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血統 ー蹄の記憶ー  作者: あいまいもこ
スーパーカー

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55/61

1_時代が熱を帯びた年

昭和五十一年――。

日本は揺れていた。


政界ではロッキード事件が炸裂し、権力の中枢が崩れかける。

街角では、子どもたちが口ずさむのはおよげ!たいやきくん。レコードは飛ぶように売れ、日本中が同じ歌を共有していた。

そして6月、世界が息を呑んだ――アントニオ猪木対モハメド・アリ。

「常識」が壊され、「限界」が問い直される時代。


すべてが――異様な熱を帯びていた。


その年、競馬界にも“異物”が現れる。


その名は――マルゼンスキー。


まだ誰も知らない。

この栗毛の馬が、「常識」を破壊する存在になることを。



中山競馬場。

冬の冷たい空気が、観客の吐息を白く染める。


だが、その空気はどこかざわついていた。


「すごい馬がいるらしいぞ」

「アメリカ帰りだってな……」

「速さが違うらしい」


噂は、すでに広がっていた。


血統は異端。

育成も異端。

そして――走りもまた、異端。


ゲートの中で、マルゼンスキーは静かだった。

暴れるでもなく、怯えるでもない。


ただ――完成されていた。


その姿に、経験豊富な関係者ほど違和感を覚える。


(……何かがおかしい)


普通の新馬ではない。

鍛えられ方が違う。

“すでに勝つことを知っている”かのような佇まい。


スタート。


――その瞬間、世界が変わった。


他の馬たちが「走り出した」のに対し、

マルゼンスキーだけは――“最初からトップスピードにいた”。


一完歩ごとに、差が開く。


ざわめきが、静寂に変わる。


誰もが理解できない。

何が起きているのか。


直線に入る頃には、もう勝負は終わっていた。


――速すぎる。


圧倒。

蹂躙。

比較対象すら存在しない。


実況が叫ぶ。


「これは……強い!強すぎる!!」


ゴール板を駆け抜けたその姿は、

まるで“競馬”という競技の枠から外れていた。



観客席に、遅れてどよめきが広がる。


「なんだあれは……」

「同じ馬か……?」

「いや、違う……あれは……」


誰かが、ぽつりと呟く。


「スーパーカーだ」



だが、この時――まだ誰も知らない。


この馬が、

“速すぎたがゆえに歴史から弾かれる”運命を背負っていることを。


この勝利は、序章に過ぎない。


時代が狂っていたのか。

それとも――


時代を狂わせる存在が、現れたのか。



昭和五十一年。


政治も、歌も、格闘も、すべてが限界を越えようとしていたその年――

競馬界に現れた一頭の栗毛。


その名は、マルゼンスキー。


常識を、置き去りにするために生まれてきた馬。


物語は、まだ始まったばかりだ。

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