何かあったのか?
今回は、立花 冬(教師)視点の話となります。
ダンジョンの入口。
入って直ぐの場所。
そこの一角に椅子と飲み物を用意して、読み途中だった本の続きを読み始める。
教師で持ち回りになっている当番の時間がきたので、私は此処にきていた。
ダンジョン探索に行った訓練生達が戻ってきた時の為に、入口で控えて居なければならない。
彼等が出発してまだ1日も経っていない。
流石にこんなに早く戻ってきたり、脱落する者達はいないだろうが、仕方がない。
卒業まで目前に控えた彼等だが、まだ訓練生。
初心者に毛が生えた程度なのだから。
それに―――。
万が一は何時だって、起こり得るのだから。
1時間程経つ頃。
本の内容も、いよいよ佳境に入ろうかという時。
待機していたところから少し離れた場所に、魔法陣の光が現れて消えていく。
消えた光の後に残されたのは。
卒業認定試験の為にダンジョンへと出発していった訓練生達と、彼等を見守る役割だった担当の探索者がいた。
先程の魔法陣は、リ・スタートの魔石のもの。それを使用して戻ってきたのだと、見て解った。
残念だが。
彼等の試験の結果は、失敗。
今回はここで終了となる。
訓練生達は皆、合格する実力は十分にある。
しかしいくら浅層・上層が難易度低めのエリアだとは言え、ダンジョンの探索には運も絡む。
今回、彼等は運が悪かったのだろう。
命あっての探索者、次に活かせば良い。
そういった事を解ってもらう為の試験でもある。
残念な結果になってしまったが、素直に帰ってきたのは偉いと。また次回頑張れば良い、と。
失敗した訓練生を励まそうと思い、私は椅子から立ち上がり近づいていく。
それにしても。
チームだけが戻ってきたという事なら魔物との戦いで何かあったか、荷物を失ったか、探索の継続が困難になったからだろうが。
今回のチームは見守り役の担当者も一緒に戻ってきている。
危険な事やズルをしたか、浅層・上層とは言え余程の事があったからか。
前者なら、励ましはなしだ。
近づいて、気づく。
「佐藤のチームか」
前者の可能性はなさそうだ。
私の見立てでは、卒業試験をクリアできる確率は高いと踏んでいたチーム。
ふざけたり、悪い事をしでかす奴等で編成をされていない。
試験が仲良しこよしで固まる事で、ふざけたり緊張感が無くなるのを防ぐ為。チームは教師陣が編成を組んでいる。
他の理由としても。
問題児は問題児で固めておけば試験に落ちる可能性は高くなり、以降は探索者を諦めるか更生するという面もある。
酷い話かもしれないが、他の真面目な奴等にとってそういう奴等は普通に迷惑だから致し方無い。
佐藤達はそういったチームではなかった。
と、言う事は。
「何かあったのか?」
「浅層に、転移の罠がありました」
「浅層にか!?」
彼等を担当していた探索者に尋ねると、厄介な答えが返ってきた。
新規の罠があっただけならリ・スタートの魔石を使ってまで、わざわざ戻ってはこないだろう。
目印をしておけば、他の探索者も無闇矢鱈に近寄らない。報告は地上に帰ってきてからで良い。
そうじゃない、と言う事は……。
訓練生の前だ。
私は慌てず、冷静さを装い。落ち着いてチームメンバーを確認する。
「一人、足りない。という事は、そういう事か」
「はい」
私の前には佐藤・木嶋・静寂・ミリアがいる。
後一人。
進藤がいない。
「探索者ギルドへの諸々の報告と、行方不明者報告、お願いできますか?」
「わ、解りました」
「訓練生はこのままこちらで引き受けます。学校の方には、私が」
探索者は私の話を聞いて頷き、探索者ギルドへと駆け出して行く。
「お前達―――」
「「立花先生!」」
私の話を遮り、佐藤と静寂が声を上げる。
「進藤くん、僕等全員を助けてくれて。でも、彼は助からなくって。見つかるんでしょうか?」
「私が調べた時は。本当に。何も……無くて。それに……。罠が発動する時、自分じゃなくて私を助けてくれ……て……」
「……俺が、感情的に何かならなければ。壁何て……叩かなければ」
「私……何もできなかった。動けなかった」
木嶋とミリアは項垂れて、後悔をしている。
各々言いたい事も、思う事もあるだろう。
今の彼等には酷だが、彼等にとっても大事な事をしっかりと伝える。
「捜索はしない。授業で教わっただろう。ダンジョンは広大で、死亡率が高い。二次被害を生むだけだ。間違っても、探しには行くな。これは厳禁だ。進藤は、死んだと思え」
「「「「……」」」」
私の言葉に。
全員が静かになり、無反応という反応を示す。
「試験は終了。お前達を学校に連れて行く。ショックなのは解る。だが、今後同様の被害を出さない為の事情聴取をさせてくれ」
「「「「……はい」」」」
私達はダンジョンを出る。
「一つだけ、言わせてくれ」
先頭を歩きながら、私は背を向けたまま彼等に伝える。
教師としてではなく。引退はしているが、一人の探索者として。
「忘れてはやるな」
「「「「……」」」」
チラリと見たその表情、涙で潤んでいた目を見て。彼等は私の言葉を、"忘れるな”に込めた様々な思いを、心に刻み込んだ様だった。




