「ヴィー様が父親として駄目な行動をしていたら口出ししますからね?」―皇妃、記憶喪失編⑬―
「マドロール、疲れたか?」
ヴィツィオは視線で文官や貴族達へとでていくように促した。そそくさと彼らは会議室から出ていく。
そうして皇帝は妻を抱きしめたまま、優しく問いかけた。
「疲れてはないですよ。この位、平気です。ただその……私には記憶がないから内容をすべては理解出来なくて皇妃としては勉強不足なのかなと少しだけ落ち込んではいます」
「気にするな。これから学べばいい」
「もう……ヴィー様は、ずっと私を甘やかしすぎですよ。私が記憶を失ったからですか?」
「いや?」
「……元からこうなのですね。そんなにヴィー様は私を駄目人間にしたいんですか?」
推しから甘やかされることは、マドロールにとっては嬉しいことである。しかしヴィツィオは、驚くほどに甘やかしすぎなのである。
それこそマドロールがどんな我儘や要望を口にしたとしても受け入れてしまいそうなそんな雰囲気があった。
だからこそ思わずと言ったようにそう告げる。
「駄目人間? マドロールはそんなものじゃない」
「もう……。駄目人間っていうのはこのままヴィー様に甘やかされて、皇妃としての仕事など何もせずにただ過ごすだけになるってことですよ。それに高価なものを沢山購入したり散財してしまったりするかもしれませんし、それこそ悪女なんて言われてしまうような行動をしてしまうほどに驕ってしまう可能性も……」
「それの何が悪い?」
間髪入れずにそう言われて、マドロールは頭を抱えそうになった。
皇帝的には、マドロールがどういう存在になったとしても構わないらしかった。
「本当にヴィー様は、私がそう言う存在になってもいいんですか? 私がそんな駄目な皇妃になったら周りから何を言われるかわかりませんよ? ヴィー様や子供達に悪い影響を与えるからって排除しようとするとかもありえ――って、ヴィー様、あくまで過程の話ですからね? 少し考えるとそういう人もいるのではないかなって思っただけっていうか。だから、その……そんなに恐ろしい顔をしないでください!!」
マドロールが「もし自身が駄目人間になってしまったらどうなるか」というのを話していると、みるみるうちにヴィツィオの表情は固まった。
皇帝からしてみると、マドロールにそんなことを言う存在を許せないらしい。
「お前を排除するなどと戯言を言う奴は俺が全部消すから安心しろ」
「……ヴィー様は物騒ですね。駄目ですからね? ちゃんと私のことも叱ってくれないといけませんよ? というかヴィー様、子供達にもその調子だったりしませんよね? 甘やかして酷い性格になったらどうするんですか! 親である私達がしなければならないのは、ただ全てを許すことではなくて、駄目なことは駄目ときっちり注意をしたりする必要がありますよ??」
「心配するな。その辺は問題ない」
「……本当ですか?」
ジト目でマドロールはヴィツィオを見つめる。
子供達も同じように甘やかされれば、将来的に本人たちが困るのでは? なんてそう考えているのだろう。
「いいですか? ヴィー様。甘やかされ続けた子供は将来的に苦労したりするんですよ? ただでさえ私達の子供は、皇帝の子供というステータスを持っているのです。それだけでも自分は特別だと驕って、やらない方がいいだろう態度をしてしまったりきっとするんですよ? 私は子供達が周りから嫌われたりすることは出来れば避けたいと思っておりますわ。だからヴィー様もちゃんと子供達を叱る良い父親にならないと駄目です!!」
マドロールはヴィツィオの目を見ながらしっかりとそんな意見を口にする。
侍女達はその様子を見ながらも、「やっぱり記憶を失っていてもマドロール様はマドロール様だな」とそんな風に感心していた。
「ああ。分かった」
「本当に分かってます? ヴィー様が父親として駄目な行動をしていたら口出ししますからね?」
「ああ」
マドロールから注意をされても、ヴィツィオは機嫌を損ねるどころか楽しそうにしている。
自分に対してこれだけ躊躇なく意見を口にするマドロールのことを心の底から愛おしく思っているのだろう。
(ヴィー様は頷いてくれているけれど、実際どうなのかしら。子供達は接している限り、とても良い子達ばかりだわ。ヴィー様がこの調子で甘やかし続けていたらもっと手のつけようのない子供になっていてもおかしくないのにそうじゃないのだものね)
マドロールはそんなことを考えて不思議な気持ちでいっぱいだった。
「マドロール、これから子供達の元へ行こう」
「子供達の元へですか?」
「ああ。俺が間違った行動をしていたら言え」
「もう、ヴィー様ってば私に注意をされるのを楽しんでます? それとも私と一緒に過ごしたいだけ?」
「両方だ」
ためらいなくそう告げるヴィツィオに、マドロールは呆れながらも愛おしさを感じるのであった。




