闘いますか?
残酷な描写があります。苦手な方はお気をつけください。
この物語は全てフィクションです。
食事を切り詰め、睡眠時間を切り詰め。
なるべく起きている様にして。
起きてる間はずっと【強化】のスキルを使いながら、なるべく動かずに済む筋トレを選び、ストレッチに励んだ。
身体がなまり、動けなくなるのは困るから。
傷も体調不良も、もう問題ない。
後はダンジョンの壁に石を思いきり投げつけて、変化を観る。
元角兎の棲家を拠点にして、日課の様にそれらを繰り返し過ごしていた。
狭い空間だけど、意外に落ち着けている。
魔物の鳴き声も、気配もない。
静かだ。
そうやって過ごしている内に、投げていた石が壁にめり込んだ。
試しにと。
拳でも壁を殴りつけてみる。
ミシシッ。
大きな音と共に、壁に僕の拳がめり込み、それを中心にしてヒビが入る。
どうやら祝福の効果の予想は当たっていたんだなと、実感した。
壁に傷をつけられる様になって、かなりパワーが上乗せされているのが解った。
一度、穴の外に出てみても良いのかもしれない。
薬を入れていたウエストポーチ型の鞄の中身を使えそうな物に入れ替え、いつもより少し多めの食事と睡眠を取り、ストレッチをして準備完了。
角兎からドロップした角を手に持つ。
これが今の僕の、唯一の武器だ。
出入口にあった布と石と岩を取り除き、拠点から出ようとする。
出入口の先、通路に出る穴の方の石と岩が積み上げられている手前で。再び、緊張が蘇ってきた。
「きっと、大丈夫だ」
自分にそう言い聞かせ。
何も居ない事を確認しながら、ゆっくりと石と岩を退かして通路へと出た。
あの時逃げていった角兎の一匹が、戻ってくるかもしれない。
そう思い、念の為再び穴は隠しておく。
「さて、どうするか」
マッピングしたいところだが、マッピングしてる最中は注意が行き届かない。
チームを組んでいないと厳しい作業だ。
と、なると。
今回はお試しとして、拠点としていた穴から外に出てきただけという事もある。
無理はしない。
パワーは解ったけれど、スピードや身体の動かし方が【強化】でどう変わったのか。広い場所で試してみたい。
此処に来るまでに通った、今居る横穴を含めたら4つの横穴があった広めのドーム状の場所があった事を思い出す。
「あそこまで、行ってみるか」
目標を決めて、歩き出す。
慎重に。
ゆっくりと。
音をなるべく立てない様にして、進んでいく。
何の問題もなく、目的地に辿り着いた。
あの時はそこまで気にしていられなかったけれど。
広過ぎず、狭過ぎず、ちょうど良い感じの場所だ。
魔物も特に見当たらない。
横穴が4つあるので、今居る拠点への通路が解らなくならない様に。
メシシッ。
壁を殴って、拳の跡を作っておく。
ダンジョンの壁は時間が経てば修復されていくらしいけど、少しの間だけならきっと大丈夫だろう。
拠点の拳の跡も、未だに直ってはいなかった。
本当に魔物がいないか、再度確認。
大丈夫そうだ。
「さて、と」
ドーム状の空間に、足を踏み入れる。
「何から試すか」
とりあえず、走ってみよう。
手に持っていた角は、ひとまずポケットにしまっておく。
他の横穴に気を配りながら、壁沿いを走る。
ただ、走る。
「おっ!おぉっ!」
走っている距離も、ストップウォッチも無いから解らないけれど。
明らかに以前と違う。
体力も、速度も。
何もかもが違っていた。
結構走っているけれど、全然疲れない。
一歩一歩が速く動く。
力強く、地面を蹴り上げる。
ひとしきり走って、身体の動かし方も馴染んできた時だ。
『キ、キキ』
『キュイ』
横穴の1つから。
知っている魔物が、角兎が、再び二匹で現れた。
ゴクリ。
唾を飲み込む。
嫌な記憶が蘇り、嫌な汗も出てくる。
すかさず、足元にあったちょうど良さそうな石を拾う。
角兎達はまだ距離があるせいか、動きは無い。
下手に刺激するのは危険だけれど。
前回は瀕死に追い込まれたけれど。
肉塊を、食料をドロップするかもしれない。
あの時よりも、パワーもスピードも上がっている。
以前とどう違うか、比べるにはちょうど良い相手でもある。
こちらからわざわざ危険を冒す必要が、様々な理由が、今の僕にはある。
ポケットから武器である角を取り出し、闘おうと覚悟を決める。
最悪、走って逃げる事も考えて。
手に持った角を強く握り。
「さて。どうか、なっ!」
思いきり、拾った石を角兎目掛けて投げつけた。
『キュゴッ』
石は見事に、頭に命中した。
当たった角兎は壁に吹き飛び、黒い塵となって消えていく。
倒した事を確認しつつも、もう一匹の角兎に素早く近づく。
角兎は此方に反応し、突進を繰り出してきた。
けれど、今回の僕はしっかりとその動きが見えている。
最小限の動きで。
半身で躱しつつ、横から角兎の頭目掛けて武器である角を突き刺す。
『ギャッ』
もう一匹も。
黒い塵となって消えていった。
「ハッ。ハハッ」
笑いが込み上げてきた。
楽勝じゃないか。
祝福に感謝をしつつ、ドロップ品を回収する。
魔石は使い道がないし、邪魔だから捨てていく。
肉塊は運良く、2つ手に入った。
食事の心配が少しでも無くなるのは嬉しい。
角は1つ。
武器の予備ができたので、これも嬉しい。
ウエストポーチ型の鞄は魔法鞄ではないから、ドロップ品で手が一杯になってしまう。
「一旦、拠点に戻ろう」
僕は緩んだ気を再び引き締めて、慎重に拠点へと歩き出す。
それでも。
怖いくらいに上手くいった事に、顔からは少しだけ笑みが溢れていた。




