迷宮探索者になれますか?
「それでは皆さん、お静かに」
小学校の体育館。壇上に備え付けられた演台を前にした校長先生の低い声が、マイクを通してスピーカーから響いた。
賑やかに騒ぐ生徒達へと、声をかけたのだ。
みんなが騒いでいたのも無理はない。
ドキドキとワクワクで、興奮しているせいだ。
僕もみんなと同じ気持ちだ。
校長先生から声がかかった事で、体育館の中は一気に静かになる。
騒ぎの原因となるイベントが、楽しみなせいだろう。
早く早くという気持ちから、みんなが一丸となっている。
いつもよりも静かになるのが早い。
全員が、今か今かと校長先生を見つめている。
「皆さんもいよいよ、5年生になりました。全員が10歳を迎え、スキルという特殊な能力の種がしっかりと芽吹き、鑑定の宝玉の欠片というアイテムで、それがどんな能力なのか、判別がしっかりとできる年齢になりました」
校長先生の話はいつもスローペースだ。
それが今は、本当にもどかしい。
「中には溢れ出る才能を持ち、既に自分の能力が何なのか、解っている生徒もいると思います。ですが、それでも。曖昧なままではなく、自身のスキルをしっかりと調べ、把握し、皆さんの今後の進路の参考や道標として、しっかりと生かしていただけたらと思います」
いよいよかな!?
「これから解る―――」
まだ、かぁ。
「スキルで。皆さんの進む方向は、大まかではありますが、決まってしまう可能性が高いと思います。ですが、あくまでも。それらは参考や道標であって、必ずそれを活かした道を進まないといけない、そんなものでは断じてありません。その事を、忘れないでいてください」
校長先生がひと呼吸入れる。
「皆さんが将来、道に迷わぬ様、祈るばかりです」
すると、壇上の下にいた教頭先生が声を発した。
「それでは、皆さん。今から担任の先生の前に列を作ってもらいます。呼ばれたらパーティションの中に入り、鑑定のアイテムを受取って使用。その後、結果の記録をとります。終わったら各自、速やかに教室に戻って自習していてください」
「「「「「「はぁい!」」」」」」
教頭先生が言い終わったのを合図に、みんな我先にと担任の先生の前へと移動して列を作る。
僕も急いで並んだけれど、場所は良くも悪くもない。列の中間辺りだった。
「なあ、カケル」
「あっ!ショウちゃん。何?」
僕の直ぐ後ろには、名前に“翔”という同じ漢字をもつ友達がいつの間にかいた。
僕の名前はカケル。進藤 翔。
友達の名前はショウ。空知 翔。
僕も、ショウちゃんも、自分のスキルが何なのか解っていない者同士だ。
「お前、どんなスキルが良い?俺は絶対、ダンジョン探索に行けるヤツが良いんだよな!」
「僕も、同じかな」
「何だよ!お前もかよ!」
「やっぱり迷宮探索者って、カッコイイよね」
お互い笑顔で話をする。
ショウちゃんも興奮している様子で、ずっと笑顔だ。
自分もきっと同じ顔をしているんだと思う。
「だよなー!それに魔物の素材は凄く高く売れるみたいだから、お金持ちにだってなれるんだぜ!」
「僕は、お金持ちにはなれなくても良いかな」
「なんでだよー!好きなお菓子も、ゲームも玩具も、買い放題になるんだぜ!お小遣いじゃなくて自分のお金だから、使いたい放題だ!」
「僕は珍しいモノとか、色々なモノを見つけて、誰かの役に立ったりして……みんなの英雄になりたい」
「それも確かに良いな!カッコイイ!」
「だよね!」
ショウちゃんとの話は尽きず、おかげで自分の順番はあっという間に回ってきた気がした。
「次の人、入ってきてー」
パーティションの向こうから、担任の先生の声が聞こえてくる。
「じゃあ、ショウちゃん。先に行ってくるね」
「おう!また後で、教室でな。お互い良いスキルだったら、チームになろうな!」
「うん!」
僕はテンションMAXで、ショウちゃんに応えた。
パーティションを越えて、先生に渡された鑑定の宝玉の欠片というアイテムを飲み込む。
心臓の鼓動が解る。
ドキドキしている自分の前に、何もない空中に、パソコンのウィンドウ画面に似た半透明の画面が表示された。
[スキル【強化】=自身の力を自身、又は触れているモノへと付与する。効果・1分限定。再使用・1分経過後]
「先生、これって……」
「能力アップ系のスキルね。建築のお仕事とか、倉庫や宅配とか、色々な事に活かせ―――」
「迷宮に行けるやつ!?ダンジョンで探索できる!?」
まだ先生が喋っていたけれど、聞きたい事は一つだった。
「ま、まぁ。いけない事はない。と、思う……けど」
「やったぁー!」
その言葉に、拳を握りしめ両手を上げて喜ぶ。
「け、けどね。色々と制限があるみたいだから、しっかりとスキルの練習をしてみないと。まだ解らないわよ」
「はい!ちゃんと勉強もして、身体も鍛えて、頑張って迷宮探索者になります!」
「そ、そうね。頑張るのは良い事だわ。でもね、他にだって、スキルを活かせる良い職業はたくさん―――」
「じゃあ終わったから、教室に戻りまぁす」
直ぐ後にショウちゃんも控えているし、早く交替しないとだよね。
先生に迷宮探索者になれると聞けた事が、凄く嬉しかった。
足取り軽やかに教室へと戻る。
けれど、それは束の間の喜びになった。
「俺、ダンジョンには行けない」
生産系のスキルだったから、と。
教室に戻ってきたショウちゃんのスキルが【鍛冶】だと教えてもらった時、僕は何も言えなかった。
スキルの鑑定が済んでからの小学校生活は、普段と余り変化はなく。スキルに関しての勉強と練習時間が授業に追加された程度。
だからみんなも、僕も、スキルに関する熱や勢いが落ち着くのは早かった。
それが当たり前になっていったから。
あの日以来、ショウちゃんとダンジョンの話はしなくなった。
仲は良いままだったけど、お互いに気を使っている感じ。
僕は他の子達と、迷宮探索者になるにはどうしたら良いのかと話をする。
ショウちゃんも、生産系の職業の子達と何かを話していた。
お互いのスキルが距離を生んで、少しずつ離れていった。
6年生になってからはクラス替えで別々になって、卒業式で擦れ違って軽く「久しぶり」「またな」と声を掛け合う程度の関係になっていた。
そこから先は別々の道に進んだから、会う事は滅多にないだろう。
ショウちゃんは【鍛冶】のスキルを活かせる生産系の中学校へ進み、僕は僕で迷宮探索者の訓練学校へ。
ショウちゃんとの関係は、小学校で終わってしまったんだと思う。




