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077.A-TTACK

 暁はエーコと認識を合わせるため、いくつかの質問を行った。


「ニイハウ条約は確かフリークスの戦争利用を禁じるものだったよな? じゃあ、ナビ・コミューンはフリークスを戦線に投入しようとしているのか」

「そのようです!」

「この条約、そんなに簡単に破棄できるものなのか?」

「有効期間は三年間で、期間満了の一年前までに評議会への破棄通告が必要になります!」

「ナビ・コミューンはその条件に準拠して?」

「いいえ! 横須賀コミューン側が先に条約違反を犯し他コミューンに攻撃をしかけたために、ナビ・コミューン側も対抗するため強制破棄する旨を三日前に評議会へ通告していたようです!」

「横須賀側が先に? そんなことしてたか」

「以前暁さんがスーパーフレアを防ぐために事象の地平線を展開しましたが、その時世界的に寒冷化が起こったことをフリークスによる攻撃だと解釈しているようです!」

「はいはい、俺が悪い俺が悪い」


 しかし、誰が良い悪い関係なく事態は動きはじめてしまっているのは確かであった。ナビ・コミューンは条約破棄を正当なものとして横須賀に攻撃を仕掛けるつもりのようだが、横須賀は今でもニイハウ条約に同意したままだ。


「横須賀側も相手がフリークスを使ったって理由で条約破棄できないのか」

「評議会への通告が必要なのでナビ・コミューンはその前に攻撃を仕掛けるつもりのようです!」

「困ったAIだ。横須賀側はフリークスなしでフリークスと戦わなきゃダメってことか」

「はい! 普通に考えればそうです!」

「……普通じゃない方法があると言いたそうだ」

「はい! 実際に横須賀がその方法をとるかは不明ですが、対抗は可能です!」

「なら俺が心配してもしょうがないか。リコが戦えるなら勝てる奴はいないだろう」

「その通りです。彼女相手に戦闘で勝利することは不可能です」


 しかし、リコにすべてを任せてゆっくりするほど無責任なことは暁もしたくはなかった。横須賀に魔の手が伸びようとしているのならば早急に問題を解決するべきだろう。


「エーコ。行こうか。とりあえずミストラルのところにたどり着くまでは俺に任せてくれ。ミストラルをどうにかするのは君に任せる」

「はい! お任せください!」


 そうして暁とエーコはとんぼ返りしてミストラルのビルへと向かう。暁であれば真正面からビルに入ってサーバールームまで強行突破もたやすい。しかし、それで騒ぎになるとまずい。というわけで、2人は人目を避けて屋上から侵入することに決めた。


「ふーむ」


 隣のビルの屋上から飛び移って侵入を試みようとした暁だったが、扉を少し開けるとそこにもドローンが徘徊していた。流石にそう簡単にはいかないようだ。


「どうしましょうか!」

「天才の俺に任せてくれ、自然な形であのドローンどもにお引き取り願おう」


 暁は《インターステラー》を発現させた。しかし、何も起きない。いや、起きないほどさりげなく能力を使っていた。


「……お見事です!」


 普通の人間には分からないその能力の使い方に高性能メイドのエーコはもちろん気づいていた。暁は気圧を操っていた。重力によって地表に押し付けられた空気の重さ、それによって発生する圧力が気圧である。であれば、当然暁の能力によって操れる。


 暁は数キロ先の海上に低気圧を作り出した。そして、気圧が低い場所に空気は吸い寄せられていく。他の場所へと空気が流れていくのでその流れが風になる。引き起こされる突風がドローンの性能を超えていれば……。


「よし、ドローンが引き上げていくぞ。今のうちに突撃、隣のミストラルだ」


 自身の姿勢制御が困難だと判断したドローンは次々とビル内へと引き上げていった。それを確認した暁はエーコをお姫様抱っこし、堂々とビルの間を飛び越えるのだった。


「さて、面倒なのはここからだ」


 ミストラルのビルに移った2人はこれからビルの中に入り、ミストラルの場所まで行かなければならない。当然先ほど作ったミニ嵐は意味をなさない。このまま策もなくビルの中に入れば、とたんにドローンから攻撃を受けるのは自明であった。


「エーコ、ビルの中に人は?」

「100名以上の人が残っています」

「だろうな、定時にはまだ早い」


 ビルから見える日は傾き、オレンジの光で2人を照らしていた。人が大勢いる中でドローンの銃撃戦がはじまるのは流石にまずい。ミストラルに人質を取られる可能性もある。


「今すぐこのビルの社長になって全従業員をレイオフする秘策はあるかな?」

「ありません!」

「だろうな。さてそうなると」

「天才の私に考えがあります!」

「おっと! この場に天才が二人いる。これは勝ったも同然だろう。please!」

「あれを使います!」


 エーコが指さしたのはビルの屋上に設置された貯水槽だった。それを見て暁もエーコの考えを理解した。つまり何かというと、暴力である。ベコン、と大きな音がして貯水槽が凹む。暁の《インターステラー》の一撃である。同時に破壊された貯水槽から大量の水が噴出した。しばらくすれば下は大騒動になるだろう。


「ま、騒動にはなってしまうが、その原因が俺たちだと気づかれなければなんでもいいな」

「はい! その通りです!」


 2人の思惑通り、突如として水漏れが発生したビルから人々が緊急避難を実施し、数分もしないうちにもぬけの殻になる。素晴らしい避難の練度である。きっと真面目に年2回の災害対策訓練をしていたに違いない。こういうビルでは義務付けられているのだ。え? 私のビルではやったことがない? それはまずい。すぐにビルの管理会社に連絡を。


「それでは行きましょう!」


 これでやっと侵入、と暁が屋上のドアを開けたその時だった。


「おっと」


 目の前に数基のドローンが待ち構えていた。貯水槽を壊したことで何かおかしいと感づかれたようだ。薄暗い部屋に火花が散る。だが、弾丸はことごとく目標を外れ地面へと突き刺さる。


「ちょうどいい。弾切れまで撃ちまくってくれ」


 暁の望み通り、ドローンの斉射は十数秒後に止まった。やることのなくなったドローンはどこかへと飛び去って行く。


「おそらく弾の補充に向かっています! 今のうちにミストラルを破壊しましょう!」

「合点承知の助」


 そうして2人の姿は闇の中へと消えていった。目指すはビルの地下1階。ミストラル本体の鎮座するサーバールームである。


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