ダンジョンはお好きですか?
更新遅いと思いますが、読んでいただけると嬉しいです。
これから宜しくお願いいたします。
【ダンジョンはお好きですか?】
吹き飛ばされダンジョンの壁に体を叩きつけられた俺の脳裏に、不意にその言葉がよぎった。
世界が新たに生まれ変わった、きっかけの言葉。
人々がスキルと呼ぶ特殊な能力を与えられ生まれ変わった、きっかけの言葉。
俺ならその時、何て答えていただろう。
いや、解っている。こんな事になると知っていたなら……間違いなく【いいえ】と答えただろう。
飛びそうになる意識の中で、俺は反射的に答えていた。
って、そんな場合じゃない!今は目の前の敵だ!
直ぐ様。意識を切り替えて壁に叩きつけられる原因となった魔物に対して意識を戻し、集中していく。
視線の先には、人型のドラゴンが此方を見据えて立っていた。
ドラゴン種の魔物と言えば、大概は大型サイズで四足歩行の筈。
それなのに……。このドラゴンは人間を一回り大きくした三メートル程で、二本の足で直立している。
その立ち姿からは人型の別の魔物だと勘違いしてしまいそうになるけれど、コイツの顔は紛れもなくドラゴンの顔をしている。
次いで、全身もしっかり確認する。
体表を覆う鱗は真紅の硬質な鎧、背中にある折り畳まれた二枚の翼は空を飛ぶ為と言うよりかは剣や盾、長い尻尾は鋭利な槍を連想させる。
間違いなく、危険だと思わせる存在感。
そして何より―――。
『オマエ、シンデナイナ。オモシロイ』
言葉を喋る。
聞き間違いじゃない。
魔物は人間の言葉を話さない。
人間の世界ではそれが常識だった。
けれど、目の前のドラゴンは喋っている。
明らかに、異質だと解る魔物。
俺は体勢を立て直し、ドラゴンに体を向ける。
「お前、名前は?名前はあるのか?」
ふと、何故か声を掛けていた。
言葉が通じず反応がないなら、人間の言葉に似た鳴き声の可能性だってあるのかもしれない。
好奇心で、そんな気持ちが過ぎったからだろう。
相手からは直ぐに、しっかりとした言葉が返ってきた。
『ナマエトハ、ワレノヨビナノコトカ?』
「ああ、そうだ」
『……オマエ、オモシロイヤツダナ。ソンナコトヲキニシテルバアイカ?オマエハイマカラ、ワタシニコロサレルンダゾ』
「こっちの言葉は、ちゃんと解ってるみたいだな」
思った以上に、しっかりと喋る。
会話が成立した事にも驚かされる。
『……。ワレノナハ、紅帝クリムゾン。イマカラ、オマエヲコロス』
強者の余裕からか?
ちゃんと答えてくれるんだな。
さてと、今の内に。
俺はドラゴンの名前を聞きながらも壁に吹き飛ばされた時にくらった攻撃や衝撃、ダメージから、相手の強さを予想していく。
ザッと見積もって後十回以上は、【強化】を追加しないと対等にもならないだろう。
死なない様になる迄で、約十分。
確実に倒せる様になる迄だと……二十分はいるか?
生き残る為の十分を、目の前の強敵相手にどうやって稼いでいくか。
「まぁ、待てよ」
会話が成立するのなら、先ずはそれを利用して時間を稼いでみる。
「会話ができるなら、話をしようじゃないか。俺にとっては魔物と話をする何て、初めての事だしな。色々と教えてくれよ」
『……』
「先ずは、自己紹介だ。今度は俺が名乗る番だろ」
『……』
反応なし。
興味がない。
と、言うよりも。俺が【強化】のスキルを使用した事で、体が一瞬とはいえ淡く光った事が原因だろう。
俺のスキルが【強化】という事までは解っていないだろうが、確実に怪しまれた。
それはまぁ……当然だよな。
俺は覚悟を決めて、身構える。
クリムゾンは何も答えないまま。
ただ、此方を睨みつける視線が更に鋭く強まった。
『……シネ』
その一言を発した瞬間、クリムゾンの姿は俺の手が届く距離にまで移動して。
次の瞬間。
かろうじて見えた視界の端、クリムゾンの拳が襲いかかってきていた。
「つっ!」
腕での防御は何とか間に合った。
けれど踏ん張りまでは間に合わず、俺の体は再びダンジョンの壁へと吹き飛ばされてしまう。
先程同様、壁に叩きつけられた衝撃は変わらない。
けれど【強化】を一回追加して防御も間に合ったおかげで、今回は意識が飛びそうになる事はなかった。
「後少しでダンジョンから出られたかもしれないっていうのに、俺は本当に運が悪いんだな」
自分の境遇を嘆きながら、体勢を整える。
不運。
それがこのダンジョンに入ってからの今迄を何回でも、何度でも、思い出させる。
今では遥か昔に感じる自身の始まりを、思い出す。
「ここ迄、必死に生きてきたんだ!今更こんな所で死ねるか!」
俺は叫ぶ。
そして、クリムゾンへと反撃を開始していく。
追加の【強化】はまだできない、けれど。
「俺は外へ、帰るんだ!」
勝てない強敵へ、生き残る為の一歩を。不運も何もかもを乗り越えて、生きてダンジョンから脱出してみせる。
そう決めた強い意志と覚悟も、過去と同時に何度でも思い出す。
俺は前へと、踏み出した。




