効果はありますか?
残酷な描写があります。苦手な方はお気をつけください。
この物語は全てフィクションです。
横穴を覗き込む。
魔物はいない。
何もない。
平坦なただの通路になっている。
背後が気になり振り返るが、背後も特に変化はなく。相変わらず、魔物の鳴き声がだんだんと近くなってきている。
意を決して、横穴へと進む。
横穴は奥へ進むと、平坦ではなくボコボコとした通路になっていた。かと思えば、また平坦に戻ったり。
通路の幅も、広くなったり狭くなったりする。
ドーム状の開けた場所に出た。
転移して最初にいた広大なフロアと比べると、広さはそこまではない。
此処は行き止まりではなかった。
自分が歩いてきた横穴を除いて更に三つ、道が続いていた。
物音や嫌な雰囲気がない方を選んで、進んでいく。
完璧に勘だ。
体調は良くなってきていた。
気づけば普通に歩けるくらいには、回復している。
今は体調不良よりも、魔物がいつ現れるかもしれないという緊張状態の方がキツく。精神的な疲労の方が大きい。
休みたい。
落ち着きたい。
一人だと、警戒できる範囲に限りがあるから。
なるべくなら広くない、隠れながら周囲を一望できるくらいの場所が好ましい。
さすがに難しいだろうか。
周囲をチェックしながら歩いていく。
止まらずに歩く。
何かから逃げる様に、できるだけ早く歩く。
通路が細くなってきていた箇所を歩いていると、ふと。足元に人間一人分、伏せてなら通れそうな穴がある事に気がついた。
穴を覗き込む。
物音はしていないし、魔物の気配もない。
ひょっとしたら。
「ここなら、休めるかも」
穴の先に何もなくても、ここなら小型の魔物以外は通れない。
入口をそこら辺に落ちている石?岩?鉱石?で塞げば、穴の中で横になって休める。
視界も、上手く隙間を作って積み上げていけば確保できる。
鞄を降ろし、穴の中に入ろうとしたその時。
二匹。
額に角が生えた兎が、通路に現れた。
「っ!」
ダンジョンにいるという事は、兎に似た魔物だ。
角も生えているから、間違いなく普通の兎じゃない。
『ドンッ!ドンッ!』
『ダス!ダス!』
二匹の角兎が揃って、後ろ足で地面を強く蹴り始める。
「君等の、棲家だったのか」
僕はゆっくりと、ベルトに取り付けていた鞘から小型のナイフを取り出す。
採取や野営、頼りないけど護身用にと準備していた物だ。
僕がナイフを構える、と。
角兎の一匹が飛びかかってきた。
「はっ、早―――グゥッ!」
偶々、ナイフが角に当たったおかげで身体に刺さる事は無かった。
けれど突進された勢いに負け、衝撃を受け止められず壁へと吹き飛ばされる。
ナイフはその一撃で砕け、背中を壁に強打してしまったせいで息が詰まる。
し、死ぬ。
間違いなく殺される。
そう思っている間に、もう一匹の角兎が視界から消えていた。
「ガゥッ」
脇腹に衝撃が走る。
再び、吹き飛ばされた。
「グフゥ、カハッ」
地面を転がり、吐血する。
「ハァ、ハァ、ハァ」
死にたくない。
死にたくない。
ふらふらと、何とか立ち上がる。
考えろ。
考えろ、考えろ、考えろ。
今度はベルトに取り付けていた工具を、鉱石採取用に準備していたハンマーを取り出す。
ナイフ程の殺傷能力はないけれど、何も無いよりはマシだ。
二匹の角兎は地面を蹴るのを止め、ただ此方を観察している。
格下と判断したからか、今は警戒と言うよりもどうやって殺そうかを考えている様な気がした。
考えろ。
魔物の方が、足は速い。
まず逃げられない。
立ち向かうしかない。
僕は餌だ。
此処ではただの、魔物の餌。
なら―――。
それなら。
餌ではないと。
魔物と戦う者だと。
解らせないと。
殺さないと。
じゃないと、死ぬだけだ。
ポケットから閃光の魔石を取り出す。
効かなかったら、僕は死ぬ。
覚悟を決めて目を瞑り、閃光の魔石を僕と角兎の真ん中へ。地面へと思いきり、投げつける。
周辺を、一瞬にして強烈な光が襲う。
『『キュアッ』』
角兎の視線が此方に集中している事を利用した、目くらましだ。
二匹同時には倒せない。
なら、目くらましが効いている内に一匹を殺すしかない。
1…2…3…4…
5秒数える。
閃光の魔石の輝きが治まったであろうタイミングで目を開け、近い方の角兎へと飛びかかる。
目くらましは……しっかりと効いていた。
角兎は怯んでいる。
その隙に。手で首を掴まえ、地面へと叩きつけてハンマーを叩き込む。
バキッ!
ハンマーのヘッド部分は一撃で折れて、僕の後方へと飛んでいく。
それでも。
掴んだ手はそのままに、もう片方の手を力一杯握り込む。
今度はそれを、拳を、叩き込む。
「つっ!」
殴った拳が痛い。
出血した。
角兎に、打撃が効いているかは解らない。
けれど僕は、殴るのを止めない。
僕の武器と呼べるものなんて、もうこの拳しかないのだから。
離せば死ぬ。
これで殺せなければ死ぬ。
もう一匹の角兎が動ける様になれば死ぬ。
ただひたすらに、拳を振り上げては振り降ろす。
何度も。
何度でも。
必死に。
無我夢中で。
数分が経ち。
バキッ。
殴っていた角兎の角が折れた。
僕の拳から出た血で、折れた角は本来の真っ白で綺麗な色を失い斑に赤くなっている。
それと同時に―――。
ズンッ。
頭に衝撃が走った。
怯んで地面に伏せていたもう一匹の角兎が、頭に体当たりをしてきたからだ。
運が良かったのか。角は何故か頭には刺さらず、ダメージは切り傷程度で済んでいる。
閃光の魔石の効果が切れた。
掴まえている方も同じだ。
けれどこちらは背中が地面に接していて、足は空中に向いている。
ただ、足をバタつかせているだけだから逃げられない。
腕に後ろ足の爪が当たって、腕が血塗れになっていく。
頭から流れる血が垂れて片目が見え辛くなっても、腕が傷だらけで血塗れになっても、掴まえていない方の角兎が体当たりをしてきても。
僕はもう、何も気にしない。
一心不乱に、掴んだ角兎を殴り続ける。
僕か、角兎か、どちらかが死ぬまでは。




