081.バスト占いのうた
「とにかくだ……」
女になってしまった暁と霧羽と邑輝はお互いの顔を見合わせる。
「この子が現象を解除できるという前提に立たなければ先に進めないな」
「もし解除されなければ、横須賀コミューンは終わりだ。魔甲虫とはまったく関係ないところでな」
「邑輝先生、俺たちはどのくらい女になってるんだ? ガワが女の姿に変わっているだけ? それとも遺伝子レベルで変化してるのか」
「今私の細胞を検査に回している。昼頃にはわかるだろう。だが、私の勘で言わせてもらえば」
邑輝は短く嘆息した。
「おそらく遺伝子レベルで変わっている」
「Jesus」
「とにかくこの子供は確保だ。防衛隊で預かり調査するしかない」
霧羽が決断した時、再びアラームが鳴り響いた。だが、今度は魔甲虫のアラームではない。
「侵入者……」
暁がぽつりとつぶやいたと同時に、会議室のドアが乱暴に開かれた。会議室に入って来た防衛隊員は息を切らしながら霧羽に向かって報告した。
「ナンブーコの部下のフリークス2人が寮棟の中庭に現れました!」
「なに!?」
「キャンディさんと睨み合って一触即発の状態です!」
「こういうときに限って面倒事が増える……」
「俺が行こう。将来の妻同士の喧嘩だ。夫が仲裁しなければな」
「……ああ、そうだな。さっさと行って丸く収めろ」
ツッコミを諦めた霧羽の言葉を聞くや否や、暁は颯爽と会議室を出て、寮棟へと走った。
そこで暁の目に飛び込んできた光景はまさに爆発寸前といった雰囲気であった。ロココ、ベティがその目の前のリコとロジェと睨み合っている。さらにその周りを武装した防衛隊員が取り囲んでいた。その隊員たちの間を縫って進み、暁は未来の妻たちに駆け寄った。
「久しぶりじゃないか2人とも。今日は何しに横須賀へ?」
周囲の包囲網と雰囲気をまったく無視して暁はロココたちに声をかける。その暁に、ロココは鋭い視線を投げた。
「誰ですかあなたは。いきなり現れて馴れ馴れしく話しかけないでください」
「悲しいな。女になってしまったとはいえ俺のことを忘れてしまうなんて。俺はロココちゃんが男になっても忘れないよ。興味は無くすかもしれないが」
「……え?」
暁の言葉にロココは、目の前のはじめてみる女の姿をまじまじと観察した。そして、大爆笑した。
「アハハハハハハハハハッ!!! お、お兄さん、ほんとに女になっククク……あははははは!」
「い、いやあ。まさかとは思ったけどほんとに女になっているとは……」
ロココは腹を抱えて笑い、ベティは女になった暁を興味深そうに観察しはじめる。
「なにかデジャヴを覚えるな。俺が男でなくなって将来に不安を感じさせてしまったなら謝罪が必要だな」
「いえ要りませんからそんなの。今日はただ女になったお兄さんを笑いに来ただけです!」
暁の勘違いを訂正した後、ロココは再び顔を背けて肩を震わせはじめた。よほど暁の姿がおもしろいらしい。理由はともあれ、ロココが笑っているのであれば暁としては満足であった。
「ま、理由はともかくとして久々に2人に会えてうれしいよ。とくにロココちゃんとはあんまり会話してなかったしな」
「いえ、別にお兄さんと会話しに来たわけじゃないんで。笑って満足したからそろそろ帰りますよ」
「あんたらホントに笑いに来ただけなの……」
リコが呆れたようにつぶやく。そこにやっと追いついたセシルが合流した。
「一体何なんですか。白昼堂々と」
「いや、セシルさん何の問題もないさ。2人とも女になった俺を一目見たくて我慢できなくなったらしい」
「なんか語弊がある言い方なんですけど?」
「別に間違ってないでしょ」
再び睨み合いをはじめたリコとロココを微笑ましく眺めながら、暁は先ほど気づいた喫緊の問題についてセシルに話すことにした。
「セシルさんは確か、女性として生活するための準備をいろいろしてるんだったかな?」
「ええ、そうですが」
「セシルさんのやろうとしている仕事が本当に重要だとさっき気づいたよ。少し走っただけなのに胸が痛い。ブラジャーあるかな?」
「……」
セシルだけではなく、その場にいる6人の女性全員の目線が暁の胸に注がれた。2つの霊峰がその存在感を放っていた。
「その大きさでブラなしで走るとそうですね……いったん私の持っているものを貸しますが、早急にサイズが合うものを用意します」
「ありがたい」
セシルと暁の会話を聞いていたロジェとリコは小さな声で話しはじめる。
「走って胸痛くなったことある?」
「あんた分かってて聞いてるでしょ」
「うん。リコ私と同じくらいしかないもんね。年上なのに。たぶん来年には私の方が大きくなるよ。哀れ」
「なんだと?」
リコがロジェの頭をぐりぐりして、その場に悲鳴が響く。
「まあ胸の話はともかくとして、そろそろ戻ろう。ロココ」
「そーですね。それじゃあ私たちは……」
「待ってください」
その場を去ろうとするロココをセシルが呼び止めた。
「……なんですか?」
「いえ、どうせ病院棟に行かれるのであればリコさんとロジェさんも連れて行って欲しいと思いまして」
「……」
ロココたち2人の雰囲気に少しだけ険が出た。
「べ、別に病院棟になんて寄るつもりありませんけど!」
上ずったロココの言葉に、ロジェは思わず「嘘ヘタすぎでしょ」と漏らした。確かに、表情に浮かぶ動揺が図星をつかれたことを物語っている。
「なんだ。2人とも俺を女に変えたフリークスの子に興味があったわけか。ナンブーコに何か言われたな」
「だ、だからそういうわけじゃあ……」
「いやー、バレちゃったらしょうがないね」
ロココの言葉を遮って、ベティが話し出す。
「実は病院棟に行って、赤ん坊の情報を持ち出して来いって言われてるんだよね。研究に利用したいからって」
ベティは手に持ったUSBメモリを暁たちに見せた。
「わかりました。情報は持ち出してしまっていいので、代わりに2人を一緒に連れて行ってください」
「ちょっとセシル、大事な情報なんでしょ? ほんとにいいの?」
「ダメだと言っても彼女たちを止める術がないですから。ナンブーコは情報を元に男に戻す方法を見つけて横須賀コミューンと交渉をするつもりでしょう。調べてくれるところが増えるなら私たちも助かります」
それに今朝フリークスだと発覚したばかりで大したデータもありませんし、とセシルは心の中で付け加える。
「……なら、いいけど」
「リコさんとロジェさんは病院にいる赤ん坊を確保してください。生後二日で能力を発現させた子ですから、注意して」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
セシルとリコの会話に、ロココが割り込む。
「私たちは連れて行くとは言ってませんよ!」
「まあまあ、ロココ。いいんじゃない? 向こうも情報持っていっていいよって言ってくれてるし、礼には礼をってね」
「……ベティお姉さんがそれでいいなら……いいですけど」
しぶしぶ納得したロココは4人まとめてテレポートしてその場からいなくなった。
「それでは風早さんは私の部屋に」
「ありがとう。セシルさんに部屋へのお誘いを受けたのに理由がブラジャーとは、なんとも情けないが」
暁とセシルが部屋に向かい、警戒する相手もいなくなった防衛隊員も解散した。そして、寮棟の中庭には誰もいなくなった。




