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外伝②

 彼がギルド職員のシロイとして働いていると、時に思わぬ出会いや発見があったりする。

 飛ぶ鳥を落とす勢いでB級を駆け上がるタイキ・フジはもちろんのこと、この目の前にいるユウ少年もそこまで筋は悪くない。突き動かされた復讐心と借りたナイフ一本を元手によくやっている方だ。その性格は太陽と月のように異なるが、どちらも冒険者として成長を続けている。


 騒乱と呼んでいい夜狩りを終えた後のシロイは、とても満足であった。今日という日は万事が幸運の方へと転び上手くいった、そんなめでたい日であると褒めたくなる。


 ギルド職員としての仕事もあながち捨てたものではない。とある城へと召喚され仕えていた頃よりも、彼らしい刺激的な異世界生活を歩むことができている。



「ん、先ほどからそちらに控えている淑女は? 君の知り合いかい?」


 シロイはふと、後方にいたこちらの受付カウンターを凝視する緑の瞳を捉えた。その女が着ている青いローブの内側には、褐色の肌に紫がかった髪が見える。

 先ほどから視線を感じていたので、ユウ少年の知り合いだと職員のシロイは推察した。


 杖を持ったその姿からおそらく夜狩りに参加した魔術師であるとも読み取れた。


「見るに、顔色が少し優れないようだが? よければ何か安らげる飲み物をお出ししようか?」


 その者の佇まいにはどこか神秘的な雰囲気を感じるが、どことなく顔色が優れなくも見える。


 シロイは何か飲み物でもと、遠目の彼女に呼びかけ提案するが──。


「なっ、なんでも……。お先に失礼します」


 そう遠慮気味に言うと青いローブの彼女はゆっくりと背を向け、ギルドの外の扉へと歩き向かって行った。


 ニコリと笑い、ドリンクのメニュー表を掲げていたギルド職員のシロイは残念がる。


 するとユウ少年もここの用がもう済んだのか、夜狩りでかき集めたミラーを換金したカウンター上の報酬の入った袋を受け取り、出口へと続いて行った。


「少し興味があったのに、お話できなくて残念だな」


 立てて提示していたメニュー表をひっそりと倒し、下げる。


「ところで、──どこかで会ったのかい? 君は?」


 シロイは軽くため息をつくと、保管ケースに入った羽根のミラーツールの輝きを見つめた。


 去る者もいれば来る者もいる。夜狩りを終えた冒険者たちがまた扉をくぐり、またギルド内へとやって来た。


 この日ばかりはギルド職員も寝る間を惜しみ対応に当たり、お疲れの冒険者たちを精一杯労う。


 業務に戻ったシロイはお得意の微笑みを浮かべ、また一人一人、ギルドの受付係を手際良くこなしていく。









(光と光が反発し合うように、水晶が反応を示している。今確かに現れたより強いこの光が、小さく鋭いその光を呑み込むように……そんなっ!? じゃあっ! この地で私の探し求めていた運命の灯火は……ユウさんのっ……!?)


 ギルドの外、人目を避けた路地裏でウーナは愕然としていた。

 取り出した水晶を媒介にし、今占うようにその瞳で覗いた景色は──おぼろげな断片でありながらも信じ難いものであった。


(──この男……なんと恐ろしい……なんと邪悪な魔力を宿して……。いったい何者……何が本当で……何故そのような仮面で、平然と殺しを……とっ、とにかく二人をこれ以上近づけては、あぁっ!?)


 パリン、と音を立てて水晶が砕け散る。

 真っ白な仮面の男が、ついに彼女の敬愛するラミ様にまでその手を伸ばす──そんな最悪の場面を最後に、占い見ていたものは途絶えた。


「はぁ……はぁ……」


「おい? どうした?」


 頭を押さえ恐怖に息を乱す。そんなウーナの縮こまる背に、今追いついたユウが声をかけた。


「いえ……なんでも。少し長旅で疲れていたようです」


 彼女はそう言うと何事もなかったかのように振り向いた。だが落ち着いた様子からじわりと、ユウの向かい合う彼女の瞳は真剣味を帯びていく。


「あの、ユウさん。そのナイフを持つ本当の意味を、知りたくはありませんか?」


「ナイフの意味だと? 急にお前……何が言いたい?」


 突飛な話だ。彼女の口から出た思いがけないその言葉と、今見せている覚悟を宿したような表情にユウは訝しむ。


 水の巫女ウーナは決意する。この少年をあの怪物の傍に置いてはおけない。例えそれが大いなる運命に逆らう選択であっても。


「あなたにお引き合わせしたい人がいます。ぜひ、イダイヤ王国へ来てください。私と共に……!」


「……イダイヤ王国?」


 現在二人がいるバークローズ王国内、彩光都市シロツメから遥か西に位置するイダイヤ王国。


 彼方の異国へとユウ少年を誘う、緑の瞳は逸らさない。


 運命を切り裂き開いたのは、たった一本のナイフと夜の森の中での出会い。邪悪に揺らぐ大きな劫火のすぐそばにいた小さな灯火、今目の前に立つその光に、水の巫女ウーナは大きな選択を迫った。

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