上の見た目はそれはもう帝国中で知られていますから」
「あら、そうなの? なんだか、恥ずかしいわね」
「母上の肖像画なども沢山出回っていますからね」
「ヴィー様のも?」
「父上のもです。……母上は記憶を失う前から自分で父上の絵を描いたり、父上の肖像画を集めたりはしていましたよ。見に行きますか?」
ヴィダディは小さく微笑みながら、そう告げる。
息子の言葉を聞いて、目を輝かせていた。
「そんな素敵な部屋が? というか、私絵なんて習っていたのね」
「母上は父上の絵を描けるようになりたいって、習ってました。下手な絵を父上に見せられないって絵を上手くするために一生懸命だったって聞きました」
「へぇ、そうなのね。今、描こうとしても上手く描けないかもしれないわ。でもヴィー様の絵、描きたいかも。もちろん、ヴィダディ達の絵も」
「いえ、私達の絵は描かない方がいいかと。父上は、母上が自分以外を描くのは嫌がりそうです」
そう言われて驚くマドロール。
「えっ、そうなの?」
「はい。父上は子供にも普通に嫉妬しますし」
そう言われて、マドロールは驚愕しつつも、ヴィツィオが自分を愛しているという事実を実感して顔をにやけさせるのであった。




