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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第十五幕『春日狂想』編
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097.くるみ割り人形

 あの後、食堂は大騒ぎになった。暁が突然防衛隊の仲間に能力を使用し、その相手から謎の生物が這い出てきたのである。冷静になれという方が不可能だろう。その後邑輝によって後藤と謎の生物は回収された。そしてフリークスを含めた防衛隊員は自室での待機を命じられた。


 防衛隊本部を異様な雰囲気が支配する中、自室で論文を書いていた暁の携帯が鳴る。


『風早さん』


 相手はセシルだった。なぜ電話をしてきたかは分かりきっている。あの謎の生物についてだ。暁はセシルに言われた通り対策本部に移動する。その間、いつもと違う防衛隊のひりついた空気を全身で感じていた。


 暁が対策本部に入った時、霧羽はいつになく真剣な表情で邑輝と会話をしていた。


「来たか」

「ああ、とりあえず先に教えてくれ。あれは何だ」

「……正体不明の寄生虫、としか言えない」


 その言葉と同時に、邑輝はプロジェクターのボタンを押した。スクリーンに頭部を映したX線写真が表示される。脳が入っている頭蓋骨の中、本来白くぼやけて見えるはずのその場所に、はっきりとそれの姿が現れていた。


「これが後藤の頭を撮ったものだ。本来大脳のある場所に、この肥大化したアニサキスのような寄生虫が詰まっていた」

「……本来の脳みそは?」

「どこにもなかった。確実なことは何も言えないが、この寄生虫に食われたと考えるのが自然だろうな」

「後藤の方は?」

「心臓は動いているが……植物状態だな。そして回復する見込みはない」


 普通に考えれば脳がない状態で人間が活動することなど不可能。後藤の状態は当然とも言える。しかし、X線に映り暁の能力でも発見できたということは彼の頭の中にこれがいて、かつその状態で彼が動いていたのも事実なのだ。


「考えられるとすれば……」


 そう話しはじめた邑輝は、その次の言葉が続かなかった。邑輝の顔からにじみ出る抵抗感を見て、暁はそれが医師として到底受け入れがたい意見であると察する。


「……この寄生虫が後藤の脳を食い、脳の代わりに後藤を動かしていた、ということだ」


 絞り出した邑輝の仮説を無下にする者はその中にはいなかった。


「この寄生虫がどこから来たかはともかくとして、現在どの程度このコミューンに潜んでいるかは調査の必要があります。コミューン市民に呼びかけて全員のX線検査を進めています」

「そこで問題が1つある。君たちフリークスだ。すでに数人寄生された人間を見つけているが、驚くべきことに脳波に異常はない。だがX線検査ではハッキリと寄生虫の姿は映っている」

「なるほど。厄介だな」


 フリークスはX線を通さない。そのため頭の中を確認することは不可能だ。つまり、フリークスがこの寄生虫に取りつかれていることを調べる術がない。


「安心してくれ。後藤に寄生虫がついていることが分かった時点で《インターステラー》でセシルさんたち3人は確認した。寄生なんてされていない」

「お前が寄生されているかもしれないだろ」


 霧羽の疑うような目を暁は睨み返した。確かに唯一確認できる暁が嘘をついていれば前提は崩れる。


「……しかし、風早さんが寄生されて嘘をついている場合、仲間を売ったことになりますよ。何のためにそんなことを?」

「仲間と思っていない可能性があるだろう。後藤だって自分が寄生されていることに気づいていなかった可能性もある」

「その証明は俺には不可能だな。それとも、俺の頭を切り開いて本当に寄生されているか見てみるか?」


 霧羽は暁の提案に黙り込んだ。仮説状態で貴重なフリークスの体を切り開こうというのがリスキーだということは分かっていた。


「寄生虫の発生源については調査するとして、フリークスの4人は拘束し防衛隊の監視下に置く」


 霧羽の発言に邑輝がすぐさま訂正を入れる。


「7人だ。子供の2人と安曇野くんもまだX線で頭の中を見ることはできない」

「……6人は防衛隊の単独室に拘束する。赤ん坊は保育係と一緒に過ごせて監視もできる場所に移動させる。保育係には毎日X線検査を受けてもらう必要があるな……」


 霧羽の決定に従い、セシルと暁の後ろにスッと防衛隊員が近づいた。暁は嘆息するが、特に抵抗はしなかった。


「まあ、今は霧羽の言うことに従っておくか。どうしようもなくなったら泣きついて来てもいいぞ。俺の目の前で土下座したら助けてやらんでもない」

「黙って拘束されていろ!」


 3日後。コミューンで行われていた一斉検査の結果が分かり、後藤を含めて8名への寄生が確認された。その8名も暁たちと同様に防衛隊によって拘束されることになる。


 事態は意外に早く動いた。暁たちが拘束されてから5日後、UFOから放たれていた電磁波が突如としてUNICODE、コンピューターで用いられる符号化文字を表すデータを送信しはじめたのである。


 霧羽はその内容が書かれた資料を確認し、苦々しい顔を作った。



 地球に住む人々へ。

 私たちは宇宙人です。空に浮かぶ宇宙船に住んでいます。


 あなたたちが発見した寄生虫は私たちが放ったものです。

 すでにあなたたちがフリークスと呼んでいる者たちへの寄生は済ませました。彼らに寄生された自覚はないですが、私たちの命令でいつでも自由に動かせます。


 私たちは彼らを治療することができます。

 その代わり、地球の資源を頂きたい。私たちが地球に来たのもそのためです。

 地球の海から水を必要分頂ければ、彼らを治療し、私たちは去るでしょう。


 私たちが真実を言っていることは、すぐにわかることでしょう。



 翌日、アナポリスコミューンのフリークス1名が市民数十名を殺害した後、まったく同じ文言を叫び、姿を消した。アナポリスからの情報だとそのフリークスには宇宙人からのメッセージは伝えていないとのことだった。


 それは、宇宙人の主張の信憑性を高める出来事だった。


 さらに数日後、全世界のコミューンで寄生虫の確認が完了した。霧羽に届けられたのは約4000人がすでに寄生されているという事実。そして、ある程度時間が経つとその寄生生物は増殖し、寄生した人間から這い出て次の寄生先を探すという新情報だった。


 寄生された人間と、フリークスへの監視は一層厳しいものとなり、すべてのコミューンで言葉にできない鬱屈とした空気がその存在感を増していった。


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