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第15話 大きな白い切り株の上で

 あの日、異界で強化種のドライアドと見られる魔物を倒し、現実の森中で回収されたミラールームの欠片は、ise会シロツメ支部と地元のギルドとの共有管理で保管されることになった。


 そしてそのミラールーム内部でなおも伐採や研究チームの派遣、地形の調査などを含めた作業が進行する中。仕留めたドライアドの証である大きな白い切り株の上では、夜狩りから三日遅れの祝勝パーティーが開かれていた。



 夜狩りでのMVP級の活躍に加えて、冒険者としてもBBからBBB(トリプルビー)級への昇格を果たしたタイキ・フジ。

 立役者である彼を一番高い天然の壇上に上げて、囲むClan:ise会シロツメ支部の団員たちが、それぞれ酒やジュースを片手に賑やかな拍手や声援を送っている。


 切り株のステージの一番高い所に立つ青髪の彼への賛辞の言葉や、囃し立てる陽気な声が飛び続ける中──。


「みんな、ありがとう。──乾杯! といきたいのだけど……でも、その前に皆に聞いてほしい話がある」


 それまで気さくな笑みでいたタイキは一転、神妙そうな顔で、ずらりと聴衆のように並ぶ団員の顔ぶれを見下ろしながらそう言った。


 乾杯の音頭はすかされた。

 柄にもなくもったいぶるように溜めたそんな青髪のヒーローのお言葉に対して、皆が「何か?」とワクワクと期待し待つ中、彼の口から言い放たれたのは──。



「実は俺、一回死んでいる」



 ある者は手に持っていた酒を思わずこぼす。ある者は開いた口が塞がらず。「聞いたか? 聞いたか?」とお互いの顔を指差し見合わせて確認する者まで。


 タイキが口にしたのは、まさかの衝撃の発言だった。


 壇上に佇む青髪の青年のことを囲んでいた団員たちは、各々にざわめき出した。


「え? 死んでる……っていきなりどういうことタイキ?」

「そりゃおそらく、チキューっていう異世界出身だからだろう?」

「そう……って死んだら来れないでしょうに、そのチキューってとこからも!」

「まさしくそれもそうだな? ──あぁっ。職員として耳に挟んだ話だと……俺たちの世界ガライヤに来る異世界人は、前もって準備した召喚の儀とやらでこちらから正式に呼び込む者や、野良猫みたいにこの地のどこかに迷い込んだ者とで分けられるらしいが……」

「そっ、それはなんとなく知っていて分かったけど、なんでタイキは『一回死んでる』なんて言ってんの? ってそれを今は聞いてんのッ!」

「ははは、失敬。それは興味深いところだが……結論──俺に聞かれても分からんっ! ご本人のお言葉待ちだ。真っ先にわーわーと口を挟めばいいというものではないぞ、リリス・アルモンド女子」

「なんなのよそれ……はぁーあ。ってやかましいわよっ! 待つけど……」


 驚いたリリス、隣にいたギルド職員のアジバも偉そうに説くが異世界人のことについては、そこまで詳しくは知らないようだ。


 しかし、ここにいるのはise会シロツメ支部の団員たち。その名の通り異世界出身者で多くが構成されている。

 ガライヤに元より住むリリスとアジバの二人は、同じように騒ぎ漏れ出る周りの団員たちの声に耳を傾けていく。


「ともすれば転移か転生かって事だよな? おい、地球人の中にはここに来る前、死んでいるやつもいるんだよな?」

「私は元葬儀屋だし違うけど?」

「俺も元保険屋だ、死ぬわけない」

「葬儀屋も保険屋も関係あるかそれっ? 俺は前向きなフリーターだった」


 地球出身の異世界人たちも、それぞれの元職業を教え合うが、タイキと同じ境遇でガライヤに来たと該当する者はいないようだ。


「ハヤト、あんたなんか死んでそうよね?」

「あぁ? なんでだよチエミ?」

「顔が馬鹿っぽいから。あと足が臭い」

「前世金魚みたいな顔してよく言うぜ」

「はぁ? 誰が前世金魚よ! この……前世濡れた靴下!」

「だぁれが濡れた靴下だおいっ、せめて有機物にしやがれ!」

「はい引っかかったぁー靴下は有機物よ、はいバーカ!」

「んだとごらぁ!!」


 団員である万年AAA級のハヤトと、酒飲みお姉さんのチエミがくだらない事を言い争っている。


「一体何を言い争ってんのよ……むきぶつ、ゆーきぶつ、なにそれ?」

「ははは、異世界人も色々ってことなんだろうよ」


 明確な答えは耳元近くにはないようだ。呆れるリリスと笑うアジバが、木の壇上へとまた目を向ける。


 風に揺られた青い髪の下で、男の赤い瞳が独り、まだ真剣な光を宿していた。

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