食べられますか?
サラサラサラ―――。
掴まえていた角兎が真っ黒い塵となって消えていく。
角兎が消えた後にはアイテムが、魔石と角と少しの肉塊がドロップしていた。
ダンジョンの魔物は、殺すとアイテムをドロップする。
それが武器の素材になったり、防具の素材になったり。何かの燃料や食料、薬、色々なモノになる。
アイテムは多種多様で、全てを把握するのは無理だ。
それを手に入れる為。
人類は文明の発展や役に立つモノの発見の為、探索者としてダンジョンへと潜っていく。
深く潜れば潜る程、貴重なアイテムに出会えるから。
僕はドロップした角兎の角を直ぐ様拾い、ふらふらと立ち上がって残った角兎の方を向く。
けれど、此処にはもう僕以外何もいなかった。
もう一匹の角兎は仲間が殺られたからか、姿を消してくれた様だ。
緊張の糸が切れそうだったが、踏ん張る。
殺されない様にと闘っただけだけど、せっかくなら勝ち取った角兎の棲家を頂こう。
降ろしていた鞄に、魔石と肉塊を鞄に突っ込み。探索の為にと準備していた、回復ポーションを取り出す。
体力を回復させるポーションを飲み。
治癒のポーションを頭と腕に、直接ぶっかける。
傷が深い為、直ぐには癒えないけれど。これでひとまずは大丈夫だろう。
角兎の棲家になっていた穴に鞄を何とか押し込み、身体を縮めて進んでいく。
穴が外から解らない様に、近くに落ちていた石や岩を掻き集めて塞ぐ。
傷は大丈夫だけど、出血と疲労のせいでふらふらする。
頭が痛い。
視界の確保ができる様に石や岩を積んでいく事は、気にしていられなかった。
崩れない様に、穴が見えない様にするので今は精一杯。
穴の中は細くなっていて、奥の方へと続いている。
けれど、その先の事を調べる余裕なんて今はない。
僕は狭く静かな空間に安心したのだろう。
張っていた気は途切れ、夢の中へと落ちていく。
深く、深く、眠った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゆっくりと目を開く。
どれくらいの時間が経っただろう?
目が覚める。
眠ってしまう前と、状況は特に変化していなかった。
これからどうするか。
結論、直ぐには思いつかない。
どうしようもできない。
此処が奈落層だとしたら、ダンジョンの最下層エリア。
助けが来る可能性は限りなくゼロだ。
それに―――。
手に持ったままだった、角兎からドロップした角を見つめる。
理由は解らないけれど、角兎は偶々倒せた……だけだと思う。
スキルの【強化】はずっと使っていて、他の人よりかは攻撃力も防御力も強くはしていたけれど効果は直ぐに切れる。
何が角兎を倒せた要因になったか解らない。
角兎は奈落層の魔物の中で、最弱だったとか。
元々弱っていたとか。
下層や深層から降りてきて、僕と同じく奈落層で迷っていた魔物だったとか。
それでも、僕には倒せるとは思えない。
倒せたけど。
考えても、答えは出ない。
それなら別の事を考えよう。
鞄の先。
小さい穴の先に、進んでみるか。
魔物に全く出会わずにダンジョンから出られる可能性は、こちらも限りなくゼロ。
ゼロには近いけれど、ゼロではない。はず。
外の世界に戻るには、一体どれだけの時間がかかるのか。一体どれだけ、魔物や罠に対して神経を擦り減らし注意していかなければならないのか。
けれど、可能性はゼロじゃない。
生きて脱出する為にはそれしかないと思う。
このまま此処に居ても、ただ死ぬだけだ。
なら動ける内に。
細く狭い道を、鞄を押し込みながら進んでいく。
すると、直ぐに小さいドーム状になっている小部屋の空間に出た。
角兎が掘って、寝床にしていた場所だろう。
「ここなら、野営ができそうだ」
鞄から野営道具一式を取り出す。
途中血が垂れてきたので、もう一度治癒のポーションを頭と腕にかけておいた。
簡易のテントの中で、考える。
食料は、五人分が三日分。
浅層から上層、上層から浅層、そして出口へ。
卒業認定試験について記されていた幾つかの本を参考にすると、大体二日で終わる様で。
それでも長く見積もって、三日分あれば大丈夫だろうと思って準備していた物。
この食料を小分けにしたり工夫したりして、一体どれだけもつだろう。
そして。
チラリと見た視線の先には、角兎からドロップした肉塊があった。
魔物の肉は食べられる。
食べられるけれど……。
アイテムとしてドロップされる肉は、どういう原理か解らないが血抜きがされている状態。
だから、血抜きはしなくても大丈夫だ。
けれど魔素抜きや毒がある肉なら、それの下処理をしないと食べられない。
(行けるのは良くて浅層まで。上層・中層は難しい。下層・深層・奈落層なんて以ての外だ)
昔先生に言われた言葉が、頭を過ぎる。
浅層の魔物からは魔石しかドロップしない。
上層の魔物は魔石以外もドロップするけれど、爪とか牙とか何かの欠片程度の物。
ちょっとしたアイテムしかドロップしない。
本で勉強した内容にはそう書いてあったし、実際訓練中も、その通りだった。
先生の所為にするわけじゃないけれど。
先生の言葉で自分には関係ないと、中層以降の階層は勉強していない。
だから当然、何がドロップするのかは一切解らない。
僕には浅層・上層の知識しかない。
魔物の肉をどうこうできる技術や、知識は、何も持っていない。
ダンジョンを脱出するのは、長い道程になる。
魔物の肉があるならそれも食べていかないと、先ず無理だ。
状況的には、せめて肉塊が新鮮な今の内に試してみる方が良いだろう。
食べれたらどうにか保存食にできないか、考えよう。
兎系の魔物だったから、毒はきっと大丈夫。のはず。
味は気にしない。
気にしていられない。
食えるかどうかが、今は重要だ。
野営道具から包丁を取り出し、小さく切り取る。
それを魔石コンロを使用して温めたフライパンの上で焼く。
匂いや煙で魔物が集まって来ないか気になり、肉が焼けるまでの間に小部屋の出入口の穴に石や岩を積み上げる。
更に念の為。フィルターみたいにならないかと思い、布も何枚か掛けておく。
良い具合に肉が焼けた。
調味料の塩・胡椒を軽く振りかけ、食べてみる。
「う、美味いっ!」
味は期待していなかった。
けれど、想像以上の美味さだった。
グゥゥゥー。
腹が鳴って、急に空腹感に襲われる。
ダンジョン探索に入ってから、何も食べていなかった事を思い出す。
腹に少しでも何かを入れた事で、積を切った様にお腹が減ってきた。
保存食にできたらと思ったけれど、予定変更。
僕は持ってきた食料を後に回し、角兎の肉を全て食べる事にした。




