変態ですか?
残酷な描写があります。苦手な方はお気をつけください。
この物語は全てフィクションです。
ダンジョンの天井付近にあった、大蝙蝠の魔物の棲家になっていた場所。
その場所を乗っ取って拠点にしている俺は、顎に生えた不精髭を撫でつつ。崖状の出入口から脚を出して、特に何も無い下の景色を眺めて昔を思う。
冷や汗や油汗をかいた事もあった。
危険な目にもあった。
逃げた時もあった。
死にかけた時も、勿論あった。
ギリギリを、駆け抜けてきたと思う。
奈落層に転移してからの俺は、数え切れない時間をダンジョンで過ごしている。
出口はまだ、見つかっていない。
一体どれだけの時間、どれだけの歳月をダンジョンで過ごしているのだろう。
時間の感覚は、もう機能していない。
身体は間違いなく、大人と言える程にまで成長している。
10年は経っているかもしれない。
起きて、眠り、ご飯を食べ。
出口を探すついでに、魔物を倒す。
それを繰り返し。
遂に見つけた、上へと向かっていた通路を進み。
クリスタルの様な素材の壁が、黒曜石の様な素材と光る素材の壁に変わった事で。奈落層ではなく深層に移動したと判断した。
けれどそこから先は、全くと言っていい程に進展が無い。
深層と奈落層を行ったり来たり。
下層に行く道が、どうしても見つからない。
他の探索者にも、出会ってない。
奈落層は難しいかもしれないけれど、深層に行ける探索者は何人もいるはずなんだ。
それなのに全く、人っ子一人、出会っていない。
何も進展がなさすぎて、今では深層の大蝙蝠の棲家を奪い、そこを拠点にして活動している。
ずっと前。
ひょっとしたら、動き過ぎているから誰にも出会わないのではないか?
そう思って、試しに放浪生活から拠点生活へと切り替えてみたら。
思いの外、落ち着いてしまって今に至っている。
「飯を食って、寝よう。そういえば、湖で取れた魚の白身があったな。腐らす前に食わないと」
今日は刺し身だ。
食事の支度は、簡単で済む。
魔物からドロップした塩?らしき調味料や野菜?を使って、刺し身を美味しくいただく。
腹が満たされて眠くなったので、俺は本能のままに眠りにつく。
だいぶ野生化が進んでいるが、気にしない。
「明日は、どっちの方角に行こうか」
独り言を呟きながら、眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……。
「――こ」
「ハッ!」
勢い良く身体を起こして、直ぐ様立ち上がる。
静寂の中、何かが聞こえた気がした。
魔物の鳴き声かもしれないけれど、人の声にも似ていた気がする。
聴力は【強化】のおかげで、かなり広範囲の音まで拾える様になっている。
俺は急いで拠点の出入口に向かい、耳を澄ます。
……。
「――る?」
「――ぇ」
此処からでは遠くて聴こえないけれど、会話をしている様な気がする。
声の場所まで、行って判断した方が早そうだ。
俺は崖状の出入口から下のフロアへと、迷わず飛び降りる。
着地すると、直ぐに走り出した。
何時ぶりだろう。
こんなにもドキドキしているのは。
人が居るかもしれない。
ダンジョンから出られるかもしれない。
「―――だろう。ここ」
風を切る音と一緒に、人の声が聞こえてきた。
抱いていた疑念は確信へと変わる。
「解らないわ」
先程聴こえた声と、声が違う。
女性が二人いる。
間違いない。
探索者チームかも。
外の世界に帰れるかもしれない期待が溢れだす様に、俺の走るスピードは更に速くなる。
『ギギギギギギ』
『ギャォ、ギャャォ』
『ギギ』
「キャー!」
「下がって!」
急遽魔物の声が聴こえてくると、先程の二人が同時に声を上げた。
どうやら魔物と鉢合わせたみたいだ。
さっきから女性二人の声しか聴こえてこないけれど、ひょっとして二人だけしか居ないのか?
チームと逸れている状態なのか?
「まずい。まずい、まずい、まずい、まずい」
俺は更に、スピードを上げていく。
「見えた!」
通路の先、壁際に二人の女性。
それを取り囲む、恐竜型の魔物が三匹。
「ああ。奴等か」
よく見る、知っている魔物だ。
深層と奈落層、そのどちらにでもよく現れる魔物。
一匹、一匹は、そこまで強くはない。
奴等の脅威は、集団で襲い掛かってくるチームワークだと思っている。
それと、例え相手が強くてもどちらかが死ぬまでは襲うのを止めない執念。
奈落層では基本五匹以上の集団で行動していて、深層だと五匹以下で行動しているのも特徴の一つ。
三匹なら余裕だ。
俺は走りながら、足で器用に石を二つ蹴り上げる。
「くっ」
「囲まれてる」
『ギャッ、ギャッ、ギャッ』
『ギギギギギギ』
『ギィー』
今にも二人に襲い掛かりそうな魔物達。
俺は蹴り上げて空中に浮かんだ石を両手に一つずつ持ち、走りながら思いきり投げつけた。
『『ギャッ』』
「……えっ?」
「な、何?」
石は二つとも、魔物の頭を綺麗に打ち抜いた。
二匹は黒い塵となって消えていく。
『ギャギャギャ』
残った一匹が俺の方を向く。
けれど、その視線の先に俺はもういない。
魔物の頭の下、視線の死角に潜り込み。
顎に拳を振り抜く。
拳は見事に頭を粉砕し、魔物は黒い塵となって消えていった。
「あ、貴方。誰?何?」
「……人間?」
いきなり現れた俺に、二人は驚いている。
「間に合って良かった」
俺は、二人の正面に立つ。
「く、来るな。この魔物。いや、変態……か?」
「……」
魔物とか変態って、俺の事か?
どう見ても、正真正銘真っ当な人間だろう。
一人は仲間をかばう様にして剣を俺に向け睨んでいて、もう一人は杖で俺に狙いを定めている。
俺は自分の姿を見返してみた。
何も持っていない。
鍛えた肉体一つと、魔物を倒した時にドロップした毛皮を腰に巻きつけている。
それだ……け。
なるほど。
理解した。
確かに今の俺は、変態と言われても仕方がない格好をしていた。




