サポーターですか?
投稿した話をちょくちょく改稿してます。
もう読んで頂いた方には申し訳ありませんが、お付き合いしていただけると嬉しいです。
「え〜。この世界が異世界と融合したのは30年前、突如として現れた―――」
毎年、毎年。授業で同じ内容の話をしているからだろう。
先生は気だるげに喋りながら、ゆっくりと黒板に文字を書いていく。
年齢のせいもあるのかもしれない。
それと、左の腕がない。
話によると、探索者訓練学校は引退した迷宮探索者の方達が先生をしている。
加えてメインの教育方針は、ダンジョン探索の実地。だから、動ける先生はそちらに回されている。
と、いう事らしい。
先生の腕がない事は、僕らにダンジョンの怖さを感じさてくる。
けれど。
それでも。
僕は自身の夢である、迷宮探索者という職業に近づいている。
その実感の方が強かった。
あの頃よりもドキドキやワクワクが落ち着いているのは、自分も大人に成長しているからなんだと思う。
授業の進み具合に待ちきれない僕は、何度も教科書を読み込んでいく。
教科書には。
[【ダンジョンはお好きですか?】
【はい/いいえ】
それは前触れもなく、その文章は目の前に、何もない空中に、パソコンのウィンドウ画面に似た半透明の画面で表示された。
地球人類を対象に行われた大規模な多数決。
結果は【はい】が多数となり、元々の地球は異世界の星と融合された。
そうして新しく生まれ変わった世界はダンジョンと呼ばれる迷宮が存在する星へと変化し、人々も新たな世界を生き抜く為にスキルと呼ばれる特殊な能力を授かる事となった。]
何度も、世界にダンジョンが生まれた歴史を読んでいく。
入学してからの最初の方はそんな日々を過ごし、いよいよダンジョン探索の実地授業となった。
何度も実地授業を行い、そして解る。
僕の【強化】は他の人の【強化】と比べて、ダンジョン探索では使い物にはならないという事が。
基本的に僕の【強化】は、自身の[力を2倍にする]それだけだ。しかも、1分間だけ。
再使用できるのは、スキルを使用してからの1分後。
だから、2倍が限界。
それを維持するのが限界。
他の人にも自分の力を上乗せする事はできるけれど、その場合は対象に触れていないと効果がない。
魔物が出たら戦闘になる。
必然、戦う人は動かなければならない。
そんな状況で常に対象に触れていなければならないなんて、無理な話だ。
あまり動かない魔法系スキルを持つ人でも、【強化】を試した。
どうやらスキルに力を上乗せする事はできないみたいで、魔法系のスキルの威力が強くなる事はなかった。
だから、仲間のバフとしては一切と言い切れる程に使えない。
自身の力を向上させるか、装備した武器や防具に力を上乗せして頑丈にするだけ。
明確にどれだけ強化されているかを数値化できないから、装備品の強化具合も曖昧で。
「あてにはならない。してはいけない」
「チームを組んでやっと、サポートとして活動できる程度。行けても……ダンジョンの浅層まで。上層・中層は難しい。下層・深層・奈落層なんて以ての外だ」
半年も経たない頃、その時の実地授業の担当の先生からそう言われた。
「各先生の代表として」
「言い難いが」
とも、言っていた。
何人もの先生の意見の様だから、間違いは無いのだろう。
それを聞いた時は正直、かなりショックだった。
けれど、諦めたくはなかった。
サポーターでも良い。
そう、思った。
僕が英雄になれなくても良い。
僕は誰かの英雄の為に、英雄を支えるんだ。
それからの僕は諦めず、必死に身体を鍛えた。
鍛えて【強化】の下地を強くすれば、その効果は上昇する。
鍛えて、探索経験を積んで。
鍛えて、探索経験を積んで。
周囲に「お荷物」と、「荷物係」と、「ハズレ」と、「落ちこぼれ」と、そう呼ばれながらも諦めず。
授業に必死に食らいつきながら。
そしていよいよ、卒業認定試験の日。
ダンジョンの入口付近では卒業予定の生徒が集まり、探索の準備や最終確認を入念にしている。
それと付き添い兼救助役として、訓練学校の先生以外にも何人か見た事がない現役の迷宮探索者の人達。
ダンジョンの上層まで行くこの日ばかりは、チームの数に合わせて、迷宮探索者の人達に学校側が要請を出したのだろう。
こういうサポートの仕方もあるんだ。
「各自準備を怠らない様に」
「これが終わればお前達は皆、迷宮探索者を名乗れる。大事な日だぞ!」
「卒業認定の条件は憶えているな?上層の魔物の討伐を一匹以上、証明としての魔石を持ち帰るのを忘れるな!」
「浅層とは違うからなー。けど、緊張し過ぎるなよー」
「浅層寄りの上層は、魔物もそこ迄強くはないから」
「無理はしない。これが大事」
先生方と現役迷宮探索者が皆を見回りながら、声を掛けている。
無事に終わって卒業が決まれば、探索許可証を渡されて晴れて迷宮探索者を名乗れる。
胸の辺りで強く拳を握り、今迄の努力を振り返り、やれる事をしっかりやろうと心に決めていると。
そっと、肩に手が置かれた。
「大丈夫か?」
振り返るとそこには、立花 冬先生がいた。
「はい。大丈夫です」
そう答える。
声を掛けてくれた立花先生は、物静かで目つきが鋭い。
一見すると近寄りがたい雰囲気だけれど、実際は優しく情に厚く、色々な助言をしてくれる。
尊敬できる先生だ。
浅層のサポートしかできないであろうこんな僕にでもやれる事はあると、上層までは行ける様してやると、本当に色々と気にかけてもらっていた。
「お前のチーム、悪くはない。合格してこい」
「はい」
僕のチームは、僕を含めて5人組。
全員が誰かを馬鹿にしたり、蔑んだりはしない、良い人達。
チームの役割も、バランス良く組めている。
先生が手を回してくれたのかもしれない。
聞いても……。先生はきっと、答えを教えてはくれないだろう。
なら。
返す恩として今できる事は、試験を無事に合格する事しかないだろう。
その気持ちも、一緒に。
僕は再び拳を強く握りしめた。
「そろそろ行くぞー。全員、準備は良いかー?」
その声に、皆がぞろぞろと入口へと集まり始める。
「では、先生。いってきます。」
「あぁ。行って来い」
走り出した僕はチームメンバーと、僕達の担当に決まった現役迷宮探索者の方と合流し、ダンジョン探索へと出発した。




