助けてくれますか?
「え、えーっと。とりあえず話を聞いてくれないか?」
やばい。
いざ人と出会ったら、言葉が出てこない。
今の格好のせいで、余計な誤解も生まれている。
焦るな。
落ち着け。
そこらにいる魔物よりも、緊張する。
「に、人間……なのか?」
「……」
「ああ。そうだ」
俺はダンジョンから脱出する為に、できる限り友好的に接っしようとする。
だが、目の前の二人の女性は警戒がかなり強い。
とりあえず、話を聞いてもらうしかない。
落ち着いて二人をしっかりと見る。
ふと、気になった。
「み、耳?」
剣を此方に向けている女性の頭に、獣の耳がピンと生えている。
犬……耳?
いや、狐か?
「なんだ。獣人族が気にいらないか?」
「あ。あー、いや」
獣人族ってなんだ?
人間は、動物と合体でもしたのだろうか?
チラリと。
獣人族と言った人の横にいた、もう一人に目を向ける。
「……」
こちらも相変わらず、俺に杖を向けたまま。
この人は、普通の人間に見える。
頭に耳が生えていたりとかはしておらず、特にこれと言った変わった特徴はない。
普通の人間って感じだ。
「と、とりあえず。此処に何時までもいるのも、危険だろうから。魔物がまた現れるだろうから、俺の拠点まで来ないか?」
「拠点?……私達を襲うつもりはない、って事か?」
「ああ。招待するよ」
俺は両手を上げ、敵意がない事を示す。
「どう思う?」
耳を生やした人が杖の人に話しかける。
「とりあえず、敵意はなさそう。だけど、怪しい」
「だよな」
「こんな場所で、裸一貫。……間違いなく、怪しい」
嫌な時間が流れる。
暫しの沈黙。
「でも、助けて貰ったのも確か。一度話くらいは、聞いても良いかも」
「理々がそう言うなら。解った。とりあえず、話を聞こう」
杖の人は理々と言う名前なのか。
「えーっと。それならまずは、自己紹介をした方が良いよな。俺の名前は進藤 翔。人間だ。かなり前から、ダンジョンを彷徨っている。お願いだから、力を貸して欲しい。俺は外に帰りたいんだ。助けて欲しい」
俺は真っ先に、正直に、要望を二人に伝えた。
相手からの反応はない。
間が空く。
「私の名前は、シュカだ。獣人族、狐種のシュカ」
シュカと名乗る女性は、名乗りを上げながら剣を納める。
頭からピンと生えている耳は、狐の耳で合っていた様だ。
「私の名前は相田 理々。唯人族」
獣人族は、まあ何となく解るけれど、唯人族?
何だそれは?
「ええーっと。すまない。唯人族って何だ?」
「ん?獣人族は知っていて、唯人族の事は知らないのか?」
「あー。いや。何と言うか……」
シュカの視線が、変な者を見る目に変わる。
何かおかしかったか?
二人には、常識なのか?
獣人と呼ばれる存在は遥か昔、まだダンジョンの外にいた頃に漫画やアニメで見た事があるだけ。
要するに、ファンタジーとしてなら知っているだけだ。
実際には見た事もないし、聞いた事もない。
今、目の前には獣人族だと名乗った存在がいるけれど。
完全に初見。
獣人族も、唯人族も、俺は知らない。
「唯人族は言葉の通り。特徴のない、唯の人間族って意味」
「な、なるほど」
それは唯の人間だから、わざわざ唯人族何て名乗らなくても良いのでは?と思うんだが。
俺がダンジョンを彷徨っている内に、外の世界では何があったんだ?
腕を組み、顎に手をやり疑問を抱いていたら。
理々が口を開く。
「シュカ。この人、ひょっとしたら創世以前の行方不明者なんじゃないかな?」
創世?
なんだそれは?
「はぁ?そんな事あるのか?こいつ、十五年以上も迷子だって事になるぞ」
迷子……。
まぁその通りなんだが。
いい大人なので、行方不明者と言ってほしい。
「自分の事、人間って紹介してた。獣人族の事は知ってるのに、唯人族の事は知らないみたいだし。可能性はあると思う」
何が何だか。
俺には二人の会話の内容が、さっぱり解らない。
「聞きたい事が山程ありそうなんだけど、とりあえず拠点に向かいながらでも良いかな?動ける?」
「あ、ああ。特に怪我はない」
「私も。大丈夫」
それを聞いて、一安心。
怪我をしてたり動けなかったら、拠点まで担いでいこうと思った。
けれど。そこまでの接触をオーケーしてくれる雰囲気ではなさそうだったから、本当に良かった。
俺達三人は、拠点にしていた大蝙蝠の棲家へと歩き出す。
「ちょっと距離があるけど、頑張って」
「変な所に、連れて行くなよ」
「……」
「大丈夫、大丈夫。変な所に棲んでないよ。大蝙蝠の糞も綺麗に掃除はしたし、臭いも大丈夫。のはず」
「獣人族は鼻が利くんだ。お前もちょっと臭いぞ」
シュカは失礼だな。
毎日しっかり、俺は湖で水浴びしている。
シャンプーやボディソープみたいな物はないから、ちゃんと汚れや臭いが落ちてるかは解らないけれど。ちゃんと洗っている。
そんな雑談をしながら、二人の警戒が少しは解けたかなと思った頃。
俺は自分の経緯を、どうしてこんな場所にいるのかを、簡単に説明した。
「マジかよ」
「それが本当なら、心強いわね」
「本当、本当」
今俺達が居る場所は、恐らく深層だという事。
深層の魔物なら何か起きない限りは、今では一人でも負けなくなった事も一緒に説明しておく。
二人に少しでも、安心してもらう為に。
もう少しで拠点という所で、鹿型の魔物が現れた。
4つの角と、白地の体毛に黒の斑点模様が特徴的な魔物。
奈落層にも似た魔物がいる。
角が6つの、体が真っ黒な奴。
ちょうど良い。
「二人はそのまま、見てて良いよ。一応俺も注意はしておくけれど、自分達の周囲の警戒は忘れずに」
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
「あの魔物って……フォース・ディアベルよね。四種の魔法を使ってくる奴」
理々は、魔物に詳しいんだな。
「フォース・ディアベルって言うんだな、お前」
ずっと鹿型の魔物と呼んでいた。
他の魔物も、俺は似た生物の型で呼んでいる。
理々がいたら、魔物の名前や色んな事が知れそうだ。
そんな事を考えつつ。
俺は鹿型の魔物、フォース・ディアベルに、いつも通りに突っ込んでいった。




